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リアクション
第8章 糸の先にいる者 Story4
北都たちにも和輝による定期連絡が送られ、情報を得た彼らも民家の調査を始めた。
「僕たちの目で見えない場所…。うーん、どう見つければいいんだろう」
「気配の元を探せってことだろ?僅かなもんでもさ」
「ここかなって思ったら、ソーマたちに聞けばいいんだね」
真っ暗な空間の中、北都は手探りで調べていく。
「北都、携帯の灯りとか使ったらまずいですか?」
「それはやめてほしいかも。何かいたら、僕たちの位置がすぐ分かっちゃうからね」
万が一の時はソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)たちが知らせてくれるだろうが襲撃された場合、それを回避できるかは分からない。
故に、暗闇でライト系を使うのは却下した。
「もう少し、的を絞れないかな…」
建物の中であることと民家のどこかと判明したものの、個人の住まいとなると少なくはない。
森の中で一本の木を探すのと同じくらい難しく感じ、気が遠くなりそうな探し方だ。
「そっちはどう?」
個室で調査しているベアトリーチェに声をかけた。
…が、まるで返事が返ってくる気配はない。
「どうしちゃったんだろう?ずっと黙ってるけど…」
「さぁ…?」
リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)もまったく分からないとかぶりを振った。
「僕ちょっと見てこようかな」
「あ、ベアトリーチェのことはいいの。私が行くから」
パートナーのことで他の人の手を止めてはいけないと思い、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は彼女がいる個室のほうへ向った。
「ベアトリーチェ、あのね…」
「―……え、はい?」
何か話しかけたのかと気にない返事をした。
「何で落ち込んでいるのか分かるよ。私もすごく辛いから…」
あの世界から彼を説得して連れ出せなかったような後悔を、また繰り返したくない。
故に、ずっと気落ちしているのだと美羽が一番理解している。
彼の場合は余命僅かであっても、他の人の命を犠牲にしてしまったからだ。
いくら大切な人のためであり、騙されたことに等しくとも手を出してはいけない領域に踏み入れた。
そんな自分が許せず、自分だけ助かるわけにはいかないから、あの世界に留まってしまった。
だけど、ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)は人の道に外れたことは何もしていない。
なのに不本意な目的で自由を取られ、最も嫌う目的に利用されようとしている。
そんな結果は絶対にいやだ。
だが、教えてくれたことを守り世界の先を正すこともしなければならない。
「聞いてベアトリーチェ。ちゃんと教えを覚えてる?」
「それは…。……すみません、美羽さん。これでは無駄になってしまいますね」
ふるふるとかぶりを振ってマイナスの感情を振り払う。
悲しみも魔道具を行使する際に影響を及ぼす。
そう散々教わったのだと、スペルブックをぎゅっと抱きしめた。
「もう、平気ですか?」
ミリィもずっと気落ちするベアトリーチェを気にかけ、部屋の外で会話が途切れるのを待っていた。
「えぇ、大丈夫です」
「泣きたい時は泣いてしまうのが一番ですが、今は我慢してください」
「は…はい。まったく、酷いことになってますね…私」
窓から差し込む僅かな光が反射し、机に映る自分の顔を見たベアトリーチェは、これでは人に心配されてしまって当然だと苦笑した。
「少しいいかな?」
「涼介さん…」
「あの時、依代に選ばれたのは私だった。私も他のだって、彼を助けたいという気持ちはある。だが、祓魔師としては主も遂行しなければならない」
「分かっています。世界の先を出さなければならいのですよね」
「そうだね。ここは本来、存在しえない世界であり、あってはならないものだなんだよ」
「お父様のおっしゃる通りですわ。こうしている間にも、時が歪められていっているはず…」
一刻も早く捻じ曲げられた時を戻さなければならいのだとミリィが言う。
「今のサリエルに、過去からここへ繋がることを一本化する能力はありませんわ。ただし、それは新しい器を得るまでのことにすぎないのですわ」
「未来の私がクリスタロスで調査を行っていたという話は、皆も覚えているかな?おそらく彼を探してここへたどり着いたのだと思う。サリエルと彼は、必ず同じ場所にいる」
諦めず調べれば必ず辿り着けるのだと告げた。
“皆、穢れてしまえばいい”
その言葉を実行させないためにも、誰であっても器を得させてはならないのだ。
話しを続けようとした時。
バタバタ駆けてくる足音が聞こえる。
「皆、魔性の気配が近づいてる。早く出て!」
「ここには何もなかったのかな」
「うん、手がかりらしいのも何も。あ、急いでっ」
すぐそこまで接近していると佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が告げ、民家から出るように急かす。
彼に促され涼介たちも急ぎ外へ出ると、すでに仲間が移動している先へ案内される。
「斉民ー、手がかり見つけた?」
「これが発見できてるように思えるわけ?」
へらっとした顔をする弥十郎の態度に、少しイラッときた賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書が睨みつけた。
「カリカリすると魔道具に影響がでちゃうよ♪人の家なんだからちらかしちゃ…、ん…この本は……料理特集!?」
床に落ちている雑誌を棚に戻そうと拾い上げると、興味深いタイトルに目を奪われる。
未来の調理法はどうなんだろうか。
新しいレシピは掲載されているのか気になり、思わずページを捲ってしまう。
