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【アガルタ】未来へ向けて

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【アガルタ】未来へ向けて

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★未来へ向かう05★


「……凄かったね、アレ」
「ああ。なんてーか、疲れた」
 薄暗い洞窟の中、男女の声が響く。その眼前にあるのは泉。水中にライトでも沈めてあるか、美しい輝きを放っていた。

 一人は街の総責任者、ハーリー・マハーリー。そしてもう一人は、巡屋美咲。

「まったく、何をたくらんでいるのかと思ったら」
「洞窟の素敵な光景を二人に楽しんで欲しいし……暗闇の中なら、素直に甘えたり甘やかしたり
しやすいんじゃないかな? と思ってね」
 楽しげに話しをしている2人を少し離れた位置から見守るのは、天音ブルーズだ。天音がハーリーと美咲の兄妹デートを計画したのだ。
 とはいっても2人きりではなく、他にもガイド見習いや客もいるが。
「メイアさんやヤスさんも協力してくれたしね。まあ、たまにはこんな時間があってもいいと思うし」
「……そうだな」
 ゆったりとした時を過ごしている様子に、2人は満足げに笑った。

「ふふ、本当に美しい場所ですね。ご招待ありがとうございます」
 そんな天音に声をかけたのは、ライラだ。ドブーツにも手紙を出していたらしく、一度一行と別れてここへと立ち寄ってくれたのだ。
「楽しんでくれてよかった。ん〜、でもほんとライラさんだったらガイドとしてやっていけそうだね。良かったらどう? 推薦の手紙書くよ?」
「はぁ? 何を言って」
「あらあら。それもよさそうですね」
「ライラ!」
「フフフ。冗談ですわ」

「ありがとうございます、天音さん。とても楽しいです」
「それはよかった。なら今度、僕ともデートしないかい?」
「へあっ? え、あ、あの」
 ウィンクしながら問いかけつつ、ハーリーの方を見れば苦笑していた。その目は兄、というよりまるで父親のようだった。
「ん〜この様子だと結婚はまだまだ先みたいだな。親父さんに報告できるのはいつになることか」
「けっけっこ! そ、そういうお兄ちゃんはどうなの?」
「俺はアガルタと結婚してるようなもんだからな。フラれないように必死に頑張ってるところだ」
 むぅっとむくれる美咲に、ハーリーはその頭を撫でた。

「ま、だからさ。お前の……この街に住む全員の幸せってもんを、つねに祈ってるよ」


***


『んー、まあここらへんやな』
 土星くんが操る移動式住居が動きを止めた。最高の位置で花火を見るために。
 だが、花火の時間まではまだある。

「あっ土星く〜ん、こっちこっち!」
 跳ねながら手を振る美羽に返事をしながら、土星くんはそちらへと駆け寄った。
「セレちゃんは?」
『準備中や。一応、小娘は仕事やからな』
「そっかぁ。しょうがないね」

「忙しいところ来ていただいてありがとうございます」
「いえ。呼んでいただいて嬉しいです」
「すいやせん。あっしらなんかがきちまって」
 ベアトリーチェが声をかけているのは、美咲と巡屋の面々だ。一緒に花火を見ようと誘ったのである。
 和やかに笑う美咲は、恐らく本来の自分を取り戻したのだろう。その瞳はどこまでも明るく輝いている。
「どうですか。全暗街の様子は」
「はい。その、いろいろご迷惑をおかけしましたし、街を出て行かなくちゃとも考えてたんですけど……みなさん、笑って許してくださって」
「そうですか。良かったですね」
「はい!」
 元気よく頷く姿を見て、ベアトリーチェは心の中でもう一度「よかった」と呟き、彼女自身も嬉しげに美しく微笑んだ。

