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そして、蒼空のフロンティアへ

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    ★    ★    ★

「カードねえ。地球に、そんな風習があっただなんて……」
 セレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)に空京へ連れてこられたシェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)が、まだちょっと納得がいかないようにつぶやきました。
「ただの風習なんだから、気楽にいきましょ」
 セレス・クロフォードが、そう言いました。年末年始の買い物にかこつけて、ヒラニプラから空京へとシェザーレ・ブラウンを連れ出したわけです。ついでに、クリスマスカードや年賀状を例に出して、この時期は実家にカードを出すという風習をシェザーレ・ブラウンに納得させたのでした。
 もともとは、シェザーレ・ブラウンが、親兄弟と喧嘩して家を飛び出したのがいけないのです。なんでも、誰が家を継ぐかという問題でもめたということらしいのですが。
 それはそれとしても、話をよく聞けば、もう百年も前のことだと言うではないですか。いいかげん、仲直りしてもいいのではないのでしょうか。
 そう思って、一度ぐらい帰省するように勧め続けていたセレス・クロフォードだったのですが、最初のうちはシェザーレ・ブラウンにガン無視されていました。ようやく、最近になって、「そのうち帰るわよ」という程度には軟化してきたわけですが。
「まあ、カードぐらいなら」
 完全に納得したわけではありませんが、儀礼程度なら、実家にとやかく言われることもないでしょう。まあ、シェザーレ・ブラウンとしても、いいかげん帰りたいというのが本音なわけですが。
「で、カードから返事が来たら、――旅行のついでに立ち寄ったって設定で、一緒に里に行ってくれる?」
 シェザーレ・ブラウンのつぶやくような言葉に、セレス・クロフォードがうんとうなずきました。
 そのときです、人混みを突き飛ばすようにして、誰かが走っていきました。
「どろぼー! ひったくりよー!」
 叫び声が聞こえます。どうやら、年末の人混みに乗じて、ひったくり番長が悪事を働いたようです。
「追いかけるわよ」
 セレス・クロフォードが叫びました。
 すかさずギターケースの中に隠し持っていた空飛ぶ箒を取り出して、シェザーレ・ブラウンがそれに飛び乗ります。そのまま、空から番長を追っていきました。
「ちょっと、これ貸して」
「あっ、ちょっと……」
 そばに自転車を止めようとしていた少年を見つけると、セレス・クロフォードがそれに飛び乗りました。そのまま、ひったくり番長を追いかけます。
「その先、右!」
 頭上で、シェザーレ・ブラウンが叫びました。セレス・クロフォードが指示された方に車道を突っ走ると、人混みを避けて道路端を走るひったくり番長が見えます。
「えーい!」
 そのままのばした左腕でひったくり番長の後頭部を強打して倒すと、セレス・クロフォードが自転車から飛び降りました。乗り手を失った自転車が、横倒しになりながら道路を滑っていきます。
 上空にいたシェザーレ・ブラウンが地上に下りてきました。その間に、セレス・クロフォードは、ひったくり番長を横四方固めで押さえ込んでいました。
 じきに、空京警察が駆けつけてきます。先頭に立つのは、歳末特別警邏にあたっていたエレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)です。この間のオリュンポスの件もあるので、空京は密かに特別警戒中でもあるのでした。
「はい、こいつがひったくり犯よ」
 セレス・クロフォードが、空京警察にひったくり番長を突き出しました。
「それにしても、セレス、はしたないわよ……」
 地面に寝っ転がってひったくり番長を取り押さえたことを、シェザーレ・ブラウンが言いました。
「仕方ないじゃん」
 必要だったのよと、セレス・クロフォードが言い訳します。そこへ、また空京警察が戻ってきました。
「表彰状でもくれるのかしら?」
 何だろうと、セレス・クロフォードとシェザーレ・ブラウンが思っていると、ボロボロになった自転車を見て、少年がセレス・クロフォードを指さしました。
「おまわりさん、この人です!」