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【祓魔師】アナザーワールド 1

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【祓魔師】アナザーワールド 1

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第2章 20年後のイルミンスール Story2
 捻じ曲げられた未来の世界では、すぐに食料が不足してしまうだろう。
 それを予想し魔法学校の倉庫には、インスタント類がぎっしり備蓄されていた。
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)たちが駅舎から運び、祓魔師たちの分程度も確保していたが…。
 これだけではすぐに不足してしまうかもしれない。
 そう考えた緒方 樹(おがた・いつき)たちは食料の確保を行っていた。
「早々に、時の魔性どもを止められればよいのだが、…そうもいきそうにないだろうな」
「樹ちゃん、あまり買い占めてしまうのは…」
 イルミンスールだけでなく、他の都市や小さな村々も食料難で苦しんでいるはず。
 なのに自分たちの分だけ集めてしまうのは…、と注文書を握る樹の手を掴んだ。
「そのような愚かなことするわけないだろ、バカ者。私たちのもの以外も考慮してのことだ。まず…人々に物の取り合いをさせ、心を醜く染めるのがやつの狙いだろ?…あーもしもし、魔法学校だが…そちらに日持ちする食品はどれくらい残っているんだ?」
 飢えて苦しむ人のためのものでもあると言い、彼の手を除けて店に在庫状況を確認する。
「うん、そうだよね…。樹ちゃんがそんなことするわけないし、何か変な誤解しちゃってごめん」
 へらっと笑う緒方 章(おがた・あきら)に“気にするな”と樹は目で微笑み返した。
「んー、樹ちゃん忙しそうだし。僕は何しようかな」
「親父〜、携帯鳴ってるぞ」
「へ?ありがとう、太壱君。…知らない番号だけど誰だろう」
 バイブ音にしっぱなしの携帯をズボンのポケットから取り出し、見覚えのない番号を目にして小首を傾げた。
「はいはい、緒方だけどどちらさま?」
『あっ、やっとつながった!緒方さん、今どこにいるんですかっ』
「そ、そんな大きな声で言わなくっても聞こえるって。…そもそも君は誰?」
 鼓膜が破れそうなほどギャンギャン怒鳴られ、思わず携帯を耳から遠ざける。
『ふさげるのもいい加減にしてください!!葦原で子供たちがお腹すいたって、ずっと泣いてるんですから!!!』
『ちょっと電話貸しせっ。親父、どこほっつき歩いてんだっ。倉庫スカスカなの知ってんだろーが』
 今度は若い男が電話で話しかけ、一方的に言い散らす。
「き、君は?」
『は?息子の声忘れたのかよ。まだボケル年じゃないだろ、まったく…』
「え、…あ……うん。えーっと、分かった。急いでそっちに届くようにするよ。じゃあ、またね」
「誰からだったんだ、親父」
「なんかね、葦原でも食料が不足しているんだってさ」
「まー、そうだろうな。で、その電話の相手は信用していいのかよ。ナントカ詐欺かもしれないぞ」
「へぇー。太壱君もそいうこと知ってるんだね」
 “一言余計だっての!”などという声を無視し、すぐさま葦原のほうへ確認を取る。
「もしもーし、緒方だけど。御飯が不足してるって今連絡あったんだけど、本当なのかな?…うんうん、分かった」
「親父、どうだった?」
「うん、本当に不足しているらしいよ。僕らと連絡取れなくて大騒ぎになってたみたい」
 医師兼祓魔師が二人も葦原から姿を消したように、連絡不能になっていたようだった。
「そういえば…」
「何だ?」
「太壱君にお兄さんがいるっぽかったよ」
「は…!?」
「うーん、子供が男の子2人ってことになっちゃうよね〜。できれば、3人目は女の子がいいなぁ。かわいー洋服とか、着せてみたいし。あ、でもお嫁にはやりたくないね♪樹ちゃんはどう思う?」
「ええい、やかましいぃいい、働けバカ共!!!」
 我慢して聞き流していた樹はついにブチギレてしまい、彼らの頭を鉄拳で殴りソフトクリームのようなコブを作ってやる。
「いったぁあい、痛いよー樹ちゃ〜ん」
「のぁあ!?何で俺までー!!」
「二度も言わせるなっ。さもないと…」
 悲鳴を上げる彼らに対してギラリと睨み、速やかに働かなければ何度でも殴ってやると拳を向けた。
「は、は〜い。お仕事、お仕事〜」
「…ん、あたしたちもタイチのお母さんたちの手伝いしよ!」
 矛先がいつ自分に向けられるやらと思い、緒方 太壱(おがた・たいち)の腕を引っ張った。
「小娘、お前の体力を回復するのが先だ」
