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【ザナドゥ魔戦記】ゲルバドルの牙

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【ザナドゥ魔戦記】ゲルバドルの牙

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第4章 三人の娘たち 3

 瑞樹は、幸村と氷藍が互いの背中に近づいて敵を倒すのを見て、なんとも息のあった二人だと感心していた。
(私も負けないように、頑張らないといけませんね!)
 そう気合を入れて、機械翼ブレイジング・スターを広げた彼女は、よりいっそう敵を蹴散らすことに努める。機晶キャノンや六連ミサイルポッドを駆使した火力戦法は、近接攻撃しかできないゲルバドル兵たちに有効的だった。
 このまま順調に、空は防衛できるだろう。
 そんな彼女の視線は、自分の契約者である輝たちに移る。
 瑞樹たちとは違って地上で戦う輝たちは、味方の被害を最小限に抑えるために防御に徹していた。
「シエル!」
「はいは〜い、おまかせー」
 兵の攻撃を盾で防御した輝が呼びかけると、彼女の後方からシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が応えた。戦闘の場にしてはどこかゆるい口調だが、その動きは真剣である。
 シエルは弓矢を構えるとすかさず矢を放つ。それが相手を貫いたのを見ると、次いで、すぐに詠唱を始めた。
 我は射す光の閃刃である。
 魔力が光の刃となり、敵を切り裂いた。
 無論、深追いはしない。味方がやられたのを見て怖気づいて去っていった敵は追わず、輝たちは体勢を立てなおした。
「な、なんとかなるですかね〜?」
 と、同じく一緒に戦う神崎 瑠奈(かんざき・るな)が聞いた。
 黄金にも似た茶色の猫耳と尻尾を生やす獣人である。彼女もまた輝のパートナーであり、周囲の索敵を輝たちに伝える役目を担っている。獣人であるせいか、どこかナベリウスたちと似た雰囲気も帯びている娘だった。
「なんとかなるかどうかは分からないけど……なんとか、してみせるんです!」
 瑠奈を一瞥してから、輝はそう言って剣を振り抜いた。
 隙を突いてゲルバドル兵を吹き飛ばした彼女は、敵から距離を取る。
(詩歌さん……それにレイカさんたちのためにも、負けられない!)
 その思いは彼女の表情に決然と現れる。
 瑠奈とシエルは、輝のそれに気づき、言葉なくうなずきあった。彼女の思いに、応えようと。
「いきましょう!」
 輝の一声を合図にして、彼女たちは再び敵兵に立ち向かった。


