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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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アゼラ

 空京のショッピングモールは、買い物客でごった返していた。
 モールの中のイベント広場では、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が人待ち顔で立っていた。
 そこに女の子の手を引いた、宅配業者がやってくる。
「ケイ、久しぶり! ろくりんピック以来か」
「ディエムか?! 宅配の制服だったから誰かと思ったぜ」
 宅配業者はバイト中のグエン ディエムだった。
 驚いた様子のケイに、ディエムは制服をぱんと叩く。
「帝国に行く前日まで、バイトを入れてるからな。支店長には『行くな』って泣きつかれたけど、代わりに仕事を探している知り合いを紹介した。
 でっ、今日のお届けモノは……あれ?」
 ディエムがきょろきょろ周囲を見る。
 後方で、アーデルハイトによく似た少女アゼラは、店の軒先を飾るディスプレイを眺めていた。
「アゼラ、こっち、こっち! ケイやカナタが頼みたい事があるってよ」
 呼ばれて、少女がたかたかと彼らに駆け寄ってくる。
「久しぶりだの」
 カナタがほほ笑みかけると、アゼラは彼女の手を取って、ぶんぶんと振る。どうやら握手のつもりのようだ。カナタはまた笑みをこぼして、アゼラの頭を優しくなでる。
「……また何かを思い出したりしてはおらぬか?」
 カナタが心配そうに問うと、アゼラは小首をかしげた。
「思い、出した、気もする、けど、思い、出して、ない、気もする」
 アゼラがかつて使えていたネフェルティティが目覚め、アイリスに捕らわれてしまった影響がないかとカナタは心配していたが、今のところ悪い影響はないようだ。
 ケイは持ってきた包みを出し、ディエムとアゼラに渡す。
「やっぱり、こんな寒空の下でも、またバイトで駆け回ってるんだな。クリスマスプレゼント……というわけじゃないが、これ、良かったら使ってくれよ」
 包みの中身は、マフラーと手袋だった。
「あったかそうだな! 外での仕事が多いから助かるぜ」
 ディエムは嬉しそうだ。
「?」
 アゼルは手袋を広げて、中をのぞく。
「何も、入って、ない」
「それは手を入れるものだぞ」
 カナタが、アゼラの小さい手に手袋をはめ、マフラーを綺麗に首に巻いてやる。
「もこもこ」
 マフラーに頬をすりつけるアゼラに、カナタは目を細める。
「それで、アゼラを呼んでもらった理由なんだが──」
 ケイはアゼラに、アムリアナ女王へのメッセージをもらえないか頼んでみた。
「めっせーじ?」
 きょとんとしたアゼラの手を、カナタが両手で握る。
「おぬしが愛した者たちも、きっと今は輪廻に乗っておる。いつかは出会う日も来よう。おぬしがかつて過した、あの大切な時間は取り戻すことが出来るのだ。わらわたちが、かつてのシャンバラを蘇らせることができたなら――。
 そのためにも、女王を死なせてはならぬ。どうか、力を貸して欲しい」
 カナタがじっと見つめると、アゼラはこっくりとうなずいた。
「思い、出した、ような、気がする」
 持っていたズタ袋からクレヨンを取り出すと、画用紙に絵を描き始める。
 画力は幼稚園児レベルだが、笑っている女性の顔だとは分かる。背後は、羽根なのか後光なのか光っているらしい。
 最後に絵の下に、へたくそな古代語で「アムリアナ様」と書く。
「できた」
 アゼラのメッセージは、女王の似顔絵だった。