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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 弐

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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 弐

リアクション

 アナザ・ダイダル卿の上では、秋野ひなげしが持っているかもしれないダイソウトウ力を解放するための修行が始まる。

 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、最初に言い出した手前、ひなげしの師匠として修行を開始する

「さて、ひなげし君。私がこの間言ったことを覚えているかい?君の中にもダイソウトウを倒せるだけの力が眠っているということを。私はこれをダイソウトウ力と名付けたがはっきり言おう。どういう形状の力なのかはわからない。ただ、一つだけ言えるのがそれを武器みたいに顕現させるのかあるいは魔法みたく放出させるのかは君次第だ」

「でも、どうすれば眠ってる力を解放できるんですか?」

「それはこれから色々試していかないとね。……それじゃあまず」

「まずは、このかれーをたべてください」

 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がちぎのたくらみで五歳児になりながら、カレーを差し出した。

「えっと、カレーとダイソウトウ力にどんな関係が? あと、これ本当にカレーですか?」

 ひなげしはカレーと言われたものを見つめるが、そこには赤と黒のまだら模様の物体が白飯の上にかけられていた。その見た目は大変冒涜的と言って差し支えないものだった。
「これ、食べても大丈夫なヤツですか?」

「まずやけたないふでくちじゅうをさされたいたみがはしります。のどとめとあたまがいたくなります。しばらくないぞうがじくじくしながらくだしつづけます。はい、どーぞ」

 それは、死なないにしても死ぬほどのダメージが発生するという意味だった。

 それでも、ひなげしはちぎのたくらみのせいか手を伸ばしてしまう。そして、そのままスプーンで大きくカレーをひと塊すくって、口に入れた。

「……」

 ひなげしの顔は一瞬で血液が無くなったように真っ青になって、その場で倒れてしまった。

「ひなげし君!?」

 涼介は声をかけるが返事はない。

「……死んでる」

「いや、気絶しているだけだろう」

 七篠 類(ななしの・たぐい)が冷静に訂正した。

 そしてそのまま倒れるひなげしの前で膝をつき、瞼を無理矢理開けてみた。

「ふむ……失神しているだけだな。俺がなんとか起こしてやろう。修行が必要なんだろう?」

 類がそう言うと、涼介は静観するしかなかった。

 だが、類には別の思惑があった。

 類はダイソウトウとは違う力をひなげしの中で発現させようと目論んでいた。

 が、その手段を彼は知らない。

 そもそもそんなものが発現するかもわからない。

 要するにビックリするくらいの行き当たりばったりなのだ。

「では、はじめるぞ」

 類は言いながら、ひなげしの周りに目覚まし時計を置いて、一斉に鳴らし始めると、

「いーあーいーあーくとぅるーふたぐん!
いーあーいーあーくとぅるーふたぐん!
いーあーいーあーくとぅるーふたぐん!」

 なんだか意味の分からない言葉を発し始めた。そして、そのポーズは九割がた土下座だった。

「あの……それは治療なのかな? 怪しい儀式にしか見えないんだけど」

「貴様! お前のやる気もないと駄目だ! 一緒に同じポーズで呼び出すんだ!」

「ええ!?」

「ひなげしがこのままでもいいのか!?」

 必死の形相に負けて、涼介も同じように呪文を唱えて九割がた土下座のポーズを実行する。

 と、

「……ハッ!?」

 ひなげしは一瞬苦しそうな顔をすると、ガバッと起きあがった。

「おお! まさか成功するとは……! どうだ何か目覚めたか?」

 類は訊ねると、ひなげしは自分の身に何が起こったのか理解していないようで、辺りを見回して、ホッと息をついた。

「ああ……夢でよかった。 あの……ネバネバする家に閉じ込められる家を見たんですけど、何かしてましたか?」

「む……その様子だと何も召喚されてないみたいだな。……まあ、この前通りすがりの男が呟いてた呪文などこの程度か」

「なにか言いましたか?」

「いや、別に。とにかく、目が覚めてよかったじゃないか、じゃあ、特訓再開だな」

「ごめんなさい……始まる前から心が折れそうなんですけど……」

 すでに満身創痍のひなげし。

 その言葉に応えるように巨大な影が突然降り立った。

 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だ。

「ヒナゲシ、挫けてはいけない。君たち人間の中にはすでに大いなる力がある事を私は知っている。それは私には無い力……『心の力』だ。それがダイソウトウ力と呼ばれるものかどうかは判らない。だが、無限大の『心の力』を輝かせて、人々がどんなに困難な事件にも立ち向かっていく姿を私は何度も見てきた。だから、もしもダイソウトウ力に目覚める事が遅れたとしても恐れる事は無い。なぜならば君は…君たち人間はアナザ・ダイソウトウに負けない力をその胸の中に持っているからだ」

