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これが私の新春ライフ!

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●花が舞い、服も舞うなり新年会(字余り)

 椎名 真(しいな・まこと)の家でも楽しい新年会が始まったところだ。
 乾杯の音頭は佐々良 縁(ささら・よすが)
「皆様、謹んで御慶申し上げます……」と口上した直後、「よっしゃあ嫁いないから飲むぞー!
 と怪気炎を上げた。これには、同行の蚕養 縹(こがい・はなだ)も少々呆れていた。
「謹んで御慶申し入れ……あねさんはなっからそれですかい?!」
 なんという解放感、日頃は「深酒するな」と怖い嫁さん(皐月)に怒られっぱなしの縁ゆえに、今日、彼女のいない状況での新年会は夢のような状況なのである。なので縁は、いきなり特大ジョッキでハイボールを飲み干すと、暴走気味に部屋のカーペット上に這いつくばった。そこから縁は、
「ところでここは左之助兄さんの部屋、なにか変なものあったりして……」
 しゃしゃしゃーっ、と昆虫のような素早さでベッドの下を探索しはじめたのだった。怖い。
「お前さん達、今年もよろしくな。温かいもん出来るまで俺が相手して……」と悠長に構えていた原田 左之助(はらだ・さのすけ)としてはたまったものではない。「おいそこ、勝手に漁るんじゃねぇ!」と、縁に飛びついたが既に遅し、彼女は一冊の本を手にしていた。
「おやおや、本が出てきたねぇ。男子の部屋のこんな場所から発掘される本といえば……」
 ぱかっと開けて、そこに縁は可愛らしい白い猫たちを見た。
「……リアル猫写真集ですかーい!」
 叫んだ直後、縁は後頭部を『すぱーん』と左之助にスリッパではたかれていた。

 左之助の部屋から数メートル離れたここは、この家の厨房である。
 最初にあいさつこそしたが、あとはずっと真はここにいて、料理に腕を振るっていた。
「おせちもいいけど、そろそろカレーが恋しくなる時期だよな」
 と、本当に、味見しいしいカレーを煮立てているのだった。
 戸棚に手を伸ばして、そこに真は異変を見た。
「あれ? ここにあった大吟醸がない……高かったからここにしまってたんだけど、どこいったんだろう?」

 その大吟醸の一升瓶は、もちろん(?)左之助が手にしているのだった。彼も最初は隠していたが、すぐに見つかって情報公開とあいなった。
「ところで……東條、いける口か? ん?」
 などという左之助の口調のろれつは回っていない。まだメイン料理はできておらず、従ってろくずっぽ食べていないというのにガンガン飲んでいるので、もう左之助は気持ち良く酔っぱらっていたのだ。
「いける口かって? まあ、いけるがねぇ」
 と返事する東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、実は縁提唱の『お宝大捜索』に参加中で、部屋をごそごそあさぐっていた。それが気に入らないらしく酔っぱらい左之助は、
「こらー、飲めー! 俺の酒が飲めないっていうのかー!」
 とカガチに飛びかかって彼の杯を満たした。確かに旨い酒だ。しかし、きつい酒でもある。頭がぽわんとしてきたカガチは逆襲に出る。
「これー、見ろー! 俺の俺特選和服モノが鑑賞できないとでもいうのかー!」
 などと左之助に口調を似せて一冊の写真集を彼に渡した。
「お古だが献上しよう。和服を着た女性たちの写真集だよ。まあ、着てない写真もあるが……てかそっちの写真のほうが多いが……」
「うむ、引き受けよう」
 左之助はそっと本を懐に入れた。
 さてそんなこんなでなし崩し的に場はぐだぐだ化している。このままではいかん、とカガチは思った。そして閃いた。
「そうだ花札しようぜ」
 と。
「いいぜ、やろうか」
 最初に乗ったのは左之助で、縹も、
「まあ、暇つぶしにはいいかな」
 と振り向いた。
 いわゆる『花合わせ』をやることに決まった。
「へー、男三匹、花札なんかやってんの?」
 これを縁が横から覗いて言った。
「何か賭けたりはしてませんぜ」
 縹が言うと、ならばと縁は提唱してきた。
「賭けがないのもつまらないしぃ、負けたら一枚ずつ脱いでけばいいじゃぁない。てか脱ぎなさいよ」
「飲んだくれが何かいってやがる……」
 縹はそのアイデアに乗り気ではなかったが、
「……ああ、縁は良い事を言うね」酔い乱れる縁の振袖を、時々そっと直していた東條 葵(とうじょう・あおい)も賛意を唱えた。「最初に下着一枚になったものはそのまま裸踊りでもどうだ?」
 などとオマケにすごいことを言う。葵、恐ろしい子……!
「え!? 脱ぐの!? 脱衣花札……だと……」
 カガチは俄然真剣になった。なんでえこの寒い日に脱がねばならんの勝つぞ絶対勝つぞ、と己に誓った。
「さてどう攻めるかな……とはいえ俺はこー作戦とか難しい事考えるのはあほうだからできねえ……」
 カガチは心を決めた。こうなったら作戦は一つ、その名はいきあたりばったり、だ。
 かくして、ポロリ前提、男だらけのドキドキ脱衣花札がはじまるのだった。どうしてこうなっちまった、とぼやきつつ、縹は飄々と札を切っていた。

「お待たせ。カレーと、あと持ってきてもらった御節の残りも手を加えてみたよー!」
 がらっと襖を開けて真が左之助の部屋に入ってきた。もう飲み始めてるだろうな……と想像していた彼だが、現実はその想像を軽く斜め上方向に上回っていた。
「……って、皆なにやってるの?」
 男三人、左之助、縹、カガチ、向かい合って一様に半裸となり、花札を手にむむむと唸っているのだ。
「ところで髪括ってるゴムも一枚計算でいいよねえ?」
 許しを請うような目でカガチは参加者に同意を求めるも、そんな甘い話ではない。冗談抜きで次負けたらダンシングが待っているカガチだった。
「え? 脱衣花札!? どうしてそんなことに!?」
「どうしてだったかな……」
 左之助も大変な薄着で、手札を睨みつけていた。
「言い出しっぺ誰だよ?」
 真が問うと、葵が縁を指さした。しかしその首謀者は……一升瓶を抱えて寝ていた。
「まぁ……うん、俺混ざらなくてよかったぁ……」
 真は苦笑した。各季節を描いた花札の絵に、男子たちの半裸というちとセクシャルな花々――とんだ百花繚乱もあったものだ。
「風邪ひかないようにねみんな」
 宴会の再開は、誰かが下着一枚セクシーダンスの刑になってからにするとしよう。