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【左之助 対 ハインツ】


「兄さん、銃苦手って言ってたけど……
 あの様子じゃあえて挑んだな」
 ハインリヒを――否、正確には己が苦手する筈の銃器を前に、黒い瞳を燃える様に輝かせる原田 左之助(はらだ・さのすけ)に、真は左之助のドラゴン魂龍『一文字』の背を撫でつつ苦笑した。
(兄さん戦いのときは熱くなるけど、今日はいつにもましてハイテンションだな)
「……ってあつっ! この龍あっつ!?」
 慌てて手を離しそうになり、真は予め革手袋を装着して準備を整えていたのだと思い出して、ふうと息を吐いた。
 そういえばこの一文字は左之助の感情にリンクしていたのだったか。
「……楽しんでる証拠、だよな」
 徐に握り飯を乗せてみる。
 一文字は微動だにしない。これで飯が上手い事温まるだろう。
「……便利だな……」
 ぼんやり呟いていると、ジゼルにトントン肩を叩かれハッと我に返った。
「真、始まるよ」
「あ、ホントだ。
 兄さんがんばれー!」
 義弟の全力の応援の声を聞き、左之助は血をたぎらせた。確かに銃器は苦手だが、何時迄も苦手と言っていては、兄貴としても格好がつかない。
「やる気満々ですね」
 ハインリヒに指摘され、左之助は眉を上げる。
「感情? んなもん隠す必要なんてねぇよな? あぁ!?」
 ハインリヒは何も答えずに肩を竦めるが、これは左之助のような快男子を前に、単純に気の効いた言葉が思い浮かばないだけだ。
「さぁ、派手にやろうじゃねぇか!」
 怒号に近い左之助の声と共に、戦いは始まった。

 ハインリヒがその場で銃弾を散撒くと、左之助は龍鱗化でそれらを弾き返しながら、敵に向かって一直線に飛び込んでいく。ある程度はダメージになったが、そんな事は気にも止めない勢いだ。
 左之助には目的がある。ハインリヒのスピードはかなりのものだから、間合いを詰めて接近戦に持ち込むつもりなのだ。
 得物の槍で狙うのは、ハインリヒの手だ。
 彼の使用する小型の特徴的な形状を持つサブマシンガンは、マガジン(弾倉)の固定が固く壊れ難い為、マガジン自体がフォアグリップの役目を果たしている。その部分を左之助は狙っていた。
 上から石突(鐺)で落とそうとしたが、ハインリヒは直ぐに左手をマガジンから離した為、攻撃は外れてしまった。
 槍の良い点は穂と石突――要するに前と後ろを、テコの原理で素早く回す事で直ぐに二の手に繋げられるところである。左之助は今度は穂の首でフロントサイト(照星)辺りを叩き落とした。この際に石突がハインリヒの顔面の直前まで迫っていたが、ハインリヒはそれをくぐり抜けてしまうと、足下にきた柄を左足で踏みつけにした。
 そしてその時に右手の銃はもう左之助を狙っていた。左之助はそれを払い、体勢を低くしながら避ける。
 銃弾の音が響いた時、二人の間に距離が開いた。
 此処迄のやり取りは、本当に一瞬の出来事だ。
 だが左之助はこの間で殆ど休む事無く、銃を狙った突きを繰り出す。彼の手は攻撃力を高めるスキル――『エナジーコンセントレーション』で発光していた。
 この一発目は避けられたが、左之助は柄を素早く扱いて更にもう一発穂を突き出した。
 ハインリヒは柄の先端を左手で払ってきたが、しかし、左之助はこの展開を読めていた。
 手を発光させたのは敵の視線をそちらに集中させる為だ。
 左之助が真に狙っていたのは、回し蹴りによる一発である。
 足を振り上げた瞬間、左之助は見た。常に取り澄ました表情でいるハインリヒが、尋常ではない笑みを見せたのを。
 拳は口より多く物を語るらしい。
(成る程こいつが奴さんの本性か――!)
 等と、妙にゆっくり流れる時の中で、左之助は感じた次第であるが、直後に痛みで現実に引き戻された。
「があッ!?」
 左之助の回し蹴りの足を掬い取る様に、ハインリヒはその足を蹴り上げ、後方――つまり後ろに回転し間合いを取る。
 太腿に当たった強烈な一撃に、左之助の身体の熱が一気にそこへ集中する。しかし痛みにかまけている暇は無い。
 これ以上ハインリヒに逃げられては命取りになると、左之助は槍を投擲した。
 ハインリヒがそれをスキルで弾き返している間に、左之助は即抜刀し、敵を切り上げにかかる。
 上段から袈裟懸けに振り下ろされる刃をハインリヒは潜り避け、次の胴狙い刃を銃の背の部分で勢い跳ね上げた。
 フィールドにガンッと音が響き、左之助の刀が弾き飛ぶ。
 が、ハインリヒの方も銃を明後日の方向へそのまま投げ捨てた。咄嗟だったのだ。あんな勢いで力任せに当てたのだから、銃の方も無事な訳がないと思ったのだろう。まあ例え発砲出来なくなっていようと、ただの鈍器として使用すれば良い話なのだが……。そう考えると自分の拳で殴りたくなってしまったというのが、本音なのだろうか。
 さてこの時点でハインリヒの方が僅かに優勢な動きをしていた為、彼は左足で左之助の鳩尾を狙い前に蹴り出した。
 互いに武器も無く、恐らくこれが最後の一手になる。
 足を腹に一発ずつ喰らっている事を考えれば、逆境に立っているのは左之助の方だろう。だが左之助はここで挫けるような――白旗を振る様な男では無い。
(――知ってるか?
 俺は真に教え、逆に学んだ事が1つあることを)
 ハインリヒの足が迫るのに、左之助は躊躇する事無く踏み込んだ。
 足を掌で突き上げると、ハインリヒが回転して体勢を整える間に此方も体勢を整え、気合いの一撃!を繰り出した。
 此処で果たして冗談のような話だが、拳と拳がぶつかり合う。

