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王子様と紅葉と私

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王子様と紅葉と私
王子様と紅葉と私 王子様と紅葉と私

リアクション

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とヴァレリアは、ディステニーランドへ三人のグループデートに来ていた。
「彼女はまだ本当の恋愛を知らない。なので複雑な事はさておき遊びに行こうと思う」
 ヴァレリアにプロポーズされて暫くの後、そう提案したのはダリルだった。
「そうだね。恋って何かなんてのは理屈じゃないもんね」
 と、ルカも納得して遊びに行く計画を立てたのだ。
「最近オープンした魔法映画の世界に行きましょう」
「楽しみですわ! 何があるのかしら」
 二人で盛り上がるルカとヴァレリアを、ダリルは見守るように微笑んだ。
 ルカたちは早速、魔法の杖屋さんに向かった。
「まあ、杖が飛んできましたわ!」
「自分だけの杖を選んで買えるのよ」
 ヴァレリアは目の前にある杖を手に取り、ルカも杖を手にした。
「わたくしはこれがいいですわ! ボコボコ具合が気に入りましたの」
 何やらふしくれだらけの杖が気に入った様子のヴァレリアは、杖を振って心底楽しそうに笑った。
「こっちには魔導書が並んでいますわね」
「お菓子なのよ! これも欲しいわね」
 ヴァレリアとルカはワイワイと盛り上がりながら、様々なお店やアトラクションを回った。
 迷路を彷徨った後は、お化け屋敷だ。
「まあ、素敵なお化けがたくさんいらっしゃいますわね!」
「素敵なお化けとはなんだ……」
 よく分からないことを呟くヴァレリアに、思わずダリルが首を捻る。
(あれ?)
 後ろを歩いていたルカはダリルがさりげなくヴァレリアの手を取ってエスコートしていることに気づいた。
「ああ、怖かったですわ!」
 お化け屋敷から出てきたヴァレリアは、満面の笑みを浮かべている。
「次はどこにいきましょう? あ! あの建物はなんでしょう?」
「これは映画の舞台の再現なんだ」
 ダリルが手元のHCを操作し、実際の映画のシーンを空中投影する。
「わあ……」
「なんだかガイドみたい」
 ヴァレリアは映像に見入っていると、隣でルカが笑った。
「あっヴァレリア! あそこに美味しそうなクレープ屋さんがっ」
「まあ! お腹も空いてきましたし、食べたいですわ」
 くいくいとヴァレリアたちをクレープ屋に誘導させるルカ。
「美味しそう! わたくしはこれが良いですわ!」
 ダリルが何も言わずに財布を出し、三人はクレープを食べた。
「グループデートも良いですわね! ちょっと急ぎ過ぎていたかもしれませんわ」
 ヴァレリアはすっかり楽しんだ様子で、クレープを食べている。
「沢山の人と出会う中で一緒に居たいと感じる相手の手を取る……そういうものだと思う」
「そうですわね……」
「なので分からないうちは焦らなくても良いんだよ」
 ヴァレリアに笑いかけるダリル。ヴァレリアはふと、空を眺めた。
「わたくしのことを好きになって下さる方はいらっしゃるのでしょうか……」
「大丈夫、ヴァレリアは素直だし可愛い。とても魅力的だよ」
 ヴァレリアは思わず顔を赤らめて黙り込んだ。
 ダリルは微笑んだまま、ヴァレリアの目の前にヒョイと小さな箱を出した。
「?」
 ヴァレリアが覗き込んだ瞬間……ポン! と箱から花が飛び出た。
「あら……びっくり箱でしたのね」
 ヴァレリアはそう言って、心底楽しそうに笑った。

