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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第2章 2人のテスカトリポカ Story2

「(むー…退屈だなぁ)」
 熱心に話し合う者たちの様子を、和輝の後ろにぴったりくっつきながら見ているだけの状況に飽き、アニス・パラス(あにす・ぱらす)はつまらなそうな顔をした。
「(うぅ……お祭りに行けないから暇だったけど、だからって話し合いじゃなくても〜……ぶぅっ!)」
「(アニス、ごめんな。まだかかりそうだ)」
 精神感応の対話でアニスに言い、ポケットに入れておいたビスケットを渡してなだめてやる。
「(わ、分かった…。)“見てるだけじゃ和輝の役に立てないし…。そーだ、“みんな”に聞いてみよう!”」
 テスカトリポカを見てどう思うか聞いてみようと、神降ろしで“みんな”を呼び出す。
「ねーねー、みんな。あの2人、どう思う?」
 アニスの言葉に“みんな”は子供たちを見比べた。
 “赤い髪のほうは、どうも思わない。黒髪のほうは、怖い”
 ―…と、かぶりを振ったり身震いなどをしてアニスに伝えた。
「そ、そうなの?」
 自分も黒髪の子供がどんな存在か認識してはいるが、即答で“怖い”という態度を取られ、その感情が彼女にも伝わりぶるぶるっと身体を震わせた。
「アニスは平気だけど、みんなにとっては怖いんだね。むー…それって能力のこと?それとも、性格とかのこと?」
 みんなはこくこくと頷き、“そうだ”という仕草をしてみせた。
「えーっと両方なんだね、困ったなぁ…。じゃあ、他になんか2人について知っていることあったりする?」
 今度の質問に対しては、かぶり振って“知らない”と答えた。
「むぅーー…」
「(何か分かったか?アニス)」
「(ううん、何もー…。で、でもね和輝。アニスが思うに魂を合わせても、赤いほうの意思が強くなったら、黒いほうはどうなっちゃうのかなって…)」
「(新たな意思として1つの存在になるようだが、黒髪の攻撃的な性格が薄れるんじゃないのか?)」
「(んー…それはそうなんだけどー…。やっぱりアニスには難しい…っ。他の人のお話聞いてよっと)」
 もっとよい策はないか、和輝の後ろで大人しく話しを聞くことにした。
「話し…いいかしら?」
「あぁ、構わないノーバディ」
「魂の同一化で、1つになったとしても。黒のほうの意思がほとんどなくなってしまうなら、魂が残っても本人としてはほとんど消えてしまう気がするの」
 災厄をもたらす衝動を抑えるためとはいえ、本人は自由に活動することができなくなるんじゃないかとセシリアが言う。
「セシリアさん。ずっと動けないままの時と、あまり変わらないって言いたいの?」
「えぇ。黒のほうが持つ能力が使えなきゃいいわけでしょ?だったら、固体の意思として薄める必要もないんじゃないかしら」
 小首を傾げる美羽に頷き、1つの器に2人が存在させられないかという考えを伝える。
「けど、本質を変えることはできないわ」
「ありのままってわけにはいかないって、あたしだって分かる。でもね、それじゃちゃんと助けたことにはならないのよ!」
 もう1人の人格をなくすようなことは賛同するわけにはいかず、単に同一化させるだけなのは反対だと言い、セシリアはテーブルをバンバン叩く。
「災厄の意思を強く持ったままじゃ、赤のテスカちゃんの身体を使ってなにするか分からないでしょ?魂の同一化で緩和させるしかないの」
 破壊能力に特化した器でないほうを選んでも、それで何も悪さができないという保障はないのだから承諾できない。
 美羽は魂を同一化させるべきだと説明する。
「一方的に決めちゃうのは賛成できないってば」
「誰もそんなこと言ってないわ。だけど破壊的な意思は残してしまったら、テスカちゃんと私たちと戦うことになるかもしれない。それも予想してのことなのよ」
「壊したい衝動をなくしたいからって、1つにするのはなんか違うと思わない!?」
 2人として残せないか、破壊衝動を抑えるための意見で対立し、どちらも譲れないという様子で言い合いになってしまった。
「待て2人とも。それぞれの言い分はよく分かった。ここは多数決…と言いたいところだが、そんなもので決定しきれるものじゃない」
「じゃあどうするっていうの!?」
「まぁ待て、ノーバディ。落ち着いて話し合わなければ、決まるものも決まらない。(…はぁ、困ったものだ)」
 片方の意思がほとんどなくなってしまうことは、どうしても賛同できないセシリアと美羽の意見の争いに頭を悩ませる。
「最善策を考えるために、話し合いをしているはず。なのに、そんなに熱くなっては…」
「グラキエス様、近寄っては危険です」
 セシリアと美羽の間に入ろうとするグラキエスを、エルデネストが後ろからしがみついて止めようとする。
「だが止めないと…」
「い、いけません、グラキエス様!」
「主、巻き込まれてしまいますっ」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)もエルデネストと2人がかりで止めようとするが、ずるずると引きずられてしまうだけだった。
「アウレウス、グラキエス様を何とかしてください!」
「こうなったら、ウィオラの香りで!!」
 フラワーハンドベルを鳴らし、傍に控えさせているウィオラの香りをベルに吸収する。
