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【創世の絆】銀行強盗ゲルバッキー

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【創世の絆】銀行強盗ゲルバッキー

リアクション

そこに、吉井さんが苗木ちゃんティーを入れたスプレーを手に突っ込んでくる。
「殺菌してやるわ、ゲルバッキー!」

吉井さんは、ゲルバッキーに向かって、思いっきりスプレーを噴射した。

そこに、五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)のパートナーのポータラカ人、
ンガイ・ウッド(んがい・うっど)が割って入る。
「のわあああああああああ!?」
「な、どうしてそこまで!?」
ンガイが、ゲルバッキーの身代わりに、カテキンを浴びたのだった。
驚くゲルバッキーに、猫の姿のンガイが渋い笑みを浮かべて見せる。
「同胞であるからな。
……それに、我ならば消滅までは至らぬだろう。
そなたは弟のように思えて、他人の気がしないのである」

「どきなさいよ、そいつのしたことがわかってるの!?」
吉井さんが、ンガイを退け、
なおも、ゲルバッキーを攻撃しようとするが。
「逃げるのである、ゲルバッキーよ!」
「ちょっと、放しなさいよ!」
ンガイが、吉井さんの足にまとわりついて、妨害する。

「ゲルバッキーの消滅を止めることには、
僕も同感、かな」
黒崎 天音(くろさき・あまね)が、
パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)とともに、
吉井さんの前に立ちふさがる。
天音が、吉井さんの腕を拘束して、スプレーを噴射するのを止めさせる。
「放して! 放してよ!」
暴れる吉井さんに、天音が、落ち着いた口調で言う。
「吉井さん本人は、すっかり忘れてるような気がするけど……
ゲルバッキーが完全に消滅するような事があれば
パートナーロストの影響が強いのは、
吉井さんの方じゃないのかな」
「え……!?」
顔面蒼白になった吉井さんが取り落としたスプレーを、
ブルーズが拾い上げる。
「怒りで、我を忘れていたということか」
「吉井さん。
契約者である以上は、
このことからは逃れられない。
誰であろうともね」
天音の言葉は穏やかであったが、
ここまで怒りにまかせてやってきた
吉井さんを我に返らせるのには十分であった。

「た、たしかに、私とこのクソ犬はパートナーで……」

そこに、坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)
姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)も現れる。
「パートナーロストの可能性を
吉井さんは甘く見ている気がするでござる。
ゲルバッキー側は吉井さんを失っても耐えられるかもしれないでござるが、
吉井さん側では非常に危ないと思うでござるよ」
鹿次郎にも、パートナーロストの危険性を指摘されて、
吉井さんはひるんだようになるが。
「だったら、私はどうすればいいのよ!?」
「こうするのです!」
雪は、苗木ちゃんティーを自分の両手にかけると、
ゲルバッキーーに往復ビンタを喰らわせた。
「ぐぶほおっ!?」
「お父様!
真面目に話し掛けたのを無視した挙句、
無防備な娘に手をあげようとはよくもやらかして下さいましたわね」
雪もまた、【ゲルバッキーの娘たち】のひとりであった。
「罰として、これから娘の願いは一生、常に叶え続けてもらいますわ!
わたくしならいつでも食べ放題、
エメネアさんならバーゲンし放題など、
当然、娘それぞれの願いをきちんとかなえてもらいますわよ!」
「や、やめ……ぐばあっ!?」

雪に往復ビンタを喰らってるゲルバッキーを見て、
吉井さんは、少し、溜飲が下がったようだった。
「……たしかに、殺すまではしなくてもいいかも」

「そう、エメネアさんでござる!」
鹿次郎が、ゲルバッキーの前に進み出る。
「エメネアさんを拙者のお嫁さんに下さい!
それを前提にしたお付き合いをさせて下さいお父さん!
パートナー契約的な意味ではなく婚姻届的な意味で!」

話題になっているエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)はといえば、
空京で暴走している最中だったのだが。

「わ、わかった、結婚でも何でもしていいから、
僕を助け……ぐほあっ!?」
ゲルバッキーは、保身のため、結婚を許可しようとするが。
「自分かわいさに娘を売るとはなんたる腐った性根!
叩きなおしてやりますわ!」
さらに、雪の怒りを買い、殴られていた。

「やった、お父さんの許可を得られたでござる!」
「ちょ、助け……!?」
「まだ罰は終わっていませんわ!
社会福祉と娘のお願いを叶えるために働きなさい!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!」

こうして、ボコボコにされたゲルバッキーに、
雪は、それまでと声のトーンを変えて言う。
「本当に悩む事があれば相談して下さいませ、
作られたと言ってもわたくしたちは娘なのです」
「……」
ゲルバッキーは、静かに押し黙った。


「もういいのです、ニビル。
これ以上、自分を責めるのはやめてください」
ニル子の身体のファーストクイーンが、
天音にうながされ、進み出る。
「私は幸せでした。
こうして、あなたにも愛されて、
契約者の皆さんにも出会うことができて……」
「ファーストクイーン様……」
優しい言葉をかけるニル子……ファーストクイーンは、微笑を浮かべた。
「最後にお願いしてもいいですか?」
「え、最後って、ファーストクイーン様!?」
「これから、どうか、ニルヴァーナを見守って。
たとえ、私のいない世界でも、
あなたには大勢の仲間がいるはずです」

ニル子の身体から、光がこぼれていく。
ファーストクイーンの精神が、ゆっくりと離れていっているのだ。

「待ってください、ファーストクイーン様!
僕は、僕は……!」

ニル子からファーストクイーンの精神が
光となって消えていくのを追いかけるように、
ゲルバッキーの身体がナノマシン拡散していく。
そして、まるで、ファーストクイーンを追いかけるかのように、
ゲルバッキーのナノマシンも空へと昇っていった。

まるで、ゲルバッキーの、
長い長い年月、かたくなだった心がほどけるのと同時に、
その身体を構成するナノマシンも、役目を終えたかのように。

「皆さんも、本当に、ありがとうございました。
どうか、これからも、世界を……」

最後に、ファーストクイーンの声が響き渡った。

地上には、
ただ、じっと空を見上げる、ゲルバッキーの姿があった。

契約者たちは、
誰も、言葉を発することができずに、
じっと、ゲルバッキーの背中を見守っていた。