 そうこうするうちに、すっかりあたりも暗くなっていた。そろそろ、パレードと花火の時間だ。
「本当に、今日一日とっても楽しかったですわ!」
「うん! また来ようね!」
 ルカとヴァレリアは手を取り合って約束し、ハグをする。
「ああ俺も楽しかった。久しぶりに若者の気分を味わえた。ヴァレリアのおかげだな、ありがとう」
 そう笑うダリルに、ヴァレリアが不思議そうな顔をした。
「ダリル様も若いのではありませんの?」
「……20才そこそこに見えるだろ? 永い間、肉体だけは封印されていたからな」
「製造自体は古王国時代なんだ」
 そういって目を伏せるダリルを、ヴァレリアはじっと見つめた。
「わたくしと同じ時代なのですね」
 親近感が湧いたのか、ヴァレリアはにっこりと微笑んだ。
 そんなヴァレリアの様子を見て、ルカも笑顔になる。
「これからもずっと仲良しさんで居ましょう! 私、ヴァレリアに会えて良かったわ!」
「ええ! わたくしも、こんな風に楽しいことがたくさんあると教えてもらえて、とても嬉しいですわ!」
「そうだ、記念写真も撮りましょう!」
 ワイワイと騒ぎながら、ルカたちはその後も目一杯楽しんだ。
 その日は、ヴァレリアにとってもとても印象深い思い出の日になったのだった。



 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)に誘われて、ヴァレリアは空京で行われる美術展を訪れていた。
 絵画やオブジェ、コンピュータアートなど、様々な展覧会が開かれている。
「まあ、様々な展覧会が開かれておりますのね」
 ヴァレリアは現代美術展の案内を見て、弾んだ声をあげた。
「この一年、物珍しいものばかり目について、ゆっくりと芸術を楽しむ機会があまり取れなかったものですから……是非楽しみたいですわ」
「それは良かったよ」
 クリストファーは安心したように、ヴァレリアに笑顔を見せた。
 まず三人が向かったのは、現代絵画の展覧会だ。
 クリストファーとクリスティーは、美術品についての簡単な解説をしながらヴァレリアとともに展覧会の鑑賞をした。
「古典芸術展も開かれているんだ。こちらにも寄っていこうか」
「あら」
 ヴァレリアは、古王国時代の流れを汲む彫刻芸術展の案内に気付き、はたと足を止めた。
「わたくし、この作品を作る彫刻家の方が好みでしたの!」
 封印される前の記憶に引っかかるところがあったのか、ヴァレリアは嬉々としてその展示を回った。
 クリストファーとクリスティーの話を聞きつつ回ったヴァレリアは、しばらく前まで憂鬱だった気分もすっかり晴れたようだ。
「クラシックコンサートも行われているのですわね」
 展覧会を見て回った後、三人はコンサート会場に向かった。
 心地良さそうに音楽を楽しむヴァレリアを横目で見て、クリストファーたちは黙ってアイコンタクトを取った。
「すっかり暗くなりましたわね」
 コンサートが終わると、程よいディナーの時間だ。
 クリストファーの取った夜景の映える部屋に移動した。
「本日の締めの芸術を披露するよ」
 クリストファーが防音の部屋を選んだのには、理由があった。
 クリストファーとクリスティーがリュートを手に、ヴァレリアに向き合った。
 二人が歌い出したのは、キロスや仲間たちが、眠り姫であったヴァレリアに辿り着くまでの叙事詩だ。
 吟遊詩人として、ヴァレリアの物語をヴァレリアに納めてもらうのが務めだと考えたクリストファーたちの、編んだ歌。
 クリストファーとクリスティーの二人の歌を、ヴァレリアは身を乗り出して聞き入った。
 気流コントロールセンターとアンバー・コフィンの伝説からヴァレリアの目覚めまで……その流れを汲む歌。
 歌を聴き終えたヴァレリアは、拍手をして静かに俯いた。少し涙ぐんでいる。
「……目覚めてからある程度の話は伺いましたが、まだ整理しきれていないこともありました。
 改めてわたくしは、幸せ者なのだと思いましたわ」
 タイミングよく、ルームサービスの食事が運ばれてくる。
「もう少し詳しく、いろいろなお話を聞かせてくださいませ」
 クリストファーとクリスティー、ヴァレリアは、眠り姫救出の話をしながら、和やかに会食を楽しんだのだった。