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第16章 目的は…君と出かけること

 バレンタインに、泉 美緒(いずみ・みお)を食事に誘った如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、別れ際に今度はデートにでも誘わせてもらうよと、約束をしていた。
 先月も彼女をエスコートしたのは、正悟の方だったけれど、それはそれとして、今回も正悟の方からの誘いで、2人は空京を訪れていた。
「やっぱり混雑してるよな……。逸れないように、良かったらどうぞ」
 正悟が腕を美緒へと向ける。掴んでいてくれという意味で。
「ありがとうございます」
 美緒は正悟の肘のあたりを控えめに掴んだ。
 他人とぶつかったら、簡単にその手は離れてしまいそうだった。
 正悟は注意して、人が沢山いる場所はなるべく避けるように、そして彼女のペースに合わせてゆっくりと歩くことを心掛ける。
 正悟が美緒を誘った目的は、彼女とデートをすることだった。
 だから、彼女とはぐれてしまったら、今日のお出かけに意味はなくなってしまう。
「財布やキーフォルダーが欲しんいだ。選ぶの手伝ってくれるか?」
「ええ、大した意見は出せないと思いますけれど、男の方の好みを知る機会にもなりますから、よろこんでご一緒させていただきますわ」
 雑貨店や百貨店に入って、財布、キーフォルダー、ベルトなどの男性物を見手回って。
 それから露店や協賛店を見て回り、ベンチで軽食をとったり、おやつを食べたり。
 一般の友人達や、恋人達と同じように2人は楽しい時間を過ごしていった。
「あ、この店いいな……。世界に一つしかないアクセサリーだ」
 正悟が露店の前で足を止める。
 パラソルを立てて、木のテーブルの上に藍色のシートを敷いただけの露店だ。
 販売しているのは、手作りのシルバーアクセサリー。
「全て私の手作りですよ。如何ですか?」
 店主は30歳前後の男性の地球人だった。地球では小さなアクセサリーショップを経営しているとのことだ。
「そうだな……」
 正悟は並べられているアクセサリーの中から、ペンダントを選び取った。
「美緒さんに似合いそうだ」
 青い石のついた、天使の翼のシルバーペンダントだ。
「可愛らしいですわ。ジュエリーショップで売っている品物とは違った、美しさを感じますわ」
「ああ、美緒さんの胸を飾るのに、相応しいアクセサリーだと思う」
 そのペンダントは露店で売られているアクセサリーの中で一番高価だった。
「プレゼントさせてもらうよ」
 躊躇せず代金を支払って、正悟は美緒にペンダントを差し出す。
「代金お支払いいたしますわ」
「いや、俺が美緒さんに似合うと思ったものだから、プレゼントさせてほしい。礼は、つけてくれたらそれで十分」
「ありがとうございます」
 美緒は微笑んで受け取って、そのペンダントを首にかけた。
 彼女の大きな胸の胸元で、天使の羽はふわふわゆらゆら、揺れていく。
「わたくしも買い物が……」
 美緒はそう言ったかと思うと、同じお店で、青い石のカフスを購入した。
「こちらはわたくしから正悟さんへの、プレゼントですわ」
 ペンダントの石と同じ――アクアマリンのカフスボタンだった。
「なんか……悪いな。ありがとう」
 正悟は少し戸惑いながらも、美緒からのプレゼントを受け取った。

 一通り街を見て回った後。
 抽選券を手に、2人は抽選会場に向かった。
「折角だから、抽選は全部美緒さんに任せる。景品も全て美緒さんに譲る。今日のお礼にね」
「ありがとうございます。なんだかどきどきしますわ」
 美緒は嬉しそうな笑みを浮かべながら、抽選券をもって係員の元に向かい、正悟の分も含め抽選を5回行うことに。
 1回目、2回目、3回目と白が続き、4回目に赤、5回目はまた白だった。
「おめでとうございます。2等が当たりました!」
「赤、は……ゴンドラクルーズペアチケットですわ!」
 美緒が景品を確認して、目を輝かせる。
「よかったなー!」
 笑みを浮かべる正悟に、美緒は頷いて隣へと歩いてきた。
 手には貰ったばかりのチケットを握りしめて。
 顔を上気させながら『河原に花が咲いている時がいいですわ。楽しみですわね』と言った。
 あげたはずのチケットだけれど、美緒は普通に正悟と一緒に乗るつもりのようだった。
「……楽しみだな」
 正悟も嬉しそうに微笑んで、また腕を差し出した。
 美緒は逸れないように再び彼の腕を掴んで。
 一緒に歩き出した。