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ありがとうの日

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ありがとうの日
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 シャンバラ側の護送隊が港に到着した時には、第七龍騎士団の船は既に港に到着していた。
 都築少佐率いる教導団側のメンバーはそれよりも早く港を訪れており、準備と警戒に努めていた。
「よろしくお願いします」
 案内の為に港の入口で待っていた叶 白竜(よう・ぱいろん)が、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)と共に、隊を率いてきた神楽崎優子に挨拶をする。
「よろしく。捕虜の直接の護衛は、引き渡しまでこちらでも続けさせてもらうが、建物や港全体の警備については、勿論国軍の指揮に従わせてもらうよ」
「はい。話は伺っています。引き渡しの前に、手続きと簡単な話し合いが行われますが、神楽崎さんの他に、出席を希望される方はいますか?」
「関係者が数名同席を希望している。龍騎士団側の人数は?」
「船に乗っている団員の数は不明ですが、話し合いに参加をする龍騎士は団長、副団長と、側近の龍騎士3名とのことです」
「そうか……神が5人ということか」
 優子の顔からは何の感情も感じられず、自分達軍人と変わらぬ冷静な姿勢だった。
 ただ、優子の後ろから控えめについてくる彼女のパートナーアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は少し不安そうに、周りを見回したり、第七龍騎士団の旗が掲げられた大型船を見ている。
「今日は私は、あなたの補佐をさせていただきます。何でも出来る限りのことはしますので、指示してください」
「こういう場は慣れていないんで、世話になると思う。……よろしくお願いします」
 優子はわずかに表情を崩して、一瞬だけ笑みを見せた。
 白竜は彼女に敬意を払い敬礼をする。
 それから彼女を会合が行われる監視塔に向かわせ、自分は少し後方からついていく。
 現在、シャンバラで実質的な軍事力の総合的な采配を担っているのは、自分が所属している国軍だ。
 その場に――ラズィーヤ・ヴァイシャリーが自分の持ち駒である彼女を来させたというのは、ラズィーヤの国軍に対する神楽崎の売り込み。
 或いは、神楽崎こそがシャンバラのリーダーであるというアピールではないかと、白竜は考える。
 指揮能力や実績から、神楽崎には百合園やロイヤルガードに留まらず、軍としての部隊を動かす力は十分あると白竜は感じていた。
 残念ながら、百合園内の組織では、彼女の能力を活かしきる戦力にはなりえないというのが、魔法資料館の件で受けた印象だった。
 そして、先の事件では、軍作戦ではないので当然だが、警備の面で連携が取り切れなかったというのが印象であり、反省点だった。
「……」
 羅儀は、白竜がずっと神楽崎優子のこを見ていることに気付く。
 つられて、自分も優子のことを見てしまう。
 彼が何を考えているのかはわからないが――。
 女性に熱い視線を送るのは、自分の専売特許だろうと思っていただけに、何だか妙に気になる。
「珍しいな、白竜が女性に関心を持つなんて……確かに魅力的な人ではあるけど、オレはダメだな。彼女は上物すぎる」
 ふうと息をつき、目を逸らす。
 ただ、それならできるだけ白竜に協力したいと思うのだった。
 実際は、白竜は優子を通してラズィーヤの思惑を見ているのだが。この時点では羅儀や周りの人物には、判りえないことだった。

 監視塔へと向かう途中。優子は知り合いの教導団員や協力者達と顔を合わせ、挨拶を交わしていく。
「ここは中立だ! 戦争に巻き込むんじゃねぇ!」
 突如男性の声が響き渡る。
 地元住民のようだ。
「地球の兵器共は、巣に帰れってんだ!」
「そっちの船も、荷物を置いてとっとと帰りやがれ!!」
 壮年の男性グループだった。……かなり酔っているようだ。
 石を拾い上げて投げてくる。
「今到着した船の乗組員のようだな。ここは俺が」
 言って、前に出たのは大岡 永谷(おおおか・とと)だった。
 武器は用いず、盾で攻撃を受けつつ突進、彼らを転ばすと縄を取り出して縛りあげる。
「争う為に来たものはいない。あの船にはシャンバラの仲間達が乗っている。仲間を傷つけるな。……これから仲間となろう者達のこともな」
「うるへー」
「酒はまだか酒はー」
「ふへへへへ、おねぇちゃーん……」
「……ったく、恥ずかしいところも見せないでくれ」
 永谷は苦笑しながら男性達を、部下に預ける。
「お怪我はないですか?」
 それから。永谷は立ち止まっている優子達の元に戻って来た。
「大丈夫。港占領してしまって、住民の方々にも迷惑をかけてしまってるな。早く終わらせて、安心させてあげないとね」
 優子の言葉に頷いた後。
 永谷は禁猟区で作り出したお守りを、優子に差し出す。
「何かあったら、すぐに駆けつける。和平は望ましいが、それの破綻を目指して仕掛けてくる存在はいつの時代もいるものだから」
「ありがとう。自分の身くらいは自分で守れると言いたいところだが……相手が、相手だからな」
 優子は素直に永谷からお守りを受け取った。
 永谷も優子本人が十分強いというもとも、パートナーのアレナが同行していることから、女王器である星剣が使用可能であることも判ってはいるが。
 それでも、油断していい相手ではない。
 彼女自身が戦わなければならない状況は既に終わっていると永谷は考えている。
 話し合いに集中する彼女のことは、自分達が守らなければならない。
「捕虜にも気を払っておく。何かあったら、合図をください」
 国の民の為に戦うのが軍人の本分だと永谷は思っている。
 もしかしたら、この平和は一時的な仮初の平和かもしれないが。
 そんなことは自分には関係ない。
 全力で平和を妨害する者から、全力でこの平和を護る覚悟だった。
「わかった。よろしく頼む」
 優子は永谷にその場を任せて、塔の中へと入っていく。

