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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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魔王からの挑戦状 ~今度は戦争だ!~

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 正面突破を図ろうと突撃する魔王軍と、それを抑えようとして激突する鋭峰軍の兵士達。
 一見すると、魔王軍の戦力が鋭峰軍の兵力を押し、突破せんとしているように見える。
「中央突破は……まぁ無理だろう」
 衝突する戦線よりも少し引いた地点で突破の為の騎兵を率い、構えている魔王軍の源 鉄心(みなもと・てっしん)は戦況を見てそう呟いていた。
 確かに、こちらが押しているように見えるが、相手はわざと中央の守りを薄くし、引き込んでいるのだ。
 大きく横に広がった陣形がそれを確信づけてくれている。
「両翼包囲されるのだけは避けなければな……」
 そのまま挟み込まれてしまっては全滅必須というところだろう。
「鉄心、相手の両翼が動き出したですうさ!」
 大きく迂回して戻ってきたのは馬を駆り、少ない騎兵と共に偵察を行っていたティー・ティー(てぃー・てぃー)の部隊だ。
「相手の編成は?」
「騎兵と弓兵が中心みたいです」
 ここからでは遠すぎてよく見えないが、挟撃の為に動かせる部隊はそのあたりだろう。
「よし、相手の布陣が完成し次第、片翼を逆方位。 準備はいいか?」
「任せるですの!」
「せっしゃどらごんでござるから……この戦いに参加するわけには……」
「何を言ってるですの!?」
 意気揚々としているイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)と、対照的なスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)を見て、鉄心は少し微笑む。
「後続の準備ができ次第、こちらも突撃する。 気を付けろよ?」
 そして、同じく待機していた酒杜 陽一(さかもり・よういち)
 彼は味方騎兵と重装歩兵に何かをしていたようだが、整列する彼らのせいでよく見えない。
「後続は任せる、後は攻めるだけだな」
 展開する鋭峰軍を観察すると、敵軍は既に展開を始めている。
 右翼の展開が僅かに早く、鉄心はそれを見逃さなかった。
「イコナ!」
「今ですにゃ!」
 鉄心がイコナの名を呼ぶと、待ってましたとばかりにイコナは弓兵に指示を出す。
 一斉に放たれた矢は突出した敵兵を分断するように降り注ぎ、敵兵の足が一気に止まる。
「浮き足立った敵兵を殲滅して友軍を助け出すぞ、突撃!」
「ウサー!!」
 ティーの叫びに呼応するように馬は嘶いて一気に駆けだし、鉄心とティーは騎兵を率いて、浮き足立った敵軍を分断させるように突撃した。
「反撃ですの!」
 しかし、敵軍の反応は早くあちらも矢を射返してくる。
「弓兵を守るでござる!」
 スープの咄嗟の指示で重装歩兵が弓兵の前へと踊り出ると、楯を構えて矢を受ける。
 次はこちらの番、とイコナが指示を出そうとした瞬間、前方でティーの叫びが響く。
「絶対ここは通さないんだからね!」
 先行したティー率いる騎兵隊が董 蓮華(ただす・れんげ)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の重装歩兵隊によって阻まれている。
 強固な装甲は騎兵の突破力をしても苦しい相手だが、それゆえに展開が間に合わないと踏んでいたのだが。
「流石は教導団、だな」
 自分が所属する場所で鍛えられた統率力であれば不可能ではないのだろう、鉄心は苦々しく思いながらも反面楽しんでいた。
「もうっ、勝ったほうが教導団にとっても得なのになに考えてるのよ」
 蓮華は鉄心の姿を見てそう毒づいていた。
 本来護るべきはずである団長に刃を向ける彼の意思がよくわからないというのもあるのだ。
「ははっ、こっちの方が面白いと思ってね」
「何言ってるのよっ!」
 騎兵を駆る鉄心の剣と蓮華の剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「こいつら、弓兵と騎兵狙いか。 重装歩兵、前進して後続を守れ!」
 明らかな一撃離脱を繰り返す騎兵の動きは、重装歩兵ではなく弓兵と騎兵を狙っている。
 スティンガーはそのことに気づき、全身指示を出す。
 防御を固めつつ、前進する重装歩兵を見るなり、魔王軍の騎兵は一気に距離を離していく。
「引いた? 何かおかしいぞ?」
「そういえば、騎兵しか……!」
 先ほど見えていた弓兵部隊が見えないと、蓮華が辺りを見回すと、イコナとスープの姿は遠くにあった。
 どさくさに紛れて本陣を狙うつもりなのだろう。
「すぷー、もっと急ぎますの!」
