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白百合革命(最終回/全4回)

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白百合革命(最終回/全4回)

リアクション


『4.黒幕、下りて(その1)』

「こっちは任せるわ!」
 エリュシオン帝国秘術書『ヴェント』を手にした女性――御堂晴海が、隣室である寝室の方へと走っていった。
 ジャジラッド・ボゴルは瞬時に状況を見極め、阻まれる前に信号弾を放った。
 魔法的効果は思うように発揮されなかったが、眩しい光にその場にいた者たちの目が眩む。
(くっ……。さっきのは御堂晴海。多分魔法が使えるグライドは能力的に光の魔道書の人間体。魔法が使えない要因を排除したら彼女はグライド弱体化のためにニヒルを殺すのでは……)
 雷霆リナリエッタは目を押さえながらそう考え「ニヒルちゃん、こっちにいらっしゃい」と、ニヒルの名を呼んだ。
 しかし彼女の声にニヒルが反応するより前に。
 ジャジラッドが3−D−Eでニヒルを捕らえ、龍鱗化し更にパワードスーツで身体強化したドラゴンアーツを、ニヒルの喉に叩き込んだ。
 ニヒルの身体が吹っ飛び、壁にぶち当たって落ちる。
「え? なになに?」
「なんですか!?」
 秋月葵とアルファ・アンヴィルは事態が飲み込めず、目を覆いながら壁際へと下がった。
「ちょっと何を……!」
 眩みが治り、リナリエッタが急ぎニヒルに駆け寄った。
 そして思い出し、気付く。
 彼、ニヒルはエリュシオンから『抹殺命令』が出ている男であるということ。
 エリュシオン側としては彼を捕縛ではなく、処分しなければならない理由があるということ。
 魔法が使えず任務を遂行できなかった晴海は、恐竜騎士団副団長であるジャジラッドにニヒルの抹殺を任せ、自分はグライドの方へと向かったということに。
「ご……ぐ……」
 しかしニヒルは殺されてはいなかった。
 ジャジラッドの攻撃は彼の喉を潰しただけであった。
 今はコンピューターで作業を行っていたパラミタ人達がジャジラッドを取り囲んでいる。
 リナリエッタはニヒルをコンピューターの後ろへと連れ込む。
「ニヒルちゃん聴いて。貴方とグライドを離れ離れにさせようとする人が今来たわ」
 彼を介抱しながら、リナリエッタは語りかける。
「貴方が死んだらグライドは悲しむし、パートナーを失って動けなくなる。それは嫌でしょ? 私が守るから一緒に来て頂戴」
 彼を支えて一緒に歩こうとしたリナリエッタだが――。
 ドゴン
 ガンッ
 寝室の方から激しい音が聞こえてきた。
 そして、ニヒルの身体が光に包まれる。
 彼を掴んでいたリナリエッタも一緒に、隣の寝室。グライドの側へとテレポートした。
「ここどこ? 魔法封印システムって何?」
「まずは話を聞かせていただけますか?」
 葵とアルファは事態が把握できず、ジャジラッドとその部屋にいる人々に状況を尋ねていく。
「話は後だ。御堂が危ない……ッ」
 ジャジラッドを取り押さえようと、その部屋に居た者達が飛び掛かってくる。
 対して強くはないが、ジャジラッドは振り払うまで多少の時間を有してしまう。

