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リアクション
【セレンフィリティ 対 アレク】
「やっぱりここは『俺より強い奴に会いに行く』、よね!」
どうせ戦うのならそうするべきだと主張するセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)のに、見学にきていたパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は不安を覚えた。
確かにセレンフィリティは実力者である。
普段のちゃらんぽらんで怠惰な性格や常識外れの大食いぶりからは想像もつかないが、過去にはシャンバラ教導団歩兵科の特殊部隊訓練も適正を示したのだ。
「伊達に訓練を受けてきた訳じゃないし、それに自分がどこまで強いかを実地に確かめてみたい」
という彼女の気持ちはセレアナも理解出来るが、相手がアレクサンダル四世・ミロシェヴィッチ(あれくさんだるちぇとゔるてぃ・みろしぇゔぃっち)となると、そうですかとは答えられない。
「セレン、相手はリアルチートなんだから油断しちゃダメよ」
諌める声に、しかしセレンフィリティは不敵に笑って返す。
こうされるとセレアナは弱くなってしまう。それに不安はあるが、セレンフィリティが負ける、とはじめから思っている訳ではない。セレンフィリティはセレアナの、誇るべきパートナーなのだから。
「じゃ、勝利を祈って……」
柔らかな頬の上へ手の甲を滑らせる様にして引き寄せ、そっと啄む様なキスをして、セレアナはセレンフィリティを送り出した。
アレクは既にフィールドで待っている。コンバットブーツのつま先で足下の土を弄びながら、退屈そうにする彼に、セレンフィリティは希望の力で輝きを増す大剣の切っ先を突きつけた。
アレクはよく大太刀を使用するから、こちらも剣を選んだのだ。
「さあ、手加減無用よ?」
声と共に、セレンフィリティが剣を構えた。セレアナが逸る鼓動を抑える中、戦いが開始される。
アレクが前傾に倒れるような素振りを見せた、
とセレンフィリティが思った瞬間には、既に彼の姿は目の前にあった。
早いとは思っていたが、想像以上だ。
血が沸き立つ一瞬の感覚の間に、上段から振り下ろした刃が迫っている。
セレンフィリティは間一髪で、それを避けた。
行動を予測していた事、更に服装からスキルから極限まで身のこなしを軽くする努力をして機動性を確保していた事が、功を然うしたのだろう。
しかし避けたと思った次には二手目がきている。
振り下ろした刃はそのまま横払いに、セレンフィリティの銅を狙っていた。
セレンフィリティは、大剣の両刃を横にする形――樋でそれを凌ごうとした。
が、彼女の身体はまるで何かに引っ張られるような勢いで、後方へ飛んでいく。
限界まで軽くした体重での踏ん張りは、アレクの全力に耐えきれなかったのだ。
勝負は、壁へ叩き付けられたセレンフィリティが昏倒した事で、彼女の敗退で終了となった。
ヤン・コワルスキ曹長が、彼女の刺激的なスタイルを見ながら困った笑顔で言う。
「機動力の確保も大事だけどさぁ、犠牲にする分も大きいからな?
ここまで徹底するなら、兎に角避け続けないと駄目だわな」
*
【かつみ 対 ハインツ】
「めーッ!!」
フィールド中に響くスヴァローグ・トリグラフ(すゔぁろーぐ・とりぐらふ)の鳴き声に、千返 ナオ(ちがえ・なお)は近くに座っていたジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)へ通訳を求めた。
「山羊さん、もしかして怒ってるんですか?」
「うんとね、あれは嫉妬ね」
くすくすと苦笑の声を漏らして、ジゼルはスヴァローグに詰め寄られて弱り果てた様子のハインリヒ・ディーツゲン(はいんりひ・でぃーつげん)と、それをぽかんと眺めている千返 かつみ(ちがえ・かつみ)を見ている。
かつみは対戦相手に自分と同じタイプだろうとハインリヒを指名し、武器を銃剣にするように頼んだ。だがハインリヒが見知らぬ銃剣を持っている事に気付いたスヴァローグは、突然めーめーとヒステリックに鳴き出したのだ。
「ハインツの銃剣は自分だけだ! って、怒ってるのよ。
私ちょっと止めてくるね」
ジゼルはトリグラフ達と仲の良いシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)を腕に乗せ、フィールドへ歩いて行く。
入れ替わる様にナオの隣にアレクがやってきた。
「二人で練習してたんだってな、どんな?」
「かつみさんが勢いよく攻撃する際に、逆に相手からの攻撃で足を止めずに最小限にかわせる様にっていう練習です。
俺がメンタルアサルトを使って、不意の攻撃をしたりして――。
それが上手く本番でも使えたらいいんですけど……」
「ふぅん」
質問した癖さしたる興味も無さそうな薄い反応をしたアレクが、フィールドを一瞥して「終わったみたいよ」とナオへ振り返る。
「あ、ほんとだ。
始まるんですね。集中してるだろうから、邪魔にならないように静かにしてないと……」
そう口では言うのだが、ナオはかつみに向かって両手をブンブン振っている。これじゃあ静かにしている意味は無さそうだが、可愛らしいし、これはこれでいいのだろう。
さて、色々あったが、漸く訓練は開始された。
かつみがパラミタに来て訳一年――。
自分が今、どのくらい強くなれたか、それを確かめてみたい。
始まりと同時に走り出し、奈落の鉄鎖で遠距離からの攻撃を謀った。ハインリヒの方はそれを器用に避けている。
それが暫く続くと、ハインリヒがかつみの顔を見て、口角を上げた。
「二人で動き読み合いしてたら、何時迄経っても終わらないよね。
それそろ行かせて貰っても良いかな?」
ハインリヒが地面を蹴る。それしか見えなかったが、それだけ分かれば充分だ。
かつみは火遁の術で目眩ましをする。
が、銃剣は火の中にかつみを斬りつけようと飛び込んできた。
「くっ!」
予想外の攻撃をギリギリに横に避け躱すが、今度は振り上がってきた銃床がかつみの顔面に当たった。
世界が揺れる。
鼻血を吹き出したかつみがぐらりと地面に伏す前に支えて、ハインリヒは少し慌てた様子だった。
「ごめんここまで当てるつもりじゃ――、火が邪魔で大体しか見えなかったんだ、ごめんね!?」
「おまえ…………見えてないのに突っ込んだのか?」
「うん? だって見えなくても敵一人なんだから突っ込んで一発当てたら僕の勝ちだろ?」
「滅茶苦茶だろそれ……」
控えていた衛生兵が応急手当をしてくれている間、ヤンがフィールドに膝をついてかつみを気遣いながら説明する。
「目眩ましってのは何処迄行っても目眩ましだからな。次の手を準備しとかないと駄目だわ。
特に銃剣みたいな突きの攻撃に特化したものは、攻撃を避けても次の手が早いから、きちんと対策はとっとけよー。
つーても今のは突きじゃなかったし、この人のこれはちょっと無茶なやり方だけどなぁ……。
ま。ヒットアンドアウェーは確かに良い戦法だとぁ思うけどよ、スピードが上回る相手にそれで動きを鈍らせようとするのは逆効果だっつーのが、何となく分かったろ?」
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