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仮想世界で大暴れ!? 現実世界へ立ち戻ろう

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仮想世界で大暴れ!? 現実世界へ立ち戻ろう

リアクション

 第 5 章

 ――仮想世界


 城へ向かいながら本物の王を探していた一行は、その居場所をあっさり知ることとなった。
「……皆で情報を寄せ合ったとはいえ、少しうまく行き過ぎる気がするな」
 優は『銃型HC』で情報を整理しながら城の外に本物の王が捕らわれており、その場所もおおよその確信を得られている事に僅かな危機感を見せる。
「確かにそうですねぇ……普通はもっと解りにくくするものじゃないでしょうか」
 北都もそれに続き、王が居るという洞窟を地図で示しながら実はもう目の前にしている。少人数でバラけて草むらから覗くが確かに見張りが2人入り口に立っていた。
「食事を運んでいたという村人の話しを信じるなら、見張りの会話からこの洞窟に居るのは本物の王……という事になりますね。実際、何の変哲もない洞窟に見張りが付くのも不自然と思いますが」
 洞窟の見張りを見ながらクナイも多少の危惧を隠せないものの、海の判断を求めた。
「高円寺様、最終判断はお任せしてもよろしいですか?」
 クナイが訊ね、柚が海を見上げながら恋人の言葉を待っていると決断した海が優と神代 聖夜(かみしろ・せいや)に視線を合わせた。
「優と聖夜、それから零で中の様子を探ってきてほしい。もし、中にまだ見張りが居るようならその時は全員で加勢する……危険だと思ったら迷わず引き返してきてくれ」
「危険の感知については俺の本領だ。優と零は守り切ってみせる」
 聖夜の言葉に同行する2人も頷くと、早速入口の見張りの1人を聖夜が【ブラインドナイブス】の一撃で気絶させ、もう1人も構える隙を与える前に優の【抜刀術『青龍』】で沈ませた。
「……私の出番、ありませんでしたね。見張りが弱すぎるのかしら」
 手際の良さを褒めつつ、零が少しだけ拗ねたように呟いたがすぐに優のフォローが入る。そんなやり取りをしながら3人は洞窟の中へと足を踏み入れた。

 ほぼ一直線に延びる洞窟の中を進み、足元だけを照らす明かりで聖夜を先頭に洞窟の気配を逃さないよう神経を研ぎ澄ませる。
「……海が心配していたような、中に見張りっていう可能性は低そうだ。このまま本物の王様ってのを助け出せれば後は城へ乗り込むだけだ」
 3人の足音だけが響く中で、途中の通路が格子に阻まれていた。というよりも行き止まりに格子を嵌め、誰かを閉じ込めているようである。
「……奥に、人の気配がする」
 聖夜の言葉に優が一歩足を踏み出し、格子に手をかけて中の人影に問いかけた。
「……俺達はここに王様が捕まっていると聞いて助けに来た者だ。あなたはこの国の王で間違いないか……?」
 優の声に反応し、多少やつれながらも姿を見せた老人――王である事を告げられると、木造の格子にかかった錠前を聖夜が【ピッキング】で解除し無事に本物の王を保護する事が出来たが―――!?

「モンスターの気配だ、零! 【神の目】で暴いてくれ……!」
 焦ったような聖夜の声に零は背後に向けて【神の目】を使った。その途端通路にはゴブリンの群れが現れる。
「……偽の王も、ゴブリンが化けたものかもな。海、王様は無事に助けたがゴブリンの群れが現れた。3人だと時間がかかりそうだから挟み撃ちで加勢頼む」
 海へ通信した優と聖夜が後ろに零と王様を庇い、ゴブリン達の前に立つ。優は『野分』を手に前列にいるゴブリンへ【抜刀術】でいち早く斬りつけ、聖夜は【麒麟走りの術】で速度を上げながら【霞斬り】で『隕鉄のジャマダハル』と『象牙のククリ』の二刀流を仕掛け、ゴブリンの只中を一閃していった。しかし、多勢に無勢の戦況は変わらず優と聖夜もかすり傷程度ではあるがダメージをくらってしまう。
「【命のうねり】! ……海や陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)達はまだでしょうかっ」
 2人の負った傷を回復しながら零がゴブリンの群れの先を見遣ると同時にゴブリン達が【ホワイトアウト】に包まれた。
「遅くなって済みません、無事……ですね。間に合って良かったです」
 前衛に混じって刹那が魔法でゴブリンの動きを止めてしまう。海とクナイが凍ったゴブリンを斬り、柚が【歴戦の回復術】を使って援護する。その後ろから雅羅や夢悠、北都が魔法や弓での遠距離攻撃を加えた。最後尾にはシルヴァニーの護衛についたエセルとレナンが挟み撃ちを防ぐ。
「助かった、数で来られたらまずい事になっていたからな。本物の王様も助け出したし、目指すは城……偽物を暴くためのアイテムもきっと手に入ってるだろうぜ」