 ぺしぺしとスープを叩きつつも、進撃を続けるイコナとスープの部隊だったが、彼らの足は突如として止まる。
「落とし穴ですのー!?」
 前方で弓兵を守る様に進撃していた重装歩兵の一部が落とし穴へと落ちたのだ。
「あっちにも、こっちでござる!」
 よく見れば、わかりやすい罠がいくつも仕掛けられているが、抜け道はある。
 そのルートへと部隊を進撃させる。
 しかし、それを見計らったように一斉に矢が降り注いだ。
「なんなんですのー!?」
「ここから先の通行料は……あんたらの血で支払ってもらうわよ!!」
 正面には騎兵を駆るセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の部隊。
 そして、後方で矢を放っているのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の弓兵部隊だ。
「誘い込まれたでござるか……」
 わざと見破られる罠を用意し、こちらのルートを固定して誘い込んだのだ。
 気が付けば後方には騎兵を駆るアル サハラ(ある・さはら)ブライアン・ロータス(ぶらいあん・ろーたす)の姿がある。
「ぜ、絶体絶命ですの〜……」
 左右には落とし穴、前後には騎兵が待機しており、頭上には矢の雨。
「正面の部隊を囮にするなんて思わなかったけどね、これでおしまいよ!」
 セレンが突撃の指示を出すと、一斉に正面の騎兵が駆けだした。
 正面の重装歩兵の盾を弾き飛ばし、側面の落とし穴へと叩き落とす。
「あんな見た目にやられるなんて悔しいですの!」
「何をっ! セレアナ、あの小娘を射抜いちゃいなさい!」
 イコナの失言が頭にきたのか、セレンは彼女目がけて突進する。
 セレアナはその様子に呆れながらも弓兵部隊に敵弓兵を撃破するように指示を出す。
「突撃を防ぎながら下がるでござるよ!」
 挟み込まれている以上、どちらにしても危険だがスープは敢えて後退指示を出す。
「下がってきたね、じゃあこっちも突撃するよ」
 後退する動きを見て、ブライアンが指示を出そうとする。
「ん、なんだあれ!」
 アルが後ろを指さして叫び、それにより突撃指示は遮られる。
 後方にはこちらへ突撃してくる騎兵と重装歩兵の混合部隊。
 その数は正確にはわからないが多量の砂煙が上がっており先頭を駆けるのは陽一だ。
「あれだけの部隊が後続に居るなんて!」
「ブライアン、一旦撤退するぞ!」
 このまま突撃してもいいが、そうすれば今度は自分達の逃げ場がない。
 だが、あれだけの数がぶつかればセレンの部隊も危険だ。
「アル、撤退する前に少しお願いがあるんだ」
 ブライアンはそう言ってアルに耳打ちする。
「なるほど、そいつは面白そうだ」
「うん、工兵部隊のみんなも予定通りにね」
 そういうと、ブライアンの工兵部隊はそれぞれに散り、混戦の中へと消えていく。
「あいつらは?」
「お願いしたんだ、敵の兵隊さんに、金団長が背後に迂回してあらわれたよ、って偽の情報を流して欲しいなあってさ」 
 アルは「なるほどね」と言いながら、突撃してくる後方の部隊を見据えて大きく息を吸い込む。
「くっ、迎撃が素早いな。一旦退くぞ。皆、後方に控えてる団長をおまもりしろー」
 少し棒読みっぽくはなってしまったが、その発言は、陽一率いる部隊に動揺を与えたようで、足並みが少し崩れた。
「よし、撤退するぞ!」
 2人は部隊を率い、一斉に散開する。
「総司令官が後方に……!? だが、突撃を緩めるわけには!」
 今の相手が言った言葉がホントかウソかはわからないが、陽一の部隊は味方を助ける為にも突撃を緩めるわけにはいかないのだ。
「……くっ、一部騎兵はさっきの情報を別部隊へ伝えろ!」
 悩んだ末、陽一は騎兵の一部に伝令を指示し、自身は突撃に専念する事にした。
 本拠点である魔王城には防衛部隊がいくつも残っている、そう簡単には撃破されることはないはずだと信じて。
「セレアナ、あの数はまずいわよ!」
「……いえ、よく見て。 あの兵達の腰に括り付けられている木の枝、あれで砂埃を巻き起こしてるのよ」
 部隊を離れて移動する騎兵をよく見ると、腰にはロープが括り付けられており、その先には木の枝がぶら下っている。
 砂埃を起こすことで、数を実際よりも多く見せていたのだ。
「まんまとはめられたわけね、敵もやるじゃない!」
 だが、そうと分かれば引く必要はない。
「セレアナ! 蓮華の部隊をこっちに回すように通達して!」
「了解、少しは持ちこたえなさいよ」
 セレアナはそう言い残し、増援を求める為に蓮華の部隊へと駆けだす。
「壊し屋セレンの名は伊達じゃないわ、かかってきなさい!」
 残されたセレンは敵を見据えて大きく名乗りを上げる。
「そんな恰好で戦場にいるとはね、相変わらずだな!」
「うるさいわよ!」
 陽一も彼女のことを知らないわけではないが、実際に敵対してみるとなかなか攻めづらい恰好をしているものだと思う。
 だが、今は敵同士であり、容赦するわけにもいかない。
「いくぞ!」
 そして、両部隊は激突する。