 少し前。
(オレを心配して女たちが鍾乳洞から追ってきたか。モテる男はツライぜ)
 突然現れた晴海がグライドの元に駆けていく姿を見ると、吉永竜司は瞬時に彼女の後を追った。
「私は帝国第七龍騎士団の御堂晴海。魔道書の回収に来たわ。エリュシオン帝国秘術書『ヒュー』をこちらに」
 共鳴する魔道書『ヴェント』を手に、晴海は言いながら。
(シャンバラの魔道書の分身が、ヒューを持っているとは……ッ。ボゴル副隊長早く……)
 慎重にグライドへと近づいていた。
「ん? エリュシオンか。エリュシオンは脱走兵を殺そうとしているみたいだぜェ、あと、ヴコールにもニヒルの殺害を依頼されたなァ」
「……何を」
 晴海は髪を振り乱し、激しく竜司を睨む。
「グライドと話すチャンスをくれ」
「何を考えてるの、駄目よ!」
 晴海の肩を押して制し、竜司はグライドへと近づいた。
「オレは龍騎士でもねェ、ただのパラ実生だから、てめえらを捕まえる義務はねえ。
 ニヒルの事はオレの女に任せてあるから、心配はするな――」
 その言葉を言い終わらないうちに、グライドが声をあげる。
「エリュシオン秘術書『ヴェント』」
 変わらず感情の無い声で言うと、空間に無数の光の刃を生んだ。
 竜司のことは見ておらず、グライドのターゲットは秘術書『ヴェント』――晴海だった。
「ああっ」
 刃が一斉に、魔道書を抱える晴海に襲いかかる。
 グライドの身体が消え、晴海の側へと現れる。蹲る彼女の背を、光の刃で貫き、彼女の腕から強引に魔道書を奪った。そして晴海に止めを刺すべく、手を差し出した。
「やめろ!」
 竜司がグライドを突き飛ばして、晴海を庇う。
 ここでは魔法が使えないため、晴海には抵抗の手段がなかった。
 彼女の身体は深く傷つき、光の刃が貫通した腹部からは溢れるように血が流れ出ていた。
「ニヒル」
 グライドは止めより先に、テレポートでニヒルを自分の側に呼んだ。……彼に捕まっていたリナリエッタも一緒だった。
「ダーリンから事情を聞いたのね?
 正直私の友達を傷つけたであろう貴方を許したくない。けどね、今ここでまた誰かが死や傷ついて決着を迎えて万々歳も見たくない。ニヒルが悲しむわよ? それでいいの?」
 リナリエッタは早口でグライドに問いかけるが、グライドはリナリエッタのことは気にも留めていないようだった。
「あなたが持っている魔道書、私に預けてくれないかしら? それと引き換えにグライド、あなたとニヒルの安全を、保障するように動くわ。そのままあなた自身の力を解除して、自分達は無力、平和を願う人の傍にいたいと思えば”彼女”もこのまま引いてくれるわよ」
 ちらりと晴海を見ながら言うが、晴海は既に瀕死の状態で、この交渉は意味のない物だとリナリエッタは悟っていく。
 グライドは何も答えずに、ニヒルの砕かれた喉を治す。
「ぐ、グライドーーーーー!!」
 途端、ニヒルは真っ赤になって怒り叫び声を上げる。
「エリュシオンの奴らを殺して! ヴコールを殺して! 今すぐーーーーー!!」
「まて、この女はもう瀕死だ、やる意味はねェ!」
 竜司が晴海を背に庇いながら言う。
「了解しました、ニヒル」
 感情の無い声でグライドは答えて集中し、何か魔法を使ったようだった。
(グライド――この人に感情はない。ニヒルの言いなり)
 語りかけてみて、そして機械的に動くグライドを間近で見て、リナリエッタはそれを理解した。
 そしてその力は恐ろしく強い。
 リナリエッタは、語りかけながらグライドの様子を見ていた。チャンスを伺っていた。
 今、グライドがどこか別の場所に向けて魔法を使ったタイミングで。
 彼が座っていたベッドの上にあった魔道書を掴み、直ぐに竜司達の元に跳んだ。
 ニヒルは大声で叫び続ける。
「早くエリュシオンの奴らも全部殺して! 地球人も一緒にやっちゃってもいいから!!」
「了解しました」
 機械的に答えると、グライドは光の弾を空中に生み出す。
「下がってろ」
 竜司はリナリエッタを自分の後ろへと引っ張り込む。
「御堂……!」
 群がる人々を振り切り、ジャジラッドと葵が駆け込んできた。
「そっちは任せたぜェ!」
「ああ」
 放たれる光の弾から、竜司はリナリエッタを庇い、ジャジラッドは晴海を庇う。
「早くやっちゃって! 早く早く早く早く早く早く早く早く早くーーー!」
 ニヒルが狂ったように叫ぶ。
 更にグライドは無数の刃を生み出して、晴海を庇うジャジラッドを切り刻む。
 ジャジラッドを守るパワードスーツがいとも簡単に破け、彼の身体がズタズタに傷ついていく、それでも晴海を庇い続ける彼の肩に、巨大な刃が打ち落とされ――片腕が落ちた。
「もうやめてー、もう敵はいないんだよ!」
 入口で立ち止まり、葵が声を上げる。
「あなたは、シャンバラの女王様の魔道書でしょ?」
 ニヒルではなく、グライドに――エリュシオンの秘術書に対抗すべく作られたという『女王の魔道書』に訴えながら、葵は部屋に入ってくる。
「あたしはシャンバラややそこに住むみんなを守りたい。人々が笑顔で平和な世界にしたいの……」
 そっと、ゆっくり葵はグライドに近づく。
「もし良かったら協力して欲しいな。別に契約とかしなくてもいいの、もし必要ならアレナちゃんが良いかな。女王器失って、優子隊長の力になれないって気にしてたから」
「やだやだやだ! 無駄だよ! グライドは、僕がヤダっいったら、やめてくれるんだッ。グライドは僕のものだからね!」
 ニヒルはグライドの腕にぎゅっと絡みつく。
「了解しました、リヴィア」
 突然グライドが感情の無い声で言う。
「ん? ああんもう、グライドまた浮気してるー! 早くリヴィアのパートナー殺して、彼女も僕のパートナーにしないと!」
 ニヒルのその台詞は、途中までしかその場にいるものの耳には入らなかった。
 なぜなら、テレパシーで指示を受けたグライドが、テレポートで皆を異空間へ飛ばしたから……。


