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ありがとうの日

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ありがとうの日
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「さっきのお店のお洋服、可愛かったね。折角だから優子先輩とアレナ先輩、ペアルックなんて如何です?」
 出店を見て回った後、葵は優子とアレナと共に、通りから離れた公園を訪れていた。
 賑やかな音は、ここまで響いてくる。
「ペアルックなら、私とより、キミとアレナの方が合うと思うよ」
 くすりと笑う優子の手の中には、葵の手作りのお菓子がある。
「3人でおなじ服来たら、三姉妹に見える……かも、です」
 アレナは少し赤くなって言った。
「サイズが合ったら、そういうのも楽しそう。あ、食べてみてください」
 葵は笑顔になり、作ってきたお菓子――苺クリームと苺を挟んだマカロンを2人に勧めた。
「新作なんです。評価お願いします」
 言って、葵はどきどき2人の反応を待つ。
 優子には苦手意識をもっているので、かなり緊張してしまう。
 だけれど、優子は友達のアレナの大切な人であり、葵が所属する組織にとっても、葵自身にとっても大切な人だ。
 苦手だからと、避けていてはいけないということも。
 指導してもらわなければならないことも、よく解っていた。
「うん、美味しいよ。程よく酸味も出ていて」
「とっても美味しいです」
「よかったー」
 二人の感想に、葵はほっと胸をなでおろす。
 美味しいと言ってくれる、2人の顔からも喜びが読み取れて。
 本当に美味しくできたのだということと、小さなことだけれど、幸せを上げられたのかなということを、嬉しく思った。
「白百合団の方も、今年度中に入れ替えがあるようですけれど」
 葵は街が奏でている平和の音を聞きながら、語りだす。
「あたしは、団の方で頑張ってみようと思っています。責任のある役職を目指そうと決めました」
 白百合団は自分の居場所のようなものだと。
 色々な人達と協力をして、事件を解決してきて、曖昧だった自分のやりたいことが見えて来た。
「私はアレナ先輩が守った百合園の仲間やヴァイシャリーに住む人達を守りたい。誰もが笑顔でいられる世界にしたい」
 でも、今の自分では出来ることが限られている。
 だからもっと学んで力をつけたい。
 そんな決意を、ゆっくりと真剣な口調で、葵は優子とアレナに語った。
「あの……心得とかご指導いただけますでしょうか」
 緊張を隠して、葵はまっすぐに優子を見て尋ねた。
「秋月は既に、白百合団員として下級生を率いるに相応しい心を持っている。団の重役として纏めていくには、生徒会のトップの一人として百合園生が誇れる存在であること、象徴となれる人物であること、時には冷徹に百合園生を守るための適切な判断が出来ること、広い視点で作戦の立案が出来ること……そのような、能力が必要になってくる。だけど、一人でその全てを持っている必要はない。それらの能力を持った仲間達の意見を聞き、正しく纏めていくことが出来る能力が、団長に必要な能力だと思うから」
「はい」
 と、返事をした葵に頷いてみせて、優子はこう続けた。
「秋月は秋月の白百合団員として良い面をこれからも伸ばしていくことが大切だと思う。無論、学んで能力をつけていくことも大切だ」
「でも、仕事とか勉強だけを頑張りすぎたら、ダメだと思います。こういう葵さんが、好きです、し」
 アレナは食べかけのマカロンを両手で包み込みながら、微笑む。
 一緒にお祭りを楽しんだり、お菓子を作ってくれたり、女友達としてのんびりと笑い合うことが出来る。そんな時間が大切だから。
 そんな葵が大切だから。
「うん」
 葵は優子とアレナの言葉に、笑顔で頷いた。
「えっと、喉が渇きました。出店で冷たいものでも飲みませんか?」
 立ち上がって、葵は優子とアレナを再び祭りへと誘う。
「はい、かき氷、食べてみたいです」
「私は宇治冷緑茶か、宇治金時で」
「ふふ、よし、お店探してみよー!」
 元気よく葵は言って、優子とアレナを連れて賑わう街中へと戻っていくのだった。

