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これは大きな一つの物語の始まりだ。

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これは大きな一つの物語の始まりだ。

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5、一瞬に過ぎないワンシーン


「あと、皆さんがやっているテロ行為は、方針変更した方がいいですよ。テロというものは、脅しであるからこそ意味があります。死傷者を出しすぎると、逆にこちらの提案は通りづらくなるでしょう。例えば、です。こうした方が、効果が高いですよ」
 天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)はノートパソコンをテロの首謀者の男へと見せた。
「んなるほどねえ。ま、いいだろ。次のときの参考にするよ」
 男は言って、立ち上がる。
「そんなことより、てめえらも急いだほうがいいぜ。そろそろ連中も来るだろ」
 男は言うが、
「いえ……もう来ているようですよ」
 十六凪は立ち上がった。男が「あん?」と答えると同時、倉庫の扉がバン、と開かれる。


「さあ、追い詰めたわよ、ロイ!」


 現れたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、テロの首謀者――ロイと、協力者と思われるチームのメンバーに視線を向けた。
「ちっ……思ったよりも早かったな」
 ロイはヘルメットを指先でくるくる回しながら口にした。
「簡単な推理だよ」
 八草 唐(やぐさ・から)が前に出る。
「レジェンド・オブ・ダークネス。似たようなフレーズを、あんた、ラジオかなんかのゲストに呼ばれたときに口にしてたろ。覚えている奴がいたもんでね」
 ぽん、っと、枝々咲 色花(ししざき・しきか)の肩を叩いて言う。
「あん?」
 ロイはわけがわからないという感じで呟く。が、やがて思い出したようで、
「あー、そういやあそうだったけな。ちょうど俺たちの組織の名前が決まったときだったからなあ。テンション上がってて、口を滑らせたんだっけか」
 ロイはそのように口にし、笑った。
「どうしてこんなことを!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が叫ぶ。
 ロイは少しの間なにも言わず、ヘルメットをぽんぽんと投げたり、指先で回したりして遊んでいたが、
「……おめえら、常に一番になりてえって気持ちは、わかんねえかな?」
「なんだって?」
 牙竜が聞き返す。
「俺の目的はな、一番になることだ。人気も、実力も、富も名声も、全てな!」
 その言葉に、全員がなにも言えずにいた。ロイは黙って言葉を続ける。
「俺の操縦テクはぴかいちだ。でもな、俺の前には常にでっけえ壁があった。カイザーだよ。あのヤローがいるせいで、俺は常に一番にはなれなかった。人気も、富も名声も、常に半々だ!」
 皆が目を丸くする。
「あんな寡黙ヤローのなにがいいってんだ!? ああ? イケメンかあ? クールかあ? 冗談じゃねえ! あんな冗談も言えないような面白みのない奴の、なにがいいってんだ!」
 ロイはヘルメットを地面に叩きつけた。
「だからよ……ちっと、落ちてもらいたかったんだよ。あの、堅物にな」
 くくく、と笑みを浮かべて、ロイはそう言いきった。
「そ、そんな理由で、これだけのテロを起こしたって言うの!?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が叫ぶ。
「そんな理由ねえ? 俺にとっては十分な理由だよ。それに、スポンサーの意向もあるしな」
「スポンサーだって!?」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が叫んだ。
「おっと、こっちは秘密だったな。はは」
 ロイは小さく笑った。
「そのスポンサーとやらについても、話してもらう! この事件、一体どんな裏があるって言うんだ!」
 涼介が再び叫ぶ。
「んなもん俺が知るかよ。とりあえず騒ぎにはなった。俺たちの名も売れた。ま、それでいいわ」
 ロイは倉庫の奥に歩いていきながら、首だけ振り返って言う。
「これからは俺が世界のナンバーワンだ。テロだろうがなんだろうが、恐怖で世界を支配してやるってんだよ」
「くだらない理由ですねえ。巻き込まれたほうはたまったもんじゃねえって」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は退屈そうに息を吐いてそう口にする。
「巻き込まれるだけ運が悪かったと思えってんだよ。どうせ、すげえ立場の人間なんて、一握りしかいないんだ」
 ロイはそう言って、ひらひらと腕を振った。
「っ、そんなこと、させるもんですか!」
 ローザマリアが一歩前に出る。
 それに合わせ、他のメンバーも一歩前に踏み出した。
 たちまち鳴り響く、破裂音。仕掛けられていた機雷が爆発し、煙が周囲を包んだ。
「危ない!」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がローザマリアの前に出て、槍による攻撃を同じく槍で抑えた。煙の合間から、煙を払い、一瞬で接近戦を仕掛けてきたのは、
女王・蜂(くいーん・びー)っ……」
 セレンが唸るように言う。女王・蜂はわずかに浮遊しながら距離を開け、離れた場所にゆっくりと足を置いた。そのまま、皆を鋭い視線で射抜く。
「オリュンポス、それと傭兵ちゃんたち。時間稼ぎは任せたぜ」
 ロイが倉庫の奥へと去る。「待て!」と涼介が叫び、追いかけようとする。が、ミサイルの発射音が鳴り響き、涼介は大きく後ろへと跳び引いた。
「であっ!」
「はあっ!」
 陽一が【真紅のマフラー】を、牙竜が【22式レーザーブレード】を使って放たれたミサイルを叩き落す。
 ミサイルがどこかを飛んでいって爆発すると、爆風の影から【六連ミサイルポッド】を構えたイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が姿を現した。
「申し訳ありませんが、彼らとはまだまだ話があるのです。足止めさせていただきますよ」
 十六凪が前に出る。
「うふふ、面白くなるのはこれからですの。邪魔はさせませんわ」
「デメテールもいるもんね!」
 ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)も姿を現す。
「そういうことじゃ。悪いのぉ、ここから先にはいかせん」
 そして、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が最後に顔を見せた。
「刹那……中間地点での騒ぎはあなたね!」
「して、どうする、シャーレット。わらわを捕まえるかえ?」
 セレンと刹那が視線を交錯させる。
「ハデス! お遊びなんかじゃない、本当のテロが起きているのよ!」
「……僕だって、遊んでいるつもりはないですよ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はハデスに話しかけるが、中身は十六凪だ。聞く耳を持たない。
「おうおう、刹那にハチにイブですかい。オールスターじゃないですか」
 唯斗は少しだけ姿勢を低くして、身構えながら口にした。
「だが、許すわけには行かない!」
 牙竜も身構える。
「ふっ……」
 女王・蜂なども構えを取った。


