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空を観ようよ

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未来に続く最終話

 世界の危機が去った後の春。
 ザンスカールで、春の訪れを祝う祭りが行われようとしていた。
「さて、簡単に片付けた後は料理だな。沢山作るぞ!」
 ウッド・ストーク(うっど・すとーく)が陽気に言う。
 祭のときにはいつも2人で手料理を振る舞っているのだ。
「ええ〜? また〜?」
 獣人の姿のブランチェ・ストークは、荷物を置いて大きく息をつく。
 2人は、旅先から戻ったばかりで共にくたくただった。
 ――ブランチェは今、アスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ)という名を捨てて、どちらの姿の時も、ブランチェと名乗っている。
 義兄妹として育ったウッドとは、現在ここ、ザンスカールで一緒に暮らしている。
 土地に合った素敵な木製の一軒家で、種族的に少し不便なところもあるが、巨大昆虫などの乗り物を使って、難なく暮らしていた。
 だけれど、2人は頻繁に家を空けていた。
 元々旅好き、冒険好きといのもあるが……姿を消した、パートナーのセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)を探すという目的もあった。
「せめてゆっくり準備したいな……買い出し頼んでもいい?」
 ブランチェは疲れた顔で、ウッドに問う。
「わかった。それじゃ行ってくる!」
 ウッドも疲れていたが、祭で疲れを吹き飛ばそうと、ノリノリだった。
「はあ……」
 もう一度大きなため息をついてから、ブランチェは着替えの為に、服を脱いだ。
 そして、獣人から人間へと姿を変える。
 タオルで体を拭こうかと思った、その時。
「ブランチェ、何作るか聞いてなか……っ」
「き、きゃーーーっ」
「うわっ!?」
 裸を見られてしまったブランチェは、恥ずかしさのあまり、ウッドを蹴り飛ばしてしまった。

 蹴られた身体を摩りながら、ウッドは買い物に行き、ブランチェが下拵えを始めた。
 合間に、ウッドはスペースを確保。
 踊りが良く観れる場所だ。
 それからすぐに家に戻り、ブランチェと一緒に料理を作る。……ブランチェは機嫌が悪かったが、『裸見て悪かった!』などと謝ったらまた蹴られそうな気がしたので、そのことには触れず、むしろ忘れてウッドは料理に勤しむ。
「さ、熱いうちに食べてくれよ〜!」
 まつりが始まってすぐ。
 蓋をした大鍋を抱えて、ウッドは会場へと向かう。
 ブランチェも木の葉を敷き、トレーに並べたシャンバラ肉サンドを持って、会場へと向かい、客達に振る舞っていく。
「さあさあ、食べてくれ、飲んでくれよ〜!」
「お美味そう!」
「ウッド兄ちゃん、私もほしい〜」
 大人も子供も、ぞろぞろウッドとブランチェの方へ集まってくる。
「並んで並んで。あと、熱いから気を付けろよ」
 木のお椀に入れて、子供には注意を促しながら渡していく。
「うん、今回の料理も美味いな!」
「だろ!? うちの部族の民族料理。ブランチェが作ったんだ。俺は野菜を切った程度で〜」
 ウッドは客達にサンドを配っているブランチェを紹介し、自慢していく。
「もう……確かに味付けは私がしたけど、一緒に作った料理でしょ……」
 いつもならもっと愛想が良いのだが、あの出来事があったせいでブランチェの機嫌は悪い。
「ブランチェが配ってるのは、イルミンスールの森で採れた素材を使った、馴染みのサンド。ブランチェ特製だからすっごく美味いぞ! さぁ、食った食った!」
 そんな状態なのに、変わらずウッドが彼女を自慢するものだから。
 とっても恥ずかしくなって、赤くなってふて腐れていた。
「これは美味い、ガッハッハ」
 会場の隅では、クラッチ・ザ・シャークヘッド(くらっち・ざしゃーくへっど)が、酒と料理を楽しんでいる。
 ウッドが作ったものだとは知らないようだ。
 ウッドとブランチェが作った料理を肴に、豪快に酒を飲み上機嫌だった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがと。これうちからもってきたお菓子。あげるね!」
「こっちの魚も食え、2人とも!」
 子供がお菓子を持ってきてくれて、大工のおやっさんが、焼き魚を持ってきてくれた。
「グラス出せ、乾杯だ」
「おお!」
 酒を注いで、乾杯をして。
 食べて飲んで、歌ったり踊ったり。
 街の人々、訪れた人々と共に、ウッド、そしてブランチェもとても楽しい時間を共有していく。

