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リアクション
【イーダフェルト防衛戦】 5
全てが終わった後――。
佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)は自らの牡丹の修理補給用トラックと部下イコンであるプラヴァー二機を使い、なぜかイーダフェルトの広場に温泉を造っていた。
言わば疑似温泉施設のようなものだ。プラヴァーをこき使って岩だの木だのと露天風呂の材料を集めてこさせた牡丹は、そこに直接引っぱってきた熱海温泉をトラックから流し込むという荒技に打って出た。
イコンの扱い方を完全に間違っているんじゃないかという疑問は、彼女には通用しない。そんなやつはまとめて厨房にポイッだった。
厨房には、もう一機のプラヴァーが運んできた食材で、ホテル並みの食事の準備が進められていた。キッチンに立つのはコックなポムクルさん達と、料理の得意な契約者達だ。彼らはあっち行ったりこっち行ったりと忙しくあくせく立ち回り、厨房に入ってきた他の契約者達(主に男連中)をこき使った。
もちろん、ポムクルさん達の大好物と化しつつある和菓子も忘れてはならない。
「今回は温泉まんじゅうを用意しましたよ!」
茶色い皮に包まれたふわふわのまんじゅうが用意されて、ポムクルさん達はわーっと色めき立った。そうして温泉が完成すると、ポムクルさん達は一斉に温泉まんじゅうに群がり、温泉の中に飛びこんだ。
「温泉なのだー!」「旅行なのだー!」「マナーが大事なのだ?」「泳いじゃだめなのだー」「はー、ビバノンノン〜」「しゅわっちー!」「まんじゅうもがががー」「食べ過ぎ注意ー!」
思い思いの場所で、ポムクルさん達ははしゃぎ回る。
契約者達もそれを見つめながら温泉に入って、ゆっくりと身体を休める者、ポムクルさん達を眺める者、のんびりと昼寝をする者などに分かれた。
と、そこで牡丹はエルピスのもとに近づく。
彼女はエルピスの為に、あるとっておきのプログラムを組んできたのだった。
「じゃじゃーん! これぞ、『温泉プログラム』ですー!」
「温泉プログラム?」
牡丹の持ってきたディスクを見て、エルピスは首をかしげた。
なんでもそれは、エルピスに温泉気分を味わってもらいたくて作ったプログラムとのことだった。作成したプログラムをエルピスに送信しながら、同時に牡丹自身を機晶脳化でイーダフェルトと接続。牡丹の感じる『温泉に入った時』や『甘いお菓子を食べた時』といった感覚を、ダイレクトにエルピスに伝えることが出来るという代物だった。
そのおかげで、エルピスはそれまで感じたことのなかったお菓子を食べた瞬間や、温泉に浸かった瞬間というのを味わう事が出来た。
「うわぁ……これが……温泉なんですね……。それにこの……おまんじゅうの味……」
「どうですか? これならきっと、楽しんでいただけると思ったんですけど……」
「ええ、もちろん。ありがとうございます、牡丹さん」
エルピスは幸せそうな笑顔でそう答えた。
ついでに言えば、その後、牡丹が用意したもう一つのプログラム『タオル姿』で、エルピスはタオルを巻いた半裸姿になるという羞恥を味あわされたのだが……。
それはまた、別の話である。
いずれまた、その時が来ればお話するかもしれなかった。
(やめて下さい――――っ! ※エルピスの心の声)
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