『5.黒幕、下りて(その2)』

「こっちは任せるわ!」
 エリュシオン帝国秘術書『ヴェント』を手にした女性――御堂晴海が、隣室である寝室の方へと走っていった。
 ジャジラッド・ボゴルは瞬時に状況を見極め、阻まれる前に信号弾を放った。
 魔法的効果は思うように発揮されなかったが、眩しい光にその場にいた者たちの目が眩む。
(くっ……。さっきのは御堂晴海。多分魔法が使えるグライドは能力的に光の魔道書の人間体。魔法が使えない要因を排除したら彼女はグライド弱体化のためにニヒルを殺すのでは……)
 雷霆リナリエッタは目を押さえながらそう考え「ニヒルちゃん、こっちにいらっしゃい」と、ニヒルの名を呼んだ。
 しかし彼女の声にニヒルが反応するより前に。
 ジャジラッドが3−D−Eでニヒルを捕らえ、龍鱗化し更にパワードスーツで身体強化したドラゴンアーツを、ニヒルの喉に叩き込んだ。
 ニヒルの身体が吹っ飛び、壁にぶち当たって落ちる。
「え? なになに?」
「なんですか!?」
 秋月葵とアルファ・アンヴィルは事態が飲み込めず、目を覆いながら壁際へと下がった。
「ちょっと何を……!」
 眩みが治り、リナリエッタが急ぎニヒルに駆け寄った。
 そして思い出し、気付く。
 彼、ニヒルはエリュシオンから『抹殺命令』が出ている男であるということ。
 エリュシオン側としては彼を捕縛ではなく、処分しなければならない理由があるということ。
 魔法が使えず任務を遂行できなかった晴海は、恐竜騎士団副団長であるジャジラッドにニヒルの抹殺を任せ、自分はグライドの方へと向かったということに。
「ご……ぐ……」
 しかしニヒルは殺されてはいなかった。
 ジャジラッドの攻撃は彼の喉を潰しただけであった。
 今はコンピューターで作業を行っていたパラミタ人達がジャジラッドを取り囲んでいる。
 リナリエッタはニヒルをコンピューターの後ろへと連れ込む。
「ニヒルちゃん聴いて。貴方とグライドを離れ離れにさせようとする人が今来たわ」
 彼を介抱しながら、リナリエッタは語りかける。
「貴方が死んだらグライドは悲しむし、パートナーを失って動けなくなる。それは嫌でしょ? 私が守るから一緒に来て頂戴」
 彼を支えて一緒に歩こうとしたリナリエッタだが――。
 ドゴン
 ガンッ
 寝室の方から激しい音が聞こえてきた。
 そして、ニヒルの身体が光に包まれる。
 彼を掴んでいたリナリエッタも一緒に、隣の寝室。グライドの側へとテレポートした。
「ここどこ? 魔法封印システムって何?」
「まずは話を聞かせていただけますか?」
 葵とアルファは事態が把握できず、ジャジラッドとその部屋にいる人々に状況を尋ねていく。
「話は後だ。御堂が危ない……ッ」
 ジャジラッドを取り押さえようと、その部屋に居た者達が飛び掛かってくる。
 対して強くはないが、ジャジラッドは振り払うまで多少の時間を有してしまう。

