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そして、蒼空のフロンティアへ

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 さて、残念な新婦側とは対照的に、新郎の坂下鹿次郎の方は、両親を初めとした親戚がちゃんと揃っています。他にも、パートナーである姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)たちも来ています。
 姉ヶ崎雪は、同じゲルバッキー制作の剣の花嫁ということで、エメネア・ゴアドーとは姉妹関係にあたるはずですが、坂下鹿次郎のパートナーということもあって、花婿側の招待客として座っています。
 気合いを入れて振り袖など着てきましたが、ちょっとゲルバッキーの姿を見て、あちら側に座らなくてよかったかもと内心思っていました。まあ、犬ですから、しょうがないとは言え、何も着ていません。本当にただの犬です。つきそいの吉井真理子は仕事用のスーツ姿でした。きっと二人とも高い礼服など持っていないのでしょう。それ以前に、吉井真理子には犬に服を着せるという趣味がないのかもしれません。ある意味、健全なことです。
 とりあえず、お友達枠である立川るるを見ると、凄い勢いで料理を食べています。これは、負けてはいられません。自前のラスター菜箸を取り出すと、姉ヶ崎雪が隣に座る岡田 以蔵(おかだ・いぞう)の分まで料理を食べ始めました。
「待て、それはわしの料理……」
「えっ、なんでございますか? 確か、以蔵殿には、招待状は行ってないはずでは……。よって、この料理はわたくしの分だと申します。ええ、このテーブルの料理すべてがです」
 きっぱりと、姉ヶ崎雪が、岡田以蔵に言いました。
「何言ってやがる、パートナーは家族も同然。招待状がなくても一緒に祝うっていうのが高知人というものだ。仕方ねえな、とりあえず飲むか、なあ、アカガネ
 そう言うと、岡田以蔵が、隣の席に座っている巨大カブトムシのアカガネと酒を酌み交わしました。
「まあ、かなり突然の式だったので、いろいろと不備はあったと思うが、その、やはり、カブトムシまで通したのは間違いだったのだろうか……」
 それを見て、山中鹿之助が真面目に考え込みました。
 姉ヶ崎雪に手伝ってもらって招待状は出したのですが、あまりに急だったせいで十二星華を初めとするほとんどの招待客は間にあわなかったようです。
 佐野 実里(さの・みのり)セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)らにはちゃんと招待状を出したはずなのですが……。
 立川るると御人良雄にはエメネア・ゴアドーが直接招待状を書いていたようですが、まあ、あまり内容は知りたくないような気がします。のほほんとした御人良雄はいいとして、立川るるの様子を見れば……、ああ、文面は想像したくありません。
 それにしても、招待状がなくとも、パートナーである岡田以蔵を通したのはまだいいとしても、カブトムシまで招待客だと認定してしまったのは、やはり、やり過ぎだったのでしょうか。とはいえ、新婦側の招待客に犬がいるくらいですから、通してもいいと思ったのですが……。
 まあ、もう悔やんでも手遅れです。岡田以蔵と仲良く酒を飲んでいますから、いいのでしょう。山中鹿之助は、そう思い込むことにしました。
 そんなこんなしているうちに、やっとお色直しの終わった新郎新婦が披露宴会場に現れました。
 かなり遅い登場ですが、なんでこんなに遅れたのかは、山中鹿之助としては思い出したくもない悪夢の結果なのでした。
「拙者、もうエメネアさんしか見えぬでござる。もう今までのような苦しい生活など送らなくてもよいよう、幸せにするでござるよ!」
 式の始まる前からもう舞いあがっていた坂下鹿次郎は、式の最中もテンションマックス状態でした。
 緊張でかちこちのエメネア・ゴアドーをだきしめたり、白塗りの顔にキスして化粧を台無しにしたりと、三分に一回親戚に叱られるという状態です。
 極めつけは、なんとか式が終わって、記念写真を撮る段になって式場の外に出たときのことです……。
 場所が空京神社の中なので、当然あちこちに巫女さんが働いています。結婚式場のバイト巫女さんまでいるので、もう、この近くの巫女密度はマックスです。
 もともとエメネア・ゴアドーはゴアドー島の巫女だったわけで、普段の姿は巫女装束の羽織袴です。もしかすると、中身ではなく、そこが結婚のポイントだったのかもしれませんが……。
「み、巫女さんだらけ! ここは極楽浄土でござるか!?」
 巫女さん、イコール、エメネア・ゴアドーとしてしか脳内変換できない身体となってしまった坂下鹿次郎が、暴走してバイトの巫女さんにだきつこうと走りだしたのです。
 もちろん、そんな狼藉は許さないと、姉ヶ崎雪が、可愛い根付けが山盛りついた手榴弾を投げつけたのでした。
 新婦を未亡人にはできないと女王の楯で耐え抜いた坂下鹿次郎でしたが、さすがにボロボロです。なんとか山中鹿之助がリカバリして着替えさせましたが、そのために遅れてしまったというわけでした。
「なんで、花嫁さんが可愛い人なの? これは、何か、間違ってる……」
『マサニ、事実ハ小説ヨリ奇ナリヨネ』
 エメネア・ゴアドーの花嫁姿を見て、橘カナがびっくりしました。普通ありえません。
「男を見る目がないのか、そういう趣味なのか……」
『蓼食ウ虫モ好キ好キッテやつネ』
 腹話術人形の福ちゃんと会話しながら、橘カナが本音をダダ漏れさせました。
 しかし、これで坂下鹿次郎も、誰彼構わず巫女巫女要請することもなくなるだろうと思って、素直にお祝いします。まあ、後で、坂下鹿次郎の巫女さん無差別突撃の話を聞いて、心底巫女服を着てこないでよかったと思うわけですが。
 まあ、いろいろありましたが、披露宴は進んでいきました。
「それでは、新郎の友人を代表しまして、橘カナ様、御祝辞をお願いいたします」
「あっ、何か言うんだったっけ」
 司会に呼ばれて、橘カナがマイクの前に進み出ました。一応、こんなこともあるだろうと、用意はしてあります。
「カナでーす」
『福チャンデース』
 腹話術人形と一緒に、橘カナが自己紹介しました。なんだか、余興の漫才みたいです。
「坂下さんとはナラカエクスプレスの駅開発で一緒でした」
『あいつ、ならかニ巫女はーれむトカ形成シテタワネ!』
「自らの夢を実現する力のある人と言えなくもないわね」
『ヤッテイイことトだめナことッテイウノガアルけどネ!』
「まぁまぁ、福ちゃん。とりあえず、そんな彼を花嫁さんは大切にしてください」
『周囲ニ迷惑カケナイヨウ見張ッテオクノヨ!』
「どもでしたー」
 お辞儀をして、橘カナが席に戻っていきます。やっぱり、余興でした。
 その後、エメネア・ゴアドーが、分かれろ切れろのたっぷり入った歌を歌ったり、御人良雄がまったく関係のない自分史の紹介をしたり、岡田以蔵が酒を勧めまくって招待客のほとんどを潰したりしましたが、無事……ええっと、死人が出なかったはずなので、多分、無事、坂下鹿次郎とエメネア・ゴアドーの結婚式は終わったのでした。