○     ○     ○


「暑ーい、冷たーい!」
「わらわはアレが食べたいのじゃ」
 シャーベットを食べているレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)を、ミア・マハ(みあ・まは)が隣の店にぐいぐい引っ張る。
 地球人のレキより魔女のミアの方が何十倍も長く生きているけれど、今日、今、財布を持っているのは、レキだから。
 見かけどおりの妹が姉におねだりするように、ミアはレキに強請って食べたいものを買ってもらっていた。
「生クリーム増量の苺クレープなのじゃ!」
「うわっ、ボリュームあるね。お腹壊さないかな?」
「無問題じゃ」
 ミアは小さな手で、クレープ屋のお兄さんから大きなクレープを受け取った。
「そして、レキよ。暑苦しくないのかえ?」
 早速クレープにかぶりつきながら、ミアはレキに尋ねた。
 レキは燕尾服姿の、白うさぎの着ぐるみを着ていた。薔薇の学舎の仮面舞踏会でも身につけた服だ。
「暑いけど平気平気〜。ちゃんとこうして冷たいもの食べて、体冷やしてるしね」
 かき氷を食べながら、レキはそう答えた。
「それに……うさぎは百合園のイコンと同じだから、ね」
 別の機体が開発されているとのことなので、キラー・ラビットを目にする機会は減るかもしれない。
 もしかしたら、使われなくなっていくのかもしれない。
「元がエリュシオンの技術で作られたものだったとしても、ボクは今でも気に入っているし、今後も使ってもいいなら、そのまま使うつもりだよ。見た目は愛らしく、でもイコンとしての力はちゃんと装備されているあたりが、百合園生に近い物があるんじゃないかと思うんだよ」
 そんな思いで、レキはうさぎの着ぐるみを来て、パレードを見ていた。
 今回のパレードには、百合園のイコンであるキラー・ラビットを象った像も沢山見ることが出来るから。
「ありがとう。これからもよろしく」
 近くを通った像にむかって、レキは小さく呟いた。
「ん、うまいっ! この甘酸っぱさとクリームの甘さがちょうど良い」
 ミアは口の周りにクリームをつけながら、納得の頷き。
「地球人はこの世界に甘美な理想を抱いて来たのかもしれんが、甘酸っぱい刺激があってこそ楽しいと言うものじゃ」
「うーん……」
「ま、戦争はこりごりじゃがの」
「そうそう」
 パレードに目を向けながら、レキが相槌を打つ。
「それでも失った物はたくさんあるが、それで得た物もあった筈じゃ」
 賑わう街を、人々の笑顔を見ながらミアは言葉を続けていく。
「わらわ達はあの日々を忘れはせぬ。得た物はこれから活用していくことで、この先も残って行く事じゃろう」
「よし、次はお好み焼き!」
 レキはお好み焼きの屋台へ突撃。
 ミアは吐息をつきながら、彼女を追っていく。
「まだ、色々な交渉事は残ってるかもしれないけれど、これが今のボクの任務だから」
 百合園生として、お祭りをしっかり楽しむこと。
 街の人々の感謝の想いを受け止めること。
 心から、楽しませてもらうこと。
「単に楽しみたいだけとも言うけどね」
 そう笑うレキに、ミアも笑顔を向ける。
「お好み焼き買ったら、ゴンドラに乗ろー!」
「そうじゃの。イベントを楽しもうぞ」
「うんっ。でもミア。さっきカッコイイこと言ってたけど、顔にクリームつけてたら台無しだよ」
 笑いながら、レキはハンカチでミアの顔を拭いてあげる。
 その様子は、やっぱりお姉ちゃんと、妹だ。
「ん? アレナさんと優子先輩だ」
 拭き終えたレキの目に、アレナと優子の姿が映った。
 葵と一緒に、出店の列に並んでいる。
「ちゃんと楽しんでるかな。無理ばかりしている2人だから、ちょっと心配だよ」
 たまには、自分のしたいことをすればいいんだよ。
 『誰かの為』って聞こえはいいけれど、責任をその人に押し付けているような、そんな感じも受けるから。
 彼女達に向かってそう呟いて見守った後、レキもお好み焼き屋に突撃する。
「わらわの分の、団子も買っておくのじゃ」
「まだクレープ食べ終わってないのに……。んでもいいか、ゴンドラで一緒に食べよ〜♪」
 おなじ店で売られている餡子がたっぷりついた団子をミアはおねだり。
「くっださ〜い!」
 レキはお好み焼きと団子を元気に購入して、袋に入れてもらった。