「ぁあああっ、早く!このままでは…っ」
 その拍子にグラキエスから手を離してしまい、残されたエルデネストはいっきに争いの場へと引きずられていく。
「そう急かすものではない。…主、止まってください!」
 カランカラランと音を響かせ、ウィオラから得た花の香りを散らす。
 爽やかな甘い香りがグラキエスの精神を沈め、修羅場への進行を停止させる。
「すまない…アウレウス」
 冷静さを失いかけたことを謝り、止めてくれた感謝の言葉を言う。
「いえ、主のためならば!」
「そうか…。その香りなら、2人の言い合いが止まるかもしれない」
「はい、お任せを!…もう一度、ハンドベルに香りをっ」
 アウレウスはウィオラに命じて紫色の花びらの香りを魔道具に吸収させ、もう1度鳴らし気を高ぶらせたセシリアと美羽を沈める。
 冷静に戻った2人は、きちんと話し合おうと互いの言い分を初めから説明することにした。



 セシリアと美羽は冷静に戻ったものの、対立した意見はうまくまとまらなかった。
 どうしたものかと頭を悩ませる和輝の袖を、アニスがちょいちょいと引っ張る。
「(何だ、アニス)」
「(うーんとね、魂は同一化しないきゃいけないと思う。でね、人格を2つ残せないかなぁーと…。うーん、無理なのかなぁ)」
「(彼らがどう思うか、聞いてみてはどうだ?俺では上手く伝えられないかもしれない)」
「(へっ!?……う〜ん、やってみる)」
 和輝が変わりに言ってくれるものだと思ったが、伝えきれない可能性があると言われしぶしぶ頷く。
「え…っと、アニスが思うにはね…。同一化は…必要だと思う。そ、それで、2人の人格を…、残せたりしないかな…って」
「そんな方法があるの!?」
「わ、分からないよ。(うぅ、びっくりしたっ。でもでも、和輝のためだもん。頑張らなきゃ!)」
 テーブルから身を乗り出すセシリアに驚き、いったん和輝の後ろに顔を隠してしまうものの、大切なパートナーのために勇気をもってちょっとだけ顔を見せる。
「んー…。片方の人格が…消えちゃうのが、いやなら…。そう…ならないくらいなら…、……どう…かな?」
「そういうことなのよ!」
「まったく…愚か者めがっ。危険な博打ほどハズレた時、どうなるか想定するべきだろう?」
 頷くセシリアに対してリオンが呆れたように嘆息する。
「だからそれはっ」
「小娘と言い合う気はない。小娘としては、2人として別々の人格が残ればそれでよいのだろ?」
「まぁね……」
「話しをまとめてみる必要があるな。…和輝」
「分かった、リオン。…それぞれの話しをまとめると、破壊の意思を緩和するためにはトラトラウキの意思を分離し、片方と混ぜる必要がありそうだ。ただ、1つの魂を分離させるわけでなく、必要な意思のみを同一とする」
「ふぇえ、言ってることがよくわからないよーっ」
 和輝の話しを聞いていたアニスは理解しきれず、あわあわと目を回す。
「アニス、大丈夫か?」
 倒れかけた少女の身体を腕の中で支え、心配そうに彼女の顔を覗き込む。
「う、うん…なんとかね」
「ならいいが。(スキルを使わず話しているが、気づいていないのか?まぁ、さらに改善していっている兆しかもな)」
 近くにいる自分とだけだが精神感応で話さず、普通に声を出せていることに少し驚き、よい方向に人見知りも改善しているのならアニスには言わないでおいた。
 今教えてしまうと驚かせてしまい、また他者の前では精神感応でしか話せなくなってしまう可能性があるからだ。
 腕の中のアニスを立たせてやり、集まった祓魔師たちのほうへ顔を戻す。
「で…先程まとめたものが可能なら、最善策だと思うのだが。どうだろうか?」
「俺は異論ない」
 グラキエスが賛同するならとパートナーの2人も頷く。
「美羽はこれで納得できるか?」
「えぇ、どっちも残せるなら…そのほうがいいもの」
「私も美羽さんと同意権ですよ」
「あたしはもちろん賛成ーっ」
「ツェツェが言うなら俺も」
「本当にできるなら興味深いわね、ふふ。賛成しておいてあげるわ」
「まぁ、まず校長に聞いてみないといけないが。…可能だろうか、校長」
 仮の仮定ではあるがひとまず話しがまとまり、1つの器に2人の人格を残すのは可能かどうかエリザベートに聞く。
「それはですねぇ。えー…、まぁその…。和輝さん、ちょっと後ろで話しませんか?」
「―…構わないが。皆はそこで待っていてくれ。(やはり、かなり無茶な注文だったか…)」
 困り顔をするエリザベートの視線を察し、アニスがべったりくっついたまま後ろの席へ移った。
「ここなら、あまり声は聞こえないはずだ。で、話とは?」
「あのですねぇ。2人の意思を残すためには、何人かの血で魔法陣のほうを描かなくてはならないのですよぉ…。それなりに、生命力も必要となるんですぅ」
 エリドゥから戻ったばかりの状態では倒れてしまう。
 無理をしてしまうだろうから、和輝と2人で話す必要があると考えてのことだった。
「もちろん、災厄のほうは緩和する必要もありますからねぇ。なので、トラトラウキの魂の一部を、分離させて融合させる必要もありますし〜。比率はきちんと1:1しないと人格として残せません〜」
「あぁ…、分かった。俺から話してみよう」
「私はちょっと封魔術の説明があるので席を外しますが〜。また戻ってきますよぉ〜」
「そうしてもらえるとこちらも助かる」
「では、また後ほど〜!」
 簡単に説明用の手順だけ書き記し、和輝に渡すと特別訓練教室から出ていった。