「花火かー……打ち上げのを生でみるのは、はじめてかもしんねーな」
「そうなのですか。とても美しいですよ」
 わくわくとした気分を抑えられないジヴォートと、そんなジヴォートに花火について教えているラン。
 コハクは2人の様子を伺いながら、ドブーツとライラに尋ねる。
「あの2人、どんな感じなんでしょう? どう思われますか?」
 ドブーツとライラは少し顔を見合わせる。
「そうですわね。……好奇心旺盛な兄と心配性の妹、といった感じでしょうか?」
「そんな感じだな。まあまだ、ジヴはラン嬢の顔を見ることは出来ないみたいだからな。これでも進歩した方だろう」
「ラン様も、遠慮されるだけでなく、お話できるようになりましたし……お2人の未来は分かりませんがいい関係は築けているのではないかと」

「へぇ? そうなんだ」
 と、そんな会話に入ってきたのはルカルカだ。肩にはキルルを乗せている。ルカはんー、とジヴォートの方を見て
「文通の具合を聞こうかと思ってたんだけど?」
 ドブーツに目をやる。
「ジヴはラン嬢をただの友人としか見てないだろうな。まだ恋愛はあいつには早い」
「……その言い方だと、まるでジヴォートさんのお父さんみたいですね」
「あんな手間のかかる息子はいらん」
「あははははっひどいわねー」
 笑いあっていると、『ぎゃー!! って、ごましお? なんでこないなところに』土星くんの悲鳴がした。
『コーンさんは、本当にネコさんたちに大人気ですね』
「良かったね、土星くん。もてもてだよ!」
「どうも隠れてついてきたみたいでね。よかったね、ごましお。土星くんが来てくれて」
『わしはよくない!』
 エースが笑ってごましおをよろしくね、などと言うのに『なんでやねん』とツッコミが入るも、土星くんは結局ごましおを頭に乗せたまま周辺をうろつくことになった。


「『アガルタ冒険者の宿』へようこそ! って……へへ、なんか照れくさいな」
「ようこそなの……ほぇ〜、本当に浮いてるの。丸いの」
 訪れた屋台で出迎えてくれたのはフェイミィタマだ。声を聞きつけてリネンも傍にやって来る。
「あらいらっしゃい。随分と可愛らしいヘアバンドをつけてるのね」
『うっさいわ』
「みゃあ」
 不機嫌な土星くんと上機嫌に鳴く猫。対照的な2人? に周囲で笑いが起きた。

「へぇ。フェイミィが店長? おめでとう! 開店の日教えてくれ。花贈るからさ」
「やめろ。そんな仰々しいのは。まあ……気持ちだけもらっとく、ありがとな」
「いろいろと大変だと思うが、ジヴ。こいつにも社長なんてものが務まるからな。ダイジョブだろう」
「あははは。たしかに、なら大丈夫そうだな」
「ドーツもフェイミィもひでーな」
 軽口を叩きながら、祝いの言葉を聞いてフェイミィは照れながらも感謝した。



「アルミナ・マスター。コチラノ料理ヲオ願イシマス」
「はーい、任せて」
 こちらは影月の屋台。イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が主に裏方の仕事をし、アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)がウェイトレスとして接客の仕事をしているようだ。
「おまたせだよ、注文の焼き鳥とお酒」
『おうっ待ってたわ』
『わぁっおいしそうですねぇ』
 土星くんとキルルが料理を受け取る。だが、アルミナは驚いたように土星くんを見ていた。だが失礼にならない程度に、であり。すぐさま他の客から呼ばれてそちらで注文をとる。
「あ、来てくれたんだ。ありがとう。注文はいつもの、でいいのかな?」
 どうやら常連客らしく、気軽に話し合っている。
「ああそれで頼むよ。……アルミナちゃん、今日は歌わないのかい?」
「うん。他のお店も屋台出してるしね」
「そっか。まあ、そうだよな。残念だ」
「まあアルミナちゃんの元気な顔が見れて良かったよ。じゃ、イブちゃんの料理楽しみにしてるからね」
「うん、待っててね」
 アルミナは照れたように笑って、鼻歌交じりに厨房へと向かった。

