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リアクション
パンツ
「マジか? ここがアイシャの部屋?」
国頭 武尊(くにがみ・たける)が自分を案内してきたメイドの少女に聞く。
そこは帝都ユグドラシルの皇宮の一室だ。
だが、とてもそうとは思えない程に、狭く薄暗く、簡素な部屋だ。
「はい、これでも私たちメイドに与えられている中では、良い部屋です。狭いけれど一人部屋ですもの」
メイドの言葉に、武尊はまだ胡散臭そうに室内を見回す。
彼は使節団の一員としてエリュシオン側の許可を取って、アイシャの私物を引き取りに来たのだ。
しかし部屋の家具は、上にペラペラの毛布が畳まれた狭いベッドと、何の装飾もない小さいタンスだけしかない。おそらくベッドがイスがわり、タンスが机代わりなのだろう。
「誰か、オレの前にこの部屋を探った奴はいるのか?」
「従龍騎士様がおいでになって一通り見てゆかれましたが『何もないな』とおっしゃって、すぐに帰られました」
武尊は話を聞きながら、手慣れた動作でタンスを開けて中を確かめていく。
アイシャが残していった物は少ない。
かと言って、彼女やその後に来た誰かが、物品を持ち去ったという様子でも無い。
元から、たいして物が無いのだ。数少ない私物も、どれも簡素な安物で、部屋の主の趣味をうかがえるようなものではない。
「あっ、それは……!」
メイドが突然、あわてた声をあげる。
武尊は手に持った布きれを掲げ、彼女に答えた。
「これか? これはぱんつだ」
メイドの目が点になっているのに構わず、武尊はアイシャの下着を丹念に確かめる。
何度も洗ったのだろう、木綿の生地はかなりくたびれている。よくよく見れば、ほつれた所を丁寧にかがってあった。
タンスの中には同じような木綿の下着がいくつか、綺麗に畳まれて入っている。
「普通、女のパンツは色とりどりなんだがな……とうっ!」
「きゃあああああ!!」
突然、武尊がメイドに飛びかかり、目にも止まらぬ職人技(?)で彼女から下着をはぎとった。
「おいおい、これが年頃の女のぱんつかよ」
メイドの下着は、ヘソまで隠れるズロースだった。
「しょうがないじゃないですか! おばあちゃんが余り布で作ったんだから」
彼女は下着を取り返そうとあわてるが、武尊はそれを頭にすっぽりとかぶってしまう。残念な事に、かなりゴワゴワしている。大切な部分がすれてしまわないだろうか。
「町で買わないのか? 帝都の店は何でも売ってるって、従龍騎士の野朗が豪語してたが」
頭にかぶられた事で、メイドは下着を取り返す気がなくなったようだ。
「そんなお金があったら、仕送りします。シャンバラ大荒野を耕したって、ろくに作物が取れないんだから」
武尊は顔の下着をずらしてメイドを見る。
「なんだ、君はシャンバラ人なのか?」
「ええ、ユグドラシルに出稼ぎに来てるシャンバラ人って、けっこういるんですよ。空京の地球文化よりも、魔法の発展している帝国の方がまだ馴染みがありますから」
メイドの下着や話の様子から、やはり下着を含めて部屋にある少数の私物は、アイシャのものらしい。
「まあ、どんなモンでも、次期女王になるかも知れないアイシャの物なら、それなりの価値が出る筈だ」
武尊のつぶやきにメイドが聞いた。
「あのう、アイシャがシャンバラの女王になるかもしれないって本当なのですか? あの子、私たちと同じのごく普通の出稼ぎメイドだったのに」
「まぁな。だが誰が女王になったって、パラ実やその同胞の暮らしが劇的に変わるなんて見込みはねえ。正直どうでも良い話だな。……蛮族はせいぜい蛮族らしくしてやるさ」
武尊はニヒルな口調で言って、私物の捜索作業に戻った。
下着さえかぶっていなければメイドはその表情にキュンとしたかもしれないが、あいにくとそれは色気の無いズロースに隠されていた。
その後、武尊は部屋に残されたアイシャの私物をまとめて、宮殿を引き上げた。
持ってきた私物は使節団西側代表のテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)に渡し、アイシャに届けてもらうように頼む。
「大切な物とか有るだろうからな」
ちなみにそれら私物のうち、パンツはもちろん武尊が確保した。