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リアクション
『6.馬鹿なのは』
地下要塞のコンピュータールーム。
フェクダ・ツァンダは、パートナーのヴコール・アニシンを伴い、長時間そこに籠っていた。
白騎士の指輪を持つ錦織百合子を連れてきた崩城亜璃珠は、その部屋で百合子をファクダに引き渡した。
「ふん、少しは使えるようだな。望み通り処刑ではなく、別の使い方をしよう」
「ええ。人質として適当に大切に扱ってちょうだい。動揺する相方の様子が見れなくて残念だわ」
すぐに百合子は手を後ろに回され、きつく縛られる。
「お疲れ様」
「ご苦労様」
ファビオ・ヴィベルディが亜璃珠に声をかけた。彼の隣には、マリザ・システルースの姿があった。マリザはパートナーの瓜生コウの行為を謝罪し、フェクダ達に忠誠を誓っていた。
ファビオは帯剣しているが、マリザは一切の武具や道具を持っていない。
マリザはまだ信用を得られてはいない。この部屋では魔法も使う事が出来ないため、彼女が反意を持っていても何も出来ないはずだった。
百合子も同じだ。武具は勿論、携帯電話さえも持たされていなかった。
亜璃珠を縛っていた騎士の指輪は、リヴィアにより既に回収されている。ファビオもすでに指輪を回収されていると思われた。
リヴィアは、異空間からのエネルギーを転送するために、エネルギールームにいるらしい。
「なん、だと……まさか、殺るとはな」
役目を終えて部屋から退出していく亜璃珠の耳に、フェクダの呟きが届いた。
フェクダがモニターに映像を映し出す。
(小夜子……!?)
かなりぼやけた映像だったが、映し出された人物は間違いなく、亜璃珠が良く知る人物だ。
彼女が百合園生を傷つけ、幼子を襲う姿だった。
「まあいい、いい絵が出来た」
フェクダは厳しい顔つきで言い、映像を記録し世界に送信する準備を進めていく。
「百合園の玩具がちょろちょろしてんなー。撃墜はやめた方がいいんだよな? シールドを強めておくか」
操縦席のような場所に座っているヴコールが、ハンドルを操作し出力を調整していく。
「初撃分のエネルギーの充電は完了してるぜ。ハエが増えないうちにやったらどうだ?」
「そうだな」
ヴコールにそう答えると、フェクダは百合子の顎に指を当て、彼女を自分の方へと引き寄せた。
「では、始めようか『白百合革命』を」
白い石が嵌められた、百合の指輪。
白騎士の指輪を嵌めている百合子の手を、フェグダはパネルの上にかざした。
室内のモニターに、読めない文字が浮かび上がる。
ブザーのような音が鳴り響き、ウィーンとモーターが稼働する音が響いてきた。
「貴様には、砲撃後に世界に向けて演説をしてもらう。指輪を集めてきたのは自分であると。
これまでの行為、そして今から行う百合園への攻撃は契約者――そう改革派の地球人の意志であると。
これは白百合団による、革命だとな」
「そうやってシャンバラを混乱させようというのですね。……言いませんと言いましたら?」
百合子の言葉に、フェグダはにやりと笑みを見せ、異世界にいる人々を、モニターに映し出して見せた。
「貴様らの邦人を一人ずつ、残虐な方法で殺していく」
フェグダは百合子を乱暴にヴコールの側へと連れて行く。
「あとはスイッチを押すだけだ。照準は百合園に合せてある」
ヴコールが百合子の手を引っ張った。彼女にスイッチを押させるために。
「ねえ、手紙はどうしたの?」
緊迫した状況の中。
突然、マリザがファビオに問いかけた。
ファビオは軽く反応するが、それどころではないというように、ヴコールを見ていた。
「ちゃんと読んであげなさいね」
彼の左腕を掴んで、マリザが言う。
ファビオがマリザに目を向けたその時。マリザはファビオが右腰にかけていた、剣を抜いた。
そして一閃し、風の刃を撃ちこんだ。
「うわっ」
刃はヴコールの腕を裂き、スイッチがついたレバーが破壊され、操作パネルが壊れる。
「貴様ッ!」
即、フェグダが剣をマリザに投げた。
「マリザ姉さん!」
ファビオがマリザを庇おうとするが、マリザはそれをさせずファビオを庇って剣をその身に受けた。