「イブ、新しい注文だよ。裏のケンさんと奥さん。いつものだって」
「分カリマシタ」
「あとね、イブの料理が美味しいって言ってたよ。よかったね」
「……アリガトウゴザイマス」
 仕事としてのやり取りをまずした後、アルミナは「そうそう」と少し興奮したように言った。
「さっきね、土星くんの偽者がいたんだよ」
 と。
 淡々と料理していたイブの手が少し止まる。すぐさま再開された包丁の音をBGMに、イブは目で問いかけた。どういうことか、と。

「あのね……あっち、見える?」
 料理を続けながらイブがそちらを見ると、土星くんとキルルが宙に浮いていた。しばらくその様子を眺めてから、イブは屋台横に置かれたグッズを見た。

「ナルホド。ソウイウ事デシタカ」
 影月では料理だけでなくグッズ販売もしている……土星くんの。そこそこ売れ行きもいいのだが、買っていく観光客達がいつも
『土星くんパロってるのかな?』
『でも面白くない?』
『こっちの方が思い出になりそう』
『じっと見てたら可愛く見えてきた』
 などと言っているのが気になっていた。

 やたらと眉(顔)が濃い土星くんグッズを眺めたイブは

「土星クンハ ツッコミ好キトノコト。オソラクソノ心労デ眉ガ薄ク」
『んなわけあるかー! なんやこいつらは』
 初、土星くんツッコミを受けた。

 とりあえず無事に誤解はとけたものの、売れ行きがいいので販売は続けられることになる(普通のものも売ることに)。ついで、というとなんだがキルルのグッズ化(こちらは普通)も本人の許可を得て販売することになった。
 なんでわしだけこの顔。と土星くんが落ち込んでいたとかいないとか。






***



「ではいくぞー、なのだ。5−4−」
 アガルタ全体に、少女の声が響く。ソノ声にあわせて、皆が空へ向けて一緒に叫ぶ。

「3−2−1−」

 アガルタ中の声が一つになったとき、大空に、花が咲く。


 花火は最初、大きなものが咲いたあと、急に静かになってBGMとともに物語が語られていく。ストーリー花火仕立てになっているようだ。

 アガルタの奇跡をたどっていく物語。
 何もないところから段々と街らしくなっていく様子。騒がしい様子。起きた事件の様子。



「ほえぇ〜」
「タマ、口開いたままよ」
 屋台から空を見上げたリネンは、横で同じく見上げているパートナーにそう注意をする。そして自身は、聞こえてくる物語に耳を傾け、ほうっと息を吐き出した。
「この街も大きくなったわね。本当、色々あったわ」
 決して全部が良い思い出とはいわないが、それでもこうして笑顔で思い返せる。
「あぁ、色々あったもんだ……」
 フェイミィは同意する。若者達の背を押したり、押しながら自分を省みたり、暴れまわったり、美咲に手を出して罰を受けたり……これは思い出さなくて良かったかもしれない。
「私もまた来たいなぁ」
 横でタマが呟くのが聞こえ、フェイミィはその頭をがしがしと撫でた。
「来たらいいんだよ、いつでもな」
「そうよ。ここは……そういう街だもの」




「わっ! 今の見た? 土星くんだよ。巨大土星くんだよ! 略して巨星くんだよ!」
『いや、それ何か分からんからな』
「でもたしかに美羽が興奮するのも分かるよ。凄かったね。表情までわかったよ」
「だよね、だよね」
 きゃっきゃと騒ぐ美羽とコハクに、土星くんは仕方ないなという顔をした。それから周囲を見る。
 一時は運ぶべき住人がいなくなった移動式住居。しかし今は――。
「あー、土星くん今感動して泣きそうだったよね?」
『は、はぁっ? ちゃうし。ぜんぜんちゃうし』
「どうぞ、ハンカチ」
『おうあんがと……って、別にいらんけどな、ハンカチとか』
 コハクと美羽が、そんな土星くんを今度は仕方ないなという顔で見守った。
「美咲さん。ここからは創作花火だそうですよ……美咲さん?」
「へっ? あ、す、すみません。ちょっと、感慨深くなっちゃって」
「ふふふ。いろいろ、ありましたからね」
 花火の美しさに、花火から様々な思いを受け取って、ベアトリーチェと美咲は感想を言い合いながら、首が痛くなるまで空を見上げた。




