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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
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リアクション

                              ☆


 ――カツン、カツン、カツン。


 誰かが、一段ずつ階段を登る音がする。
 ツァンダの片隅、小さな雑居ビル。

 屋上へと続く小さなドアを蹴り開けて、五条 武(ごじょう・たける)は熱い身体に心地よい風を感じていた。

「――いい夜じゃねぇか、なぁ」
 エレキギターを片手に、爽やかな声が屋上に響いた。
 夜空は相変わらずパラミタ電気クラゲが埋め尽くしており、電気は復旧していない。
「――ああ、全くだな」
 いくつかの機器を小脇に抱えたパートナーとは違った意味での今夜の相棒、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もまた爽やかな風に目を細める。

 落ち着いた様子で機械類を屋上の隅に置き、パートナーという意味での彼の相棒、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もそこに置く。
 もっとも、今のルカルカはどちらかというと機器の一部に近い。ネグリジェ姿のルカルカはすやすやと就寝中で、ダリルはそこにルカルカの着替えを置き、屋上の端から街の様子を眺める武の横に立った。

「見ろよダリル――この街を。俺とおまえが今夜のために時間を調整してやっとスケジュール合わせて、今夜ようやく計画を実行に移そうとした矢先に――停電になったこの街を」

 今夜、このビルの中に入っている小さな貸しスタジオで、武とダリルは洋楽ロックナンバーの演奏動画を動画投稿サイトでリアルタイム配信する予定だったのだ。
 いや、正確には配信されたのだ――配信を開始してから停電までの1分30秒ほどは。
「ああ――俺達の時間をこうまで徹底的に無駄にしておいて――この街は相変わらず賑やかだ」

 ダリルの言葉に、武が街を見下ろすと、道路をずんずんと一歩ずつ激しく進み、目からビームを乱射していく林田 樹の姿が見えた。


「ビールだろうがビーフだろうがビートルズだろうが知ったことかーーーっっっ!!!」


 時間の経過と共に樹の怒りも納まるかと思えばそうでもない、緒方 章とジーナ・フロイラインを従えて、いまだ衰えぬ勢いでビームを撃ちまくっている。だが、もう相殺する必要はないようだ。
「いやぁ、やっぱり樹ちゃんは何を着ても似合うなぁ、燃え上がるぜハート!! 沸き起こるぜリビドー!!」
 今は章も口からバズーカでクラゲを退治し、ジーナも樹と共に目からキラッ☆ビームで夜空を黄金色に染めている。
「あ、こらあんころ餅!! あんまり間近で覗くのではありません!! 私の樹様が汚れるじゃないですか!!」

 ずんずんと街を往く三人を見ながら、武は呟く。
「ハハハ……見ろよ、ちょいエロメイドさんもあのように荒ぶっておられる」
 ダリルもまた近くのビルの屋上から屋上へと次々に渡り飛びながら、自らの怒りを全身で存分に表現している男をアゴで示した。
「ん――見ろ、あれもなかなかのものだぞ」
 エヴァルト・マルトリッツである。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 背の低いビルから飛び上がったエヴァルトは、全身を『パラミティール・ネクサー』のパワードスーツで覆い、並み居るパラミタ電気クラゲに肉弾戦を挑んでいる。
 見ると、パワードスーツの肩部分が展開し、そこから竜巻状の歴戦の魔術を放つ。

「おおぉおおおおおおぉぉぉっっっ!!!」

 確かにその魔術の威力は凄まじい。うっかり至近距離で喰らったら跡形もなく対消滅してしまいそうなほどの勢いを持っているが、不幸なことにパラミタ電気クラゲには通常の攻撃は通用しない。
「ハハハ……おーい、情報によるとクリスタルを使わないと効果ないそうだぞー」
 と、親切にも武はエヴァルトに声を掛けた。ダリルの元にはウィンターから連絡が先ほど入ったところだ。


「おぉおおおぉぉぉああああぁぁぁっっっ!!!」
 しかも聞こえてない。


「しかたねェな……ほらよっ!!!」
 武が屋上に生えていたクリスタルをエヴァルトに投げてやると、半ば無意識にエヴァルトはそのクリスタル――片手でちょうど握り込める程度の大きさの、複雑な多角形のクリスタルだ――を受け取り、高く掲げた。

「おおおああああぁぁぁ……!!
 俺の……俺の至福の時を奪ったのはクラゲ共、貴様らかぁぁぁっ!!
 何年探したと思っているッ!! そう、一年や二年程度ではないのだッ!!
 許さん……許さんぞおぉおおおぉぉぉッッッ!!!」


 壮大な恨み節を天高く響かせながらも、エヴァルトが手にしてクリスタルからは眩しい光が溢れ、それが両腕に伝わった。
 肩の装甲部分に加え、今度はさらに両腕の腕部装甲も展開し、全力のビームを放つ!!!


