空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

地球に帰らせていただきますっ! ~4~

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ! ~4~

リアクション

 
 
 
 ■ 手の中に咲く花 ■
 
 
 
 正月が近づくと、どの店も新年に向けての用意に大忙しとなる。
 それも和菓子屋となれば、並べる菓子も店の飾り付けも新春らしさが要求されるというものだ。
(……そういえばあいつに正月用の菓子の作り方殆ど教えてなかったな……)
 ふと思い出し、柳川 詩鶴(やながわ・しづる)はどうしようかと悩んだ。
 店は部下だった神城 沙希に任せてあるのだけれど、正月用の菓子は教えて来なかった。
 まあなんとかなるだろう、とそのことを忘れようとしたけれど、どうしても気に掛かる。
(帰るなんてめんどくさい……けど、それで評判とか落ちて和菓子作れなくなるのは嫌だな……)
 しょうがない帰るか、と詩鶴は帰郷を決めた。
 
 
 12月30日朝。正月を間近に控えた和菓子店で、大量の材料を前に沙希はぼやいた。
「詩鶴の馬鹿ー。正月用の菓子とか無理。練りきりとか無理。干菓子は量がおかしい。……もう今年は諦めよう」
 絶対にできっこない、と調理場で乾いた笑いを浮かべていると。
 こつんと頭を叩かれた。
「痛っ、誰? って……詩鶴ー!」
 振り返った沙希は、そこに詩鶴の姿を見付け、助けを求めるように抱きついた。
「もうお手上げだよ。何ともならないんだよー」
 途方に暮れて訴えてくる沙希に、詩鶴は尋ねた。
「で、何が出来てない?」
「えっと……正月用全部」
「全部……?」
 はぁ、と詩鶴はため息をついた。
 まさかと思ったが、ここまでとは。
 帰ってきて良かったと思いつつ、詩鶴はさっそく指示を出す。
「沙希。干菓子の水あめの計量と型の用意。後、練りきり餡とこし餡、練っといて。お前が用意した量だとおそらく足りない。今からなら夜までには間に合うから、急いで」
「はい、店長」
 沙希は嬉しそうに笑顔で答えると、指示通り動き始めた。
 指示さえすれば沙希はよく動く。性格的には頼りない所もあるけれど、和菓子作りの腕は詩鶴が店長代理を任せようという程にはあるのだ。ただいかんせん、運が無い上に頼まれると断り切れないところがあって、ついつい背負い込まなくて良いものまで背負い込む。
「沙希お前、予約取りすぎだ」
「でもお得意さんからどうしてもと言われて……」
「言い訳は後で聞くから、ちょっと分身して来い」
「無理だから! 俺分身とか出来ないから!」
「大丈夫。沙希はやれば出来る奴だって信じてる。だから分身して今以上に早く手を動かせ」
「信じて貰っても分身だけは出来ないからっ!」
「だけ、なのか?」
 そんな軽口を叩きながらも、詩鶴の手は止まらない。最も効率の良い手順を瞬時に選択しつつ、猛然と和菓子を作ってゆく。
「すごい……」
 藤姫 林檎(ふじひめ・りんご)はそんな詩鶴を眺めて呟いた。和菓子の店に帰ると聞いてついてきたが、はじめての地球という場所とこの剣幕に押され、隅っこの方で緊張している。作られてゆく和菓子はきれいでおいしそうだけれど、味見したいとも言い出せない修羅場ぶりだ。
「林檎、悪いけどこれを向こうの調理台に運んでおいてもらえるか」
「は、はい……」
 そんな林檎も働かせて菓子を作り続け、詩鶴は夜までに必要な正月菓子をすべて完成させた。
 
「ま、間に合ったー。詩鶴マジ神!」
 出来上がった途端、沙希はへなへなと座り込んだ。1日中休み無く和菓子を作っていたのだから無理もない。……が。
「なに休もうとしてるんだ?」
 詩鶴に言われ、沙希は何を言われているのか分からずにほけっと見上げる。
「だって予約分、全部終わったよ」
「それは分かってるが、沙希はこれからあまった餡で煉りきりの練習だ」
「ええっ、何でー?」
「来年も自分の手を借りない間に合わない、だと困るだろ。あー、ついでに正月以外の煉りきりの練習もしておくか。そうだな、水仙、椿、うぐいす……縁起物の鶴亀あたりも作れた方が良いだろう」
「今から?」
「ああ。大丈夫。新年が来るまでにはちゃんと作れるようにしてやるから」
 休ませてもらえるどころでは無さそうだと、沙希は情けない顔になった。
「マジか……。ホント詩鶴って、和菓子のことになるとキャラ変わるよな」
 普段はあんなに無気力なのに、と沙希がぼやく。
「別にキャラ変わってない」
 ただ和菓子以外の全部がどうでもいいだけだと言うと、詩鶴は煉りきりの生地を手にとり、さっそく作ってみせる。
「ほら沙希、ぶつぶつ言ってないでよく見てろ。林檎、これが出来上がったら試食させてやるからもう少し待ってろよ」
 詩鶴の手の中で三角棒が無駄なくすっすっすと動き、ただ丸かった生地を花の形へと変えてゆく。
 その動きがぴたりと止まった時には、詩鶴の手の中に、季節を1歩先取りした花が鮮やかに咲いていたのだった。
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
 ご参加ありがとうございました。いつも遅くなってしまい申し訳ありません……。
 
 今回もバラエティーに富んだ里帰りで、書いていて感心するやら笑ってしまうやら。
 私が楽しんだくらい、読んだ方にも楽しんでいただけたら良いのですが。

 なかなか普段のシナリオでは語られない皆様の過去や心の内が垣間見られるのも、里帰りの楽しさですね。
 自分の所だけでなく、是非お知り合いの所も読んでみて下さいね〜。その人を冷やかして遊ぶのも、里帰りシナリオの楽しみ方の1つ、ということで。
 
 また夏に里帰りシナリオを出せたらいいな〜と思っています。今度は今までとちょっと違う趣向をこらせたら、とも思っているので、もし機会がありましたらご参加下さいませ。
 
 ではでは。
 ありがとうございました。

※2/20 目次のリンクミス、及びNPCデータのリンクミスを修正しました〜。