「脱走兵とリナリエッタ様はどちらに……」
 アルファは事態に混乱していた。
 火の魔道書の元に向かった晴海。脱走兵――ニヒルを攻撃しようとしたジャジラッド。
 ニヒルを庇って、彼らが狙っていることを話したリナリエッタ。
 ジャジラッドは部屋にいた作業員のパラミタ人を振り払って、晴海が向かった先に向かっていき、葵も後を追っていった。アルファは葵に危害が加えられないよう、パラミタ人達を阻んでいた。
 体に結んであったロープは、既に切ってある。
「リナリエッタ様は脱走兵を庇った? ……すみません、通してください」
 アルファは百合園関係者の安全確保を一番にと考えていた。
 その為に自分がどうすべきかは、よく分からなかったが、リナリエッタと葵のことは放っておけない。
 彼女達が向かった先から、幾度となく光が漏れ、衝撃音と小さな悲鳴が響いてくる。
 アルファは、ドラゴニュートの骨弓を振りまわして道を作ると、皆が向かった隣室へ走った。
 アルファが隣室に到着した時。光が先に到着した皆を包んでいた。
 そしてその光と共に、皆の姿が消える。
 部屋に残っていたのは、ニヒルと、中性的で金髪で金色の瞳の若者――グライドだけだった。
「皆様をどこにテレポートさせたのですか?」
 隣室から追ってきたパラミタ人に拘束されながら、アルファは2人に尋ねた。
「ニヒル、リヴィアが殺害されました」
 アルファの質問には答えず、グライドは淡々とした口調で言った。
「……え! ええっ!! なんでなんで!?」
「わかりません。ヴコールを殺害したため、フェクダも危険な状態です」
「え!? あ、そうだった。パートナーロストってやつだね。まーいいけど」
 ニヒルは大きくため息をつくと、グライドの腕を引っ張ってアルファの方へと歩いてきた。
「僕はまたグライドと一緒に、ぼーけんの旅にでるよ……」
 そう作業員達に告げると、大部屋のアルファ達が入ってきた壁の方へと歩き出す。
 拘束を解かれたアルファは、ニヒル達の後を追った。
「皆は無事ですか? わたくしのことは飛ばさなくていいんですか?」
「多分無事だよ。君地球人じゃないし、もーおしまいだからいいよ」
 ニヒルはアルファに興味がなさそうだった。グライドはSPのようにニヒルに付き従っているだけだ。
「どうして地球人だけ?」
「地球人はいらないんだよ〜。パラミタには強化パラミタ人の僕達がいればじゅーぶんだからね!」
 攻撃してこないのなら……。
 アルファはずっと聞きたいと思っていたことを尋ねていくことにした。
「わたくしは数か月前にも一度、鍾乳洞の奥へと来ました。その時に光に包まれて、意識を奪われました。そして自らの意思ではなく、炎を起こしました。あれは、あなた方の魔法ですか?」
「そうだよ。グライドの力〜。パラミタ人を操るのはカンタンなんだ♪ エリュシオンのすっごい魔道書も持ってるから、グライドは火の秘術も使えるんだよ!」
 得意げにニヒルが言った。
「火の魔道書は、無くなった。風があります」
「ん? 魔道書交換したの? まあ、1冊あるならいいけど♪ グライドの魔道書の次の使い手も、女性だといいね〜。今度はもっと若い子がいいなぁ」
(火と風を交換? 良く分かりませんが、あの時、わたくしを惑わしたのは、光と火、両方の魔法だったということでしょうか)
 グライドが壁に手を当てる。
「君もおいで、シャンバラに報告してもらうために〜」
 ニヒルがアルファの手を掴んだ。
 そして、3人は壁を抜けて鍾乳洞へと、その先の大荒野へと出た。

 鍾乳洞から出た途端、グライドは魔法を発動し鍾乳洞を崩した。
「もう一つ聞いてもいいですか?
 わたくしの後に入った方が操られなかった理由は何ですか?」
「グライドの力はね、パラミタの力なの。地球人は上手く操れないんだよ〜」
「……もしかして、あの中に居たパラミタ人全てを、操っていたのですか?」
「うん、そうだよ〜。かる〜くかる〜くだけどね」
 ニヒルは面白そうに笑った。
「それじゃ、さよならだね。僕は生き埋めになって死んだって報告しておいてね♪」
 アルファに言い、ニヒルはグライドを見た。
 グライドがアルファが避けるより早く、アルファの頭に手を当て――アルファは再び、温かい力に包まれた。

「……あら?」
 アルファははっとして辺りを見回す。
「わたくし、ここでなにを……あ、鍾乳洞の奥へ進もうとして」
 近くの岩にロープが結ばれている。もう片方を自分の身体に結んだはずだが、紐は崩れた鍾乳洞の中へと入ってしまっていた。
「危険を感じて、引き返したんでしたっけ?」
 考え込むが、思いだせない。
 でもなぜだろう。『脱走兵が生き埋めになって死んだ』という単語が頭の中にこびりついている。
 とにかく、探索しようとしていた鍾乳洞が崩れてしまっていることを、白百合団に報告せねばと、アルファは携帯電話を取り出した。
 電波が届いていなかったため、道路がある方向へと歩いていたところ。
「あれは……百合園の方!?」
 倒れている男性と、介抱している女性、少女を発見して、急いで駆け寄った。