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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

 忘新年会と言えば、友人同士や会社仲間によるものだと考えがちだが、一年を無事過ごした家族による宴会も含まれる。
 例えば、鬼崎 朔(きざき・さく)アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)月読 ミチル(つきよみ・みちる)花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)達のように……。
「えへへ♪ なんか〜いい気分になってきた〜……アテフェフお姉ちゃん!」
 甘えた声を出した朔が天使の様に終始ニコニコした笑顔でアテフェフに抱きついている。
「クスクス……朔ったら、そんなにあたしが大好きなのね?」
 朔の頭を胸に窒息しない程度に抱きしめたアテフェフが恍惚の笑顔を見せる。
「えへへ……うん、大好きだよ〜」
「まぁ、世界で私だけが好きだなんて!」
「アテフェフお姉ちゃん、言葉を勝手に加えてない?」
 ビデオカメラを片手に持った花琳が疑問を投げかていると、朔の両親の魂が入った魔鎧であるミチルが朗らかに微笑む。
「皆楽しく年越しできそうで何よりですね。フフッ……朔に花琳も逞しく育ってくれてお母さんは嬉しいです……」
「(ハァハァ……ゴクリ)」
「アーティフも嬉しいのはわかりますが、ハァハァと娘に興奮しないでください」
 彼女の姿と主人格は母ミチルだが、たまに父アーティフの声が脳内に響く。
 朔がこうなったのは、お酒の魔力だろう。普段は色々我慢していたり、実は寂しがり屋だったりする子ゆえ、酔うと開放的になるのだ。ミチルはそんな娘の乱れた姿も愛らしく思う。
 アテフェフも朔の酔った姿を知っていたので、この時を心待ちにしていた。
「(フフッ……朔って昔から酔うと抱きつき魔、さらに幼児退行して可愛さ百倍の仕草する様になるから公然とイチャイチャ出来るわ!)」
 思う存分アテフェフにまさぐられた朔は、今度はミチルへとダイブする。
「お母さんも! ぎゅ〜!」
「あらあら、朔は甘えん坊ね」
 黙っていれば、姉妹の関係に見えるだろうミチルが朔を受け止める。
 アテフェフは、ミチルと朔を見つめて悩ましげな溜息をつく。
「どうしたの、アテフェフお姉ちゃん?」
 花琳がビデオカメラでアテフェフの顔にズームする。
「ええ……今は至福の時だけれど、酔いが冷めたら朔はきっとまたあたしにつれなく接すると思うとね……例え、それが愛だと知っていても……いっその事、ずっと酔っていてくれないかしら」
「……そういう人って世間一般では『アル中』って言うと思うよ」
 尚、花琳のビデオカメラに残した映像は、後の朔が己の痴態を見て悶え苦しむ原因になるのだが、今は置いておく。
「ん? 貴公は……」
 花琳が顔を上げると、そこには店に戻ってきたセルシウスがいた。
「あっ、セルシウスさん! この間はお疲れ様でした!」
「ふむ、その節は世話になったな。しかし、またビデオカメラ持参とは」
 以前、修学旅行の際に探検した迷宮で一緒になった事をセルシウスは覚えていた。
「だって今日はお姉ちゃんにアテフェフお姉ちゃん、それに……お父さんとお母さんも居るんだもん。記録を撮っておかないとね!……それはそうと、私の撮ったあの映像で小金稼いだんだってね? フフッ……私達に少しくらいお礼があってもいいと思うんだけど♪」
「む……」
 花琳が撮った映像の一部が曲解され、地球の欧州のポスターとして使われた。セルシウスはそのポスターの料金として、謝礼を受け取っていたのだ。因みにポスターは『コーカソイド舐めるな!』的内容であったらしい。
 ニヤリと笑った花琳がセルシウスに詰め寄る。
「……まさか、セルシウスさんほどの立派な人がそんな恩知らずな事しないよね?」
「私にどうしろというのだ?」
「今回もちゃんとお薦め商品とか店内のいい雰囲気を写真や動画込みでぱらみったーで宣伝してあげる♪ だからね……」
 セルシウス相手に花琳が蜂蜜酒やおつまみをタダ同然で優遇してもらう様に交渉を始めるが、セルシウスは難色を示す。その辺りはルカルカやダリル達が既に手を打っていたのだ。
 セルシウスの話を聞いた花琳は少し残念そうな顔をしていると、ミチルを堪能(?)した朔が花琳へと抱きつきのターゲットを変える。
「花琳〜〜!! ぎゅー!!」
「む!?」
「あれー、花琳? 何かゴツい気が……」
 朔が顔を上げると、自分が間違ってセルシウスに抱きついていた事を知る。
「男……でも、ぎゅー!!」
 ゴキゴキゴキッ!!!
