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王子様と紅葉と私

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【王子様とは?】

 秋のとある日、堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)が空京の街中を歩いていた。
「で……何を考えてるの、ランダム?」
 どことなく上の空なランダムの様子が気に掛かった一寿が訊ねる。
「一寿、「王子様」って何だ?」
 ランダムの質問に、一寿は首を捻った。
「王国において、王の息子。王位継承権者を指すことが多い。……こうじゃないかな?」
「……ちょっと違う気がする」
 今度はランダムが首を傾げた。
「女の子には、それが目の前にあらわれれば、寂しいのなくなると聞く。本当なのか?」
「うん、まあ、世間で「私の王子様!」とかって女の子たちが言ってるのとは、ちょっと違うかもしれない」
 一寿は黙り込んで、しばらく考えを巡らせた。
「未婚の少女、というのを考えてみよう。彼女は生まれ育った『家庭』という王国の中では、お姫様だ。囚われのお姫様だ」
 大切にはされているけれど、王国を統べる国王や女王の立場の人からの拘束には逆らいえない。
 自由になるためには、生まれ育った王国ではない場所を、新しく見つけるか、作らなければいけない。
「……ただ、自分が受身で解放されるのを待つだけ?」
「そうなるのかな」
「それは努力不足だと思う。国王や女王からの束縛が嫌なら、自分でいやだ、と抵抗して暴れて振り切って、そうして自由になればいい」
「一人で? それは寂しいし、王様がお姫様を心配するあまりに、余計に王国から出してはくれないよ」
 一寿の例えを聞いていたランダムが、ますます難しそうな顔をした。
 どう説明したものか、と一寿は口を開く。
「脱出するには、だから、新しい国の王になりうる王子様が必要とされる……ってことじゃないかな?」
「自分一人では自由になれない女の子なのに、王子様が現れればそれでいいのか?」
 そもそも「王子様」は、いつも自由なままでいるのか?
 囚われの王子様なんかもあるんじゃないのか?
 と、ランダムは様々な疑問をぶつける。
「『僕のお姫様』を待ってる王子様とか、ないのか?」
「中には、そういう人もいるかもしれないね」
 ひとしきり王子様について考察をしてきたが、ランダムはまだ上の空だ。
「でも、ランダムはもう自由だろう?」
 一寿がそうランダムに訊ねた時、誰かが二人を追い抜いて横道に入っていった。
「……どうだろう……」
 黙り込んだランダムは、横道に曲がっていった少女……ヴァレリア・ヴァルトラウテの後ろ姿を一瞥した。



「……という話を先ほど街中で聞きましたの」
 空京にあるミス・スウェンソンのドーナツ屋で、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高原 瀬蓮(たかはら・せれん)、ヴァレリアはガールズトークに花を咲かせていた。
「王子様に出会うと寂しくなくなるのだそうですけれど……本当なのでしょうか」
「そうかもしれないね」
「一緒にいてくれて、楽しく過ごせるよね!」
 隣のテーブルでは、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)がドーナツをつまみながらコーヒーを飲んでいる。
「美羽ちゃんは、王子様ってどんな人だと思う?」
「好きになった人、かな?」
 美羽の言葉を聞いて、隣のテーブルで、コハクが少し照れたようにコーヒーを口にする。
「瀬蓮ちゃんは?」
「うーん……」
 瀬蓮は首を傾げた。
「アイリスかなあ?」
 今度はアイリスが少し笑った。
「僕たちが王子様って……光栄だけど、ちょっと恥ずかしいね」
 コハクの言葉に同意するように少し微笑みを浮かべて、アイリスはドーナツをつまんだ。
「ヴァレリアは、どう思う?」
「どうなのでしょう……」
 難しげな顔をして、ヴァレリアは首を傾げる。
「わたくしのことを救いに来てくださった方、だと思っておりましたけど……そうではないのかもしれないとも、思い始めておりまして」
 ヴァレリアは黙り込む。忍者屋敷での騒動以降、ヴァレリアは自分の好きな人とは何かを改めて考えるようになっていた。
「でも、そうですわね。きっと、好きになった人が本当の王子様なのですね……」
 どこか少し物憂げなヴァレリアに、美羽と瀬蓮は顔を見合わせた。
「そう思ってみんなのことを見てると、きっと好きな人はこの人だ、って気づくと思うよ」
「うん! いろんな人と遊んだりしてるうちに、王子様見つかるんじゃないかな?」
「そうですかしら……いえ、そうですわね!」
 美羽たちに励まされて、ヴァレリアはいろいろな人と遊びにいこう、と決意した。
 そんなヴァレリアを、コハクとアイリスも静かに見守っているのだった。