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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 湖のランスロット

「あちらにアーサー王がいらっしゃるという話だけど、いいの?」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はパートナーである湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)に尋ねる。

「できるならば円卓の騎士たちとの戦いは避けたい……。
 あの時は不幸な行き違いがありましたが、私としては本意ではありませんでした。
 ともに轡を並べて戦うことはあろうとも、剣を交えるのは最後の最後にしたい」

「そう。それで後悔しないなら、止めないわ」


ランスロットの前に姿を現した娘は、英霊ではなかった。
地球人か。
しかし気配が異様である。奈落の気だ。

「憑依した奈落人か。
 我が名はランスロット、円卓の騎士が一騎」

名乗りを受けて、少女も返答する。

「はじめまして、伝説の騎士様。
 ボクは物部 九十九(もののべ・つくも)、今はこの鳴神 裁(なるかみ・さい)の体を借りているよ。
 英霊と戦うなんてめったにない機会、胸をお借りします」

そういって敬意を示し一礼する。

貴婦人の相手をするのは、ランスロットにとっていささか不本意である。
とはいえアーサー王と剣を交えるよりはいくらか気が楽だ。

ランスロットは聖剣『アロンダイト』を抜くか逡巡した。
この聖剣は湖の淑女より賜ったもので、後にガイ卿の手に渡ったという。
湖の淑女はアーサー王にかの聖剣『エクスカリバー』を授けたことで知られるが、アロンダイトも同じく強大な魔力を秘めた剣である。

悩んだ末、剣を抜くのはやめにした。
貴婦人に刀傷を負わせるのは趣味ではない。


一方、九十九にも不可解な異変が起きていた。
呆然とランスロットを眺めているのだ。

九十九/裁が装着していた魔鎧、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)は、装着者の体調を確認する。

「心拍数、体温ともに上昇しているのですよ〜?
 これはまさか……

 

 なのですよ〜!?

 ランスロットさんは女性に大人気の騎士さん、必殺技として女性をメロメロにしてしまっても不思議はないのですよ〜?」


ランスロットにとっては祝福でもあり呪いでもあったのだが、騎士のなかの騎士であるランスロットは女性の心を捕らえて離さなかったのだ。
そのせいでアーサー王の妃であるギネヴィアと不義の恋に堕ちる結果となったのだが……。

ともあれ、その魅惑の力は今この瞬間にも蘇っていたのである。

観衆からもキャーキャーという黄色い歓声が飛ぶ始末。
とりわけパートナーの宇都宮 祥子の興奮ぶりは、後に珠代がモノマネのレパートリーに加えるほどの大惨事だった。


(どうしよう、あの素敵な騎士サマと戦わないといけないなんて!
 だけどこれはこれで悲劇的だよね!
 愛しあうのに戦うふたりだもん!)

愛しあっているかどうかはさておき、九十九は全力を出せないながらもランスロットに立ち向かう。

にわかに空が掻き曇り、ごうごうと風が吹き荒れた。
九十九たちの魔術、『嵐の使い手』だ。

「ボクは風、風(ボク)の動きを捉えきれる?」
そういって走りだす九十九。だがこの言葉の裏には
(ボクのハートを捉えきれる?)
そういうニュアンスがあった。

ランスロットは素手で相手を捕らえようと間合いを詰める。
九十九は間合いを外すように、壁に向かって走る。
そこで壁を蹴って、九十九は跳んだ。

パルクールやフリーランニングと呼ばれる、アクロバティックな動きである。
特撮の殺陣のような動きだ。

契約者は常人よりも高い身体能力を持っているのに加え、九十九はそれを存分に引き出す技術的訓練を積んでいる。
くるりと回って、ランスロットの背後を取った。

「風を呼び、風に乗り、風を駆る、ボクこそは『風の駆り手』☆」

ランスロットは予想外の動きに驚きこそすれ、これで動きを止めたりはしない。
その視線はしっかりと九十九を追っていた。
超人的な身体能力を頼みに、ランスロットも地を蹴って肉薄。

「捕えた!」
ランスロットが腕を伸ばす。しかしその手は空を切る。

「残像だ☆」
ドールの生み出したミラージュと、九十九の神速が合わさって、ランスロットも狙いを誤ったのだ。

そこから再び壁を蹴り、九十九は反動を利用してランスロットへと跳ぶ!
強烈な蹴りがランスロットの胸に直撃した。

その九十九の足を、ランスロットの両手がつかんだ。
素早く逃げ回ろうとする相手なら、攻めてくるまで待てば良い。
「やっと捕まえましたよ、お嬢さん」

この瞬間、九十九の心臓の高鳴りは最高潮に達した。
「捕まえられました!」

(しまった、また私は道ならぬ道に踏み入れようとしている!)
ランスロットは勝利と同時に、選択を誤ったことに気づいたのだった。

それを見ていた宇都宮祥子のありさまといえば、小倉珠代がモノマネの(後略)