 移動式住居の上から、開拓が始まった地上と空は良く見えた。まだまだちぐはぐな光景だが、空に咲く花火が街と景色を融合させていた。
 その両方を視界に納めながら、呼雪が呟く。
「アガルタの新しい始まりだな」
「そうだね……あ、そこ足元気をつけてね」
 ソノ場所をあらかじめ見つけていたヘルが呼雪の手を引く。そして、ふふっと笑ってその腕にひっつく。
(そしてみんな上を見てる時が、くっ付くチャンスなのだ)
 いつもなら恥かしいので止めさせる呼雪だが
(今はいいか)
 恋人のぬくもりを感じながら、アガルタのこれからに思いをはせた。




「イッツ、イリュージョーン……なっちゃって」
『はぁわ! お菓子が増えました、すごいです』
「ふふふ。どんどん食べてね」
『ありがとうございましゅっ! はわ』
 キルルの驚く様子に、ルカルカは笑いながら飴の一つを差し出す。キルルは飴をころころと舐め、油断しているときに花火の音が聞こえて思わず噛んだ。顔を赤くする彼女に
「キルル殿のまるっこさ可愛さに、思わず抱き締めて撫でてしまいそうだな」
 淵が笑う。
「コーン殿やキルル殿のことはダリルから聞いておる。俺達やアガルタの人達を新しい住人と思うてほしいぞ。
 こいつ、北斗とも仲良うしてやってくれ」
 淵はペットの北斗を示す。キルルも『淵さんと北斗さん、よろしくお願いします』とと頭を下げ、その拍子に飲み物を倒しかけて大慌てしていた。
「有難う、アガルタ。これからも宜しくね、アガルタ!」
 笑ったルカルカがそういって乾杯! と倒れかけたコップと自分のものを軽くぶつけた。

 かんぱーい!

 ジヴォートが喉が渇いた、と呟いた。
「おっ飲むか? いいぜ、飲み比べだな」
「いや仕事あるし……ま、いいか。今日は飲むとするか」
「おうよ! やっぱ祭といえば食う! 飲む! そして花火! おっちょうどいま上がったな」
「あはは! 花火もカルキノスに賛成してんだな」
『それはいいが、お前さんらは花より団子やな』
「コーン、そりゃ違うね。花火より肉だ!」
「肉だ! 酒だ!」
「おいジヴ。少し落ち着け」
「落ち着けなんて、祭だぜ? ドブーツももっとはっちゃけろよ」
「まて、離せ。うっ酒くさ」
「おーい、アルミナ。注文追加ー」
 花火よりも酒、食事派な男たちはひときわ煩い。背後で響く花火の音が、彼等に負けじと大きな音を立てるが、聞いているのかいないのか。
 だが少し、しんみりした雰囲気も流れる。
「俺が住んでるのは魔界……ザナドゥだよ。だから、たまにゃ地上が恋しくなる。ニルヴァーナに連れてきて魔族達にもアガルタを見せてぇなあ」
「んー、なら、俺らがすっげー最高のPV作るからさ。それ見せてやってくれよ」
「はっ? 何を勝手に」
「いいのか? そりゃあいつらも喜ぶぜ」
 だが最後はヤハリ大声で盛り上がる。

 まったく、騒がしいやつらだ。
 ため息をつきながら静かに杯を傾けるのはダリルだ。横にはハーリーもいる。
「ま、らしくていいんじゃねーか?」
 にやりと笑いながら、杯を突き出してくる彼に、ダリルは杯を軽く当てて一口飲む。
「これからも俺達はアガルタの発展に、力を貸そう」
 真剣な口調で言うと、ハーリーは「何言ってるんだ」と言った。
「当たり前だろう? 俺は最初からお前たちの協力をアテにしてんだから」
 開き直ったような声に、今度こそ心底呆れたダリルは、しかし笑って頷く。
「ああ。一緒に作っていこう」




