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学生たちの休日17+

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学生たちの休日17+

リアクション

    ★    ★    ★

「みんなー、まだまだ元気かーい!」
 シャンバラ宮殿前広場にあるステージから、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が観客席にマイクをむけて叫んだ。
「うおおー……」
 猛暑のせいか、今ひとつ反応が低い。
「みんな、テンションが今ひとつだよねー」
 どうしようかと、アデリーヌ・シャントルイユに目で訴えかけられて、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が歌うしかないんじゃないのと答えた。それでダメなら、まあ、なるようになるしかない。
「じゃあ、次の曲聞いてください。『恋の終焉』です」
 赤と青のステージ衣装をひらひらとさせながら、アイドルデュオ、シニフィアン・メイデンとして、二人が歌う。
 しかし、この選曲はまずかったかもしれない。歌はいい歌なのだが、なんとなく会場のテンションが下がってしまったような気がする。
 これはまずい。
 なんとかしようと思った綾原さゆみが、アデリーヌ・シャントルイユをスッと自分の方に引き寄せた。そのまま、思いっきりディープキスをする。まあ、普段自宅ではやっていることなので抵抗はないが、観客にとってはセンセーショナルだろう。ユニットのイメージも、ちょっとゆりゆりで通しているし。
 いっそ、二人はすでに結婚しているとカミングアウトしてしまえば……。
 なんだかキスでとろんと惚けているアデリーヌ・シャントルイユをじっと見つめると、なんとなく綾原さゆみが決心した。楽になっちゃおう。
「みんな、聞いてー。実は、私たち……」
「えっ、ちょっとちょっと……」
 いきなり何をと、アデリーヌ・シャントルイユが慌てる。もしかして、いや、もしかしなくても、ここでカミングアウトするつもりなのだろうか。それは、聞いていない。
「けっ……」
 そのときだった。突然空から素麺が降ってきた。そういえば、どこかで爆発音みたいなものが聞こえたような気がするが。
「けっ、けっ、けったいなあ!?」
 思わず、アデリーヌ・シャントルイユが叫んだ。
 もう、コンサートは、素麺だらけになって大パニックだ。せっかくの衣装も、全身素麺まみれになって、どろどろだ。
「と、とにかく着替えようよ」
 スタッフに舞台袖から手招きされて、アデリーヌ・シャントルイユが綾原さゆみを引っぱった。
 急いで、次のステージ衣装に着替える。
 気分をリセットして二人がステージに戻ると、観客たちも酒杜美由子の部下の者たちやペンギンさんたちに麺汁をもらって、素麺を綺麗にたいらげていた。お腹がくちたのか、観客のテンションはコンサート開始時に戻っている。
「ねえ、さっきのこと……」
「それより、今は歌だよ。それとも、また……」
 おずおずと訊ねるアデリーヌ・シャントルイユに、綾原さゆみが元気に答えた。
「それは、また後で♪」
 そう答えると、アデリーヌ・シャントルイユは綾原さゆみと一緒にステージへ駆け戻っていった。

    ★    ★    ★

 日も暮れて、シャンバラ宮殿前広場の水辺にはホタルが舞い始めていた。
 人工的に放たれたホタルではあるが、広大な庭園は緑や水が豊かで、空京の中心にあるとは思えないほど静かであった。そのせいかは分からないが、あちこちでは恋人たちが風流にホタル狩りを楽しんでいた。
「たまには、こうしてのんびりと息抜きするのも必要だろ?」
 揃いの浴衣姿で、鑑 鏨(かがみ・たがね)硯 爽麻(すずり・そうま)に言った。
「うん」
 ちょっと疲れているような硯爽麻がうなずく。
 最近、一所懸命稽古をしているようなのだが、どうしてもある一線を越えられなくて悩んでいるようだ。
 なんでも、硯爽麻の実家のある場所は、おおよそ百年ごとに魔物からの襲撃を受けるらしい。硯爽麻の実家から鑑鏨宛に先日届けられた書物に、そう記されていた。
 硯爽麻には、それを倒す義務があるらしいのだ。そのための修行をしているのだが、どうしても師範に勝てない。師範に勝てぬ者が魔物に勝てるはずがないということで、相当に悩んでいるようだ。
 それを察した鑑鏨が、あまり根を詰めないようにと、気分転換に硯爽麻を連れ出したというわけだ。
 実際には、硯爽麻の実家の言い伝えという物に、鑑鏨は少し懐疑的だ。わざとらしく届けられた書物にある話がすべてではないように思える。きっと何か、他の真実が隠されているに違いなかった。その答えは、多分師範であるあの人が知っている。
 その人と硯爽麻の類似点というのは、同じ一族の長となる者としては、当然と言えば当然のものなのかもしれない。もしかしたら、まったく同じ道を歩んできたのかもしれないからだ。それとも、まったく同じ道を歩むのであろうか。いずれにしても、それを超えなくてはならないのだ。
 でも、決められた道からは、決められた結果しか得られないのではないのだろうか。
 漠然と、鑑鏨はそう思う。根拠などまったくないのだが。あるいは、これからその証しを得ることができるのだろうか。
「綺麗」
「ああ、そうだな」
 ホタルに見とれる硯爽麻の横顔に、しばし鑑鏨が見とれた。
「ずっと、いつまでも二人でこの光景を見ていられたらいいのにね」
 硯爽麻が言った。だが、それは無理な願いだ。もし、それが実現するとしても、まともな方法ではないだろう。
 だとしても、硯爽麻はそれを望み、鑑鏨はそんな彼女を心配した。