 ハーティオンはひなげしに手を差し伸べた。

「さぁ立ち上がろうヒナゲシ。そして向日葵と、ダークサイズと、皆と共にアナザ・ダイソウトウに立ち向かおう」

 ハーティオンの言葉にひなげしがモチベーションを回復させていると、

「ひなげし…そいつ色々言ってるけど、意訳すると『とにかくノープランで心意気で乗り切ろう』って言ってるだけだかんね?」

 ラブ・リトル(らぶ・りとる)の一言がやる気の腰を折った。

「だから、そいつの代わりにあたしが特訓プランを考えておいたわ! いい? アナザのおっさんの攻撃は熱波だった……つまり熱に耐えられるダイソウトウ力があれば勝つるのよ!」

「おお! つまりどうすればいいんですか?」

「そいうわけで、特訓マシーンを用意したわ。これよ!」

 身体の小さいラブは自分の代わりに高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)に特訓マシーンを持ってこさせた。

 それは――熱湯風呂だった。

「あの……これは、よくテレビなんかで見るような気がするんですけど」

「これに入って熱に強いダイソウトウ力を鍛えるのよ♪」

「でも、これ熱湯っていうか沸騰しているんですけど……」

「オラァ!マグマ風呂は勘弁してやるんだから泣かないでさっさと入りなさいよ! 肩まで漬かって100数えるのよ?! 鈿女!」

 本来ならばラブ自身が突き落として熱湯風呂に叩き込みたいところだが、体格的な問題で鈿女に任せる」

「すみません。私にもこのあと用事があるので、ささっと入ってください」

 鈿女は力任せにひなげしを熱湯風呂に叩き込んだ。

「あっつぅぅううううううう!?」

 熱湯風呂の中でひなげしがもがき飛沫が上がる。

 ラブはその様を見て、ケタケタと笑う。

「それじゃあ、私は失礼させてもらうわ」

「あれ? 鈿女もう行っちゃうの? まだまだこれからが面白いのに」

「私にもやることがあるの。ダークサイズイコン用が敵に使われた時用に外部停止装置とか、こっちが使う時にエネルギーを大量消費して一撃を放つ外部オーバーパワー装置とか色々準備しておきたいの」

「ふぅん? じゃあ、頑張ってね。ほら! ひなげしいつまでお風呂で遊んでるの! さっさと出なさい!」

 自分が指示して叩き込んでおきながら目茶苦茶なことを言うが、ひなげしだって言われなくてもこんな場所からはさっさと脱出したい。言うが早いか、飛び出すようにひなげしが出てきた。

 倒れてぜぇぜぇ言っているひなげしの頭に、ラブは風船を着けた。

「こんどは、風船の早割よ。今からその風船を割らずに相手の風船を割ってみなさい」

「ああ……ようやく特訓っぽい内容になりましたね。……それで相手は誰ですか?」

「こいつよ」

 ラブが指さしたそこには――龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)がいた。

 ハーティオンの十倍はある巨大な体の一番上、頭の部分にはちょこんと風船がついていた。

「ガオオオオン!」

 大地が揺れたのではと錯覚させるほどの巨大な咆哮を前に、ひなげしは再び心が折れた。

「これは無理です。死んじゃいます」

「つべこべ言うな! ドラゴランダー! やっちゃいなさい!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ドラゴランダーは叫び、片足を大きく上げてそのままひなげしの頭上に振り下ろした。
「っ!」

