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お化けの少女と肝試し

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お化けの少女と肝試し

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■肝試し?

「……う、うわぁ!?」
 森の中を歩く、イルミンスールの生徒の一団のうちの1人が足元の木の根っこに足を引っ掛け情けない声を上げる。
「驚きすぎだって、こんなのたいしたことないんだから」
 彼らの目の前には白いシーツに目と口を書いただけな粗雑な化け物のような作り物があった。
 アーデルハイトに煽られ、肝試しに参加したがやはり大したものではない、正直森のほうが怖いと思うのだ。
 だが、1人は違和感を感じ取っていた。
「なぁ、さっきから同じ場所を通ってる気がするんだけど」
「え、そんなことはないはずだけど」
 イルミンスールの野外授業で慣れた森にもかかわらず、夜になっている為か同じような道を通っているように感じていた。
 だが、アーデルハイトがいうこの程度の肝試しにも耐えられないんじゃ大したことないな、という言葉と粗雑な化け物を見る限り、所詮は大したものではないんだと思ってしまう。
「ふふふ、うまい具合に疑心暗鬼になってるじゃない」
『え、えと……』
 そんな彼らの様子を藪の中で隠れて見ているのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 傍にはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とお化けの少女の姿もあるがノリノリで呪詛のような言葉を贈るセレンの姿を見てあきれているようだ。
「さて、そろそろ締め、こっちに誘導してくるわ。 えっと、名前は?」
『……え?』
 名前を聞かれた彼女はきょとんとする。
「ああ、名前もわかんないのね……。 まぁ、いいわ」
 やれやれ、と頭を掻きながらセレアナは森の中へ消えていく。
「よし、じゃあ準備するわよ」
 残ったセレンのいる場所は森の中でも少しひらけた場所ではあるが、水質が多くジメジメとして恐怖心をあおるにはおあつらえ向きだ。
 そして、生徒達が藪を抜け、姿を現す。
「えっ……」
 ジメジメとした空気と、目の前に浮かぶ半透明の少女。
 先ほどまで自分達が見てきた作り物のお化けとは異なる存在。
 ゆっくりと少女は顔を上げ、こちらへ手を伸ばす。
『……』
 彼女は語らない。
 嫌な汗が背中に流れた瞬間、あたりの空気が一変、暗闇に包まれた。
 それと同時に彼らは一斉に奇妙な不安に襲われだし、悲鳴を上げてほとんどの生徒は逃げ出していく。
 だが1人は逃げ出せなかった。
 こちらに手を伸ばす少女の顔からは涙が溢れ、苦悶の表情でこちらを見つめている。
「う、うあ……」
 ガクン、と下半身から力が抜け、その場に力なく座り込んで動かなくなる。
 他の生徒達は散り散りになって森の中へ走り去っていってしまったようだ。
「はっはぁ! あんたもやるじゃない!」
 藪から手加減した魔法を生徒達にかけていたセレンは嬉々として飛び出した。
『ふ、ふえぇ……』
「あら?」
 少女もセレンの作り出した空間に影響を受けてしまったのか、思い切り泣きだしていた。
「やりすぎだと思うんだけど?」
「そ、そんなことないわ! 最近はこれで普通よ! ……たぶん」
 誘導を終え、姿を現したセレアナの突っ込みにセレンは不安げに答えていた。
 しかし、少女はあまりに不安になりすぎたのか、落ち着く様子はない。
「大丈夫?」
 そんな彼女の横にはいつの間にやってきたのか、小さな男の子の姿があった。
『え?』
 自分と同じぐらいの男の子だからか、少女は拍子抜けした表情をしている。
 しかし、セレンやセレアナにはその少年に見覚えがあった。
 そう、話しかけてきたのはちぎのたくらみによって姿を子供に変えた酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。
 セレンはそれに気づくことはできたが、言うのは野暮と思いとりあえずは様子を見ることにした。
「折角だし、みんなで遊ばないか?」
 陽一の言う皆は彼の周りで少女を見つめている動物達。
 ペンギンのペンタを筆頭に犬やわたげうさぎ達が遊んでほしそうに尻尾を振ったりしている。
『で、でも……』
 いまだに引き気味な少女だったが、周りの動物達は気後れせずに近寄っていく。
 そんな彼らが魅力的に感じたのか、少女は手を伸ばしてみるが、その手はやはりすり抜ける。
『あう……』
「大丈夫、触れなくても動物達は嫌ったりしないよ」
『……うん』
 動物達はおとなしく、少女を円らな瞳で見つめている。
『優しいんだね』
「え?」
 動物の顔に手を触れるしぐさをしながら、ぽつりと少女は呟いた。
『ありがとう、私なんかのために』
「気にすることはない、誰だって楽しい気持ちは知りたいものさ」
 陽一の優しい言葉を受け、動物たちに囲まれる少女の表情は次第に柔らかくなっていた。