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クリスマスへ



「みんな、猫ゆる族なんだよねぇ。会うのが楽しみだなぁ」
 空京商店街のメインストリートを、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)と連れだって歩きながら、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が言いました。
 おりしも街はクリスマス。「クリスマスケーキ最後の一個だよー」という元気な声も飛び交っています。
 今日、これからマティエ・エニュールの御両親と会うのです。
 先だって、マティエ・エニュールがカレーの動画で有名になったことで、それを見たマティエ・エニュールの両親と連絡がとれたのです。長らく音信不通でしたから、ある意味青天の霹靂です。
「し、失礼のないようにしてくださいね?」
 思いっきり緊張しながら、マティエ・エニュールが言いました。自分だって、久方ぶりに会うのです。初めて会う曖浜瑠樹がどんな印象を持たれるかは、とっても大事なことなのでした。だって……。
「それは、マティエだって。だいたい、この前までは、カレー色だったし……」
「それは、言わないでください」
 あのときのことを思い出して、マティエ・エニュールが顔を赤らめました。とは言っても、着ぐるみなのでよくは分かりませんが。
「無事に白に戻れたんだから、喜んでいいと思うなぁ。オレは白色マティエの方が好きだねぇ。うん」
 言ってしまってから、曖浜瑠樹が急に照れて赤面しました。
 以前、自分の隠されていた想いを自覚した曖浜瑠樹は、マティエ・エニュールに告白しました。突然それを思い出してしまったのです。でも、まだ、ちゃんとした答えは聞いていません。
「す、好きって…」
 それは、マティエ・エニュールも同じようでした。思い出してしまったら、もう、答えないわけにはいかないじゃないですか。
「りゅーき……。ず、ずーっと幸せにしてくれないと許しませんからねっ!」
「……それ、OKってことかねぇ」
 ドキドキしながら聞き返した曖浜瑠樹に、マティエ・エニュールがこくりとうなずきました。
「だから、頑張ってくださいね」
 そうでした、これから御両親に会うのです。もしかすると、「お嬢さんをボクにください」と言わなくてはならない?
「ま、任せておけ!」
 そう言って、右手と右脚を一緒に出す曖浜瑠樹でした。

    ★    ★    ★

「あは、お買い上げありがとうございます」
 洋菓子屋さんの前の特設ワゴンで、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が最後のクリスマスケーキを曖浜瑠樹に手渡しました。
「いいクリスマスをー」
 エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が、ニッコリと営業スマイルを浮かべました。
「気に入ってくれるかなあ」
「甘い物大好きだと思う……多分。だから、大丈夫」
 ちょっと心配げな曖浜瑠樹に、マティエ・エニュールがそう言い、二人はクリスマスの雑踏の中へと消えていきました。
「やったあ、完売だよ」
「お疲れ様ー」
 うーんっとのびをする布袋佳奈子の隣で、エレノア・グランクルスがテキパキと撤収を始めました。
 ノルマを売り切ったので、今年のアルバイトも終了です。ありがたくバイト代をいただくと、近くの喫茶店に入って一休みすることにしました。だったのですが……。
「あーあ、最後のお客さんまで。なんで、みんながみんなカップルなわけ? 来年は高校も卒業だっていうのに、私には彼氏のかの字もいないんだよ。これっておかしいよね」
「まあまあ」
 喫茶店に入るなり、止めどもなくしゃべりだした布袋佳奈子を、エレノア・グランクルスがなだめました。
 とりあえず、ちょっと贅沢にクリスマスディナーコースを頼んで、布袋佳奈子の聞き手を務めることにします。
「それは、今年はお仕事でいろいろと忙しかったけどさあ。世界だって救ったし。でもね、そんだけいろいろしたなら、出会いだって一つや二つあってもいいわよね。ねっ、ねっ?」
「それはその通りだけど、まあ、コントラクターが必要とされるときって、いろいろ困ったときじゃない。私たちの美貌に気がつくだけの余裕がないのよ」
「作ってよ、余裕!」
 エレノア・グランクルスの言葉に、布袋佳奈子がドンとテーブルを叩きました。だから、その余裕を作る相手がそもそもいないわけでして……。
「まあ、これから卒業するまでは少し時間もあると思うし、普通の学園生活を送ってれば、学生最後の出会いぐらいあるかもよ」
「最後言わない」
 それは不吉だぞと、布袋佳奈子がチッチッと指を振りました。
「まあ、心機一転、来年は何か起きるかもしれないし、今まで通り自分らしくするしかないかなあ。変にいい子を装っても、それを気に入られたら、ずっとそうしてなくちゃいけないしね」
 自然体が一番と、布袋佳奈子が言いました。
「そうね。それこそ、彼氏を見つけるために街にでかけてもいいんじゃないかなあ。彼氏と街にでかけるより前に、そっちの方が先だと思うよ。何ごとも、一歩踏み出してみないことには始まらないものね」
「じゃあ、大晦日に空京神社で年越しナンパだね」
 エレノア・グランクルスの言葉に、布袋佳奈子が何やら壮大な計画を思い描きます。
 いずれにしても、二人の未来は前むきでした。
 ディナーを綺麗に平らげて、お店を出るころには、夜もすっかりくれていました。空からは、ちらほらと白い物が舞い始めています。
「ホワイトクリスマスになるといいなあ。サンタさん、ステキな彼氏をプレゼントしてください」
 白い雪に拝む布袋佳奈子を見て、エレノア・グランクルスがクスクスと笑いました。