「死ねッ!」
動く方の手で、ヴコールが銃をとり、ファビオとマリザを撃つ。
「……」
その間に、百合子は顎をハンドルに当てて、シールドの威力を弱めていった。
「ぐあああああああああ」
ヴコールが突如叫び声を上げた。
彼の身体は何故か光に包まれていた。そして内部から爆発するかのように、身体が吹き飛ぶ。
同時に百合子に襲い掛かっていたフェグダも苦しみだす。
「……っ、私もそうなるのかしら」
亜璃珠はまだ近くにいた。
怖くないわけではないが。今しかない。チャンスは1度しかない。
サモンオリジンで変身しているドラゴンを本来の姿に戻す。
そしてドラゴンにエネルギー伝達経路を狙わせる。
「私達はただ開拓者としてこの地に降りて、大切な人達と共に刺激ある日々を送りたかった。
そしてそれに責任と誇りを持って行動してきたつもりだ」
フェグダと。そしてエネルギー室にいるリヴィアに亜璃珠は思いのたけをぶつけていく。
「それが契約者であり、百合園の生徒であり白百合団であり、同じヴァイシャリーに住む人間としての形だと思っていた」
ドラゴンの強力な一撃がコンピューター室の天井を砕いた。
「どんな崇高な意図があっても、それを勝手に取り上げようとする、他人の尊厳を否定しようとする行為に反吐が出る!」
崩れた天井が、エネルギーが部屋へと降り注いでくる。
「魔法が、使える……マリザ姉さん、しっかり……」
マリザに刺さっている剣を抜き、ファビオは必死にマリザを癒す。撃たれた為に彼自身も酷い怪我を負っていた。
「他に、やること……あるでしょ……」
マリザがファビオの手に触れ言うと、ファビオは苦しげに頷いて。
「撃たせるわけには、いかないんだ――!」
風の魔法を乱射して、部屋を破壊していった。
(ああ……本当に馬鹿な子なのは私ね……)
自分が恭順を示したことで、パートナーのコウは治療され、地球人達の部屋に移されたと聞いていた。
コウの姿を思い浮かべながら、崩れゆく部屋と一緒にマリザの意識も崩れ落ちた。
(撃ちなさい、白百合団)
百合子がティリアにテレパシーを送る。
そして、白百合団による砲台への攻撃が始まった。
『7.裏の世界の住人』
(うーん、さよちゃん間に合わなかったなぁ。リンちゃんの所在も不明だし)
アルコリアは、物陰に隠れたままふうとため息をついた。
一応安全な場所なようなので、とりあえず休息して回復してから考えようと、お菓子を食べてごろんと横になった。
(百合園を滅ぼす? エネルギー世界ってどこだろ? ここもどこなのかわからないし)
敵と思われるヴァルキリーの女の言葉や、熱い世界で見たメモを思い浮かべながら考えていく。
でも、だから。何をすればいいのか、どうすればいいのか。
むしろ何をしたいのかわからない。
アルコリアは、ピクニック感覚でダークレッドホールに突入しただけだから。
(うーん、叩き切ってから考えればいいか。
敵に何かを欲したって、足元見られるだけだし、ね……)
ここは静かで、心地良い空間だった。
瞼を閉じたアルコリアは、浅い眠りに落ちていった。
○ ○ ○
彼は『血の定めから逃れて、生きる』って言っていた。
だから帰ろう。パートナー達のところに。
こんなところで、死んじゃだめだよ……。
意識が戻ってから、随分時間が流れた。
最初の日と同じように毛布をかぶって演技をしながら、ゼスタはリンに尋ねる。
「準備が整った。お前はどうする?」
「……」
真顔で尋ねる彼の顔にリンは手を伸ばして、頬をつまんで、左右にみよーんと伸ばした。
ゼスタは眉を寄せ、怪訝な顔をする。
「残してくって言っても、ついていくし、ぜすたんに守られるんじゃなくて守りに来たんだよ」
リンがそう言うと、ゼスタはリンの手を振り払い、訳が分からないというように首を左右に振った。
「どうして『捨て身の刃』にならなきゃならないの? 理由がいまいちピンとこないんだけど」
「……仕事だから。あの女をやらなきゃ、誰かが――お前の友人や大切な人がいずれ死ぬ。失敗すれば俺が死ぬ。
俺は俺が利用されないために、俺の身体や記憶を渡さないために、自分を処分しなければならない。やらなきゃ、暗殺者が差し向けられて、殺される。それは俺の血縁者かもしれない」