 ひなげしは反射的に回避すると、さっきまで立っていた場所にドラゴランダーの足がのしかかり、地面が足の形にへこんでしまった。

 それは比喩でもなんでもなく必ず殺すと書いて、必殺の一撃だった。

 というか、こんなものが直撃したら風船どころか頭も割れてしまう。

 そして、ひなげしが狙う風船は遥か頭上にある。誰がどう見ても勝負にならない。

「ガオオオオオオン!」

 逃げるなと言わんばかりにドラゴランダーの踏み付けが連続してひなげしの頭上に降り注ぐ。

「きゃあああああああああああっ! こ、これのどこが特訓なんですかああああぁぁぁ!」

 逃げまどいながら、ひなげしがラブの方を見ると、ラブは目薬を差して、

「あたしも辛いのよ……」

 目からこぼれたそれをラブは指で拭い、さも泣いているかのように見せた。

「でも、この特訓を乗り越えた時、あんたはネオひなげしになるの!」

「絶対に遊んでるでしょおおぉぉぉぉ!」

 断末魔の叫びのようにひなげしは叫びながら、ドラゴランダーに追われて遠く遠くへと行ってしまった。

秋野 向日葵(あきの・ひまわり)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と一緒に激励で応援を続けていたが、遠く離れたところでノーンが語りかける。

「向日葵も応援ばっかりじゃなくて、ひなげしの特訓に付き合ってあげたら?」

「でも、あたしまで特訓に加わったらオーバーキルになるんじゃない?」

「そうじゃなくて、もっと精神的なアドバイスとかだよ。そんなわけで、今日はおにーちゃんを連れて来たよ!」

 そう言ってノーンが指さした先にはお兄ちゃんこと御神楽 陽太(みかぐら・ようた)がいた。

「やあ、久しぶり」

「あ! 陽太! うわぁ〜懐かしい……元気だった?」

 向日葵は久しく見かけなかった顔に驚きつつ、陽太に歩み寄った。

「うん。元気にしていましたよ。最近娘も生まれてさ、それが奥さんにそっくりですごく可愛いんです。この間なんか……」

「おにーちゃん」

「あ……そうだった。今はひなげし君の覚醒が先だね」

 陽太は咳払いをして本題に入った。

「俺がここ最近で気づいたことなんですけど?人は愛する者の為ならどこまでも強くなれる?という一点につきます」

「つまり……?」

「ひなげしちゃんもそう思えるようになれば覚醒に近づけるかもしれません。そのためには、君がひなげし君を自分の子供だと本当に認めることも大事なんじゃないかな?」

「そんなこと……」

 向日葵が言葉に詰まっていると、

「うわあああああああああああああぁぁ!」

 逃げていたひなげしが叫びながら帰ってくる。その声に向日葵はハッとしたような顔になる。

 見ればひなげしはまだドラゴランダーに追われていた。だが、体力もすでに限界になっていた。足がもつれ、地面を転がった。

 その頭上にドラゴランダーの足が持ち上がった。

「ひなげしッ!」

 誰が駆け寄るよりも先に、向日葵はひなげしの元へと駆けて、その身体を抱きしめた。
「母さん……ッ!?」

「まだ、実感なんて全然ないけど、ひなげしはあたしの子なんだ! 踏みつぶしたりしたら許さないんだから!」

「母さん……」

 その言葉に、ひなげしの心は満たされるような感覚を覚えた。

 自身が母と慕った人が、自分をようやく息子と認めてくれた。

 そんな心境とは裏腹にドラゴランダーの足は急速に向かってくる。

 瞬間、ひなげしの中で――ダイソウトウ力が覚醒した。

「ッ!」

 同時にドラゴランダーがひなげしたちを踏みつぶす。土ぼこりが舞い、足元が見えなくなる。

 その中で、動く影があった。

 ひなげしは向日葵を抱えて、回避していたのだ。

 そのまま、ドラゴランダーの足を駆け上ると、遥か彼方の頭上まで一気に登りつめ、風船を叩き割った。

「ひなげし……あんた……」

「母さんのおかげかな……これがダイソウトウ力……なのかな?」

 向日葵は抱きかかえられながら笑い声をあげた。

「よくやったよ、ひなげし。……さすがあたしの息子だ」

 そう言って向日葵はひなげしの頭を撫でた。

「これでなんとかなりそうだね。……今回の件も、あの親子も。俺も、環菜と陽菜に会いたくなってきた……」

 それを見上げる陽太は満足そうにつぶやいた。