「ぐぅおおぉぉぉぉーーー!?」
 ドラゴンアーツの怪力でセルシウスをベアハッグ、所謂『サバ折り』状態で、朔が締め上げていく。
「おいおい朔。やめておけ、そいつ死ぬぞ?」
 ルカルカの指示で用心棒的に一番奥の席で座っていたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、ドラゴニュート特有の巨体を揺らしてやって来る。
 カルキノスはルカルカに店を手伝ってくれと言われて来たが、「でけぇ竜族がうろついてたら警戒させねぇか?」と言い、店の端で酒やツマミが食いながら、そしてルカ達の仕事ぶりを見ながら、テキトーに人と話しながら、店で何かあったら食いながら連絡するという非常に『オイシイ』仕事を行なっていた。
 朔はカルキノスの言葉に、白目をむいて泡を吹きかけているセルシウスを解放する。
「うん、やめるー! 今度こそ、花琳〜〜!! ぎゅー!!」
「わ、お姉ちゃん!?」
 今度は間違えず、本物の花琳に抱きついていく朔。
 噛んだ後のガムの様に捨てられたセルシウスを見つめたカルキノスは、ほんの一瞬だけ「食べておくか?」と思うも、ルカルカに止められている事を思い出し、彼を安全な場所まで背負っていき回復させてやることにした。カルキノスにとっては、人間も食料と変わらないのだ。
 花琳は頬ずりしてくる朔を見て、突然妙案を思いつく。
「わ、お姉ちゃん……ハッ!! そうだわ! お姉ちゃん! コレ!!」
「う〜ん……花琳? その服な〜に〜?」
「お姉ちゃんにぴったりの衣装持ってきたの!! ね、着替えてみない?」
 花琳が持っていたのは、お手製たいむちゃんなりきりセット、チャイナドレス、バニースーツ、競泳水着が入った袋である。ただし、朔のため全て背中の刺青が見えない仕様になっている。
「ここで〜? うーん、それ可愛い?」
「可愛いよ! そして、これを着て蒼木屋をPRするビデオを撮るの!」
「私が主役?」
「モチロン」
「じゃ、お着替えする〜!」
 朔が早速上着に手をかけるのをミチルがたしなめる。
「ここで着替える気?」
「え? 駄目なの?」
 ミチルは静かに頷き、
「雑然としたここで着替えても、注目度は薄いわよ」
「(違う! お母さん、ズレてる!!)」
 花琳が心の中で突っ込む。
「折角ステージがあるのだから、あそこで着替えなさい!」
「ステージ?」
「そう……あそこで一枚一枚脱いでいくの。そして最後は腰や胸元に客のオヒネリを沢山差し込まれた朔が戻ってきて……あぁ、折角の娘の舞台なのに、ポールの一本もないのね……」
 本気で残念がるミチルに花琳が突っ込む。
「お母さん、それ違うステージでしょ? お店の種類もだけど……」
「……仕方ないわ、お手洗いで着替えなさい」
「はーい!」
「クスクス。朔、手伝うわよ? 酔った今ではボタンをかけるのも難しいでしょ?」
「アテフェフお姉ちゃん! ありがとうー!」
「クスクス……あぁ、そうだ花琳、少し着替えに時間がかかってしまうかもしれないわよ?」
 アテフェフが黒い笑みを浮かべる。お手洗いに、酔った朔と二人きり、しかも合法的に朔を脱がせられるシチュエーション……整いましたッ!! 開戦準備OKですッ!!アテフェフの脳内に狂乱のアラートがガンガン鳴っている。
「アテフェフちゃん?」
「何です、ミチルさん?」
「下手なことしたら小母さん、怒っちゃうわよ?」
 母の勘で、アテフェフの野望を事前察知するミチル。顔こそ笑顔だが、その目は笑っていない。
