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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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市民を救出せよ 2



 避難所の場所を確認したあと、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は擬態皮膚を用いて、姿を子共に見せかけた。
「急がねば」
 各避難所には自衛隊の輸送隊が派遣されており、順調に避難は進められている。夜を待たずして、東京から獲物は全て逃げ去ってしまうだろう。
 子共に扮し、避難地区に素早く紛れ込まなければならない。
 避難所から少し距離を取った、コンビニの裏手で準備を整えると、エッツェルは避難所へ向かった。
 あてもなく、キョロキョロと辺りを見回しながら、しかしその足は真っ直ぐ避難所へ向かう。怪物の姿は無いが、同様に人の姿も無い。
 だがエッツェルの姿は、酒杜 陽一(さかもり・よういち)に捕捉されていた。二車線道路を横断している最中に、陽一が仕掛けた。
 光学迷彩とブラックコートで姿と気配を消して、密かに死角に回りこんでいたところからの、バーストダッシュによる急襲だ。攻撃が当たる寸前でエッツェルは反応し防御する。
「どこに向かうつもりだ?」
 5メートル吹き飛ばされたところで、エッツェルは踏みとどまった。擬態皮膚は先ほどの衝撃で使い物にならなくなってしまったようだ。
「避難地区に決まってるじゃないですか」
 エッツェルは自身を絡め取ろうとする、深紅のマフラーをたくみに回避した。体内に取り込んだ、クルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)の行動予測のおかげである。
 さらに距離を取り、さらに回り込むようにして動く。背後に避難地区を背負うような形にし、押されているふりをしてそこに雪崩れ込めば、当初の形とは違うが計画通りだ。
 陽一は間合いの取り合いを拒むように、飛び込んだ。

「何やってるんだ、あいつら?」
 青年は、二人の戦いを遠くから眺めていた。
 ダエーヴァと、こっちの連中がぶつかっているのは不思議でもなんでもないが、あの二人はどちらも青年の知るダエーヴァではない。
「世界の危機に、身内同士で殴り合いねぇ。余裕あるじゃん。俺も人の事言えた義理じゃないけどさ……水を差すのもどうかと思うけど、やりやすいところを攻略した方がいいよな」

「はぁ……はぁ……」
「どうしたのです? その程度ですか?」
 陽一はエッツェルを睨む。ここまで押し続けていたのは陽一だったが、これといった決定打を与えられないでいた。僅かだが確かに、エッツェルの方が上手だったようだ。
 そんな彼らの元へ、いくつもの足音が近づいてくる。
「おや?」
 一つや二つではなく、大量の足音だ。まるで二人を取り囲むようにして現れた足音の主達が現れると、東京の一角に異様な光景ができあがった。
「援軍を連れてきたのだが、これはどういう事か?」
 フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)は、道路を挟んで反対側に集まっている黒い軍勢を見据える。フリーレはエッツェルを捕捉したあと、エッツェルの目的を見据えて避難地区側から味方を呼び寄せる為に動いていた。
 挟み撃ちで、確実にエッツェルを捕縛するためだ。
「くそ、どうなってんじゃこれは」
 援軍としてやってきたカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)は頭を抱えた。一緒にやってきた斎賀 昌毅(さいが・まさき)もこの光景には意表を突かれた様子だ。
 道路の真ん中に、エッツェルと陽一、道路を挟んで向かい側には、黒いゴブリンの群れが集まっているのだ。
「俺も、何が、何やら」
 中心に居る陽一も、この状況はよく理解できていないようだ。それは、エッツェルも同じである。
 契約者達が混乱する一方、怪物達は非常にシンプルに、いつも通りの動きをしてみせた。雄たけびをあげ、突っ込んできたのだ。
「あいつら、やるきじゃぞ!」
 カスケードが雄たけびに負けじと声をあげる。奴らが何を考えているかはわからないが、目的地はエッツェルと同じ一時避難所だ。
 怪物達は、エッツェルと陽一の居る場所を避けるようにして、フリーレ達に向かってきた。そう命令されているのであり、命令主はどちらが自分達側なのかわかっていないのである。
「わけわからん動きしよって!」
 カスケードは、自分に振り下ろされる斧の持ち手の部分を掴んで止め、ゴブリンの顔面に拳を叩き込んだ。
 不細工な鳴き声をあげてゴブリンは倒れるが、勝ち誇る暇は無い。数は敵の方が多いのだ。
「行かせるか!」
 昌毅の朱の飛沫の炎にゴブリンが三体まとめて絡めとられる。炎によって二体のゴブリンは膝をつくが、一体は槌を振るって体に纏わりつく炎を消し飛ばした。
 雄たけびをあげ、昌毅に向かうゴブリンだったが、まだ距離がある場所で糸が切れたように崩れ落ちた。
(狙撃ポイントにつきました。援護します。パパッとやって昌毅のパパに会いに行きましょう)
 精神感応で、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が昌毅に声をかける。
(わかった、頼んだぜ。けど、親父に会うのは―――)
(フラワシさん、お願いします)
 昌毅の返答を押さえつけるように、マイアから次の思念が届く。言わせないつもりなのだろう。
 ゴブリン達も狙撃に気づいて、敵の姿を探す。
「残念だけど、見えねぇよ!」
 探したところで、マイアは見つからないだろう。彼女は遠隔のフラワシによって、曲がる弾丸を放っているのだ。そうとも知らずそっぽを向くゴブリンに、強烈な一撃を叩き込んだ。

