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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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砕音の過去とチョコ 


 ムショ前町を、蘆屋 道満(あしや・どうまん)が散策している。
(マリちゃんとカナリーは今は亡き九龍城砦で知り合ったと聞くが、ムショ前町と大変似ていると聞く。清濁併せ呑むではないが、ゲームが走っている間はプレイを止めない的なこの発想嫌いじゃない。
 今後ごった煮になる国軍の行先に対し示唆、参考点が見いだせれば……)
 巫女服を着たダンディな髭紳士の道満を、さすがに町に集まった野次馬や的屋も遠巻きに見ている。
 と、向こうから、マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)少尉がカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)と手をつないでくる。仲睦まじいというより、駄々っ子を引きずっている、とう印象だ。
「カナリーも、どんつくどんつくをしたかったのに〜」
「せっかく今を楽しく過ごしている人をお触りしちゃダメであります」
 道満はマリーたちに近づいた。
「マリちゃん、そろそろ予定の時間なのでは?」
「おや、もうそんな時間でありますか」
 すると、じたばたしてマリーに時間をかけさせた張本人が、また騒ぎだす。
「お仕事なのに、他校のオトコのコを誘ったりするマリちゃんってばいけないんだー」


 シャンバラ刑務所内、所長執務室。
 壁ぎわの椅子におとなしく座って、カナリーはおいしそうにドーナツを頬張っていた。
(ミスドのドーナツで買収されちゃったよ、てへっ)
 ドアがノックされ、憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)が名乗り、入ってきた。
 大尉はそこに鬼院 尋人(きいん・ひろと)がいるのに気付く。
「なぜ、ここに?」
 これには尋人に代わって、マリーが答える。
「私がお呼びしたのであります。砕音先生をご存知の方のほうがお役に立てそうでありますから」
 灰大尉の怖い顔が、さらに険しくなる。
 マリーは彼の人となりを「意外とカワイイところがあります」と言っていたが、本当だろうか、と尋人は思ってしまう。
 しかし、帝国に同行した時の様子から、少なくとも砕音に個人的には危害を与えるつもりではないように思われた。尋人にとり、安易には信用できないが、言葉や行動を選んで慎重に接近してみたい相手だ。
 尋人は思惑を気取られないように、灰大尉に「よろしく」と挨拶する。
 続いてマイケル・キム所長も、尋人に「よろしくね」と挨拶した。尋人は挨拶にまぎれて、所長の顔をじっと見る。気にかけている人物とは、大きく顔立ちが違う。
 キム所長は特に気にした風もなく、彼らに声を言った。
「じゃあ、さっそくちょっとアドバイスをいただこうか」
 所長は机に、何枚もの写真を並べている。その横には、砕音の婚約者ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の写真を拡大して作ったお面がおいてあった。
「これは、どなたでありますか?」
「お面作戦その2をやろうかと思ってね。砕音君の関係者の写真を集めてみた」
 尋人は一枚の写真に飛びついた。
「この人……!」
 以前、灰大尉が持っていた書類に載っていた女性だ。
 写真には「アフリカ NPO法人 女性教師」とペンで書かれた付箋が貼られている。
 灰大尉はさらに渋い表情になった。
 キム所長は、二人の様子に不思議そうだ。
「どうしたの?」
「いえ、何も」
 大尉はむっつりしながら答える。
 所長は、尋人が持つ写真を指す。
「それは彼がアフリカ時代に仲良くしてた、学校の先生って事で。地元テロリストに誘拐され、殺されてるねえ。
 他の関係者は、両親に、直属の上司だったCIA局員に、元パートナーのキュリオだから、お面を作るのはその人がいいかな?」
 灰大尉はそれに反論した。
「故人が現れては混乱を深めるだけでしょうし、凄惨な記憶に結びつく人物を見せたら暴れだす恐れがありますから、私は反対です」
 所長は残念そうだ。
「暴れられたら困るなあ。となると元上司かー」
 マリーは内心、そんな事で砕音が治るのだろうか、と暗澹とした気持ちになる。
 彼女は勢力を伸ばしている新日章会に対しても、危惧を抱いており、それだけに砕音の授業を受けたかったと思っていた。だが、それも砕音が回復しない事にはかなわない。


「協力、ありがとう。マリーさんは信頼できると感じる……できれば今後も協力してもらいたいな」
 執務室を出ると、尋人はマリーに礼を言った。女性は苦手だが、マリーには何か性別を超越したものを感じる。
「おお、その時はこちらこそよろしくお願いするでありますよ」

