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雨と稲妻

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雨と稲妻

リアクション

 地下の通路に足音が反響する。息を切らせながら黒いレインコートの男は走っていた。
この通路をまっすぐ行けば脱出できる。
 そのとき行く手の右側の壁が勢いよく砕け散り、その中から大きな影が現れた。
石柱のような足が地面を踏んだ。巨大なスプーンを持ち、赤い両目は不気味に光を放ち、
両肩から白い蒸気を立ち上らせている。その活火山のよう体の持ち主はゴワンだった。
彼は地面を踏み鳴らして黒いレインコートの男に近づいてくる。
「ゴワン!どうしたんだ!何があった!」
 声は届かなかった。スプーンを握った両腕を頭上に高く振りかざし力のままに振り落とす、レインコートが横に回避すると
地面に直撃し勢いよく破片が飛び散る。ゴワンが武器を構え直すとそこには深い傷跡が出来ていた。
「何を考えている!私だ!やめろ!」
 怪物のような雄たけびが返ってきた。ゴワンはレインコートに向かってスプーンを振り回す。
「っく!おかしい。まさか幻覚を見ているのか……!」
 横から巨大なスプーンが襲い掛かってくる、水の魔法で防御結界を展開し身を守ろうとしたそのとき。
「ぐわああああっ!!」
 全身に青い電流が走った直後、ゴワンの一撃を食らって吹き飛ばされ壁に衝突した。
「――っぐ!馬鹿な、魔法が――なぜだ?まさかこの化粧が原因か!」
 ゴワンは再びスコップを振りかざした。その瞬間。
横から入って割って入ったのはルカルカとダリルだった。
「やめろ!ゴワン!」
 ダリルはゴワンが武器を振り落とす前に青色の魔法をぶつけた。
「グググオォぉぉ……!!――お、俺は一体?」
 幻覚解除の魔法を受けたゴワンは正気を取り戻したが、今の状況がわけが分からず困惑していた。
「危なかった。一先ずゴワンは元に戻ったね。さてと……それにしても地下でよくやってくれたじゃない!」
「地下だと?何んのことだ。私はウェスペルだぞ」
「嘘ついちゃダメだよ。その骸骨のメイクそれに黒いレインコートどう見てもレーゲンじゃない」
「いや。待てルカルカ。この男から高い魔力を感じる。おそらく彼は本当にウェスペルだろう」
「……このレインコートに骸骨の化粧じゃ見間違われるのも無理はないがな」
「ちょっと待って。じゃあ本物のレーゲンはどこへ行ったの?」
「恐らく自分のメイクを落とした後、基地の外へ逃げ出したんだろう」
 そのときだ。後方からウェスペル目掛けて電撃の球体が飛んできた。
すかずダリルがウェスペルの前に入り込んで魔法を弾き返した。
後ろから巨大な剣を装備したペステの大群が迫ってきていた。
「あ、あの野郎ウェスペルに向かって攻撃しやがった!どういうことだ!これもレーゲンの仕業なのか!?」
「だろうな。ペステたちはレーゲンの指示でしか動かない。どうやらレーゲンは俺たちを潰す気らしい、契約者もろともな」
「この数じゃきりがないわ。ここは逃げるが勝ちだね」

 彼らは走り続ける、後ろからは炎や雷や水の攻撃魔法が飛んでくる。
 しばらく逃走を続けた後、ゴワン後ろを振り返った。
彼はスプーンを横に構え、大きく振るって迫りくるペステたちを吹き飛ばした。
「ウェスペル!契約者!早く行け!そのまま真っ直ぐ進めば出口だ!」
 しかしペステたちは立ち上がり、再び迫ってくる。
「ゴワンお前っ!」
「俺はドグマ教の幹部だぜ!数が多いとはいえ雑魚相手に負けるかってんだ、早くいけ!」
「っく……すまない!」

 もはや体は満身創痍だったウェスペルはその場に倒れこんだ。
「ウェスペル!」
 ルカルカは急いでウェスペルに近づいく。
「ダリル、片方を頼んだよ」
「仕方ない。全く手間の掛かる人だな」
 ルカルカとダリルはウェスペルを支えて歩き出した。
「――な、なんのつもりだ、お前たちが助ける義理など――」
「おっと。黙っていたほうがいいぞ体力を消耗するからな」
「――わ、私はお前たちの敵だ、ドグマ教のボスだ」
「まったくもう。こんなにボロボロなのにおしゃべりだね、話は後で聞いてあげるよ」
「離せ、離さんか契約者――」
 ウェスペルは俯いた。彼は眉間に皺を寄せている。体の痛みに苦しんでいるのかそれとも何かを考え込んでいるのだろうか。
「なるほど……なるほどな。どうりで勝てぬわけだ」
 そう呟いた。そして何も喋らなくなった。
「ちょ、ちょっと大丈夫?ウェスペル?ねぇウェスペル?」
 ルカルカの問いかけに彼は鼻で笑った。そして手を振り解き2人から距離をとった。
「黙れ!私はドグマ教のボス。ウェスペル=ブリッツだ。契約者に助けられるなど絶対にあってはならない!」
 そして彼は両手を構え魔力を蓄える。
「ぐわあああっ!!」
 だが、全身に青い電流が走る、激しい痛みに絶えながら声を上げる。
「――っぐ!この場でお前たちを処刑する!死ね、契約者ッ!!」
 持てる力を振りしぼって魔法を発動。するとルカルカとダリルの足元に魔方陣が出現。2人は光に包まれ消え去った。
「ぐおおおっ!!……っく、契約者よ――私はドグマ教のボスのウェスペル・ブリッツだ。逃げろなどとは――絶対に――絶対に言えんのだ――」