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●大調査! 武神牙竜のおうちで家捜し! 目指せエッチ本押収!(身も蓋もない言い方)

 手にしたペンをくるくると回す。ペンは銀輪のように残光を曳いて回転し、ぴたりと止まった。こんな仕草が出てしまうのは、彼が苛立っている証拠だ。こんな仕草が出始めて、もう何日目になるだろう。
「書類整理だけで、どんだけあるんだよ!」
 思わず武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はうなってしまった。
 ここは、彼の勤務地マホロバ城の一室である。先日、晴れて旗本と忍者部隊の頭となった牙竜であるが、その仕事内容は彼の想像を遙かに超えていた。年末からこっち、ずっと籠もって仕事をしているというのに、いくら働いても終わりが見えないほど片付けるべき用件があるのだ。労働基準法などという素敵な言葉は、この部屋には存在しない。
「これだから戦争は……八咫烏の忍者達も交代で休んでるか……酷使してるからな……交替とはいえ新年くらい休んで欲しいところだ……」
 つぶやきながら牙竜は、手元の書類に目を通した。これをデータ化するだけでも骨がぼきぼきに折れそうだ。
「あー新年会始まってるよ……今頃みんなどうしてるかな……俺の家で……」
 牙竜はブルーな溜息をついた。今日は彼の家に友人達を招待しているのだ。早めに仕事を切り上げ、頭から参加するつもりだったがそうはいかないようだ。彼自身、ずっと前から楽しみにしていただけに落胆は大きかった。
「よし、ともかく、この山だけは片付けよう。今日はそれで終わりだ!」
 書類の山に向かって決意を述べると、ふたたび牙竜は仕事モードに突入した。

 武神家。
「皆様、新年あけましておめでとうございます」
 玄関に両手をついて龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)セルマ・アリス(せるま・ありす)を迎えた。紫の晴着は桃の花柄、華やかながらしっとりとした美しさがあり、灯の白い肌によく映えていた。
「当屋敷へおいでくださりありがとうございます。牙竜は帰宅していませんが、それまで私が主催代行を務めますのでご心配なく。ささ、遠慮なくお上がり下さい。準備は整っていますので」
「おめでとうございます。そうですか、田中さん……いや、牙竜さんはまだですか」
 セルマがコートを脱ぐと、灯が絶妙のタイミングで受け取ってクロークにかけてくれた。
「あ、すいません」
「お構いなく。さあ、こちらへ」
 灯が案内に立った。からりと障子を開くと、
「おー、来たか。おめでとうおめでとう」
 そこには、紅白の鮮やかな着物、頭を日本髪に結った武神 雅(たけがみ・みやび)の姿があった。
 楚々とした灯と比べると、雅の歓迎はざっくばらんとしていた。畳敷きの大広間にしつらえた和風テーブル、その端で一升瓶を抱え、片膝立てで座していたのだ。
「私にできることといえば、酒の用意くらいなんでな。秘蔵の一本『恐山』を出してやったぞ。端麗辛口、呑み過ぎると三途の川が見えるという欠点はあるが良い酒だ」
 すでに少々『毒味』したらしく雅の頬はうっすらと桜色だ。そんな雅の、惜しげもなく晒される太股を隠しつつ、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)はすすと進み出て皆を迎えた。
「おめでとうございます。好きな場所でくつろいでね」
 リリィがまとうは濃紺の晴着、小手鞠の花柄が可愛らしい。区切りの襖を取り払った部屋は、中央にテーブルがあるだけでなく、南の隅にはコタツの用意もあった。ホットカーペットを敷いた一角もあり、そこにはテレビやゲーム機のセッティングがなされているのだった。
「あ、セルマさんだー。おーい」
 カーペットに寝転んでいた鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が身を起こした。
「ボク早く来すぎたみたいで退屈してたんだー。お手伝いしたかったんだけど、ボクがやったら絶対変なもの入れちゃうと思って自粛したんだよー」
 コロコロと転がりながら氷雨はセルマに近づいて、
「セルマさんも一緒にコロコロしようー。準備は皆に任せるといいよー」
「えーと、ではお言葉に甘えて……」
 セルマもカーペットに転がった。といっても、三分もすれば暇になるのは自明だ。
「やっぱり暇ですね……」
「むぅー、確かに……そうだ! セルマさん待ってる間ゲームやろ!」
 がば、と氷雨は起き上がり、セルマもそれに倣う。
「え、ゲーム、ですか?」
「そう、それも速効で盛り上がるやつ! だから……えっとー、あ、あっち向いてほい、やろ!」
「いいですけど、どういうルールにします?」
「えっとねー。十回勝負でー。負けたのが多い方が罰ゲームね!」
 言うなり氷雨は身を振りかぶる。
「いっくよー、じゃんけんポイ!」
 面食らう間もなくセルマは手を出し、パーで彼女のグーに勝利した。
「あっちむいてホイ! よし!」
 たちどころに右を向かせ、氷雨から一本目をもぎ取ったのである。さて勝負の行方は……?