「……早く戻ります」
「ええ」
 ミチルがニッコリ笑ってアテフェフと朔を見送る、
(……暫し後)
 背中の隠れたバニースーツに着替えた朔とアテフェフが戻ってくる。
「私、一杯あった中でこれが一番可愛いと思ったんだー、えへへ」
「クスクス……朔。とても可愛いわ。可愛い過ぎて食べちゃいたいくらい……」
 確かに、お手洗いからテーブルまでの短い間でも、そこら辺の酔っ払いが朔に声をかけてきた、が、「朔に絡んだりする奴はあたしの薬で懲らしめないとね……カモン、朔夜(アルラウネ)。サイサリス投入よ!」とアテフェフが毒の散布を……始めようとしたのは、流石に他の店員達に阻止されていた。
 朔が戻ってきたので、花琳がビデオカメラを構えて撮影を始めようとした時、再びセルシウスが戻ってくる。今度は蜂蜜酒を売るために……。
「むぅ、酷い目にあったが……私は負けぬ! どうだ、貴公達、蜂蜜酒はいらないか?」
「あ、セルシウス。さっきのお詫びにぃ……」
 朔がセルシウスの姿を見て、謎の液体が入ったコップを手にする。
「それは何だ?」
「えへへ。ね〜ね〜……私ね、お手洗いで着替える間に、お店の人に頼んで私の愛情たっぷりのミックスジュース作らせてもらったの〜。蜂蜜酒も入っているんだよ、飲んで〜〜?」
「大丈夫……なのか?」
 液体の禍々しい色にセルシウスがアテフェフを見ると、サッとアテフェフが顔を逸らす。
 花琳がパチンと指を鳴らし、朔の言葉に追撃をかける。
「そうよ! それを飲んで蜂蜜酒のPRビデオにしようよ! 混ぜても美味しいってね?」
「……」
 渡されたコップを持って黙りこむセルシウス。不思議とこれまで生きてきた彼の人生が脳内で再生される。
「(くっ……明らかに危険!! だが、私とて永光あるエリュシオン帝国の男だ……)」
 目をカッと開いたセルシウスが覚悟を決め、コップを高々と挙げる。
「エリュシオン帝国に永光あれーーー!!」
 そして、コップの液体を口に運ぼうとしたその時、コップが隣から伸びてきた手に奪われる。
「(ぅぅ……少しは楽になったのだー……というか、今度は逆に何か飲みたく……ハッ!! セルシウスさん!? 丁度いいところになのだー!!)」
 お手洗いから戻ってきた黎明華がセルシウスの姿を見つけ、コップを奪い取ったのだ。
「き、貴公!?」
「フッフッフ……キマクは弱肉強食の世界! 隙を見せたが最後、これは黎明華が頂くのだー! ゴクッゴクッゴクッ……」
 一気に朔のミックスジュースを飲み干す黎明華。
「あーあ、セルシウスさんに飲んで欲しかったのにぃ……ま、また作ればいいかぁ」
「貴公、アレの原材料は何なのだ?」
「えーとね……まず蜂蜜酒でしょ、他にはイカ墨、薬草茶、ネクタール、勇士の薬、カナン・デンドロビウム、ギャザリングヘクス、あとは……酔っ払いの愛情的なナニか! えへへ、謎料理製法で出来ましたー!」
 セルシウスが黎明華を見ると、彼女は腰に手を当てたままの姿で固まっていた。
「朔ったら……」
 ミチルが満足気に頷く。
「え? お母さん、アレいいの?」
「人様に迷惑かけちゃいけない、やるなら、面白い範囲で弄り倒しなさいとあれほど言ったお母さんの言葉を守ってくれているのよ」
「流石、この親にしてあの娘有りってところね……」
 花琳が呟くと、アテフェフが冷ややかに言う。
「あなたもその中に含まれているわよ?」
「ですよねー……あれ、お姉ちゃん? ちょっとどこ行くのー!?」