 メインミッションクリアはもうすぐ――


 ◇   ◇   ◇


 盗賊の根城と聞いてやってきたヴァイス達であったが、そこに居たのは「もぐもぐ」という名のモンスター。一見すると毛玉のようなウサギだが仮想世界では立派な盗賊らしい。
「私が集めた情報にはなかったんですが……でも、このモンスターとっても可愛いです……!」
 3人が根城に入り込んでも普通に跳ね回るか、遊んでいるか、寝ているかの何れかの行動をしている。見ている内にラフィエルは母性を擽られたのか、1匹抱っこをしてみると離しがたい様子を見せた。アルバも襲ってこないモンスターとみて「もぐもぐ」に攻撃はしないと決める。
「……で、ここの宝ってどこなんだ?」
 予想外の和みに目的を忘れそうになるヴァイスだったが、その一言でアルバとラフィエルも我に返った。楽に探索が出来るとみてアジトの部屋という部屋を見てみるものの、彼らの求める宝らしきものは出て来ない。
「ヴァイス、念の為に聞くが……盗賊のアジトに向かうミッションの内容はどのようなものであったのだ?」
「ん? 確か……アジトに行く、以外の目的はなかったような……」
 アルバとラフィエルも暫し無言になった―――。

 「もぐもぐ」のアジトを出る際には、ラフィエルは名残惜しそうだったがヴァイスがもう一つ受けていたミッション――現実世界の電脳バトルから派生したものであったが城の宝物庫を設計し、全ての宝箱を管理する『鍵』を造りだした人物を探して『鍵』を受け取るというものである。
「ラフィエルの前情報もある事だし、多分こっちが本命のメインミッションかサブミッションか……」
「ふむ、少々回り道をしたがそちらのミッションをクリアした方が良かろう。向かうとしようか」
「そうですね、行きましょう……! それより、色花さんは無事に天照さんを見つけられたんでしょうか」
 酒場で別れたままになっている色花と天照を気にしつつ、鍵の番人を探しに向かうのでした。

 城下町ではどうも有名であったらしく、すぐに番人の情報を集めたヴァイスは早速その家へ向かう。仮想世界では2人といない鍵の名工であるだけに通された屋敷の造りも無駄に施錠が多かった。
「用があるなら、鍵を開けて辿り着けって……まあ、どのモンスターが持っているか解らないし闇雲に倒して時間がかかって手に入れるよりはいいかもしれないが」
 【ピッキング】で部屋にかかった鍵を開けながら番人の所へ向かうヴァイスと、北都やシルヴァニーと通信し、連絡を取り合うアルバとラフィエルはいくつ目かの部屋の鍵を開け、中に入るが番人はいない。
「部屋を1つ1つ開けて探すのもホネだぜ……って、ここでもないのか! ん……?」
 部屋の中心にポツンと置かれた宝箱に視線を向けたヴァイスはゆっくり近付き、取り敢えず調べてみた。特に変わったところはないが、宝箱にも当然のように鍵がかかっている。
「これは開けろって事だな」
 【ピッキング】で開けられた宝箱からは―――!

 キィー! と耳をつんざく様な鳴き声と共に大量の蝙蝠が宝箱から飛び出した。咄嗟に退いたヴァイスは“お月さん”こと『ムーンキャットS』を手に横薙ぎへ一閃する。それほど大きくない宝箱から飛び出した蝙蝠は70匹から80匹程で3人の姿を認識すると襲いかかってきた。
「ラフィエルは我の後ろに! 絶対に前に出てはならぬ」
「は……はい! っきゃああ!」
 上空から掠めるようにラフィエルの頭の上スレスレを飛行する蝙蝠に“超さん”こと『超人猿』、“銀さん”こと『シルバーウルフ』がラフィエルを守るように向かってくる蝙蝠を追い払う。
「これもRPGのお約束? 宝箱開けるとモンスターなんて、現実にならなくてもいいだろ……数が多過ぎる!」
 アルバの横に並び、壁を背にしてラフィエルを守りながらヴァイスは【ブリザード】を放ち、蝙蝠を氷結状態にするとそこへ間髪入れずにラフィエルが【サンダーブラスト】で雷撃を加えた。大半の蝙蝠は動けない状態になっているもののそれでも向かってくる数匹にアルバが【則天去私】で拳を叩きつけ、漸く蝙蝠を全滅させた。
「流石に驚いたが……ラフィエルもヴァイスも怪我はないか?」
「はい……大丈夫です、アルバさんありがとうございます」
「はー……オレも一応大丈夫だ、ん? なんか金属っぽい音がした気がするけど」
 音のした方に足を向けるとカーテンレールに引っ掛かっている蝙蝠の真下に落ちていた『鍵』を見つけた。
「……鍵? あ、まさかこれか? ラフィエルの情報だとモンスターが持ってて、鍵の番人を探して『鍵』を受け取る、ちょっと捻った推理だけど多分これの事なんだろう」
 シルヴァニーとの通信で、本物の王様も助ける事が出来たらしいと知ると彼らに合流すべく3人も城へ向かっていった。