 氷雨とセルマが白熱している一方、リリィは雅の手を引いた。
「ところで雅姉様……せっかくの晴れ着なんですからちゃんと座りましょうよー」
 あいかわらず雅は立て膝で、肩もずれて鎖骨を晒しているのだった。
「なんだ面倒臭いな。花魁の衣装なんだからこれくらいのほうが格好いいじゃないか」
「駄目ですよー。そもそも花魁っていうのは高い教養と作法を身につけていないとなれないっていうくらいなんですから、しゃんとしないと。それはそうとして、花魁の着物一式なんてどこで入手したんですか!?」
「さあねー」
 意味深な笑みを浮かべて雅は手酌している。リリィは膝歩きでにじりよって告げた。
「また、遊郭の町で飲み明かしたんじゃないですか?」
「それは秘密だ」
 とは言っているものの口調からしてどうやらその通りらしい。まさしく痛飲、といった表情で雅は杯をグイとあおった。
 そんなこんなしているうちに客が集まってきたようだ。
「田中さん……じゃなくって牙竜、まだ仕事中なんて気の毒ー。あっ、あんなところにコタツがー♪」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)はコタツに飛び込んだ。なら私も、といそいそと藍玉 美海(あいだま・みうみ)は彼女の後を追った。
「ふにゃ〜、やっぱりコタツは癒されるねぇ……。あっ、ねーさまそこのおミカンとってー」
 コタツに入るなり、沙幸はいつも通りに和むのであった。
「はーい、てのひらサイズのお蜜柑ふたつ、こちらにありますわよ」
 頼まれるなり、美海はいつも通りに両手で沙幸の胸をまさぐってセクハラに勤しむのであった。
「きゃうっ☆ どうしてねーさまは一年三百六十五日休みなくエッチなのー!」
 続けてやって来たのは如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だ。彼は手に、漆塗りの重箱を抱えていた。
「あけましておめでとう。皆、今年もよろしく。お年玉は用意できないけど、その替わりお節料理を作ってきたんだ」
 佑也につづいてラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)が一同にあいさつする。
「ラグナ・オーランドと申します。どうかお見知りおきを」
 きょろきょろと周囲を見回し、ラグナは家の立派さに驚嘆しているようだった。
 そのラグナとは相性が悪いので、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は彼女と距離を取りつつ、「牙竜の大将はまだ帰ってないみたいだけど楽しもう!」と、満面の笑顔を浮かべた。
「今日は大所帯で楽しいわねー。さっそく『恐山』いただくとしようかしら?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はちょこんと正座して、雅から杯を受け取った。
 一通り座ったところで乾杯となった。
「おめでとうございます〜」
 と言うリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)のグラスと触れあうべく、七篠 類(ななしの・たぐい)は自分のグラスを手にするも、
「おめでとう。……えっと、君は牙竜の姉上だったかな?」
 などとズレたことを言っており、しかも、グラスをうまくリースのグラスに当てられず、真横の何もない空間につきだしていた。
「おっと失礼。なに、今のは素振りさ」
 ふふ、とクールに笑いながら類はぐるり身を回転し、今度は祥子の背に向けて話し始めた。
「さあ、乾杯のやり直しといこう」
「ちょっと類さん! 全然でたらめですでたらめっ」
 見かねたか、グェンドリス・リーメンバー(ぐぇんどりす・りーめんばー)が類に飛びつき、リースの正面に座り直させた。
「ごめんなさい。えっと……この人、ここに来る途中、雪で滑って転んで眼鏡を割っちゃったんです」
 ほら、とグェンドリスが示すように、彼の眼鏡はひび割れて酷い状態だ。彼女がいなければ、類はきっとこの家にたどり着くことすらできなかっただろう。
 しかし類は、やはり理知的な笑みを浮かべて抗弁した。
「何を言う。あれは急にスケーティングの練習をしたくなっただけで転んだりしていないし、眼鏡だって割れちゃいない。こ、これはスモークグラスだからな。勘違いするなよ?」
 リースは類に呆れたりしなかった。むしろ、彼の変に意地っ張りなところを好ましく思った。
「私、リース・アルフィン。乾杯しなおそうねー」
 またも明後日の方向にいきかける類のグラスを取って、リースは小さな音を立てて合わせたのである。
「佑也様、って結構いける口でしたっけ?」
 といって彼の隣に、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が腰を下ろした。振袖姿でにこにこと笑顔を振りまいていた。少し上気しているのは酒のせいだろうか。
「お酒? いや、それほど……って、その瓶は?」
 ずん、と彼の眼前に置かれた酒瓶はどピンク、ラベルでは、半裸の二次元美少女キャラクターがなまめかしいポーズを取っているではないか。なんとも妖しい一本だ。
「萌焼酎『ちぃぱい』と言います。私、普段はお酒もあまり飲まないんですけどねぇ。これなら甘くてそこそこいけますので。ご相伴下さいます?」
「萌焼酎……? 麦焼酎の原料は麦で、芋焼酎の原料は芋……するとこれは、一体?」
「全国から厳選した貧乳妹を、酒樽に漬け込んで熟成させたものだとか」
「ぶっ!」
 飲みかけていたものを噴き出しそうになり、佑也は激しく咳き込んだ。
 無論、冗談なので信じないように。ただし、本当の原料が何なのかは筆者も知らない。