 競り負けたのは、左之助の方だった。
 二撃喰らっていた事で、大分力がもぎ取られていたのだろう。競り負けて、よろけたところでまた新たに一撃を喰らい、左之助は倒れた。
「全力でいったなら悔いはねぇ」
 豪気に胸を叩き笑ってみせる左之助に、ハインリヒは何故か心底楽しそうに笑い出すのだった。



【さゆみ 対 キアラ】


「さゆみ……大丈夫かしら?」
 飛び入りで参加した為、最後の戦いとなるさゆみとキアラを見守って、アデリーヌは胸の上で両手を握りしめる。
「楽しければそれでいいわ」
 と、どこか能天気なさゆみの服にコッソリお守りを忍ばせたが、それでも心配なものは心配だった。

「つーかなんで私……。
 さゆみん強いんだからもっと強い人とやればいいじゃないスか」
 ブーイングするキアラに、さゆみは「私だって死にたくないわよ!」と苦笑する。
「アレクとかハインツとやりたくないってだけじゃなくて、キアラちゃんを選んだのに、理由はちゃんとあるのよ。
 ワールドメーカーって元々魔法少女としての心得が無いとなれないでしょ?
 色々共通点も多いし。
 尤も、私は戦闘向きって程じゃないから、軍人のキアラちゃんとどこまで殴り合えるかは未知数だけど」
「えー……殴り合いはしたくないっスよ?」
「そうね。私も出来ればそうしたいわ。
 でも……、やるからには全力を尽くすつもり」
 さゆみがウィンクするのに、キアラは息を吐き出して頭を下げた。
「よ……よろしくお願いします」

 と、まあこんな具合で始まった戦いだったが、この訓練試合は本当にすぐに終わってしまった。
 開始と同時にさゆみが使用したのは『エクスプレス・ザ・ワールド』だったが、さゆみが表現したのは攻撃ではない。
 相手の戦意を限界まで削ぐ様な――そんなイメージを実体化させたのだ。
 例えば美しい自然や、動物と言ったところだろうか。
 元々戦う気の薄かったキアラは、これですっかり毒気が抜けてしまったようだ。
「――バトルイコール相手をボッコボコにするだけじゃなく、相手から戦意を奪って平和に解決するのだって十分立派なバトルだし、その方がワールドメーカーらしい戦い方だと思うのよ」
 にっこりと微笑むさゆみに、見学していた者達から賞賛の拍手が送られる。
 勝負としては有耶無耶な終わり方ではあったが、軍とは本来は平和を維持する為の集団なのだとアピールする為の今日の活動だ。
「これ以上の終わり方は無いわね」
 と、ニコライは満足げに呟いて、録画の停止ボタンを押すのだった。


担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

シナリオに参加頂いた皆様、有り難う御座いました、東安曇です。
バトルは楽しいですね!楽しいですね!!
前回シナリオの【一会→十会 ―絆を断たれた契約者―】の執筆終了間際から――バカの癖――風邪をひいてしまっていたんですが、今回のバトルシーンを作るのに模造刀だのモデルガンだの片手に暴れていたら、熱が下がりました!
ただ冷却ジェルシートをデコに貼ってサブマシンガンを持つという絵面は、凄いというか酷い事此の上無い為、風邪を早く治したい時に……全くお薦めしません! 
あと興奮し過ぎて今度は知恵熱が出てる気もしますね!
季節の変わり目です、皆様はどうぞご自愛下さい。
尚、今回のバトルについてNPCの意見や総評などは、東のリアクションくらいしか意味は有りませんのでご注意下さい。
それでは、また何処かのシナリオでお会い出来れば幸いです。

シナリオ執筆にあたり、逆凪 まことマスター、猫宮 烈マスターにご協力頂きました。
この場を借りてお礼申し上げます。有り難う御座いました!