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リアクション
第 6 章
ヴァイスが手に入れた『鍵』で宝箱を開けることができ、セレンフィリティが手に入れた『真実の鏡』で城の兵士達はスケルトン―骨のモンスターに入れ替わっていた事が判明した。
「夢悠が危惧した通りでしたわね、城の兵士達も偽物だわ」
「うん……気付けて良かった、進んでいくにしても警戒しないとだね!」
客人として迎えられているわけではない以上、兵士に扮したスケルトンが行く先々でパーティを襲ってきた。
「だんだんスケルトン兵士の数が増えてきたな、玉座は近いらしい……!」
海が呟くと、【龍鱗化】で防御力を高めたクナイが海に先んじてスケルトン兵士の群れへ突っ込んでいく。後衛として後ろから弓で攻撃する北都も【行動予測】で敵の動きを見切ると、クナイの背後に迫るスケルトンを的確に射抜いていった。海とクナイが背中合わせの立ち位置になり、互いの背中を預けながら敵を一閃するが2人に出来た傷は、柚が【歴戦の回復術】で治していく。スケルトンの兵士に混じって岩石を繋ぎ合わせた小型のゴーレムも現れるようになると優と聖夜が頷き合ってタイミングを計り、ゴーレムが繰り出した拳の一撃を優は高く飛び上がって肩に手を付くとそのまま飛び越えて背後に回り、聖夜は【麒麟走りの術】で素早く横へ避けると丁度挟み撃ちになって前後から同時に攻撃した。しかし、岩石の防御力は2人の攻撃力を僅かに上回る。
「ちっ……倒れないか」
悔しそうに聖夜が呟くと、夢悠が優と聖夜にゴーレムから離れるように告げると【雷術】を仕掛けた。『フロンティアスタッフ』を構え、雅羅を後ろに庇いながら幾度か繰り返すとやっとゴーレムが崩れ落ちる。
「ゴーレムには、魔法の方がいいみたいだね。こいつが出てきたらオレが魔法を打ち込むよ」
「それじゃあ、その時は俺と聖夜が攪乱させていこう。雅羅の守りとゴーレム退治……頼んだ」
海の傍には常に柚が付いてサポートし、雅羅の傍には夢悠が災難は起こさせないとばかりに守る。そんな様子を後ろから眺めながらシルヴァニーは羨ましそうな顔を隠さなかった。
◇ ◇ ◇
その頃、現実世界ではカルとジョン、イーシャンが仮想世界の契約者達が有利に戦えるプログラムを急ピッチで組んでいた。
「武器の強化……攻撃魔法、支援魔法……一番早くプログラム出来そうなのは攻撃魔法の強化ですね」
ジョンがモニターに羅列されているプログラムを読み取りながら判断すると、カルがいち早くそのプログラムを解析して更新が可能な箇所を探し当てる。イーシャンは企画書の仕様を確認し、大きなバグを引き起こす可能性の低いものをピックアップしていった。
「本来であれば、単体に使う魔法を敵全体にかけられるように出来ますね……カル、このプログラムを使いましょう」
「了解だ!」
カルとジョンは早速決めたプログラムを組む傍ら、和輝とアニスは仮想世界の状態を見つつ端末を前に考え込んでいた。
「――取り敢えず、奴等に有利な支援もするべきか。思わぬ状況が動いているようだからな」
「いつでもダイブ出来るよ、和輝ー?」
アニスの支援のもと、和輝の組み込んだプログラムが功を奏するのはその後すぐに起きた。
◇ ◇ ◇
玉座に座る偽物の王――
助け出した本物の王はシルヴァニーと共にエセルとレナンが守り、『真実を映し出す鏡』を掲げたセレンフィリティが偽物の王の正体を暴く。
「偽物の王様は、やっぱりゴブリンのボスだったんですね……!」
柚が海と並び、『フロンティアスタッフ』を手に構える。2人に並んでセレンフィリティとセレアナも偽王を正面に見据える。
「さってと、偽物はここで退場よ! 大人しくあたしたちの手にかかってこの世から消えちゃいな!」
啖呵をきったセレンフィリティの台詞に正体を現したゴブリンのボスは低く笑う。
《お前達の相手などこやつで充分だろう》
偽物の王の言葉と同時に現れた色花に動揺が走る。
「……済みません、皆さん。戦いたくないんですが……ふ、フハハハハ! よくぞここまで来ましたね! で、ですがあなた達の冒険はここで終わりです! 何故なら次は、や……ややや、『闇を切り裂く疾風の雷』こと私、枝々咲 色花が相手をするからです!」
色花がビシッと人差し指で海達を指し、ラスボスの手下としての台詞を決めた。しかし―――
「……色花ちゃんってああいうキャラだったっけ? 違うと思うの……」
「はい……私も違うと思うんですが……」
一様にポカーンとしているエセルやラフィエル、その場の全員の顔を見渡した色花はあまりの恥ずかしさにガクリと崩れ落ち、両手を床に付いてしまう。
「……恥ずかし過ぎるこの台詞……ううっ、死にたいです……!」
「ふむ……色花、頑張らねばわしは助からないのじゃが?」