 それから尋人は管理棟に割り当てられた部屋へ入り、携帯電話で先輩の黒崎 天音(くろさき・あまね)に今さっき見知った情報を伝えた。




 砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)は保護できたが、まだ退行した状態のままだ。
 砕音の状態を確認する為、マイケル・キム所長は護衛の源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)を伴い、彼の房を訪れる。
 監視任務にあたっているルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が鍵を開けた。
 急に人が増えた事で、砕音はラルクの背中に隠れてしまう。
 ティーはその様子に胸を痛める。
(助けられてばかりで、こんな時こそご恩返ししたいのに)
 帝国で親切にしてもらってから、こんなお兄さんが居たら良かったのになぁ……と思っていたのだが、今はすっかり「お子様」になってしまっている。
 キム所長は聞いた。
「どんな感じ?」
「おとなしくて、良い子にしてます」
 ルカルカがにこにこしながら答える。
「協力してもらって、ビデオ撮影とボイスメモで記録も撮ってます。後ほど報告書にまとめて提出しますので!」
 ルカルカは張り切って仕事に励んでいる。
 騒動終息後にそれら記録や報告書を資料にまとめ、法務科と団長に提出する予定だ。それにより、なるべく罰が軽くなる事を願う。
 代わってダリルが、所長に報告する。
「刑務所施設や備品への破壊行為に出る素振りはありません。
 自傷行為については、クローディス氏による監視、監督で防いでおり、我々も医師のアドバイスを得ながら解消に向けております」
 所長は安心した様子で「そう」とうなずく。注意深いダリルは、事前にキム所長から警戒すべき点などを確認していたのだ。
「しかし、出てこないねぇ」
 キム所長がため息をつく。砕音はまだラルクの背後に隠れたままだ。
 ティーがおずおずと言った。
「皆さんが注目されてるから、恥ずかしいんじゃないでしょうか?」
「うーん、なら彼の方をなるべく見ないで話でもしようか。何か話題ある?」
 良い機会なので、鉄心は気になっていた事を所長に尋ねる。
「今後、砕音さんが裁判を受けた場合、どうなる見通しだったのでしょうか?」
 これはルカルカも聞き逃せない。
 所長は記憶をたぐりながら答える。
「検察の中には求刑、懲役五千年とまで言う人がいるね」
「ご、五千年?!」
 さすがに皆が声をあげる。キム所長は、まあまあと手で抑える。
「逆に、証拠不十分で不起訴じゃないか、という声もある。
 立件できそうな案件についても、裁判の流れによっては、アムリアナ前女王陛下や高根沢理子(たかねざわ・りこ)代王、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)代王、御神楽環菜(みかぐら・かんな)前蒼空学園校長、前女王陛下の妹でアイシャ陛下を戴冠なされたネフェルティティ様、そして我らが金鋭峰(じん・るいふぉん)団長……と、いったVIPにまで罪があるという事になりかねない、大変に危険な裁判になりかねない」
 大きくため息をつく所長に、鉄心は聞いた。
「では、なぜ空京警察が砕音さんを逮捕したのでしょう」
「これは個人的な見解だけど……国軍統合前の最後の一噛みかもしれないねえ。
 もともと空京警察ってのは、地球から来た現役警察官、それも多くの一般人を集めて作った組織だから。内部には契約者やシャンバラをよく思っていない人間もそれなりにいるんだよ。
 ただ一般人警察官が契約を果たしたり、教導団を退役して警察に入る者が増えて行くに従って、じわじわとシャンバラ化が進められてたんだけど。
 それでも今も、国軍の中核となる教導団やシャンバラに対して、複雑な想いを抱き、反発する人はけっこうな量がいると思うよ。
 そういう人たちと、『刑事は犯人をあげるのが仕事だ』って昔かたぎさんが集まって、シャンバラとしては有耶無耶にしておきたい痛点を突っついた、ってところじゃない?
 まあ、あくまでボクの個人的な勝手な想像を、てきとーな話題として話しただけだから」
 横目でちらりと見ると、注視されなくなったためか、砕音がラルクの背後から出てきていた。
「ちょっと失礼」
 キム所長が鉄心とダリルの後ろに隠れると、持ってきたお面をかぶった。砕音の上司にあたるCIA局員の写真を引き伸ばして作ったものだ。
「ばあ」
「……?」
 二人の後ろから現れたお面姿の所長を、砕音はいぶかしげに見る。が、すぐにぷいと顔をそらしてしまった。
「だめだねぇ」
 所長はお面を取った。同席する者達は「この人、何してるんだろう?」と思ってしまう。

 コンコン、と誰かがドアをノックする。確認すると鉄心のもう一人のパートナーイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だった。
「学人さんからメモを言付かってきました」
 イコナは冬月 学人(ふゆつき・がくと)から託されたメモを鉄心に渡す。鉄心はそれに目を通し、キム所長に報告する。
「ブラキオはUFOが目撃されるようになってから、考え込む事が多くなったと彼の愛人が言っているようです」
「やっぱり何か知ってるねえ」
 所長たちが話しこんでいる中、イコナはこれで仕事終了とばかりに、持っていた大きな袋からチョコレートを取り出し、食べ始める。
 ティーは不思議に思い、聞いた。
「そんなにたくさんのチョコレートをどうしたんですか?」
「調理実習室の冷蔵庫にありましたので、押収した物ですわ。材料用の塊ばかりでしたけれど……あら! 完成品も入っていましたわ」
 イコナの言葉を耳にはさみ、キム所長が「あー、それは……」と言いかけるが、その時にはチョコは彼女の口に放り込まれている。

どかーーーーん!!!(イコナの脳内効果音)

 頭が爆発したかと思うぐらいマズかった。チョコなのに辛くて苦い。
 くらくらしているイコナに、キム所長が気の毒そうに告げる。
「それ……砕音君が作ったチョコレートなんだけど、オリジナリティを出そうとして大失敗したものなんだよね。
 本人が味見して『まあ、食べられる』と言うのを信じて看守が食べたけど……即リバースしたよ」
「こ、こんなテロルチョコは危険ですわ」
 イコナが残りのチョコを誰かに託そうとするが、教導団員は皆、なんとなく目をそらしている。だが当の砕音がずるずると這いより、イコナが持つチョコの袋を受け取った。
 そしてラルクの太ももの上にちょこんと座り、彼の口元にチョコレートを差し出す。
「おう、ありがとうな、砕音!」
 驚いた事にラルクは笑顔で、チョコを口に入れてしまう。
 皆が次の「どかーん」を予想したが、ラルクは笑顔のままチョコを食べている。
「これが愛の力……?」
 ルカルカがつぶやくが、所長が首を振る。
「いや……二人とも舌バカの舌バカップルなんでしょう」
 砕音は袋の中にあるチョコを、次々とラルクに食べさせる。それこそ材料も大失敗作も唯一の成功品も。
 舌が鈍いとはいえ、袋いっぱいのチョコレートを一気に、それも笑顔で食べたラルクはすごい、と皆は思った。