「あ! 今の映った? すごい大きな花火! 前の祭ででた御輿を表現したんだって。すごいわね」
「いろいろな花火があって、目が離せない……のではありますが、屋台もご紹介していきますね」
 歓声を上げる理沙に、セレスティアだったが、仕事をこなしていく。
「鑑賞スペースの配置はこのようになっています。救護所は数箇所にあります。トイレも数が多いので安心ですね」
「そして私たちがいまいるのはここね。スペースの中でも屋台が多くあるところよ。何か食べさせてもらおうかしら……ごめんなさーい」
「ん? いらっしゃい」
「あら、エースの屋台だったのね。あ、かぼちゃん、久しぶり。ん? 土星くんもいるのね」
 愛らしい猫の姿に目を細めていると、奥でしおれた土星くんが見えた。毛玉がくっついているのを見るに、そうとう大変だったようだ。横でエオリアが苦笑していた。
「土星くん、色々とお疲れ様。2人も花火の日までお疲れ様」
 エースが紅茶を3人に入れ、エオリアお手製の茶菓子(特製チュロス)が渡される。土星くんがやけくそのようにほお張ると、頭上ではまた花火が咲く。
 紅茶を飲みながら見る花火というのも、中々に乙なものだ。エースが頭上の花火に目を留めた。
「きれいだね……今までにも色々とあったけど、これけからもこういう楽しいイベントが行われる楽しい街であって欲しいな」
「そうね。そのためにも、どんどんと街のいいところを発掘していかないと」
「がんばりましょう」



「始まったかー。へー、ほんと気合はいってんなー」
 夜空を彩る花火を見上げた唯斗が感心の声を上げた。ついで聞こえたのは破裂音、ではなく魔物の悲鳴。
 どうやら花火大会当日も魔物退治に来ているようだった。
「そちらも終わったか?」
「せっちゃんもお疲れ」
 同じく魔物の退治をしている刹那の姿を見て、唯斗はひらひらと手を振る。刹那はそれに特に何か返すことなく、街のほうを振り返った。唯斗も首をそちらへ向ける。
 2人とも、花火は見ていなかった。2人にとって、花火よりも――花火が咲くたびに上がる歓声の方が大事だったのだ。さすがに視認はできないが、人々の笑っている様子がうかがえた。
 布で隠された唯斗の口許が弧を描く。刹那も、あまり表情は変わらないものの、雰囲気が普段よりも柔らかいように見えた。
「さて。じゃあもう一がんばりするとしますか」
「そうじゃな」
 花火には決して照らされない無音の影が、会場周辺の音を刈り取っていった。



「むー、どうだったのだ。私のかうんとだうんは?」
「はい。とても素晴らしかったですよ」
 振り返ったセレスティアーナに、陽一は心から頷いた。ただ数字を読み上げるだけのようだが、あれだけの人数を一つにまとめるというのは困難なことだ。
「よし! 終わったから土星くんたちのところにいくぞ!」
「分かりました。ペンタたちも一緒に行きたいようなのですがよろしいですか?」
「もちろんだぞ! いくぞー!」
 さりげなく護衛としてペンタたちをセレスティアーナに持たせながら、陽一は彼女の後を追う。
「おっ! 見たか陽一。今の土星くんだったぞ!」
「はい、そっくりでしたね」
「うむ! って違う。早く土星くんたちのところに行くぞ。美羽とも約束したからな」
 元気良く走っていく護衛対象に苦笑するが、注意はしない。この街はどんな人をも受け入れる。それは代王という彼女ですらも。
 そしてアガルタはこれからもそうであるのだろう。そうであって欲しいと、陽一は思った。




「涼司くん、イキモさんどうぞ……ジヴォートくんは、大丈夫ですか?」
 買出しに行っていた加夜が横になっているジヴォートの顔を覗き込む。涼司は呆れた顔でジヴォートを見る。
「テンション上がって飲みすぎるからだ」
「うぇー……しょうがねーだろ。花火大会とか初めてで」
「あらそうだったんですか。どうですか? 打ち上げ花火」
 加夜が聞くと、とりあえず音が頭に響く、と辛そうにいうのに苦笑する。
「まったく。すみません、だらしない息子で」
「いえ……あ、食べ物買ってみたんですが……無理そうですね」
「私がいただいてもよろしいですか? 一度こういうの食べてみたかったんですよ」
「う、俺も食べる。食べてみたい」
 ゾンビのように起き上がった姿に、みんなして笑う。
「ええ、どうぞ。涼司くんは?」
「俺はたこ焼きもらう。……って、お前もそろそろ座れよ」
 飲み物を、と取りに行こうとした彼女を涼司が座らせる。浴衣が花火に照らされる。