「やんな」


 そのロイの呟きを、その場にいた者たちは聞くことができなかった。ただ、聞こえたのは激しい爆発音。
「逃げろ!」
「みんな、外へ!」
 いち早く反応した陽一、涼介の声に皆が反応し、倉庫から離れる。
「これはっ!?」
「十六凪さん!?」
「ふえええ!?」
 十六凪たちもたじろいだ。
 そのうち、倉庫の屋根が落ちてきた。女王・蜂は刹那を守り、イブは頭上にロケットランチャーを放つ。ミネルヴァも上へと手榴弾を投げ込んだ。
 突然爆発が起きた倉庫は完全に崩壊し、建物は完全に崩れ落ちた。
「……僕たちを巻き添えにしたというのですか」
 瓦礫の山から、額から血を流して十六凪が現れる。彼は元の姿に戻っていた。
「く、……やられましたわ」
 十六凪が庇ったミネルヴァも、まがまがしそうに呟く。
「主、無事でございますか?」
「平気じゃ……」
 女王・蜂は刹那を守っていた。イブもメイド服がぼろぼろになっていたが、立ち上がる。
「わらわたちをも殺そうとしたというのか、きゃつら」
 左手を痛めたのか、少し表情を歪めて右手で抑えている。女王・蜂が気づいて、刹那を左手で抱きかかえた。
「刹那ぁ!」
 セレンが叫ぶ。刹那はセレンたちのほうを一瞥し、視線だけで言葉を交わす。それが彼女に伝わったのか伝わらなかったのかはわからないが、そのまま大きく空へと舞い上がり、そして、見えなくなった。
「逃げたの……?」
「逃げられたわ」
 セレアナとセレンは言い合う。
「僕たちも、ここは引きましょう」
「そうですわね」
 十六凪とミネルヴァも、隠れるようにしてその場を去った。その際、目を回して倒れていたデメテールも抱えて連れてゆく。
「こ、ここは? 一体なんだというのだ?」
 頭に大きなこぶを作ったハデスは、正気を取り戻して瓦礫の中から這い出てきた。




「う、うん……」
 沢渡真一はゆっくりと目を開けた。
「よかった、気づいたのね」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は彼を見て口にする。ミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)も少し安心したように、息を吐いた。
「大変だったな、カメラマン。お前、テロリストだと疑われているぞ?」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は彼のカメラを抱えてそう言った。ちなみに隣のベッドにはソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が寝ている。【しびれ薬】の影響が、まだ少し残っていたらしい。
「テロ、リスト?」
 真一は呟くように言った。
「あなたが爆発現場近くにいたからね。もしかして、あなたも連中の一員だとか、そんなこと言われていたのよ」
 リネンは言う。
「そうだ……僕、有名な人を見つけて、追いかけて行ったんです。そしたら、なにかに吹き飛ばされて……」
「そうだったんだ」
 花瓶に花を入れて、ソランの近くに置いた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がこちらを向いた。
「唐ちゃんの推理、やっぱり正しいのかな。爆弾が爆発しなくて、様子を見に来た人がいる、って。それに、運悪く巻き込まれちゃったのかな」
 続けて言う。真一はまだよくわかっていない様子だったが、こくりと小さく頷いた。
「そこにいたのはロイだったってことね。ま、カメラを持っている人が、偶然にも予選免除の有名選手を見かけて、変なところに入っていたら、ま、追いかけるのもわかるわ」
 リネンはそう言うが、


