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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 花火の光に ■
 
 
 
 パラミタも一応落ち着いてきたことだからいい機会だと、匿名 某(とくな・なにがし)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)を伴って実家に帰ってきた。
 ただいまと家に入るとすぐ、それを聞きつけた母の匿名 望がにこにこと出てくる。
「あらあらいつ帰ってくるのかと思ったらようやく……あら?」
 某とその後から入ってきた綾耶を見た途端、母の目が驚愕に見開かれた。
「大変よあなた! 綾耶ちゃんのお腹が……!」
「へ? 俺何もしてないけど」
 身に覚えはないのだけれど、つい某は綾耶の方へと目をやる。勿論、腹がどうにかなっていたりはしない。けれど、どうした、と慌ててやってきた父の匿名 希までもが、かっと目を見開いた。
「まだ、だと……?」
「そうよあなた、綾耶ちゃんのお腹が膨らんでないわ! せ、せっかく色々と用意したのに、こんなこと……」
 母は、ガーン、なんて自分の口で効果音をつけている。
「もう孫の顔が見られるかと思って楽しみにしていれば……お前は……一体この1年間何をしていたんだぁ!」
 父に詰め寄られて、某は呆れ、綾耶はあわあわと動揺する。
「帰宅早々何を言うかと思ったら……てか、それだけ健全な学生してるんだからむしろ息子の自制心を喜べよ!」
「ま、孫! あうあう、それはちょっと早いというか確かに模擬とはいえ結婚式は挙げましたけどそのあの……!」
 真っ赤になって綾耶が言っていると、父はころっと表情を変えた。
「まあ冗談はさておき、せっかく帰ってきた息子と義娘を歓迎しなくては。母さん、食事は出来てるか?」
「ええ、あとはもうごはんをよそうだけよ。まっ、孫は次を待つとして、今日は今日で楽しみましょうね」
 ははは、ふふっと笑い合いながら、2人はダイニングへと向かう。
「冗談……だったんですか」
「全く、2人とも相変わらずすぎるだろ……」
 呆然と玄関で立ち尽くしている某と綾耶を、早く手を洗っていらっしゃい、と母のお気楽な声が呼んだ。
 
 
 帰っていきなり冗談に迎えられたが、母手作りの料理が並ぶ食卓につくと、家に帰ってきたんだという実感が湧いてきた。
 パラミタの話が聞きたいという両親に、某はこの1年にパラミタであったことを話していった。
 中でも一番話題に上がるのは、つい最近まであったパラミタと世界を巡った戦乱のこと。ヘタをすれば地球の危機でもあった事態を聞いて、望はまあ大変、と全然大変そうでない口ぶりで言った。
「世界の危機だなんて、ホントいやよね〜」
 何だか、今年の夏は酷暑だとか、芸能人が浮気しただとか聞いた時のような反応だ。
 では父はと言えば、ザナドゥの話を聞いてしみじみと頷いている。
「確かに暗い世界にずっといたら、外にも出たくなるよな〜魔族の方々も」
「別にザナドゥはそんなノリで出てきたわけじゃないと思うんだが」
 つっこみを入れたい反応ばかりが返ってくるが、どんな戦いも両親にかかれば食卓に明るい花を添える日常会話に早変わり。そう思えば、これもいいのかとも思う。
 ……いや、多分いいんだろう。
 わざわざ実家に帰ってまで深刻ぶったって、事態は変わらない。それに戦乱に関しては一応の決着を迎えられた。それを明るい日常会話に出来るなら、それはそれできっと良い。
 
 話題は物騒なのに雰囲気は実に和やかに食事が終わると、望は綾耶に浴衣を着せたいと言い出した。
「私が夜なべと有給とって作ったのよ〜。裄丈があってるといいんだけど〜」
「わ、わざわざありがとうございます!」
 着付けをするからこっちに来て、と望は綾耶を別室に連れて行った。
「これなんだけど、どうかしら〜」
 黒地に白レースのハートと淡いピンクの薔薇が描かれた、洋風な絵柄の浴衣を望は綾耶に着せかけた。
「わぁ可愛……」
 言いかけた綾耶は不意に身体に走った痛みに息を詰めた。
「綾耶ちゃん?」
「あ、いえ……可愛い浴衣をありがとうございます」
 綾耶は痛みを堪え、なんでもないように笑顔を作った。望は気になる様子だったけれど、綾耶が普通にしているのでそれ以上は聞いてきはしなかった。
 
 綾耶が着付けをしている間に、某も父に着替えさせられていた。といっても浴衣ではない。
「向こうが浴衣ならこっちも合わせるべきだろう。ほら昔から言うだろ。『男は黙って甚平』ってな!」
「あわせる必要はないと思うんだが……てか、着る理由がわからん!」
 某は抵抗したけれど、結局父親の押しに負けて甚平に着替えた。
 そこまでしてどうするのかと思ったが、父がこれをやろうと出してきたのは手持ち花火だった。
 まるで小さい頃の夏に戻ったようだと思いつつ、某も花火に火を付けた。
 綾耶は母と一緒に楽しそうに花火をしている。
(あの様子だと『症状』は出てないようだな)
 そう考えて、某はいやと思い直す。
 綾耶のことだ。きっと症状が出ていてもごまかすだろう。
 パラミタであった諸々の出来事から、もう互いに暗黙の了解みたいになってしまっているが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
 いつかはその問題に面と向き合わなきゃならない時が必ず来る。
(それでも、今はこうして普通に楽しんでもいいよな?)
 共に楽しんだ時間が、きっと来るべきその時の力になる。その為にも……今は。
 笑っていよう。笑い合おう。2人で――。