「なぁメイリン。これが終わったら一緒に温泉はいろうぜ」
「温泉? いいわね。でも混浴は嫌よ」
「いや、混浴っていうか、東が合宿やってた場所で。湯着があるからいいだろ? 俺だってメイリンのコトほかの男に見られるのは……いや、それとも貸切で2人だけがいいってことか(ごもごも)」
 橘 カオル(たちばな・かおる)李 梅琳(り・めいりん)と監視塔の中で警備につきはじめる。
 そろそろ会合が始まるとのことだ。
「ごほん。えっと、団長にも確認をとったんだけど、ツアーは無理だけど帰りに温泉に寄るのはいいそうだ」
 団長の護衛をしているルカルカが、帝国の生活や長旅の疲れのある帰還者達を帰還行程の一環として、温泉で疲れをいやしてもらってはどうかとツアーの案を出していた。
 ルカルカのパートナーのダリルを通じて連絡を受けたところ、温泉ツアーの計画は構わないが、帰還を待っている家族達に合わせることを最優先にしなければならないため、早急に帰還させ、一旦故郷に帰った後で、改めて希望者を募り出かけてはどうかと、意見を貰ったらしい。
 ただ、帰りに温泉施設に立ち寄ることは現場の判断で決めていいとのことだ。
「それじゃ、近くの温泉宿に寄りましょう。現地に家族も何人か来てくれると思うし、その方々の護衛として、私達は残ろうか」
「うん、そうだな!」
 2人はそう計画を立てると、善は急げと都築少佐に提案し承認を得た。
 都築少佐も残って美味い酒を飲むと言いだしたが、それはまた後日にと説得して、隊長としてのヒラニプラまでの護衛任務を全うしてもらうことにする。
「さて、もうすぐ龍騎士団も来ると思うし、気合いれて守るわよ。温泉に入るためにもねっ」
 戻って来た2人に、マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が笑いかける。
「ああ……。っと、ヴァイシャリーからの捕虜の収容も終わったようだな。そろそろ始まる、か」
 カオルは表情を軍人のものに変えていく。
 殺気看破、超感覚で周囲の気配を探る。
 民間人はほとんどいないのだが、時々漁船が港に入ってくるそうだ。こちらは他の仲間に任せていいだろう。
「もう戦争をする理由はないもの。何も起きないわ。でも、警戒を怠るわけにはいかないけどね」
 梅琳も厳しい表情へと変わっていく。
 部下達と共に、彼女達はこの塔の入口付近の警備に専念するのだった。