「パラ……テッカァァアアアァァァッッッ!!!」


 エヴァルトの上半身から発せられた激しいビームは上空のクラゲ雲に撃ち込まれ、一時は大きな空間を空けるが、そこに新しいエネルギー源があると分かるとすぐに新しいクラゲが押し寄せてくる。
 終わりのない戦いに、しかしエヴァルトは怒りを燃やし続けるのだった。


「――さて」
 と、そんな街の様子を眺めていた武は、自らも情熱クリスタルを握り、一本をダリルに投げてやった。
「――ん」
 言葉も短くそれを受け取ったダリルは、待機させていた小型飛空艇ヴォルケーノに飛び乗り、街を上空に飛び去っていく。

 武がクリスタルを握り締めると、どこからか地響きのような音が聞こえた気がした。
「――へ、なに?」
 洋楽ロックの演奏中にも、機器類と一緒に置かれたときにも起きなかったルカルカが目を覚ます。
 名うての軍人である彼女はどこででも寝られるが、殺気のような誰かの意思を感じたときは別だ。
 つまり、今の武からは端から感知できるほどの殺気と怒りが発せられている、ということになる。
「……わざわざ……わざわざサビの手前ちょうどでぶった切りやがってよォ……」
 目を覚ましたルカルカは、いまひとつ状況を把握していない。
「あれ、どしたの? もう配信終わったの?」


「ああ、終わったよ!! 色ンな意味でなあああぁぁぁっっっ!!!
 ふ・ざ・け・ん・なーーーーーーーーーっっっ!!!」



 ルカルカの言葉についに怒りを爆発させた武は、全身から怒りの炎を発して目から口から激しい炎を一直線に吐き出した!!!


 ――長い前フリだった、という。


                    ☆


 ルカルカとダリルのパートナー、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はダリルの要請に従ってツァンダの上空を飛ぶ。・
「ふん……まったくやっかいなことになったものだ」
 ドラゴニュートである彼は、自前の翼と空飛ぶ魔法を駆使しながらパラミタ電気クラゲの群れを雷術で誘導していた。
 ダリルもまた小型飛空艇に乗り、雷術を利用してクラゲの群れを誘導していく。

「……よし、このまま固定だな。主砲となるべきあいつらからもっとも有効な範囲にできるだけ多くのクラゲを集める」

 カルキノスが誘導してきたクラゲの群れとダリルが誘導してきたクラゲの群れがひとつの合流すると、かなりの数になる。
 二人はつかず離れずの距離を保ちながら飛行し、さらに数を増していくクラゲの群れを、武とルカルカのいるビルへと向けて誘導していった。

 そのクラゲの群れは、まるでひとつの生き物のように燐光を発しながら、黒い雲となってカルキノスとダリルを追い続けた。

「――来るよっ!!」
 ルカルカが合図をするまでもなく、その様子は目視できた。
 だが、今の五条 武にそんなことは関係ない。
 今の彼は、ただやり場のない怒りに心を燃えたぎらせ、怒りの炎を吐き続ける破壊神なのだ。
 ルカルカは、そんな武に合図として杖のような形をした情熱クリスタルを掲げ、横一直線に振りかざした。


「――薙ぎ払え!!!」
「貸しスタジオだってタダじゃねぇんだよおおおぉぉぉーーーっっっ!!!」


 口からものすごい勢いの炎ビームが発射され、一直線上のクラゲが次々に爆ぜていく!!!
「……始まったな」
 ダリルとカルキノスはその光景を確認し、自分たちもそれぞれに手にした情熱クリスタルの力でビームを放っていった。
 カルキノスは、口から炎と融合させた強力なビームを放つ。
「グオオオォォォーーーッッッ!!!」
 ダリルは自らの光条兵器であるカタールのような剣の先から、蒼白く鋭いビームを発射させた。
「よし……作戦は問題なく実行されている、少し、この場を頼むぞ……無駄にされた損失は、自分の力で補わねばならん」
 と言ったダリルは、小型飛空艇に積み込んだ機材の中からカメラを取り出し、この様子を撮影し始めるのだった。

「よーっし、こっちも負けないよっ!!」
 武の傍らのルカルカは、ネグリジェの上に上着を着込んで、右手に情熱クリスタルの杖を握り、自身もビームを撃ってクラゲを次々に撃墜していく。
 クリスタルの力が右手を伝わって、杖の先端まで到達していくのが分かる。
 ルカルカはそれにプラスして光術を発動させ、まるでレーザービームのような金色の光線を発射するのだった。

「ド畜生がアァァァーッッッ!!!」
 一向に怒りを納める様子のない武の炎ビームに合わせると、増幅効果で一気に効果範囲が広がった。
「はい、こっち!!」
 ルカルカは武の視線を誘導して、撃退したクラゲの破片が地上に到達しないように次々と焼き払っていく。

「この配信で一気に知名度上がるハズだったのによおおおォォォーーーっっっ!!!」
 燃えたぎる武はさらに炎を噴き上げる。ルカルカの光線はその炎とクロスし、はるか遠方のクラゲを広範囲で落として行く。


「……このまま行けば、遠からず全滅させられそうだな」
 と、カルキノスは言った。だがしかし、ダリルはその言葉に素直に頷くことはできなかった。
「……どうかな」
 彼の、兵器としての本能が告げていた。


 ――まだ何かある、と。