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これが私の新春ライフ!

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●EPILOGUE:願わくばそれが……

 正月シーズンももう終わりだ。
 和原 樹(なぎはら・いつき)はその日、リビングの窓からぼんやりと外を眺めながら思った。
(「うーん。何か忘れてる気がする……」)
 その考えは、ぽろりと口から漏れていた。
「この時期、やるべきことがあったような……。ここ数年、田舎に帰って神社の手伝いする機会がなかったからかなぁ」
 すると、これを聞きつけてフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が彼の正面に座った。
「そういえば、樹って母方の実家が神社だったな」
「そうなんだ……って、聞いてた!?」
「もうばっちり」と、フォルクスはニヤニヤした。「可愛いお口から考えていることがコロコロ転がり落ちてたな」
 不覚、と思った樹であるが、そのとき、
「あっ、思い出した」
「そうか、正月は巫女装束を着ないといけないと思い出したんだな」
「いや、なんで俺が巫女装束着るんだよ。女性用だろ、それ。袴は着るけどさ」樹は椅子から立ち上がった。「とんどだ。うちは毎年やってたから、機会があればこっちでもやりたいなって思ってたんだ」
「とんど? どんどって何なの?」
 ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)も聞きつけて、興味深げに問うた。
「えっと、とんどっていうのは……地方によって呼び方が違うらしいんだけど、正月飾りとか書き初めで書いたのとかを持ち寄って燃やす行事だよ」
 という樹にフォルクスも言葉を重ねた。
「……何かそのようなことを言っていたな。正月に迎えた歳神を送る行事だとか」
 近くの席で書物を読んでいたセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)も顔を上げた。
「そういう行事、多いですよね。神様がたくさんいて、それにまつわる行事もたくさんあって……話を聞くだけでも、なんだか楽しいです」
 そしてもちろん、実践するのであればもっと楽しいだろう。

 四人は外に出て、とんどの準備にとりかかった。
「お正月の飾り物、これで全部のようね」 
 外した松飾りをショコラッテは積み上げた。その間、樹とフォルクスは木の枝を組んで稲ワラを被せ、燃やす土台を作り上げている。
「だいぶちまっとしてるけど……まぁ一軒分ならこんなもんだよな。あんまりでっかい炎が上がっても困るし」
 本来ならば竹を使うのであるが、爆ぜて危険なので今回は木の枝を使っているという。
「……そういえば、書き初めも燃やすの?」
 お正月に書いた半紙を持って、ショコラッテは樹に問うた。
「字が上手になるって言われてるんだ。でもショコラちゃんは字、上手だから必要ないかも?」
「うん……ありがとう」
 樹の言葉に、ショコラッテはやや嬉しそうな目をした。でも、と彼女は、別の半紙束を持ちあげてこう言い切るのも忘れなかった。
「でもセーフェルのは燃やした方がいい。字が細くてへろへろしてるから」 
 消火用の水を組んでいたセーフェルは、力なくバケツを下ろして猫背になった。
「う、やっぱり私の字はダメですか。筆の扱いに慣れていないこともあって、思い切りが足りないのかもしれません……」
 話しながらセーフェルは徐々に背を丸め、なんとなく地面にうずくまりそうな勢いだった。
「………ふぁいと」
 気の毒になったか、ショコラッテはそんな彼の頭を撫でてあげた。
 フォルクスが火術で種火を起こし、組みあがった小さな山に着火した。
 空気が乾燥していたこともあって、すぐに山は威勢良く燃えた。パチパチと音を立て、薄い灰が浮き上がり空で踊る。
「ああ、あったかい……」
 セーフェルは被に手をかざし、ショコラッテもそれに倣った。
「……これで正月も終わりか。今年はどんな年になるかな」
 樹は冷えた手をさすりながら炎にかざした。そういえば、と彼は思う――焚き火って、なんだか切ない。
 するとその手に、フォルクスが上から手を重ね、一緒にさすってくれたのだった。
「ん、ありがと」
 とくに照れたりせず、樹は瞳を伏せた。
「そういえば、歳神様が普段居る方向を恵方って言うんだよ」
「恵方……どこかで聞いたな。確か来月の行事だったか。信仰と結び付いた行事があまり信仰を意識せず気軽に行われている、というのは面白いかもしれん」
 フォルクスは静かに笑った。

 今年はまだはじまったばかり、どんな一年が彼らを待っているのだろうか。
 願わくばそれが、良き日々であらんことを。

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。

 ご参加ありがとうございました。たくさんの人においでいただき、たくさんの物語を描くことができました。執筆は正直、かなり大変でしたが、やりがいのあるシナリオだったと思います。
 劇的な運命の待つ一年、あるいは、恋を成就させる一年、得難き仲間を得る一年、偉業を達成する一年……皆様にとっての2021年がどのような年になるかはまだわかりませんが、充実した一年となることをお祈りしております。

 それでは、また近いうち、新たな物語でお目にかかりましょう。
 桂木京介でした。

 初版公開:2月1日
 改訂二版:2月2日(誤字や称号のミスを修正)
 改訂三版:2月6日(再度、誤字等のミスを修正)