「こんな大変な時に、あたしだけ休んでいられませんって。これ、運んでおきますね」
 見てるだけで何もしないなんて耐えられないと、ぶんぶんとかぶりを振り魔法学校に届いた荷物を倉庫へ運ぶ。
「太壱、小娘はお前が面倒見ろ!」
「へいへいっと」
「我が愚息の最愛の人だからねぇ」
「あーもう、分かったから…ぶーっ!親父ーーっ、言うに事欠いてナニほざいてんだ!?」
 どさくさに紛れて言う父親の言葉にうっかり了解しそうになり、食材が詰まったダンボール箱をドンと床に落とす。
「葦原にも送るなら、温めてすぐ食べられるのがよくない?ぱぱっとお料理作って冷凍しよう♪……とっ?」
「あーもう、仕方ねぇな。よっと…」
 倒れそうになるセリシアを抱きとめた太壱が彼女を背中に背負う。
「タイチ?!ナニ担いでんのヤダーパンツ見えるー!」
「こ、こら。大人しくしろって」
「セシル、あんたは安心してナイトさんに治療されてなさいな」
「はぁっ、誰が!?オカ魔道書も乗るな!イデッ、へんぷくさんまでナニするんだこんちくしょ!」
 からかわれているのか、本気なのかまったく分からず、“…タチがわりーな大人共”と思いながら疲れたように嘆息する。



 魔法学校の厨房へ食材を運び終えた頃には、太壱の顔は見るも無残な酷い人相になっていた。
 背中で“おろして!”と暴れているセシリアが原因だった。
「うぅ、ひでぇ〜。魔性との戦いより最悪な気ぃーすんだけど」
「な…、乙女に向って何よ!?この、このっ」
「イテテッ。こら、顔つねんなってば!!ほらっ、厨房についたぞ。はぁー、まったく……災難続きだな」
 ばたばた暴れる彼女を椅子に座らせてやり、涙を堪えて痛む頬を摩る。
 “タチの悪い大人たち”からも離れ、やっと災難が終わったと思いきや…。
 小声で言った文句を耳聡く聞いたへんぷくが太壱の背を叩く。
「なっ、へんぷくさん何すんだよっ。えー、ツェツェにもっと優しくしろって?これ以上どうしろと…、あーはいはい分かったって…」
 翼を持ち上げて声を上げるへんぷくに逆らえず、しぶしぶ項垂れるように頷いた。
「ねぇ、タイチ。その宝石って、あたしも使えるんだっけ」
 腰のポーチから僅かに輝く宝石をセシリアが指差す。
「いや?持ち主以外、使えないぞ。魔道具はどれもそうだろ」
「そっか。うーん、どの野菜も新鮮…とは言い難いわね。これも、サリエルが時間を歪ませた影響かしら」
 しなっとなりかかっているネギや傷もののトマトなどを手にして眉を潜めた。
「えっと…、その…なんだ。具合は大丈夫か?どっか気分悪かったりしないか、ツェツェ」
「んー、今は平気。やけに優しいこと言ってくれるじゃない?どうしたのよ」
「い、いや、別に。あーもう、何でもねーよっ」
 小首を傾げて微笑むセシリアからさっと目を離し、ダンボール箱のテープを引き千切る。
 思わず“キレイだな…”と言いそうになり、視界から遠ざけたのだった。
 近くに厄介な大人たちがいたら、即からかわれていただろう。
 その大人はせっせと食材の数をチェックしていた。
「これだけあれば、持久戦も持ち堪えられるだろうか」
「うん、樹ちゃん」
「なあ、章…」
「何?」
「魔性共は、人の心を駄目にして自分たちが蔓延る足掛かりにしている…だったか?」
 ペンをカチカチ鳴らし、彼らの目的を再確認するように言う。
「う〜ん。策にのっかっている一部のやつはそうかも。魔法学校にいたっていう子が、もしかしたらすべてをけしかけているかも…」
「まさか…初めからということか!?」
「今までのこと全てとは思えないけど。僕らの時代で解決したはずの水魔は、彼らと繋がっていたわけだからね」
 “駒”として町を襲うように促されたことを思えば、紐づくことは多々ありそうだった。
「“破壊”の意思に支配されて起したことなら、全てをめちゃくちゃにしてやりたい…のかもしれない。土地だけじゃなくって、人の心もね」
「それに、時の魔性が賛同したというわけだな。やつは“誤解”によって、都から虐げられた仕返しのようだが…。そのために、あのメガネを器にしようというわけだな」
「憎みたくなるほどの気持ちは分かる。でも、誰かがまた歩み寄らないと何も解決しないよ」
 過去者たちの過ちのせいであっても、大人しく静観したり知らないふりもしてられないとかぶりを振る。
「だが私たちなりに、しなければならいことが他にもあるからな」
 現地に赴くことが祓魔師の仕事ではないだろ?というふうに樹が言う。
 それに“もちろんだよ”と章は頷き、人々のお腹を満たすため魔法学校に残す食べ物と、他へ送ってやるものを分ける。
「そういえば、黒と赤は喚される存在になったらしいな。エキノ、お前との違いは何だろうか?」
 きょろきょろとしながらダンボールが詰まれた部屋をうろつくエキノへ目を移す。