「いえ、僕が見かけたのはカイザーです」


 真一はそう口にした。
「……え?」
 その場にいた全員が真一を見た。
「カイザー、です。彼が非常電源室に入って、それから、慌てて出て行って……なにかあったのかな、って追いかけていって、それで……」
 リネンたちは、互いに顔を見合わせるが、なにも口にすることができなかった。やがてハイコドが通信機を取り出し、慌てて病室を出た。詩穂も追う。
「どういうことですかぁ?」
 ミュートは聞くが、
「……わからないわ」
 リネンは小さくそう口にした。





「誰だよ……なんだ、あんたか」
 ロイはゴール地点の、カイザーの倉庫にいた。突然の来訪に警戒していたようだが、その人物を見て安心したのか、息を吐いた。
「飛行機は飛べるようにしておいたぜ。本当は爆発させるはずだった飛行機なんだけどな。ったく、なんであのヤロー、訓練飛行の時間をずらしやがったんだ」
 ロイは息を吐きながら言う。
「ドクター・ハデスの件、どうしてこちらに報告しなかったの?」
 響いたのは女の声だった。
「最初に接触してきたからな。こっちも手札を増やしたかったんだよ。ま、結局は不要と判断したけど」
 ロイはヘルメットを回しながら言う。
「それと、辿楼院 刹那。こちらに無断で協力を申し出た上、抹殺に失敗するなんて」
「倉庫がすぐ落ちなかったからな。一瞬だが時間を与えちまった」
「失敗ばかりね」
「しゃーねーだろ! あんなに契約者が集まるなんて思わなかったんだよ! ち、せめてカイザーだけは殺してやりたかったのによ!」
 ロイが悔しそうに舌打ちする。
「彼が訓練飛行の時間をずらしたの、どうしてかわかる?」
「知るかよ……って、おい、なんで、」
 ロイは言おうとした。「なんで、お前の後ろにカイザーがいるんだ」と。が、近くでばさばさとなにかが倒れるような音がして、ロイはそちらへと顔を向けた。彼のチームのスタッフたちが、次々と倒れていた。
「彼はあなたと違って、ちゃんと言うことを聞いてくれるからよ」
「は、ははっ、」
 ロイは笑った。ああなるほど、そういうことか、と、そのときロイはなにかを悟ったのだろうか。
 そのうち、体が異様な熱さに包まれる。体は動かない。ただ、ロイは自分の体が炎に包まれていくのを見ているしかなかった。
「あはははははっ!」
 感覚すらもなく、感想すらもなく。
 彼の体は炎に包まれ、そして、その場に倒れた。
「………………」
 カイザーが整備された飛行機の様子を見に行く。残された一人の女はその場で軽く息を吐いて、カイザーの整備が終わるのを待ったが、
 す、っと、後ろに人影が現れて女は静かにそちらを向いた。
「……やっと会えたな」
 倉庫の入り口に、長い槍を構えた一人の男が立っていた。人差し指でメガネを直し、こちらをまっすぐに見つめる。
「なんて呼べばいい? ジェニファー・マクレーン? ケイト・エンガート? それとも、奥様とでも呼ぼうか?」
「よく調べたわね。確かあなた、バーストエロス、とか呼ばれていたかしら」
「いかにも」
 男は……土井竜平は、ゆっくりと顔を上げた。