 ◇   ◇   ◇


 偽物の王を暴く為の必須アイテムとの情報を元に『真実を映し出す鏡』の在り処を求めたセレンフィリティとセレアナは代々の王が宝を収める場所として5階建てビル程の高さがある塔に足を踏み入れていた。
「これ、ひたすら頂上まで上がっていくの?」
「そうみたいね、防具屋のお姉さんの話しだと侵入者があっても上まで行くしかなくて袋のネズミにするためだって話よ」
 少々、違和感を拭えない話ではあるが宝物部屋の見張りに見せれば通してくれるという『通行証』があれば王からの使いとして中に入れるという。
「通行証なんて預かってないからどうなるかと思ったけど、塔を管理してる村の村長が持ち主なんてね。良く出来てる……」
「そこがゲームなんでしょうね、それにしてもセレン……私達、仮想世界で回復薬買ったり防具作ってもらったり、戻ったらこれ持っていけるのかしら」

 
 ――数時間前

 ある程度の情報収集をしたセレンフィリティとセレアナは目的の場所を定め、道の確認に更に村人へ詳細を訊ねていた。
「分かれ道も結構あるからね、道案内の看板もあるから大丈夫だと思うよ。ただ……道中はモンスターも多くてねぇ、お前さん達も強そうな戦士だが……どうだい? あそこに防具屋もあるから、装備を整えていったらいいんじゃないか?」
 道具屋では回復薬を買わされ、次は防具屋で装備を勧められ、カモにされているのではないかと思うほどの商売熱心な村である。セレンフィリティとセレアナは訊ねる村人を間違えた――と、げんなりするも一応寄ってみたところ値段も防具の性能もそこそこ丁度いいと見ると2人は顔を見合わせる。
「まあ……まさかここで大怪我だの死亡だのってのはならないと思うけれど、備えておく? セレン」
 セレアナが問いかけたところで、防具屋の店番をしていたお姉さんが2人の姿に目を光らせる。
「あなた達……いいセンスしてるわ、でもここにあるものじゃ2人にはちょっと野暮よね! これからのトレンドのため、あなた達の防具は私が今作ってあげる!」
 セレンフィリティのビキニ姿とセレアナのレオタード姿に何かが閃いた防具屋のお姉さんは素早く2人の採寸をすると、1時間後に取りにきてねという言葉と同時に作業場に籠ってしまう。
「……有り難いような、有り難くないような……一体何が出来上がるのよ」
 セレンフィリティが疲れたような一言を残し、仕方がないので更に情報収集しながら出来上がりを待つ事1時間――防具屋を覗きに行った2人にぴったりの戦士装備だと言って布のような軽さだがしっかりした強度を誇る青いビキニと銀のレオタードを渡す。
『これからの女戦士は、惜し気なく肌を出せて尚且つ防具らしい強さがなきゃいけないのよ! 2人はまさに私が描く完成形だわ!』
 セレンフィリティとセレアナに作ったビキニとレオタードを渡すと、お姉さんはそのテンションのまま新しい防具の製作に入ってしまったのでした。



「まあ、持ち帰ってたらいいわねくらいでいいんじゃない? それより……やっと頂上みたいよ、セレアナ」
 案の定、侵入者と見たらしい見張りに武器を突き付けられるものの村長から預かった『通行証』で宝物庫に通してもらい、目的のアイテムを見張りの兵士に訊ねながら探し当てたものの、宝箱には鍵がかかっていた。
「……どうやって出すのよ! 今度は鍵探し!?」
 さすがにイラッとしたセレンフィリティだが、『籠手型HC弐式・P』での通信でシルヴァニーからの情報だとヴァイスが『鍵』を手に入れ合流しているというのだ。
「それを早く言ってシルヴァニー! あたしとセレアナもすぐ合流するわ!」

 宝箱に入った必殺のアイテム―真実を映し出す鏡を手に城へ突入する寸前のパーティに2人は漸く合流したのでした。