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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

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イナテミス防衛戦~颯爽の支城、氷雪の要塞~

リアクション



●空中要塞

「これより我らは、敵イコン部隊に対し三部隊による波状攻撃を行う。各部隊の戦闘時間は一時間を限度とし、次の部隊と入れ替わる。補給や休息を容易にするため、浮遊要塞を我らの後方に位置させる。これは危険を伴うが、我々を信頼してアメイア団長が決定なされたことである。決して奴らに突破されることのないよう、各人、持てる力を存分に振るえ!」
 ヘレスの命令を受けて、龍騎士と従龍騎士、ドラゴンとワイバーンがそれぞれの声で戦う意思を示す。
「よし、出撃!」
 そして、三個竜兵中隊、総勢六〇〇騎に及ぶ大集団が、ウィール支城を目指して出撃する――。

「輜重兵三個小隊は、我々の後方を速度を落として進め。万が一襲撃を受けた際は、即座に浮遊要塞へ撤退を図れ」
「了解しました」
 三人の輜重兵小隊隊長へ、ゴルドンが命令を下し、彼らは自ら指揮する隊員たちの元へ駆けていく。
「三個歩兵中隊は、現在ウィール支城へ向かっているはずの、雪だるま王国の主力部隊を全速で追いかけ捕捉、これを殲滅せよ。追いつけなければ意味が薄れる、先頭の者はなんとしても敵の尻尾を掴むのだ」
「お任せください!」
 やはり三人の歩兵中隊隊長へ、同じ様に命令を下し、駆け去っていく彼らをゴルドンが見送る。
(……我々が奴らの殲滅をしくじれば、団長の身に危険が生じる。団長のためにも、失敗は許されない)
 もし彼らが雪だるま王国の主力部隊を仕損じれば、雪だるま王国へ撤退すがら、単騎雪だるま王国へ向かったアメイアと接触を図られる可能性がある。最悪、アメイアが敵に鹵獲される可能性だって、ないわけではない。
 一人たりとも逃さない、その意思を胸に、ゴルドンは三個歩兵中隊、総勢一八〇〇名を率い、出撃する――。


●ウィール支城

 敵の襲来を告げる警報が鳴り響き、ウィール支城に再び緊張が走る。
「こ、今度はさっきの三倍くらい来てますー。アーデルハイトさまからの援軍到着はないですかー?」
「ええ、そのような連絡は……。ただ、『アルマイン支援装備の遠隔操作による、戦場での魔力補給』は行えるとの報告が入りました。また、ニーズヘッグさんがイナテミスを発ったという報告もありました」
 あわあわとする伊織へ、セリシアが上がってきた報告を伝える。どうやら今日一日は、あくまで力に力で対抗する策を強いられるようであった。
「……大丈夫です。皆さん、ちゃんと無事に帰ってきます」
「そ、そうですよねー。僕達が信じてあげないといけないですよねー。セリシアさん、ありがとうございますっ」
 ぺこり、と頭を下げる伊織に微笑み、セリシアが再び、大空へと羽ばたくアルマインを見届ける――。

「各機、異常はないか?」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が調整を行い、各機と通信が繋がる中、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が状況を確認する。
『こちら緋桜機、異常なし。問題なく支援を行えるぜ』
『こちらノルデン機、私達もまだ十分戦えます』
『こちら遠野機、戦闘に支障はありません』
 それぞれアルマイン・マギウスの大火力兵装で射撃を見舞っていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)ナナ・ノルデン(なな・のるでん)遠野 歌菜(とおの・かな)からの通信が返ってくる。

 味方の数の数十倍の敵を相手に、単独での行動はあまりに無謀、そう考えた涼介は、敵同様小隊単位での行動を同じ『アルマインの乗り手』に打診した。そして、それぞれ思うところがありつつも、一応形の上では小隊編成(近接一、遠距離三)を組むことにし、彼らはこれまで敵竜兵の撃破を重ねてきたのであった。

(このウィール支城を抜かれれば、背後にあるイナテミスの中心部、そしてイルミンスールに侵攻されてしまう。それだけは絶対に防がなければ)
 守るべき人、そして場所のため、涼介が今一度、覚悟を固める。
「エイボン、火器の方は異常ないか?」
「はい、兄さま。マジックカノン、マジックショット共に、問題なく使用可能ですわ」
 主として火器統制を担当するエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、涼介に報告する。
「この戦い、簡単に負けるわけにはいかない。
 クレア、エイボン、『ソーサルナイト』、たとえこの魔力が尽きても良い、守るべきものがある人の強さを龍騎士に見せてやるぞ!」
「うん!」「はい!」
 涼介の意思のこもった言葉に、クレアとエイボンが頷き、そして『ソーサルナイト』と名付けられたアルマイン・ブレイバーも返事を返す代わりに、マジックカノンを構え、敵竜兵に照準を合わせる。
「……撃て!」
 直後、涼介の意思に応え、『ソーサルナイト』がマジックカノンを発射し、後方の三騎のアルマインも追随するようにマジックカノンの斉射を行う――。