あの女のことも事情も良くは知らないと、ゼスタはリンに言った。
「ただ、あの女の強さは分かる。万全な状態で正面から向かっていっても勝ち目はない。不意打ちで一撃で仕留めるか、掴まってもろとも、か……」
生きたい。
だけれど、生きて帰れる道が見当たらない。
それが彼がいつになく弱気な理由だろうかと、リンは思った。
「お前が一緒じゃなきゃ、余計なことは考えないんだが……。守ってやれなくて悪い」
「だから、あたしはぜすたんを守りにきたんだってば」
そうリンが笑うと、ゼスタは苦笑のようで、少し悲しげな笑みを見せた。
「もう、守られた。リンがいなければ、あの時、あの女に正面から飛び掛かっていた。そして無駄死にしたと思うから」
「うん、最後まで守るから、一緒に考えていこう。
ええっと、あの熱い世界とおばさん、何か関係してるのかな? おばさん死んだらあの世界ってどーなるんだろ、小夜子ちゃんとかあるこりあさんとか他にも居るかも知れない子達も助けないと」
「一人の力で出来ることには限界がある。それぞれ自分のことは自分で守るだろ」
リンの言葉にゼスタは苦笑しながら言った。
「んー。そもそもおばさんが何しようとしてるかも知らないんだけど。ぜすたんは知ってる?」
「さあ」
リンはゼスタに色々質問をするが、ゼスタはほとんど何も知らないようだった。
「それじゃさ、白百合団団長さんの『馬鹿な行動』ってなーに? ぜすたんだからこれで済んでるけど、実際その子に当たってたら、死んでるんだよね。おばさんは地球人が嫌い? なのかな」
「そうかもしれないが、よくはわからない」
そう言った後、ゼスタはダークレッドホールに突入することになった経緯を、リンに話していった。
元々は、ダークレッドホールの調査の仕事を請け負っていたのは、ゼスタだった。
ダークレッドホールを気にしていた風見瑠奈の護衛の名目で近づき、調査を行う予定だった。
2人が乗った飛空艇の中には、ダークレッドホールに飛び込もうとしていた荒くれ者達がいた。
彼等に誘われて、度胸試し感覚でついてきた若者達も。
それから――あのヴァルキリーの女もいた。数人の若者の姿をした人造人間を連れて。
船長を脅してダークレッドホールに突入させようとしていた荒くれ者を、瑠奈が止めに入った。
ゼスタも力づくで、荒くれ者達の行動を阻んだ、が。
突如、船長が光の魔術で殺害された。
船が揺れ、乗客はパニックになり、飛び下りて逃げようとする者も出だした。船には非常用の翼もあった。
しかし、空中に光の刃が現れ、乱舞して乗客を阻んだ。乗客は船室へと逃げ込んだが、甲板に何人かの少女が残っていた。
瑠奈は彼女達を守ろうと飛び出した。そして、無数の刃に襲われた。
間一髪、ゼスタが瑠奈を庇い、攻撃を身に受けて守った。
「俺には翼があるし、いざとなったら風見を連れて離脱することも可能だった。
あの時点であの女をマークしていた俺は気付いていた。ダークレッドホールへの突入を扇動している荒くれ者達が、あの女に操られていることと、風見が庇った少女は意思能力のない、人形だということに」
「……炎の渦の先の世界に居た、光条兵器を操っている子達と一緒だね」
「ああ。守る必要もない相手を守ろうとして殺されかけた。馬鹿な行為だ。
とはいえ、地球人として、白百合団の団長として、彼女の行動は勇気ある立派な行動だった、ともいえなくはない」
その後、ゼスタは少女の血を吸って回復を図り、既に姿を消していたヴァルキリーの女を追おうとした。肩に残ったままの光の刃を抜かせるために。
瑠奈は正義感に燃えたのか、ゼスタを心配してか。怪我で剣を振るう事が出来ない彼の剣として、ついていくことを望んだのだという。
ゼスタは『邪魔になったら食事にする』と約束を交わし、瑠奈を連れて行った。
「おばさんは、白百合団団長さんを狙ったんだよね? ぜすたんじゃなく」
リンはヴァルキリーの女性が言っていた言葉を思い出しながら、独り言のように話していく。
「おばさんは地球人が嫌いで、あたしやぜすたん、パラミタ種族のことは死なせる気はない?