「ん…?それはですね、固有の主を持つか持たないかの違いですよ、かかさま。エキノには、かかさまがいるので固有の主がいることになりますね!」
「ふむ…」
「あとはですね、より強い能力を扱うためには、相応の精神力を持った方が複数いないと難しいのですよ」
「なるほどな」
 “ありがとうな”とエキノの頭を撫でてやる。
「かかさま、ととさま、あにさま、エキノも手伝いいたします…例えば…つかれをいやすためにおどる…とかですか?」
「大人しくしていろ」
「はい、かかさま!」
「分かればいい…って、こらっ、大人しくしてろと言っただろ!」
 意味を理解しているのか、していないのか勝手に踊りながらトゲを散らすエキノに怒鳴る。
「え、ですから大人しく踊っているんですよ♪」
「あわわ、樹ちゃん。配送用の箱の中にトゲがっ」
「何だと!?もうじっとしていろ、エキノッ!!」
 飢餓の前にトゲで人が死んでしまうと少女の頭を鷲掴みにして止める。
「むぅー、…あれ、かかさま。あにさまは?」
「あいつなら小娘と厨房にいる」
「それは、でーとというものですか?」
「で…、ごほん。仕事だ、邪魔しに行くなよ。(まったく、私の血の情報からどうでもよい言葉まで学習するとは…)」
「はぁ〜い。でーとのお邪魔しませんよ♪」
 “あのバカ息子が聞いたら、顔を真っ赤にして怒るだろうな”と思いながら嘆息した。



「日持ちするものといったらインスタントよね」
「ふつーは、工場で作るもんだろ」
 “無理じゃねぇか?”と言う前に…。
「やってみよう!」
 …と、やる気満々でセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)が包丁を握ってしまった。
「セシル、アンタは何を…。食材の無駄よ、無駄」
「ヴェルレク!?やってみないと分からないじゃないの」
 いつの間にやら厨房に顔を出してきたヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)に否定されキッと睨む。
「世の中にはね、冷凍配送っていう手もあるのよ」
「そっかー、さすがヴェルレク!」
「ナイトさんと2人きりにしたかったけど。心配すぎるはもう」
 “誰がナイトだっ”などという声を無視し、届いたばかりの野菜を水洗いする。
「カレーとかシチューなら大量に作れそうね」
「うん、簡単だものね」
「ちょっとアンタ、それより着メロ鳴ってるわよ。あ、止まっちゃった」
「え、この時代で?誰かしら…、あっパパーイ!」
 着信履歴を見ると全部見覚えのある番号ばかりだった。
「あっ、またかかってきた。……えっと、…パパーイなの?」
『シシィ!…良かった、生きていたんですね…』
「パパーイ、声、お爺ちゃんになってる…でも、生きてるのね、良かった…」
『…シシィ、今どこにいるんですか?祓魔師の勉強に行ったきり行方不明になって…』
「うん、その勉強が原因で、いなくなった日から、今日に飛ばされたみたい」
 “声、お爺ちゃんになってる”っていうのはスルーするのね、と思いながらも通話を続けた。
「簡単にいえば、コンピュータのデータを保存された感じ」
『つまり、過去のシシィと未来のシシィが、同一の存在としているようなものなんですね?』
「未来の私と過去から来た私が2人、同時に存在するわけないってこと。ややこしくなくって、そのへんはよかったけどね…」
『それで、捻じ曲げられた世界に飛ばされてしまった…と。しかし…まぁいいです、シシィの無事を確認できましたから』
 娘の存在だけ“今までなかった”のが気にかかったが、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は元気なセシリアの声が聞けただけでもよいかと言葉を呑んだ。
「ヴェルレクも一緒、うん、代わるね。はい、声聞かせてあげて」
「ゾディ?…随分と声がナイスミドルになっちゃったじゃない…禿げてなぁい?」
『ヴェル…キミも相変わらずですね、シシィに、無理はさせないでください』
「っても、ついさっき無茶やってきたみたいなのよね…わかったわ、これ以上ヘタは打たないから、あとナイトもいるから大丈夫でしょ、じゃーねー♪」
『ナイト?…まさか、あの藪医者の所の奴がシシィを』
「厨房で仲良く料理してるところなのよ。2人きりでいたところにアタシがちょうど…って、切っちゃった〜♪」
 お爺さんな彼を怒らせ、ケラケラ笑いながら携帯をセシリアに返した。
「もうヴェルレクったら」
「えー、一部は本当のことじゃないの?あ、コウモリさんもいたわね♪ま、いいじゃないの」
 自分の愉悦のためにわざと、2人と1匹だったと言ってやらなかったようだった。