 日が暮れて少しした頃。
 祭は一旦終わりとなった。子供たちを帰らせるためだ。
 その後も、大人達は会場に残り、心行くまま料理と酒、歓談を楽しんでいく。
「ウッド、ちょっといいかな……」
 空の鍋の側で、のんびりし寛いでいるウッドに、ブランチェは声をかけた。
 沢山騒いだせいで、恥ずかしさは消えていた。
「ん? そろそろ帰るか?」
「その前に、行きたいところがあるの。付き合ってくれる?」
「いいけど」
 不思議に思いながら立ち上がり、ウッドはブランチェに誘われるがまま歩き始める。

 ――二人が訪れたのは、ザンスカールの展望台だった。
 特別な設備などない、自然の見晴台だ。
 ここからは、街の夜景が良く見える。街を見渡せる場所だった。
「静かだな……そして、綺麗だ」
「うん」
 ブランチェは移動しやすいように、再び獣人の姿に変わっていた。
 ウッドと夜景を見たかった。寄り添っていたかった……けれど、人間になるのはなんだか気恥ずかしくて。獣人の姿のまま、彼と並んで、夜景を眺めていた。
(本当はウッドからこういう場所に誘ってくれればいいんだけど……)
 とは思うが、女心に疎い彼のことだから、当分そういう誘いはないだろうなとちょっと諦めてもいた。
「この光のどこかに、いたりしないかな……。元気にしてるかな」
 夜景を見ながら、ブランチェが呟いた。セレンスのことを思い浮かべて。
「あいつは世界のどこかで元気にやってるさ。
 それに俺たちがピンチになったら駆け付けてくれるんじゃなかったか?
 ちょっと頼りないけどな」
 くすっと、ウッドは笑い、ブランチェもつられるかのように小さく笑った。
「彼女にはいっぱい、いっぱい、勇気をもらった。
 彼女にはいくら感謝しても足りないくらい――。
 それなのに……まるで夢か幻だったみたい」
「絆を示してくれたのはあいつ自身だ。俺たちが絆を信じなくて、何になるんだ」
 ウッドが強さを感じる優しい目をブランチェに向けた。
「うん……また会えるよね」
 ブランチェはそっと、ウッドの手に自分の手を重ねた。
「私も……信じている」
 この夜景の光の中にはいなくても。
 空に浮かぶ満天の星の下には、いるかもしれない。
 同じ空の下に。

 同時刻。
 誰もいないウッド達の家に、白い梟が舞い降りた。
 そして一通の手紙を置いて去っていった……。


 セレンス・ウェストは、ある日を境に2人の前から姿を消していた。
 その後、行方不明になっている。
 ウッドとブランチェは、パラミタだけではなく、地球も探し回ったが、未だ見つかってはいない。

 まるで、最初から居なかったように。
 理由を告げずに急に姿を消した彼女だが――。
 最後に、こう告げていた。

 私は自ら本を閉じる
 そうしないと新しい本が見れないから

 出会いもあれば別れもある

 あなた達と出会えた様な素敵な出会いを
 私はまた経験して見たい

 だから…

 心配はしないで
 だってあなた達みたいな素敵な間柄なんて
 そういないんだもの!