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リアクション
■ 思い出の場所 ■
「今年はカノンも一緒に栃木の実家に帰ってみない?」
水神 樹(みなかみ・いつき)に誘われたカノン・コート(かのん・こーと)は意外に思った。
これまでも樹は長期休暇に実家に帰っていたが、その際同行するのは同じ実家となる弟の水神 誠(みなかみ・まこと)だけだったからだ。
「一緒に行きたい場所があるし。いい?」
「うん、俺はいいけど……」
「良かった」
樹はにこにこしているけれど、カノンは口の中で繰り返す。
(俺はいいけど……そこでぴりぴり毛を逆立ててるのは、いいとは思ってないみたいだぜ)
いつもは姉と自分の2人で向かうのに今回は何故カノンが、と言わんばかりに威嚇モードになっている誠はきっと、滅茶苦茶不本意なのだろう。最近は多少、威嚇モードを抑えてくれるようになっていたのだけれど、今回のはかなり怖い。
けれど、せっかく樹が誘ってくれたことだし、久しぶりに地球に行ってみたいという気持ちはある。
(がんばれ……俺!)
空気に乗って伝わってくる誠のぴりぴりに負けぬよう、カノンは自分に気合いを入れた。
実家について家族への挨拶を軽く済ませると、樹は荷物を置くのも待ちかねるように2人を外へと連れ出した。
どこに行くのだろう?
誠は懐かしいけれどやはり変わっている町並みに目をやりつつ、カノンは微妙に居心地悪いけれど地元の様子に懐かしさを感じる複雑な気持ちで、樹の後についていった。
樹が足を止めたのは、洞窟の前だった。
「ここ覚えてる?」
そう聞いた樹に誠もカノンも、
「覚えてる」
と答え、怪訝そうに相手の顔を見た。
そんな2人を見て、樹は微笑する。
それぞれの持っている思い出は違うもの。両方を知っているのは樹だけだ。
色々なことがこれまでにあったけど、ここで起きたことは樹にとって、だれも大切なものだ。
「カノン、ここはね、私と誠の遊び場で、この宝物のペンダントのもとの石を見付けた場所なの」
大人からは危ないから子供はあまり近寄るなと言われていたけれど、樹と誠はよくここに遊びに来ていた。
外界から隔てられたような洞窟の世界は冒険心をくすぐったし、他の子があまり来ないからゆっくり遊べた。
6歳の時、今までより少し深いところまで行ってみようかと、手を繋いで胸をどきどきさせながら進んだ先で、清らかな湧き水に洗われた紫色の綺麗な石を見付けたのだ。
その石はペンダントに加工して、今も樹と誠の手元にある。
「誠、ここはね、私がカノンと出会って契約した場所なの」
この洞窟の奥には小さなお社がある。
誠が誘拐されてからも、樹は時々この洞窟に来ていた。
いなくなった誠との思い出を蘇らせる為、そしてまた、優しい洞窟の空気に触れたくて。
そして樹が17歳の時、ふとしたことで封印が解かれ、社の奥の壁の中に眠り続けていたカノンと出会い、契約したのだった。
「この場所は私にとって色々なことが起きた思い出の場所。誠とここに遊びに来ていたから、社に眠るカノンと出会えた。ここでカノンと出会って契約してパラミタに行ったから、10年の歳月を経て誠と再会することができた」
誠とカノン。
2人は直接には結ばれていないけれど、間に樹を介して結ばれている。
この洞窟は樹にとって、それを象徴する場所なのだ。
「私にとって2人は大切なパートナー。だからきっと2人は、仲良くなったらすごく良いコンビになると思う。ちょっとずつでいいから、仲良くなってくれたらいいな」
素直に言う樹の言葉を聞いて、カノンと誠は顔を見合わせた。
――カノンは思う。
双子の片割れである樹のことを誠は大切にしている。自分がいない間に樹の隣にいた、自分と同じ顔をした自分の存在に、きっと微妙な気持ちにさせられたことだろう。けれど前よりもうち解けてくれてきている。
(少しずつでも、前に進みたいな……)
――誠は思う。
カノンがここで契約したのは偶然だったのか、運命と呼ぶものなのか。
ついつっかかってしまうけれど、こちらが威嚇してもカノンはがんばって話しかけてきてくれた。
(前よりも、認めてやろうか……)
そんなカノンと誠を、今日もまた洞窟の空気は優しく包み込む。
優しく見守る樹の眼差しと共に。
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