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シャンバラ宮殿へ



「今年の公務終了、お疲れ様ー」
 年の瀬も迫ったころ、シャンバラ宮殿の展望レストランで、酒杜 陽一(さかもり・よういち)はいつものように、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)とその他大勢をねぎらっていました。
 今日は、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)も一緒ですが、所詮はその他大勢、おまけその4です。その1にもなれないところに、哀愁が漂います。
「ううーっ」
 そんな、酒杜美由子は、ぼーっと酒杜陽一と高根沢理子のキャッキャウフフカップルを、アジの干物のような目で睨みつけています。
 だいたい、目の前にいるリア充とか、その側で警備をほったらかしているリア充とか、そういう者たちのおかげで、どれだけのぼっちが淋しいクリスマスを過ごしているのかと……。思わず、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)の肩をポンポンと叩きそうになりましたが、その気になればあっちは引く手あまただと気がついて、仲間に入れてやるのはやめにしました。
 だいたいにして、皇 彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)だって、将来どうなるかは分かりません。どうせ、若いときの恋は熱病です。そうに決まっています。何年かして、同窓会とかそんなので、お互いの旦那と奥さんの写真を見せあいっこするに決まっています。決定しました。
 とりあえず、隣の席に同伴させてもらっているイベント仲間のパラミタペンギンたちや特戦隊たちに、じゃんじゃん焼き芋を食べていいとささやきました。どうせ、酒杜陽一の支払いです。
 そんなことにはいっこうに介さず、酒杜陽一は高根沢理子と楽しく会話していました。滅べ。
「そういえば、理子さんの将来の希望って、パラミタ諸国漫遊なんですよね」
 以前聞いたラジオ番組のことを思い出して、酒杜陽一が高根沢理子に訊ねました。
 思わず、セレスティアーナ・アジュアが顔をひくつかせます。
「うーん、まあ、希望は希望ということで、実現の可能性はないからねえ」
 残念そうに、高根沢理子が言いました。
 さすがに、高根沢理子の立場では、それは限りなく不可能に近いです。それができるのであれば、さっさと酒杜陽一と結婚することも可能なわけですし。
「誰かが、実現させてくれるのを、地道に待っていることにするわ」
 そう言って、高根沢理子が酒杜陽一をチラリと見ました。
 この時期になると、高根沢理子に初めて思いを告げたころのことを思い出して、酒杜陽一の気持ちが新たになります。なんでもしてあげたいのは本心です。とはいえ、酒杜陽一としては、高根沢理子をさらって逃げるというのは、選択肢の一つではありますが、一番現実味のない一つでもあります。さすがに、パラミタと日本をすべて敵に回して逃げ切れる自信はありません。気合いだけであれば十分あるのですが、現実を見ないで実行するのは愚かです。
「それにしても、一緒に行く人たちも大変よねえ」
 そう言って、酒杜美由子がチラリと皇彼方とテティス・レジャの方を見ました。何か、勘違いしている気もします。現実逃避でしょうか。
「まあ。諸国漫遊なんて、私たちには、まったくの別世界でもなければ無理な話であろうよ」
 ボソリとセレスティアーナ・アジュアが言いました。その言葉に、酒杜陽一と高根沢理子が目を輝かせます。
「新しいフロンティア。いいかもしれないね」
 新しい可能性に、二人は心をはせるのでした。