地球人はみんな嫌いなのかな? アトラスに替わって今パラミタ支えてるのはドージェっていう地球人の人だよね」
「わからないし、知る必要もない。余計な知識は仕事の邪魔になる。必要な知識は、奴の戦闘能力だけだ」
「相手のことを知らないのに、倒すの?」
「そうだ。知って情が移ったりしたら殺りにくくなる。事件の首謀者、主戦力を人知れず闇に葬ることが俺の役目だ」
おしゃべりは終わりだと、ゼスタは毛布に手をかけた。
「共に仕事に徹するつもりじゃないのなら、連れてはいけない」
ゼスタは真剣な目で、リンを見ていた。
「お前も風見のように俺に庇われたいか? 俺は死にたくはないし、無駄死にはもっといやだ。
……でも、連れて行ったら体が動いちまうかもしれないだろ?」
守るために来た。でも守られてしまう可能性がある。
リンもじっとゼスタの顔を見つめた。
「お前も、友達を助けたいのならその目的のために、俺の事を守るとか余計なことは考えず、ひとつの目的のために最善を尽くせ」
毛布を払いのけて、ゼスタが立ち上がる。
リンもすぐに起き上がって、彼の腰にしがみついた。
「それなら、身体が動かないように見なければいい。あたしはあたしの目的の為に最善を尽くすよ」
トイレへと入り、そこから床を抜けて地下へと移動した。
いくつもの壁を越えて出た先にコンピュータールームがあった。
部屋にいた人々をゼスタは瞬時に倒すと魔法を制御していると思われる装置を切り、機械を破壊した。
全て無言で、ごく短時間に作業を終え、続いて巨大なエネルギーを感じる場所へと、ゼスタは向かっていく。
「あたしが、先に行くよ。囮になるから、ぜすたんはタイミングを計って」
リンはゼスタにそう囁いておいた。
彼は何も言わずに、リン1人を送り込んだ――ヴァルキリーの女がいる部屋へと。
「よっと」
穴から這い上がるように、リンはその部屋へと入った。
床に魔法陣が描かれた、何もない部屋だった。
その部屋に、いくつもの指輪を嵌めた、ヴァルキリーの女性がいた。
何らかの術を発動しているようだった。
「……っ!」
リンが話しかけるより早く、女性は突如苦しみだし両ひざを床についた。
「愛菜が、ま、さか……」
リンには知る由もなかったが――小夜子が彼女のパートナーを殺害したためであった。
呻きながらも、女性は魔法陣を使った術を止めようとはしない。
「苦しそう……そうまでして、何をするつもりなの?」
リンはゆっくりと女性に近づいた。
彼女は両ひざを床につき、手で体を支えながら苦しげに項垂れていた。
「おまえは……どうやって抜け出したの? 男の方も、一緒……」
顔を上げて、女性はリンを強く睨みつけた。
「彼は一緒じゃないよ。動けないから、あたしだけ抜け出してきたの。
ねえ、あなたはなんでこんなことをしているの? 地球人が嫌いなの?」
ゆっくりとリンは女性に近づいた。
「地球人、全てが嫌い、なわけではないわ。でも地球人の意思に支配されている現状は、許せない。どちらかといえば……パラミタを売り渡し、世界のバランスを崩している、愚かな、子孫の方が……嫌い、かもしれないわね」
(あ……)
言葉と共に、温かな力がリンの中に流れ込んでいく。
力と幸福感が溢れてくる。
意識が無くなっていく。
自分が無くなっていく。
抗えない……ではなく、自然に惹き込まれて。
パラミタの命の一つとして、リンの身体は抱かれるために女性の元に歩いていた。
○ ○ ○
「ん? なんだか爽快になってきた。もしかして魔法が使える?」
ごしごし目を擦りながらアルコリアは起き上がった。