    ★    ★    ★

「なんだか、騒がしいわね……」
 空京神社の表参道を上りながら、コウジン・メレがつぶやきました。一時期、憑依型イレイザー・スポーンのミスケオーに取り憑かれていましたが、現在は元通りになっています。長いホワイトプラチナの髪をした、ちょっと勝ち気な少女に戻っています。
 空京の小高い丘の上にある空京神社の参道は、長い長い上り坂です。
 途中、朽ちた鳥居が注連縄で封鎖されていたりと、幾本か横道に入る道もあります。そういった分かれ道は、合祀された他の神社へと繋がっている物がほとんどでした。
 坂を登り終えて大きな鳥居をくぐると、空京神社の境内に入ります。正面奥には本殿があり、いくつもある分社などへは、案内の立て看板がありました。
 ここには、喧嘩神輿で優勝した雪だるま王国神輿白熊神輿曳き山笠で優勝した褌姿の桜井 静香(さくらい・しずか)をかたどった百合園山笠も奉納されています。
 それらを見学した後、コウジン・メレは福神社の方へむかいました。ここは、福の神 布紅(ふくのかみ・ふく)を祀った小さな神社です。
 長らくイレイザー・スポーンに取り憑かれたことのあるコウジン・メレですので、ここでお祓いをしてもらおうということのようです。
 とはいえ、福神社は、鏡餅が暴れたり、七草が暴れたりという前例がありますから、大丈夫かなと言う感じはありますが。
「どうか、来年はいい年でありますように。翁様を始め、みんなに迷惑をかけないですみますように」
 そうお参りすると、コウジン・メレは本殿でお祓いを受けていきました。