 そこでアナウンスが入った。次に上がる花火は、学生が作ったものらしい。創世学園とアガルタの学生が協力したもののようだ。

 口笛のような高い音が響いた後、ぱんっと上空で弾ける花火。
 それらはいろんな人たちの顔であり――みんな笑っている。アガルタをイメージしたという花火だった。

「来年もこうして一緒に見れたら嬉しいですね。次はお腹の子も一緒に」
「……そうだな」





「せっちゃんも、どこかで花火みてるかなぁ」
「ドウデショウ。見テイルカモ、シレマセンネ」
 その場にいない刹那を思いながら花火を見上げるアルテナとイブ。刹那は今頃、おそらく地上の魔物退治を続けているのだろう。
「どこかで少しは休んでくれてるといいんだけど……あ、いらっしゃいませ〜」
「ゴ注文ハ何ニサレマスカ?」
 花火の音に負けじと大声と笑顔という花を咲かせながら、2人は自分の仕事に戻っていった。
 イブの表情は変わらないが、そこはいわぬが花だ。





「はぁっ大分マシになったか」
 ジヴォートは人ごみから少し外れた場所にいた。元々酒は弱い方では無いが、ペースが速すぎた。風に当たってくると言って少し散歩していたらマシになってきた。
「さて戻るか……ん? これってポチの首輪?」
 ふと足に何かが引っかかった。見下ろすと金具のようなものが見え、周囲の土を掘り返すと首輪のようであり、発信ボタンの足跡マークには見覚えがあった。
 まさか。
 慌てて周囲を掘り返していく。

 10分後。泥だらけになったジヴォートとぶるぶる震えるポチの助の姿がそこにあった。
「どうしたんだ。こんなところで誰かに」
「な、何もないのです」
 犯人を簡単に言わなかったのは彼なりの矜持か、それとも命の危機を感じたからか。ジヴォートは深くは聞かず、自分ごとポチに水をかけて泥を流し、驚いたポチに明るく笑いかける。
「でもポチと一緒に花火見れて良かった」
「……ふ、ふん。嬉しく思うといいのですよ。その、僕も少しは良かったと思ってやるのです」
「そっかー。ありがとな」
「と、とりあえず乾かすのです。馬鹿でも風邪ひいてしまいます」
「そうだなー。あっはっは。でも花火の日にぬれねずみになるってのも、中々できない体験だよな」
「笑ってる場合じゃないですよ」

 そうしてずぶ濡れでいた2人は。

「なんで肌寒い中水浴びなんてしたさ?」
「そうだぞ。みなさんにご迷惑かけて」
 すっごく怒られていた。主にマリナとイキモに。
「ポチもジヴォートも見かけなくなったから心配した。無事でよかった」
「ああ。無事でよかった(主はなんとお優しいことか)」
「大丈夫ですか? もう少しタオルをお持ちしま……ひゃっ、マスター。も、申し訳ありません」
「(グラキエス様に心配をかけさせるなど、やはり所詮は犬ですか)」
「フレイ。とりあえず落ち着け。それはタオルじゃなくてコップだ。
 ……なあウルディカ。俺思うんだが犯人って」
「言うな。ウェルナート。エンドロア、顔色が悪い。少し休め」

 とりあえず無事に、犬は戻ってこれたのだった。

 チッ。

 どこかで舌打ちが聞こえた気がするが、きっと気のせい……! 背後に気配が。
 私は天の声。大丈夫大丈夫。……ですよね?

 もしも私がいなくなったら、やられたものと思っていただきたい。