天照の言葉が色花にトドメを差してしまうものの、人質になっている以上は戦わなければならない。その時、北都にカルから通信が入った。
「遅くなってごめん! 魔法の強化をゲームに実装してみたんだ。単体の魔法が敵全体に使えるよ」
カルに続いてもう一つ通信がシルヴァニーに届く。
「こちら、開発会社の技術担当の者だ。本来、起こらないプログラムのバグが起きているようだが現在そのバグは修正済みになって反映させている、――人質の契約者を捕えている兵士は今から5分程の間動けないはずだ、その間に助け出せば言いなりにならずに済むだろう」
技術者を装った和輝が最後の支援とばかりにバグの修正をすると知らせてきたのだった。
通信を聞いたレナンがいち早く動き、シルヴァニーは護衛より人質救出を優先させた。あっという間に金色の狼に変わったレナンが真っ直ぐに天照の元へ向かい、ひょいと背中に乗せる。
「しっかり捕まっていろよ! 色花、お前も言いなりになる必要はないから早く来い! エセル、今だ!」
既に『光輝の書』を手に魔法の準備をしていたエセルは【氷術】で天照を捕えていた兵士数人に浴びせ、氷結状態にしてしまった。
「ふう……やったの! カルちゃんと技術者のお兄さんに感謝なの!」
「エセル、喜ぶのはまだ早いわ……大物が残っているもの」
「そうですね、せっかく強化してもらった魔法……ここで存分に使わせて頂きましょう」
人質で楽をしようとしたゴブリンのボス――偽物の王と取り巻きの兵士へ刹那が【サイコキネシス】を叩きつけた。その間に零は【神の目】で隠れているモンスターを一斉にあぶり出す。
「あなた方のボスでしょう、隠れていないで守るべき……いえ、所詮はモンスターという事でしょうね」
現れたゴブリン達に雅羅は夢悠と一緒に魔法を叩きこむ。海の指示でクナイと北都は魔法で攻撃する契約者の護衛に回った。
「どうやら、雅羅様の災難体質が原因……というのは早計のようですね」
「そのようだねぇ、クナイの『リボン』……【禁猟区】が発動しなかったのが何よりの証拠だねぇ」
魔法が飛び交う中、【メンタルアサルト】――新調したビキニとレオタードでまずは決めポーズを披露するセレンフィリティとセレアナに、ゴブリンボスも彼女達の意図を読めずにいる。
《な……何だ?》
大技の構えかと思ったゴブリンボスが構えた時は既に遅く、2人分の【堕落魂入】がゴブリンボスにぶち当たると浸食していく闇に呑まれていく。
《こ、こんな……こんなあっさり、この国を乗っ取れると……ギャーアー》
悪者のボスっぽい叫び声を残してゴブリンボスを倒し、残ったゴブリン達も我先にと城から逃げ出していったのでした。
無事に本物の王様が玉座に戻り、地下牢に幽閉されていた城の兵士達も助け出されるとエンディングのファンファーレが鳴り響く。
「おぬしら、ご苦労であった。ミッションクリアだが何か変化は……!?」
正子の声が仮想世界に響くと、途端に身体が透け始めた。互いにその様子を目にして慌てるが一瞬後には仮想世界を後にし、元の蒼空学園講堂に戻ってきたのである。
◇ ◇ ◇
「わあ!?」
カルの膝の上には突然セレンフィリティが乗っていた。
「ん……? あら? カル? ああ、じゃあ戻ってこれたんだ!」
見渡せば仮想世界にいた全員が端末前に座っている。どうやらカルとジョンはセレンフィリティが使っていた端末を使用していたようでした。2人の新装備――であったはずのビキニとレオタードは彼女達の最初の装備に戻ってしまい、使ったはずの通貨も元に戻っていたのです。
「あっと、悪い悪い膝に乗っちまった」
和輝が使っていた端末には戻ってきたシルヴァニーが頭を掻きながらひとまず膝の上からどいてみた。咄嗟に和輝は帽子を被り、顔を見られないようにするが―――!?
「あ、青のしょ……むぐむぐむぐぐ……もぐもぐ」
シルヴァニーが不審な目を向けるものの、アニスの口を塞いだ和輝は上手くお菓子を与えてアニスを黙らせた。考えてみれば、シルヴァニーに素顔は知られていなかった事を思い出した和輝は至極平静を装ってシルヴァニーを労った。
「無事で、何より……お疲れ様でした、大変な目に遭わせて申し訳ない」
――俺じゃないんだが、と心の中で付け足すとアニスを連れて講堂を去って行った。その後ろ姿をシルヴァニーはずっと見つめていたが駆け寄ってきたイーシャンに「ただいまー」と暢気に告げる。
「シルヴァニー……! 君、みんなに迷惑を掛けなかっただろうね? 我儘全開とか言わなかったかい?」
「……毎度思うが、お前俺の事どう見てるワケ?」
1人も欠ける事なく、全員が戻ってこれた事でひとまず事件は解決の方向に向かった。その後、正子は予定通り見事な包丁捌きと料理を披露したのです。
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