「何が書いてあるんだろう♪ふむふむ、料理人ランキング?トップは…雲マグロを追うマグロ漁船に乗り、港に寄港した数日に陸で料理したこともある…と」
「弥十郎!遊んでないで真面目に探しなさいよ」
「ちょっとだけ♪すごいな、どんな包丁を使っているのかな。ー…えっと、愛包丁は……シュナイテッド!?ねぇねぇ斉民、ワタシのことが書いてあるよ!」
「うるさいっ」
我慢できなくなった斉民がスプーンを投げつけた。
「痛っ!酷いなぁもう」
もうちょい広い心になってくれてもいいじゃないかな、と思いつつスプーンをテーブルへ戻す。
「エースさんのほうはどう?」
「いや、これといったものはさっぱり…。エリザベートのほうはどうだい?」
変わったところはないか、ベビーカーに乗せて連れてきたエリザベートに聞く。
「いいえまっちゃく〜」
「赤ん坊のままだし無理なんじゃ?」
何故、連れて出してきたのかと弥十郎が眉間に眉を寄せた。
「もうおなかちゅきましたぁ…うぇ〜ん!」
「ちっちゃい子可愛いネェ」
「ほらほら、なかなーい〜」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はカラカラ玩具を鳴らしアーリアと一緒にエリザベートをあやす。
「うわぁあん!おなかちゅいたでしゅー!!」
「お菓子があるよ、食べる?」
「こらクマラ。赤ん坊にそんなものを食べさせるんじゃない」
見かねたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が菓子袋を取り上げた。
「あ、何するんだよっ」
「成長した子供が食べて平気でも、赤ん坊はまだ無理なものがある。そんなことも分からないで子守をするとは…」
「へぇ、子守の大変さをよく学んでるみたいだな。どこで覚えたんだ?」
珍しく小さな子に対して真面目なことを言い出すメシエに対して、エースが顔をにやつかせる。
「べ、別に…。常識で言ったまでだよ」
「ふーん…そう?」
「そのにやけ顔やめろ、エース」
「まぁいいか。じゃあメシエも子守を頼むよ」
出発の時持ってきたのか、彼が手にしているベビーフードを指差す。
「は?な、何を…。何だこれはっ」
「メシエが持ってきたんだろ。俺たちは調べごとを進めるからよろしくな」
子守する気満々だった彼に任せてエースは調査に戻った。
「カルキ、木を隠すなら森っていうならアレどう?」
「ルカ、無茶振りしようとしてんだろ」
このにんまり笑顔の向こうには、とんでもない案が潜んでいる。
一歩後退しようとした瞬間、逃がすものかとルカルカに腕を掴まれる。
「返事はイエスよね♪」
「お、おう」
“ちくしょう、何でこんな…っ”などと心中で不満を呟く。
どのみち多数決で決めても彼女のほうに軍配があるのだ。
しぶしぶ“木”としての姿にシェイプチェンジする。
「うわ、なんつーか不健康そうな…」
人型になったカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の肌は青白く、お世辞にも健康とは言い難いものだった。
「でもそんな感じだったわよ」
よく知った存在とは言い難いゆえ、完璧とはいえないまでも絡まれなければ即バレすることはなさそうだ。
「はい、かぶっておかないと」
「もうどうにでもしてくれ」
「そう投げやりになるな、カルキ。似合っているぞ?」
「棒読みすんな、淵!」
「あなたの尊い犠牲は忘れないわ…うぅ」
危険地帯に乗り込むパートナーを前に、ルカルカはしくしくとハンカチを濡らす。
「思ってもないこと言うなっ。もう、なるようになれってしかないぜ」
やけっぱちになりつつカバンにスペルブックを隠し、とぼとぼと町中を歩く。
『聞こえてる?カエルの気配はそのまま真直ぐ行った先よ』
「あいよ、真宵」
イヤホンをつけ携帯の通話から魔性の位置を伝えてもらう。
「しっかしこの様子じゃ…人との関係は最悪だろうな…」
人と魔性が共存している都を除けば、マイナス印象なさそうだと呟く。
『あ、通り過ぎた』
「おいおい、ちゃんと教えてくれよ!」
「オマエ、誰と話してるゲコ?」
大きな独り言として耳にした不可視の者がカルキノスを見下ろす。
「あぁいや、何でもねぇよ」
「どっち向いて喋ってるッ」
「た、たまには変わった会話の仕方したっていいだろ」
怪しまれたかと思い、とっさいに気配を把握しきっているフリをした。
「ヘンナやつッ」
「―…なぁ、サリエルの調子はどうだ?」
「毎日、血吐き散らしてるゲコッ。新しい器を持たないと、そろそろ危ないかもしれないッ」
もう今の器がもちそうにないとボコールの姿に変化したカルキノスに教える。
「で、それは見つかったのか」
「何を言っているッ、オマエ知っているはずゲコ」
「あー、えっと白衣の男か」
「そのワード、気に入らないゲコ!」
「白衣の天使ならいいのかよ。(だとよ、着せ替えてやれ)」
そう小声で真宵に言い、“天使”に白衣を着せさせろと告げる。
『おっけー。そっちに押し出してやるわ』
物陰からドンッと“白衣の天使”の背を押してやる。
「なぜ俺がっ」
強く押された拍子にどてんと転ぶ。
「天使ではないく剣のほうだぞ、俺は…」
石畳の上に倒れながら、物陰に隠れたままの女子たちを睨んだ。
か弱い乙女には無理♪ということで、ダリルに役が回ってしまった。
「くっ、女装なら他のやつにでもやらせればいいだろ」
「無理なものは無理、諦めろって」
カルキノスはダリルの傍に屈みこみ、そっと小声で言う。
「別に変わりの生贄みたいにはしないから安心しろって。敵地で捨てるとか、サリエルの前で放置するとか、んなことはしやしねーからさ♪」
ここぞとばかり抵抗できないダリルで遊んでやる。
「白衣の天使ってこれだろ?」
「むむ、我の嫁に欲しいーッ」
自分のものにしようとぴょんぴょん飛んで大喜びする。
その声にダリルは背筋をぞっとさせた。
「(カルキは後で仕置きだな…)」
楽しげなカルキノスの態度に拳を握り、怒りのマグマをためた。
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