「俺の名は土井竜平。またの名を、瞬速の性的衝動(バースト・エロス)」


「素敵な名前ね」
 女は言うが、竜平はなにも言わない。気づけばカイザーが短剣のようなものを構え、女の前に立っていた。
「で、どうするつもりかしら?」
「貴様を捕らえさせてもらう」
「それで、どうするの? 撮影会でもする?」
「マダムに興味はない」
 竜平は小さく笑った。
「そう。残念。悪いけど、あなたに付き合っている時間はないの。さっきの男みたいに、」
 女が手を地面と平行に動かした。
「炎の中で踊ってくれる?」
「ふ」
 竜平の姿が、一瞬で消えた。
「どうして俺が瞬速……バーストの名で呼ばれているか、教えてやる」
 遥か上空から、竜平は槍を振るった。カイザーがそれを短剣で抑えるが、竜平は得物と得物がぶつかり合った反動を利用し、回転。回し蹴りでカイザーの剣を弾き飛ばし、さらにもう一回りした蹴りでカイザーの顔面を蹴り飛ばした。
 少しだけ驚いたような表情を浮かべた女の前に一瞬で近づくと、槍を反対側に持ち直し、柄の部分で女の腹を狙う。
 が、それはなにかに弾かれた。白い霧のようなものが、竜平の前に浮かび上がる。
「――蜃気楼」
 女が呟いた。
 目の前にいきなり現れた、巨大な甲冑の騎士の攻撃は、竜平の左肩を貫いた。
「っ!」
 竜平が跳び引く。そこに騎士の拳が迫り、竜平は倉庫の壁まで飛ばされた。
 背を打ち、呼吸ができなくなる。
「速さだけね。それだけ」
 女はそう口を開いた。
「つまらないわ……あなたも、ここで死になさい」
 そして女が手を振るが、
「させない!」
 多数の銃撃やスキルが、女へと迫っていった。甲冑の騎士がそれらを防ぎ、女は大きく後ろへと跳ねる。
 ゴール地点周辺、近くにいた契約者たちが集まっていた。
「竜平!」
「先輩!」
 竜平のもとに綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)、虎之助が駆け寄る。
「その腕、大丈夫なのですか」
 歩いて近づいてきたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が聞くが、
「問題ない……カメラは使える」
「いえそんな心配は誰もしていないのですが」
 竜平が少し笑みを浮かべてそう答えた。
「お前が黒幕なのか!?」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が聞く。
「ふふふ」
 女は笑うだけで答えない。
「――蜃気楼」
 甲冑の騎士が動く。
「なによ、そんなデカブツ!」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が【パイルバンカー】を突き立てるが、
「え?」
 甲冑の騎士はびくともしなかった。「さがれセイニィ!」と牙竜が叫び、レーザーブレードで騎士の鎧の間接部へと攻撃する。が、
「き、効いてないだと!?」
 腕をひとふり。牙竜はセイニィを抱えて、その攻撃をギリギリで避けた。避けたが、ぎりぎり掠めたのか、頬から血が流れる。
「はあああぁぁっ!」
 そこに唯斗が拳をぶつけた。その拳は爆弾ですら消し飛ばすくらいの重い拳であったが、
「無傷かよ!」
 振り下ろされた剣を避け、唯斗は叫ぶ。
「ならば……【グラビティコントロール!】」
 牙竜が重力をコントロールした。甲冑の体が、わずかに沈む。
「今なら!」
 さゆみが魔力をこめた歌を歌い始める。
「【ヒプノシス】!」
 アデリーヌも術を使う。
 心の奥底に響き、相手の能力を下げる効果のある歌により、敵の動きは弱まる。そしてそこに催眠術をかければ、相手の動きは止まるだろう……そう思ったのだが、
 甲冑の騎士は勢いよく剣を地面に叩きつけた。衝撃が走り、皆の体が揺れる。術もその衝撃で、全てが解けた。
「なんなんだ、こいつは!」
 涼介が叫んだ。
 女は笑い声を上げ、飛行機の上に立つ。運転席には竜平に蹴り飛ばされたはずである、カイザーが座っていた。
「蜃気楼相手に、よく生きているわね。そこは素直に褒めましょう。でも残念。もう時間切れよ」
 飛行艇が動き出した。
「みなさん。ごきげんよう」
 そしてカイザーの飛行艇は飛び立つ。
「逃がすか!」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が、『水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴン』にまたがり、最高速で追いかけようとするが、
「貴仁くん、下だ!」
 陽一が叫び、貴仁は下を向いた。いつのまにか甲冑の騎士がドラゴンにぶら下がっていて、腕力だけでドラゴンの体をひねり倒す。
「くっ、なんて跳躍力だよ!」
 貴仁は【フェンリルの爪】で甲冑へと攻撃するが、金属音が響くだけでダメージは皆無だ。貴仁の体も軽々と持ち上げられ、そのままドラゴンと共に地面に叩きつけられた。
 こちらにはもう、女たちの乗った飛行艇を追う術がなかった。飛行艇は旋回し、一度だけ皆の頭上をぐるりと一回転する。皆はそれをただ見ていることしかできなかった。
 甲冑の騎士も飛行艇をただ見ていたが、やがて、それが遠くへと離れたのを見ると、大きな剣を胸元で上に掲げる。すると、まさに蜃気楼のごとく彼の体は白い煙に包まれ、消えていった。
「な、なんだったの……」
 さゆみが言う。
 残った白い霧を唯斗、陽一が攻撃するが、そこにはもう、なにもなかった。
「黒幕だ」
 少し荒い息で、竜平が口にする。
「この事件を裏で操っていた張本人だ。あの女が……全てを仕組んだんだ」