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リアクション
現在、2024年のある時。ヒラニプラへゆったりと向かう列車の個室。
「……本日はお疲れ様でした」
「君もご苦労だった」
出張帰りの金 鋭峰(じん・るいふぉん)と随行員として同行中の董 蓮華(ただす・れんげ)がいた。
「いえ、そんな……私は随行員として……」
労われた蓮華は嬉しさで顔を赤くしながらもごもごと言ってから
「あの……本当に良かったのですか? 飛空挺ではなく列車を選ばれて……もう少しお待ちになれば整備も整い、飛空挺で早くお戻りになれたはずですが」
蓮華は遠慮気味に移動手段を変えた事を今更だが聞いた。
「そうかもしれないが、鉄道の旅も悪くはないだろう」
鋭峰は口元に僅かに笑みを浮かべながら言った。
「はい、ゆれる線路のひびきが心地良いです(……ほんの少しだけでもこうして団長と二人だけでいられるなんて)」
蓮華は即答した。確かに列車の旅は心地よいが何よりも想いを向ける鋭峰と二人きりという空間が乙女心を刺激していた。
「……確か君と汽車で過ごすの二度目だったな。今回はあの時と違って私用ではないが」
鋭峰が言った。そのため前回のように帽子は脱ぐ模様は無いようだ。遠足は家に帰るまでが遠足だと。
「そうですね。あの時は団長の周りは賑やかでお話しするのもやっとでしたよ……」
向かいに座る蓮華は微笑しながらおもむろに旅の思い出と金鋭峰の写真帳を取り出し捲った。
様々な写真が次々と現れる。
「……まさかあの時、君と会うとは思いもしなかった」
鋭峰は蓮華が顔を真っ赤にして敬礼しているひどく動揺した一枚に目をとめた。あの時は共も付けない完全なプライベートだったため蓮華の登場は予想外だったのだ。
「あ、はい……ま、まさか偶然乗り合わせるとは思いもしませんでした(……偶然じゃないとばれないようにしないと……本部で護衛がいないと聞き出して追いかけたなんて……知られたら……団長に知られたら……)」
蓮華は偶然を強調して少し慌てたように言った。胸中では軽くパニック。当時、鋭峰以外の周りの者達は蓮華が鋭峰を追いかけて来たと見抜いていたが。
知られてもとっくに蓮華は鋭峰に恋する気持ちを伝えてるので何も問題は無いのだが
「……他の写真を見ましょう……他の」
蓮華はそうは思っていない。慌てたように別の写真を選ぶが、
「あっ、これは……」
まずい写真に当たり蓮華は慌てて別の写真に切り替えた。なぜならこっそり、蓮華と鋭峰がツーショットになるように撮られた一枚で鋭峰に見られるのは恥ずかしくて。
「この写真はどうですか。貴重な一枚ですよね」
蓮華は鋭峰と彼とお揃いの帽子を被った部下とのツーショットを見せた。
「そう言えばこういう事もあったな」
鋭峰はしみじみと思い出していた。
「この写真はどうですか。団長、とても楽しそうですね!」
蓮華が代わりに話題にしたのは鋭峰がババ抜きをしている様子。鋭峰が引いてるカードはジョーカーである。
「……これか」
鋭峰は懐かしそうに写真を見た。
「……自ら提案して負けるとは……」
あの時ババ抜きを提案したのは実は鋭峰だったのだ。
「団長でも敵わない事があるんですね」
蓮華はクスリと笑みながら言った。
「……そうだな」
と鋭峰。
「……えと、すみません」
蓮華は鋭峰の恥ずかしい部分に触れたと思ったのか謝った。
「いや、気にする事は無い……勝負事は時の運と言う致し方ない事」
慕うが故に気を遣う蓮華に向かって鋭峰は平気だと言ってから自分がババ抜きに負けて十一人前の駅弁を抱えて戻ってきた姿の一枚や広げられた沢山の駅弁。金鋭峰の客室に集まった皆の記念撮影の一枚を見た。
「そうですか……この時は私まで駅弁を買って頂いて……最初は何が起きてるのか分かりませんでした。まさか、敗北された罰だとは……」
蓮華は笑みながら思い出を振り返っていた。蓮華が加わったのは勝負が決して鋭峰が罰を受けている時で事情を知ったのは後だったのだ。
「山積みの駅弁なんてもしかしたら始めて買われたんじゃないですか?」
蓮華が口元を笑みの形にしながら言うと
「そうだな。あれほどの買い物はそうそうない……よい経験をした」
鋭峰は口元に僅かな笑みをこぼしさらりと言った。
その時、駅に停車するアナウンスが入った。
すると
「今日は私が買ってきますね。団長はどの駅弁がよろしいですか?」
蓮華はすくっと立ち上がり、訊ねた。
「……拘りはない故任せる」
たまらなく食べたいという物が無いため鋭峰は蓮華に弁当選びを一任した。
「では、この駅の名物でも買って来ますね!」
蓮華はお任せあれと胸を張ってから駅弁を求めて汽車を出た。
しばらくして
「ただいま、戻りました」
蓮華は二人分の弁当と茶を抱えて戻って来た。
「この弁当がこの駅の一番の名物らしいですよ。お茶も一緒に買いましたのでどうぞ」
蓮華は鋭峰に弁当と茶を渡して向かいの席に座った。
「……ほう、なかなか美味しそうだな」
鋭峰が丁寧に包装を解き、蓋を開けると中身は名物一杯のカラフルなものであった。
「はい。私も同じ物を買いました(団長が喜んでいるみたいで良かった。売り子さんに話を聞いて慎重に選んで正解だったわね)」
蓮華も同じく弁当の中身を見て感動し胸中でガッツポーズ。慕う鋭峰が食べる物だからと蓮華は売り子にしつこいくらい説明を聞いて選び抜いた弁当なのだ。
二人はまったりと弁当を食べながら過ぎゆく景色を楽しむ。
「……(こうして汽車にゆられながら、一緒にお弁当を食べて、のんびりと景色を眺め……あぁ、ずっとずっとこの線路が続けばいいのに……いつまでも団長と……あぁ……)」
蓮華は弁当を食べながら様変わりしてゆく景色に和むも気持ちは美味しい弁当や素敵な景色ではなく鋭峰。
思わず
「……」
ちらりと向かいの鋭峰に視線を向けると
「……!!!」
ばっちと目が合い一瞬にして蓮華の顔が紅潮する。
動悸が激しくなり堪らず視線を逸らすかと思いきや
「……楽しいですね。今日は私にとって大切な時間になりますた(……あぁ、大切な時間って……言っちゃった……どうしよう……本当の気持ちだし……)」
蓮華はにこぉと笑った。多少緊張で声が震えながらも鋭峰への想いを込めて。
「……そうか。私も今日は大切な時間となるだろう。君のおかげでよい時間を過ごす事が出来たからな」
鋭峰はいつもの淡々とした口調で答え、弁当を口に運んだ。
「はい!(……大切な時間……団長に楽しんで貰えてよかった……想いが叶うのが一番嬉しいけれど……団長と共にこうして時間を過ごす事が出来て幸せ……これからも団長のために頑張る)」
蓮華は元気な返事をした。恋し慕う鋭峰をこれからも支えていく事を誓いながら。
蓮華と鋭峰の二人だけのまったり鉄道の旅はまだ少し続いた。