「カナタ、『魔王』の方はどうなっている?」
 マジックカノンのモードをSに切り替え、近付こうとする竜兵を牽制するように放ちながら、ケイが主に敵の索敵や通信を担当する悠久ノ カナタ(とわの・かなた)に尋ねる。
「案ずるな、元気に戦場を飛び回っておるよ。あれで従える者がいなければ、突っ走って前線で孤立していたやもしれぬな」
 レーダーを確認し、カナタが状況をケイに報告する。アルマイン搭乗の経験が浅い生徒たちを率いることを司令官である伊織から命じられたリンネたちは、現時点までは見事にその役割を果たしていた。『アインスト』のリーダーとして生徒たちを引っ張ってきた経験が、ここでも生きているのかも知れなかった。
「そうか。いつでも支援に回れるようにしておきたいな。ニーズヘッグはこっちに来るんだって?」
「ああ、そのように先程、司令部から報告があった」
 エリザベートと契約者を乗せたニーズヘッグがウィール支城に向かっていることは、ウィール支城で戦う者たちに既に伝えられていた。
「校長まで来るとなると、ニーズヘッグの攻撃力は想像もつかないな……。
 だが、それまではリンネたちの乗る『魔王』がこっちの主戦力だ。『魔王』が存分に戦えるようにしておかないとな」
 言った矢先、視界の左の方から迫る竜兵を発見したケイが、カノンを発射する。ある程度進んだ後に炸裂して飛ぶ魔弾が、複数の竜兵を巻き込んで撃ち抜いていく。
(サラ……まさかこんな形で、誘いに応えることになるとは思わなかった。
 だけど……俺はこのイナテミスを守りたい。そして、もう一度会って、伝えたい言葉があるんだ。

 サラや、守りたい大切な人たちがいるからこそ、俺は立ち上がれる……乗り越えられる。
 心配かけてすまん……そして、ありがとう……!)