テレパシーを小夜子に送ってみるが、届かないようだった。
「世界が違うのかなー。それとも忙しいのかな。……よっと」
起き上がって廊下へと続くドアに近づいた途端。ビービーと警報が鳴り響いた。
「入るんじゃなくて、出るんですよー。さてさて」
長い廊下はとても狭く、船の中のような造りになっていた。
「入口が少ないですねー。部屋はありそうなんですけれどね」
コンコンと壁を叩いた時に聞こえてくる音で、部屋があるのかないのかが大体分かる。
天井と床も叩いてみると、床下には空間があるようだったが、天井より上には部屋はないようでとても強固な造りになっていた。
「強いエネルギーを感じる場所に、向かいましょう」
百合園を滅ぼすというのなら、何か装置か巨大なマジックアイテムが必要だと考え、アルコリアは五感を研ぎ澄ませ、エネルギーを在りかを探る。
「地球人か」
「リヴィア様に報告だ!」
廊下の奥から、作業服を纏ったパラミタ人と思われる男達が、銃を手に現れた。
「そっちに偉い人がいるんですね。行きます、行きますー」
アルコリアは両手を上げて、作業員達の元に走って。
報告に行った作業員が向かった先を確認すると、他の作業員を軽く撫でてあげた(殴り倒した)。
「リヴィア様、地球人が部屋から脱走し、暴れています。エネルギー世界への転送をお願いします」
報告に向かった男は、壁を叩いてそう言っている。
「なるほど、ドアはないけどここが入口なんですね」
アルコリアはその男ごと、渾爆魔波で壁を吹っ飛ばそうとする。
「ああ、やっぱり快適に魔法が使えますー」
魔力解放で魔力を開放して、もう一度、渾爆魔波を放つと、強固な壁に穴が空いた。
「あー! リンちゃん」
その先に、リンの姿があった。どこかしら虚ろな表情の彼女の前には、両足、片腕を床につき、苦しげな表情をした、ヴァルキリーの女性の姿があった。
小夜子を癒し、テレポートさせた人物だ。
「地球人……邪魔、出て行け」
リンの口から抑揚のない声が漏れた。
「ん? リンちゃんはそんなコト言う子じゃありません。あの本のせいでしょうか」
アルコリアはリンが正常な状態ではないと知ると、リヴィアと呼ばれていたヴァルキリーの女の元に跳び、手から発生させた魔力の刃で切りつけた。
リヴィアは光の盾を発生させ、アルコリアの魔力を消し飛ばした。
同時に――地下からリヴィアの背後に躍り出たモノが、背後から彼女の首を飛ばした。
一瞬のことだった。
「あー」
アルコリアは特に驚かず、表れた人物に笑みを向けた。
「ゼスタさん、それなりに無事みたいですね」
背後からリヴィアを殺害したのは、探していたゼスタだった。
彼の肩には光の刃が刺さっていたが……女の死と共に消えていった。
代わりに肩から血が溢れだす。
「この人というより、この魔道書が凄かったみたい?」
アルコリアはリヴィアの腕から魔道書を取り上げる。
「……んー、契約は無理か」
魔道書が女の子なら欲しいとも思ったアルコリアだが、その魔道書には別に所有者が居るようで、呼びかけても何も答えなかった。
「堅そうなので男ですね、これは。読めないしいりません」
ぽーんと、ゼスタに投げ渡しておく。
「ぜすたん……! あるこりあさん」
正気にもどったリンは、ゼスタとアルコリアの姿を確認し、ほっとした表情を浮かべた後。
命を失ったリヴィアを見て、沈黙した。
「……出るぞ」
リンとアルコリアのウエストを掴むと、ゼスタは翼を広げて天井へと跳び、壁を抜け、大地を抜けて地上へと飛び出た。
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