「遊びましょ〜、遊びましょ〜♪」
 モモとサクラはその指先から伸びた爪をもって、迷いなく南カナン軍へと切り込んでくる。木々を飛び跳ねる縦横無尽の戦い方は、およそ戦闘のセオリーを無視したもので、どこから攻撃の手が伸びてくるか分からなかった。
(だけど……!)
 皆川 陽(みなかわ・よう)はとっさにサクラの攻撃を避けて、フラワシに応戦させた。
 陽の意思を反映して、見えざる霊体が動き出す。その姿は、およそフラワシらしくない、人の姿をした霊体だった。
 言うなればそれは、騎士の守護霊とでも言うべきか。ブラウンの髪に、鮮やかな緑色の瞳。主を護るそのためならば、自らの身を呈してかばう事すら厭わない、無言の気迫。その顔には影がさしているが、美しい顔立ちなのは確かに思えた。
 どこか……いつも陽の周りにいる誰かを彷彿とさせるが……。
 いずれにしても、騎士の武装に身を包んだそのフラワシは、手にした剣と盾で敵へと切りかかった。風、鉄、焔、という、三種の力を持ったフラワシは、風を生み出してナベリウスを切り裂き、焔の炎でそれを包み込む。だが、サクラとモモは木々の反動を利用してスピードアップすると、それをギリギリのところでかわした。
 ナベリウスはフラワシの気配には気づいているようだった。しかし、見えない敵というのに完全に対応することは出来ないのだろう。
(本能で戦ってるんだね……)
 獣というのはあながち比喩でもないと、陽は思った。
 と、そんなことを考えている最中に、空からナベリウスに向かって矢の嵐が降り注いだ。
「にゃああぁっ! お空からなんてヒキョーなんだもん!」
 ナベリウスがキッと見上げると、そこにいたのは一機の小型飛空艇である。
 操縦者はテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)という。陽のパートナーであり、騎士として彼に忠誠を誓ったシャンバラ人だった。
(君がそれを言うかな……)
 卑怯と言われたことに少しだけ憮然とした思いを抱きながらも、テディは自分に注意をひきつけるため、続けざまに矢を放つ。
「ぬぬ〜! 飛び道具なら、モモだって使えるんだもん!」
 躍起になって、モモはその手から魔力で生み出した火球を放った。
 降り注ぐ矢を散り散りに焼いて、火球は飛空艇を下方から貫こうとする。なんとかそれをかわしたテディ。
 と、その視界に、こちらに引きつけられなかったサクラが陽を狙っている姿が入った。
(マイ……ロード……!!)
 その瞬間に、テディは思わず方向転換を図っていた。
 そして、サクラに火球で狙われる陽は、フラワシの攻撃をもってしても、それが避けられないことを知る。すでにフラワシの気配に気づいているサクラは、そのスピードを生かしてフラワシの攻撃を本能的に避けているのだ。
(怖いよ怖いよ怖いよ……で、でも、頑張る! 逃げるな自分!)
 そう自分に言い聞かせる陽。
 しかし、ついにサクラの手から火球は放たれ、それは眼前へと迫り――
「マイロード!」
 次の瞬間。
 陽が閉じていた瞳を開いたとき視界に映ったのは、地をえぐるようにして横転した小型飛空艇だった。そして、自分が温かなぬくもりに抱かれていることに気づく。
 顔を上げると、彼を守るように抱きしめていたテディの顔が見えた。
「テディ……どうして……?」
「命令に背いて申し訳ありません。でも、僕にはなにより、貴方が大事だから」
 テディのその言葉には、嘘も偽りもなかった。
 彼にとって何より大事なものは、陽である。それを守るためであれば、例えどんな命令であっても、彼はそれに背くだろう。
 と――
「まーったく、無茶してくれるわよね」
 そんなテディたちのことを見下ろしながら、いつの間にか小型飛空艇の上に立っていたセーラー服の娘が言った。
「明子さん……」
「あなたたちはそこでちょっと休憩でもしてなさいよ。お子ちゃまたちの相手は……私たちが引き受けてあげるわ」
 娘の名は伏見 明子(ふしみ・めいこ)。波羅蜜多実業高等学校――通称パラ実という不良の吹き溜まりのような学校に所属していながらも、我が道を行くことを恐れないガキ大将娘だった。
 そしてそんなガキ大将に従事するように契約している魔鎧はレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)という。
「やーれやれ。相変わらずだねェ、マスター。言ったって聞きゃしないんだから、実力行使ってか?」
 彼は明子の横でポケットに手を突っ込みながら、ひくつくような笑みで言った。
「悪い子にはお尻ペンペンしてあげないとね。それが大人のマナーってやつよ」
「ハハ、怖いなこりゃ。……だ、そうだぜ?」
「好きにしてくれよ。別にやり方にケチつけるようなことはしねえからさ」
 レヴィが振り返った先――小形飛空艇の下で、夜月 鴉(やづき・からす)が面倒くさそうに頭をかきながら言った。
 そんな彼が相対するのはモモとサクラだ。二人は、アムトーシスで一緒に遊んでいた鴉。それに、彼の横にいるもう二人の娘たちを見て、どこか当惑するような顔をしていた。
 鴉のパートナーであるアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)サクラ・フォーレンガルド(さくら・ふぉーれんがるど)だ。
「やはり……放っておけませんね、あの娘たちは」
「友達を見捨てるのは、私の流儀に反するんだよー」
 彼女たちは自分たちにしか聞こえない声で、そんなことをつぶやく。
 それを聞いて、武器を持たない鴉は静かに笑みを浮かべた。
「俺たちなりのやり方で止めてやろうぜ。こんなバカなことはするなって、よ」
 鴉は踏み込んだ。
 モモとサクラに、全力で立ち向かうことを心に刻んで。