(しかし、この戦力差……やはり転機が訪れるまで耐え忍ぶ他あるまい。個々での性能差はこちらに分があるようじゃが、何せ数がケタ違いじゃ)
 心に思うカナタ、周囲の様子を示すレーダーは、敵を示す赤い点がまるで絨毯のようにひしめき合っていた。僅かな点でしか無いこちらは、いとも簡単に飲み込まれてしまうように見える。
 だが、実際は性能差の関係で(速度こそ互角といっていいが、遠距離武器の所持が大きい)、これまで何とか飲み込まれずに済んでいる。
(龍騎士……人を超えた力を持つ彼らも、見た目はわらわたちと変わらぬ。できうる限り、傷つけたくはないのだが……)
 戦場の真下では、撃ち落とされたドラゴンやワイバーンの力尽きた姿が、時間と共にその数を増していた。調教が行き届いているおかげなのか、ドラゴンやワイバーンは自らを犠牲にして搭乗する龍騎士を守るため、たとえ落下したとしても龍騎士まで犠牲になることは、少なかった。それでも所々には、手足を撃ち抜かれ、あるいは失った、“かつて龍騎士であったもの”の姿が見える。
 どうしても、『人が操作するもの』同士の戦いでは、人はいとも簡単に死ぬ。人の何倍、何十倍の力が出せるものを操作しているのだから、当たり前といえば当たり前なのだが、だからといってそう易々と受け入れられるものではない。
(出来れば、命のやり取りはしたくありませんでしたが……。ですが、相手にその意思がある以上、私も覚悟を決めて戦うしかありませんね。
 ……全ては、イルミンスールを守るために!)
 カノンを斉射するナナも、命が失われるという事実は、嬉々として認めたくないと思っていた。しかし敵が、命を奪われる覚悟すら抱いてこちらの命を奪いにくるのである以上、易々と命を奪われるわけにはいかない。
 こちらも相応の覚悟を抱いて、敵に立ち向かわねばならない。アルマインという戦う力があるのなら。
「ズィーベン、周囲の状況報告をお願いします」
「えっとね、左側の敵が突出してきてる感じ。……あっ、でも右からこっちに向かってくる敵兵がいるよ」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の報告により、自身から左側の敵が攻めに転じていること、右側から複数の竜兵が接近しようとしていることが判明する。
(今こそ、二つのモードを有効に使い分ける時ですね)
 方針を定めたナナが、まずはカノンをCモードにして、左側の敵へやや接近しながら魔弾を撃ち出す。数発の魔弾は、竜兵の横合いから襲う形で突き抜け、数匹のワイバーンを戦闘続行不能へと陥れる。
 左側の敵に混乱が生じたのを見計らい、ナナがカノンをSモードへと切り替えると同時に、振り返って大分距離を詰めていた竜兵に照準を合わせて発射する。ある程度の距離を進んで炸裂した魔弾が、多くの竜兵を巻き込んで突き抜け、出鼻をくじく。
 近接戦がメインの竜兵は、どれだけ加速できるかが最大の武器である。その加速を封じる、あるいはブレーキをかけさせることは、それだけで敵の攻撃の機会を奪うことに直結する。
(状況の変化……それはおそらく、ニーズヘッグの戦場への到達も含まれているでしょう。それまでにこちらの数を減らさず、あちらの数を減らすことが出来れば……!)
 そうなれば、支城を守り切ったという『勝利』が見えてくるかもしれない。
 そんな淡い期待を胸に、ナナがカノンの二つのモードを使い分けながら、戦場を飛び回る。
「そういえば歌菜、聞いたか? ニーズヘッグがこちらに向かっているそうだ」
 カノンの照準合わせを担当し、今またSモードで効果的な射撃を浴びせた月崎 羽純(つきざき・はすみ)の問いに、歌菜が悔しさとも憤慨とも取れる感情を滲ませて答える。
「何人かの契約者と、校長先生も一緒だということまで聞いてるよ。本当は私達でドラゴンライダーを食い止められればいいんだけど……!」
 エリザベートを加えたニーズヘッグは、おそらくこの戦況をひっくり返しうる戦闘力を秘めているだろう。
 それは、この戦いに勝つためには必要なものかも知れない。しかしニーズヘッグの投入は同時に、今いる戦力だけでは戦況を好転させられないということを否が応でも認めなければならない。
 自らの実力不足を認めなければならない、それが歌菜に悔しさと、怒りを呼び起こす。
「……今日の私は、一味違いますよ! 覚悟は出来ていますか!?」
 その怒りを戦う力に変えて、歌菜が不退転の覚悟を決め、マジックカノンを撃ち込む。炸裂する魔弾を、なおも数騎のワイバーンがくぐり抜け、ランスを構えて突撃姿勢を取る。
「避けたヤツが来るぞ、歌菜! マジックショットを用意する、撃ち落とせ!」
 即座に羽純が、アルマイン・マギウスの手にマジックショットを持たせる。
「ありがとう、羽純くん! 次はこれなら……どうですか?」
 鋭く速い魔弾がワイバーンを追い詰め、翼を撃ち抜かれたドラゴンライダーが愛騎共々地上に落下していく。しかしそれでも、点在するほどになった敵騎は、突撃姿勢を崩さない。
「まだです! 絶対、ここは通さないっ!」
 マジックショットをマウントし、代わりにマジックソードを抜き、マギウスが向かってくるワイバーンと真っ向から立ち向かう。刹那の瞬間すれ違う両騎、繰り出されるランスが右肩を掠めるのを感じながら、右手で持ったソードを振るい、ワイバーンの翼をもぎ取る。
「歌菜、大丈夫か!?」
 アルマインが受けたダメージを確認しながら、同時に羽純が歌菜を気遣う言葉をかける。
「うん、大丈夫! まだまだ戦えるよ!」
 元気に答える歌菜、アルマインの受けたダメージも、アルマインが備えている魔力で回復可能なレベルであった。
「そういえば、アーデルハイト様がこう言ってたね。『魔力を回復させる、あるいは増幅させる効果を及ぼす術は、アルマインに対しては魔力の循環を早め、威力の向上やダメージの回復を早くさせる効果がある』って」
 人とアルマインの違いは、アルマインの場合、魔力の総量は支援装備のマジックヒールを除き、設備の整った場所で回復させない限り回復しないことであった。人に対しては魔力を回復させる、あるいは増幅させるスキルは、アルマインの中で使用する場合、武器の性能向上やダメージ回復速度の向上(その分、魔力総量の減りは大きくなる)として働くのであった。
「ああ、そう言っていたな。……歌菜、まさか――」
 羽純のもしかして、という予想は、直後現実のものとなる。

 だって 愛は世界を救うんだから!
 私の心 必ず届けてみせる

 大切な大切な私の世界
 大好きな場所
 大好きな人

 守るよ 必ず

 だって 愛は世界を救うの!
 私の心 必ず届ける


 歌菜が、魔力を回復させる効果のある歌を歌い、アルマインの機能回復を図る。
(歌菜……ああ、俺達で守ろう、この場所を)
 そして羽純も、歌菜の歌に微笑を浮かべ、これからの戦いを乗り切る力が湧いてくるのを感じていた。