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リアクション
タイヤキ片手に商店街
久々に帰ってきた地球。
相田 なぶら(あいだ・なぶら)の実家近くの商店街は新春初売りでにぎわっていた。
「おぉ! ここが地球の町なのだな! なんか色々あるのだ!」
初めての地球を珍しがって、木之本 瑠璃(きのもと・るり)は片っ端から店を覗いて回っている。
「瑠璃、あんなにはしゃいじゃって」
フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は契約してからしばらく地球に住んでいたことがあった為、この商店街にも慣れていて、瑠璃のように興奮はしていない。
けれど、契約したての頃はフィアナも事あるごとにあたふたしてばかりだった。そんなことを思い出しているうちに、なぶらは笑っていたらしい。
「今こっち見て笑いませんでしたか?」
フィアナにそう聞かれてしまう。
「思い出してたんだよ。フィアナが最初にこの商店街に来た時、おじさんに呼び込みされて……」
「もう……。昔のことは忘れてください、いいですか?」
フィアナは軽くなぶらを睨むと、また商店街にある品物に視線を戻した。
「しかし、本当に久しぶりですね。こんなにゆっくりするのは」
パラミタは未だに色々忙しいし、フィアナは父親の仇を捜している最中で。
けれど、この商店街は以前フィアナが訪れたときと変わりなく、平和で活気に満ちている。ここにいる時ぐらいは、少しだけ、諸々のことを忘れてもいいだろう。
余り普段着を持っていないから、たまには服でも買おうかとフィアナは店先にかかっている服を眺めた。
「む、この福袋っていうのは何が入っているのだ?」
店頭のワゴンに積まれている福袋を指さして瑠璃が聞く。
「何が入ってるのか買うまで解らないのが福袋なんだよ。中身が何か解るのもあるけど、本来は何が入ってるのかは買ってからのお楽しみ、っていうものなんだ」
なぶらの説明に、瑠璃はしばらくムムムと唸っていたが、中身への興味に負けたらしい。
「なふら殿〜、これ買って良いのだ〜?」
「お正月だから福袋の買い物もいいと思うよ。良い物が入ってるといいねぇ」
早速、どの袋にするかと瑠璃は真剣に選び始めた。
それぞれ、買い物を愉しんでいるフィアナと瑠璃の様子に、なぶらは2人を地球に連れてきて本当に良かったと思った。
パラミタでは闘い続きな上、フィアナは空いた時間は父親の仇捜し、瑠璃は瑠璃でいつも明るいように見えるけれど、時折遠い空を見上げて物思いにふけっている。
心休まる時間なんて殆ど無い。
だからこそ、せめて地球にいるほんの少しの間だけでも、2人ともそんな煩わしいことが解放されると良いなとなぶらは思う。
いつかは、パラミタでもこんな風に平和に心穏やかに暮らせるようになれば良いのだけれど。
(その為にも、俺はこんな平穏な時間を築き守れるような勇者を目指そう。少なくとも大切な家族の2人の平穏を守れるくらいもっと……もっと強くなって……)
そんな気持ちで見つめるなぶらの視線の先で、
「これ可愛いですね」
とフィアナが服をあてて見ている。
そうしている様子は、仇など無縁な普通の女の子にしか見えない。
「なぶら殿、フィアナ殿、これ買って食べるのだ!」
瑠璃の方は今度は甘い香りにつられて、タイヤキを指さして騒ぐ。
「はいはい。おじさん、タイヤキ3つね」
焼きたてアツアツのタイヤキを3人で頬張る。
「熱っ」
「何だかこの味も懐かしいですね」
「甘いのだ、美味しいのだ、癖になる味なのだ!」
3人はタイヤキを食べながら、肩を並べて商店街を楽しむのだった。