 高層ビルの影から影へ、不審な動く物体を発見したのはブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)だった。その報告を受けて、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)と、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の四人はその影を追った。
「人の姿に、嘴、大きな翼、報告は無いがダエーヴァで間違いないな」
 甚五郎が相手を確認し、ブリジットがデータを参照する。
「報告に無い個体ですね。地球にあのような生物が居るとの報告もありません」
「まだこちらに気づいてないですね〜」
 距離を大分詰めたが、ガーゴイルのような怪物は四人には気づいていないようだった。「一気にやっつけちゃいますか?」とホリイが口にする。
「いや、せっかく単体でうろついているのだ。生きたまま捕獲しようと思うのじゃが、よいかな?」
 羽純の提案に、甚五郎は頷いて了承した。
「俺が仕掛ける。羽純は隙をついて捕縛を、ホリイは捕獲に失敗した時に頼む。ブリジットはそのまま記録をとってくれ」
「わかりました〜」
「了解です」
 羽純と甚五郎は、気づかれないようにギリギリまで近づくと、ビル影から飛び出した。
 ガーゴイルは、何かに集中していた様子で、気づく気配は無かったがさすがに飛び出すと反応した。だが、できたのは甚五郎を視界に捉える事と、口をあけるぐらいだ。
「はぁっ!」
 交差の一瞬に、霊断・黒ノ水がガーゴイルの右側の翼を断ち切る。絶え間なくはためいていた翼を失い、ガーゴイルはきりもみ回転しながら落ちていった。
「いらっしゃい」
 あとは簡単だった。待ち構えていた羽純が封印呪縛で、ガーゴイルを封印の魔石に捉えた。不意打ちで精神状態が平静でなく、翼を失い墜落中だったガーゴイルに、それらしい抵抗はできなかった。
「あれは、なんでしょう?」
 一部始終を記録していたブリジットが、空中を指差す。ガーゴイルから分かれるようにして飛んでいく、小さな物体があったのだ。身体の一部ではないようだ。
「取ってきます〜」
 ホリイが飛び出て、その物体をキャッチした。
「これは、ビデオカメラですね〜」
 ガーゴイルが取り落としたのは、よくあるビデオカメラだ。甚五郎と合流して確認したが、一般に流通しているものと、全く代わらない普通のビデオカメラであった。
「中の映像は、奴らの進軍の様子か」
 映像をざっと確認すると、ダエーヴァの軍勢が避難所に攻め込む様子が記録されていた。
「こちらは提出しましょう、私が預かっておきます」
「手ごたえ無かったのは、こいついは戦闘要員ではなく、従軍カメラマンか何かだったからかのう」
 羽純はカメラと一緒に、ガーゴイルが封印された魔石もブリジットに預けた。

「順番に、並んで! 自衛隊は逃げたりしません!」
 青葉 旭(あおば・あきら)ができる限りの声をだして、避難民を自衛隊の装甲車へ誘導する。彼らは浮き足立っている。それも仕方ない、目と鼻の先までダエーヴァの軍勢が押し寄せているのだ。
「全員乗れるようになってるから、慌てず騒がず落ち着いて」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)も旭と共に、誘導を手伝う。
 この自衛隊と装甲車は、都知事のミルザムが手配したものだ。
 都知事のスタッフとして都庁に詰めた事もある旭は、都知事のスタッフが残っている限りは、都知事が都を見捨てた事にならないと信念の元に東京での活動を続けていたが、例えこの場に居なくとも、ミルザムはできる事をやって、戻ってきたのだ。
 お互いそれぞれやる事はあるので、まだ顔を合わせてはいない。都知事として、スタッフとして仕事が終わってからでも合流は遅くはないだろう。
「あとはよろしくお願いします」
 あとを引き継ぐ自衛隊の人は、真剣な面持ちで敬礼をした。装甲車が離れていくのを見送る間もなく、二人は振り返る。
「さってと、こっからが本番だね」
 既に足の速い何体かが、避難所である神社の駐車場に姿を現していた。
 これまでの傾向として、ダエーヴァの軍勢は目的を達成できないと判断した場合、波が引くように撤退していく。まだ奴らが姿を現しているという事は、装甲車を追撃できると考えているからだろう。
 神社に手配されている契約者と、教導団の学生の役割は彼らに追撃は不可能と認識させるまで、時間を稼ぐ事だ。
「目下の問題は、みんな出払ってる事だね」
 この周囲の防衛に派遣されている契約者は他にも居るのだが、この場所に残っているのは二人だけである。残る戦力は、教導団の学生達だ。
「文句を言ったところで何も改善はされない」
 旭は誰よりも早く前に出て、向かってくる二体のゴブリンを破邪の刃で切りかかった。一体の首をうまく切り裂く事ができ、しとめる事ができた。もう一体も、肩から胸にかけて、浅くない傷を負っている。
「光属性に対する抵抗は無いようだな」
 手の感触から、旭はそう判断する。
「氷もちゃんと通るみたい」
 禍心のカーマインを構えるにゃん子の正面には、片足と肩に氷属性の弾丸を受けてうずくまるゴブリンが一体。
 教導団の学生が使う弾丸も、ダエーヴァのゴブリンにダメージを与えているようだ。
「なんとかオレ達も、やっていけそうだな」