「……まさか教導団に入っていたとはな」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、一足早く会議室に訪れていた。
 会議室の中には、良く知る人物がいた。教導団の制服を纏って。
「国軍よりはロイヤルガードの方が似合うと思うけど?」
 パートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)は、半ば呆れ気味な目で、その人物を見ていた。
「確かにそうなんだけど、色々事情があって」
 そう苦笑したのは、ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)
 かつて、マリザと共にシャンバラの離宮を守護していた女王の騎士だ。
「もうすぐ帝国側の――龍騎士が来るわけだが、軍の方の状況はどうだ? 恨みを持ったもの、和平を快く思わない者もいるかもしれない。オレ達の中に紛れている可能性もあるかもな」
 コウの言葉にファビオは軽く頷く。
「ただ、今の所大丈夫だとは思う。感知系の能力で警戒に当たっている団員が沢山いるし。相手側も、下りてくるのは龍騎士だけだと聞くし、そう馬鹿なことはしないと思うよ」
「双方の捕虜は武器を持っていないだろうしな。何か起きても、押えられるだけの戦力は十分揃ってるというわけだ、が」
 捕虜といえば、コウとマリザも、クリス・シフェウナの放火により、重傷を負わせられた身だ。
 だが、2人ともそれを蒸し返すつもりはなかった。
 自分はともかく、大切な人を傷つけられたのだから、言いたいことはないわけではないし。
 顔を見れば複雑な思いを抱くだろうが……。
 他の捕虜達だって、シャンバラ人を傷付けた者、あるいは死に至らしめた者もいるのだから。
 クリスの処遇に関しても、特に不満はない。
(戦争で多くの命が失われたればこそ自国民を他国に裁かせ、生殺与奪を最近まで敵だった国に握らせることはできまい、国家の正当性は自国民を守ることにあり、国家神を建てることも結局その手段に過ぎないのだから)
 コウがそんなことを考え、大きく息をついた時。
 教導団員に案内され、神楽崎優子達が会議室へと入ってきた。
「キミは……ファビオ・ヴィベルディ? その格好は……」
 優子もファビオの軍服姿に、驚きの表情を見せた。
「春に転校したんだ。俺達の『上司』の命令でね。とはいえ、ヴァイシャリーにいることが多いけど」
「……ああ、そうか。キミは元ヴァイシャリー軍との繋ぎの役割も担ってるんだね」
「そうかな」
 ファビオは曖昧な笑みを浮かべた。
「ったく! 私達にも、友人にも誰にも相談せずに決めたでしょ、あんた!」
 べしっと、マリザはファビオの背を叩く。ファビオはきまり悪そうに笑っているだけだ。
「つまり、ラズィーヤさんはもう手駒を教導団に派遣してるってことか」
 となると、ラズィーヤが自分に教導団への留学を勧めていたのは、国軍に入れようとしていたためではなさそうだと、優子は理解する。
「……」
 優子の小さな呟きと、ファビオとの会話を側で白竜は注意深く聞いていた。
「……将来はキミにヴァイシャリー領の軍をまとめてほしいのかもな」
 優子はそうファビオに言う。
 騎士の橋に姿が刻まれているヴァイシャリーの救世主のファビオなら、街の人々の信頼も得られるだろうから。
 ……ちなみに、彼が怪盗をやっていたことは、公にされていない。
「それもあるかもしれないけれど、他にも理由はあるかもしれません。俺には想像もつかないような、策略が」
「そうかも……」
 ファビオと優子は苦笑気味に微笑み合った。

「神楽崎隊長、お席へ」
 優子が座らないと周りも座れないからと、気を回して沢渡 真言(さわたり・まこと)が優子を席の方へと誘った。
「騎士団には奥に座ってもらうんで、俺らはこっち。お嬢ちゃんは俺の隣でいい?」
「はい。よろしくお願いします」
 都築少佐が席を決め、優子は彼の隣に向かった。
 真言はそれを見守った後、自分は入口に近い席を選ぶ。
 教導団の大尉であるルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)の提案により、武器の持ち込みは禁止となった。しかし、護身用程度の小さなものを忍ばせておくことは黙認されている。
 真言は念のために蜘蛛糸を携帯し、何かの時には体術でも応戦できるよう装備を整えてあった。
「真言は修学旅行でエリュシオンに行ったことがあるんだよね。またそんな風に気軽に遊びにいけるようになったら、もうちょっと魔法技術なんかも色々と学べる機会があっていいなぁ」
 マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)はそんな考えを持ち、同行していた。
 和平を嬉しく感じているけれど、この捕虜交換が何事もなく終わるとは限らないから。
「まだ和平の調印がなされたばかりですから。争いは起きやすい時期ともいえます。双方共に、相手方に不信感を抱くことがないよう、努めたいですね」
 真言もマーリンと同じように、双方に注意を払い、話し合いが円滑に行われるよう努めたいと思っていた。
「今回は和平の中での儀式の一つですから、外部の方の乱入により邪魔をされてしまわないように、注意しませんとね」
 沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)も、警備の為に訪れたのだが、真言やマーリンと少し考え方が違った。
 お互いに刃を向けることはないだろうと考えており。だけれど、何かに驚いてまちがって剣を抜いてしまい、それが争いに繋がってしまう可能性もあるからと。
 過去にそのような経験をしたこともあり、主に外部に注意を払おうと思っていた。
「出席する者は全員そろったな? 所属と名前を確認させてくれ」
 席に着いた都築少佐は名簿を確認しながら、出席者と照らし合わせる。
 出席者は以下だった。

 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)(百合園女学院所属。ロイヤルガード隊長。護送責任者)
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)(優子のパートナー、十二星華)
 ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)(教導団所属。シャンバラ古王国の騎士。現ヴァイシャリー家騎士)
 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)(教導団所属。大尉)
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)(教導団所属。大尉、ロイヤルガード、大荒野戦新型機指揮官)
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)(イルミンスール所属。ロイヤルガード)
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)(薔薇の学舎所属。ロイヤルガード、大荒野戦テスト機パイロット)
 ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)(早川のパートナー)
 タリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)(早川のパートナー)
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)(早川のパートナー)
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)(ロイヤルガード)
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)(緋桜のパートナー)
 『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)(緋桜のパートナー)
 沢渡 真言(さわたり・まこと)(イルミンスール所属。ロイヤルガード)
 マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)(沢渡のパートナー)
 沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)(沢渡のパートナー)

 他に、教導団所属のルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)が雑務を。
 少尉のグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)とパートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)テオドラ・メルヴィル(ておどら・めるう゛ぃる)が、会場警備と事務作業の手伝いを。
 百合園女学院の朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)イルマ・レスト(いるま・れすと)が警護として同席を希望していた。