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およそ17年後――2041年


 シャンバラ教導団中尉セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 2024年には二十二歳だった彼女たちも、今ではパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)共々、アラフォー(三十九歳)になっていた。というのに、外見的にはまだ二十五歳くらいの美人にしか見えない。
 黙っていればモデル並みの美女、でも口を開けば相変わらず……大雑把・気分屋・いい加減なのは変わらなかった。さすがにアレな格好はビーチやプール以外ではしなくなったが。
 そんな彼女も、順調にキャリアを重ね、然るべき立場になっていた。
 いいことのはずなのだが、昔のように前線に出れないのはストレスのようだ。
「中佐になった辺りから段々戦場で暴れられなくなるし」
 と、日々部下にぼやいている。
 今日も今日とて机に座って書き物をするという実に性に合わない作業をしていると、机の上に新たな書類が置かれた。
「あー、また書類……勘弁してよ……」
 うんざりした顔で見上げると、パートナーであり、大切な人であり、セレンフィリティの専属事務員と化しているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が立っていた。
 二十五歳位の美人にしか見えないが、強いて言えば彼女の硬質な美貌はより一層研ぎ澄まされた感じになっている。可愛らしさが残っているセレンフィリティとは対照的だった。
 セレアナはその美貌に笑みを浮かべると、
「書類仕事が絶望的にダメなのは私が一番知っているわ」
「ええと、じゃあこれ何?」
「百合園女学院からの招待状みたいよ」
 セレンフィリティの、書類に手を伸ばす緩慢な動作は急に本来の速度を取り戻すと、すぐに封を破っていた。
「書類じゃないと判ったら……現金ね」
「今読むわよ。何々、これ、お茶会の招待状じゃない」
 セレンフィリティは記憶を手繰る。
(そういえば、百合園のお茶会、最後に行ったのは二十九歳の中佐の時だったなー)
 行ってみようか、どうしようか。
 日付を確認すれば、その日は会議の予定が入っている。
(まぁ、そんなのは絶賛スルーよ。ああ、もうみんなすっかり大人になったんだろうな)
 もう行くつもりでセレアナを見上げると、それは顔に出ていたのだろう。彼女は苦笑を浮かべながら、いいわよ、と頷いた。


 そうして、二人は十年ぶりの百合園女学院の面々との再会を果たした。
 しかし桜井 静香(さくらい・しずか)もまた二人に劣らないほど――いや、美容に必死とも思えないのに、あの美少女っぷりを未だに維持しているのは大いなる謎だった。
 そんな静香も、二人も変わったねー、でも変わらないね、と驚いたこと三度。
 一つ目は、露出過剰だった二人が上品だが堅苦しくはないワンピース姿だったこと。
 二つ目は、二人の容姿がまだ若々しかったこと。
 三つめは……、
「そうなのよ、それでね、任務の時に……」
 セレンフィリティがお喋りで言葉を出すのと、スコーンやらヌガーやら、トフィーやらのお菓子を口に放り込むのを秒単位で切り分ける離れ業に、である。
(相変わらずね、全然変わってないじゃないの)
 これにはセレアナも苦笑したが、これは、いつものことだったなと思い至る。
 セレンフィリティの様子をこんな風に見てきて、既に二十年以上が過ぎた。セレアナは、きっとこれからもそんな関係でいられたら、と思う。
 視線に気付いたのか、セレンフィリティがセレアナに顔を向ける。それは未だどこか無邪気だ。
 ――ああきっと、ずっとセレンフィリティは変わらずに食欲魔人でいい加減で無邪気で。
 ――これからもたぶんセレアナは苦笑を浮かべながらどこにでも付き合ってくれて。
 そうしてこんな風に時間が過ぎていくのだろう。
 二人は互いの顔を見合わせて、互いに微笑みあった。