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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第11章 2人のテスカトリポカ Story3

 特別訓練教室では、テスカトリポカの同一化の手順についての説明が始まっていた。
 和輝としても話してもいいものか、1時間以上も悩んでしまった。
 アニスに“皆待ってるし、ちゃんとリスクのことも伝えなきゃ”と促されようやく決断した。
「だいぶ待たせてしまったか。校長から言われたことを、これから皆にも伝える」
 彼の重い表情を見る限り、かなり難しそうだと教室に集まった祓魔師たちは息を呑んだ。
「成功すれば1つの器の中に2つ魂が入ることになり、時折人格が交代するそうだ」
「1人の人格が消えるようなことにはならないのね?」
「まぁ聞いてくれ、ノーバディ。それには、この中の何人かにリスクを負ってもらう必要がある」
「―……。(え、…リスクって!?)」
 真剣な面持ちにさすがのセシリアも黙るしかなかった。
「災厄の邪の意思を緩和するためにはトラトラウキの魂意外に、哀切の章の使い手の血が必要だ。それも1人の熟練者ではなくてはならない」
 破壊をもたらす本質を半ば強引に曲げるようなことになり、それには清き血がなくてはならない。
 しかも少量でなく多量で、個人の負担がかなり大きい。
 ゆえに、話してよいものかずっと悩んでいたのだった。
「やや自然に反する術式らしい。外法ではないようだが、かといって安易に行っていいものではないそうだ」
「この中だと…」
 哀切の章の一番の使い手は彼女しかいないと、美羽がベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の顔を見る。
「み、美羽さん。そんな目で見ないでください、私は…大丈夫ですから……」
「ごめんね…、ベアトリーチェ」
 明るく振舞ってはいたがパートナーの手は明らかに震えていた。
 どれだけ血を必要とするのか分からないのだから、もし自分が指名されたら引き受けるべきか否か考えてしまいそうだ。
「魂を取り出すには、大地の宝石使いの協力も必要だ。災厄とトラトラウキ、両方の側に1人ずつ必要なわけだが…」
「あたしがやるわ。どっちも残したいって言ったのは私だもの。負担が大きいほうを任せて」
「災厄のほうが取り出すために、かなり精神力が必要となるが…やれるか?」
「えぇ、自分の言葉は曲げないわ」
「分かった。…で、トラトラウキのほうは?」
「―…俺がやる」
 黒のほうを連れてきてしまった責任感からかグラキエスが挙手する。
「その他に、災厄の体から魂を離脱させることと、トラトラウキの魂の一部を切り離し、離脱させたほうに融合させた後…1:1の比率に加工できる者もいるんだが。やってくれる者はいるか?」
「エルデネスト…頼む」
「はい、グラキエス様の願いであれば喜んで」
 助けを求めるグラキエスに軽く頭を下げたエルデネストが優しく微笑む。
「1つの身体へ魂を呼び込み、同一化させやすくするためには、フラワーハンドベルの力がいる。これに協力できる者は…というより、1人しかいないだろうが」
「アウレウス、2人を助けてもらえるか?」
「主のためならば、喜んで!」
 傍に控えているウィオラも精一杯助力することを告げた。
「―…担当は以上の通りだ。本日は任務の疲れを癒すように、と校長からの言伝だ。各自しっかり休むように」
 校長から言われた一時期休息の指示を伝え、和輝は教室の机を後ろへ下げ始める。
「なぜ机を?」
「ここで寝泊りするためだ、エンドロア。そうだ…2人を一緒に置くことはできないから、黒のほうを守る者は地下訓練場のほうで休むように…ということだ」
「あぁ、分かった」
「私たちは寝袋ですか…」
 予想外の事にエルデネストはやや不満げな顔をする。
「キャンプみたいで楽しそうだ」
「―…えぇ、そうですね」
 寝袋を抱えて無邪気にはしゃぐグラキエスの姿に、彼もつられて笑顔になる。
「話し合いは終わったようだな?」
 樹が扉を開けると、和輝が寝る場所を作るため教室を片付けていた。
「林田、見張りの者はここに残ったほうがいい」
「訓練場はこの先だしな」
「おっと、トラトラウキが目を覚ましたようだ」
 終夏のヒュプノスの声からすっかり目覚めたトラトラウキが、きょろきょろと辺りを見回す。
「ここは…?」
「安心しろ、ここはお前を保護してくれる場所だ」
「保護……」
 状況がさっぱり分からずトラトラウキは不安げな目で俯く。
「和輝、今後どうするつもりだ?」
 ずっと魔法学校に置いておくことになるのか、とリオンが言う。
「厄介ごとが片付いたとしても元の場所は存在しない。クオリアが管理する都なら受け入れてくれるかもな」
「どちらにせよ大きな力を持ってしまえば、普通の人々が住まう場所に1人で生きるのは厳しかろう」
 道徳心についてすら、まったく理解できなさそうな危うさは、ぱっと見ただけでも分かる。
「む…」
「どうしたリオン?」
「皆、食事は取らぬのだろうか?」
 気づくと他の者たちは、早々と布団を敷いて寝ていた。
 遠方の任務で相当疲れたのだろうか、朝まで起きそうになかった。
「私たちも休もう…、アニスも寝てしまっている」
「もう起せないか、仕方ない…。おやすみ、リオン。それと…アニスも」
 自分たちだけ食事を取るのも気まずく、和輝のほうも眠気の限界にきてしまった。
 すでに背中の上で寝息をたてているアニスの頭をそっと撫でてやると、布団へ転がり就寝した。