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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション


●遺跡〜4階

 ほかの階と違い、遺跡4階は静寂に包まれていた。
 遺跡内は広い。階段は四方にあり、中央部には2基のエレベーターがあるがこちらは今起動していない。申し訳程度であるが、通路内には間接照明が点灯しているので、別電源となっているのだろう。
(ま、そううまくいけるはずはありませんね。途中で止められて、襲撃されたらそれこそ袋のネズミですし)
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はエレベーター前から離れ、通路を進んだ。
 エレベーターの階を表す数字は5まであった。まだ上に階があるわけだ。
 彼がここまで上がってきた階段は、4階で終わっていた。別階段がどこかにあるに違いない。
 ほかの者たちのように探索をする気にはなれなかった。調査隊の救出も、かなりの数の者たちが彼方とともに向かっていくのを見たので、手は足りているだろうと考え、加わるのをやめた。
 探索はせず、救出もせず。じゃあなぜここにいるのかと言われたら困ってしまうのだが。
 それに見合う答えを遙遠自身、いまだ見つけられないでいた。
 ここまで来ていながらそんな中途半端な状態でいることに、いいかげん自分でも辟易する気がしないでもないが、それが正直な気持ちだ。
 かといって空京へ戻る踏ん切りもつかず、こうして足は前に向いている。
(遙遠は、一体ここに何があると期待しているのでしょうね…?)
 自分でも分からない、掴みようのない何か。ゆらゆらと揺らめく影のようなものだ。蜃気楼ですらない。あるかないかも分からない、まるで胸に絡まった糸に引かれるままに、彼はここにいる。
 この糸引く手の先にあるもの。いつかそれに出合ったとして、自分にそれと分かるだろうか? それすらも定かでないままに、足音をたてず、極力気配を殺して進み続ける。
 前へ、奥へ。今より先へ。
 やがて、曲がろうとした角の先の通路で少年型ドルグワントの姿を見つけて、さっと身を隠した。
 遺跡内で遭遇するのはこれが初めてではない。彼らは熱探知できるらしいがどうやら距離に制限があるらしく、今のように通路の端と端にいる状態では遙遠に気付けないようである。
 少年型ドルグワントは反対側の通路や側路から続々と集結し、一糸乱れぬ動きで階段を下へ向かって下りて行った。
 しかしその階段も、見たところ上には通じていないようだ。
 彼はその通路に入るのをやめて、今いる通路をまっすぐ進むことにした。



*            *            *



 2階で警報が鳴っていた。
 そちらへと向かう少年たちをやりすごして、リネンは4階最深部へ向かう。
 きっとこの通路の奥には何かがある、そう直感して。
 だが次の瞬間、彼女は飛来する何かの存在を察知して、さっと横へ跳び退いた。
 ついさっきまで彼女のいた場所に矢が突き刺さる。
「それ以上進ませないわよ!」
 高らかに宣言する女の声。
 ついに見つかったということよりも、その耳になじんだ声がリネンを凍りつかせた。
 振り返る、彼女の後ろで弓矢をつがえているのは――。
「ヘイリー! あなた!?」
 彼女のパートナーヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)だった。
 別れる直前、立てないほど体調を崩していた彼女が、今は元気でいるのは喜ばしいことだったが、それが意味することはつまり……フェイミィやほかのパートナーたちと同じ?
「ヘイリー……一緒にいた飛装兵たちは…?」
「え? ああ、あの子たち」
 ヘイリーは素っ気なく肩をすくませる。
「邪魔だから倒してきちゃった。主人の邪魔をする子なんか、いらないわよね。
 そんなことよりリネン。いくらリネンでも、これは見すごせないなぁ。どう? 昔なじみのよしで、今すぐダフマから立ち去るなら見逃してあげる。ルドラさまからのご命令も「追い出せ」だしね」
「……従わなかったら?」
「あらそんなの。分かりきったことでしょ?」
 ヘイリーは弓を強く引きしぼる。
「……あなたが相手というわけね…」
 彼女の死角となる位置で銃を握る手の力を強めつつ言う。 
 フェイミィに誓ったのだ。彼女の苦しんだ分、流した血にかけて、ただではすまさないと。
(たとえ相手があなたでも……ヘイリー…)
 苦渋に満ちた顔をするリネンなど歯牙にもかけず、ヘイリーは言った。
「あなた、じゃないわ。あなたたち、よ」
 その言葉に応じるように、クライ・ハヴォックが響き渡る。
「――はっ!」
 リネンは背後に迫る気配を感じて振り返った。双龍刀をかまえた男が彼女へ向かって突き込んできている。
 銃口をそちらに向ける間もあらばこそ。彼女は吹っ飛ばされた。
「きゃああっ!!」
 横倒れになった彼女をヘイリーの矢とエネルギー弾が追撃した。空賊王の魔銃は先の男の攻撃をまともに受けて、壊れて転がっている。
 逃げるには体勢が悪い。かわせないと、受けることを覚悟した彼女の周囲に、ブリザードの盾が出現した。
 荒れ狂う風と氷雪がエネルギー弾と矢をはじき返し、消える。
 驚く彼女の背中に、そっと手がそえられた。
「立ってください、リネンさん」
「遙遠!」
「従わないのなら逃がさない!!」
 攻撃手段を我は射す光の閃刃に切り替えたヘイリーの振り上げた手が光輝に輝く。彼女に、遙遠はクライオクラズムをたたきつけた。そして反対側の男にはエンドレス・ナイトメアを。
「ううっ…!」
 ヘイリーは身を折って苦しんでいるが、男の方は効果が薄そうだ。悪夢に囚われている様子はなく、剣をかまえてさらに迫ってきそうな雰囲気を出している。
「あなたも彼女と戦いたくはないでしょう。逃げます。ついて来てください」
 遙遠は再びブリザードを発動させ、2人を翻弄するや自分が通ってきた側路へ走り込んだ。すぐ後ろにリネンが続く。
「くっ! 待ちなさい、2人とも!!」
「…………」
 剣を手に、男が黙々と追おうとしたときだった。
「はあああああああっ!!」
 裂帛の声とともに放たれた矢が男を襲った。
 矢は壁に突き刺さり、瞬時に一面を凍らせる。
「見つけたぞ! 幸村!!」
 指をつきつけるような怒声に、ぴくりと男の眉が反応した。男――真田 幸村(さなだ・ゆきむら)は、そちらに正面を向く。
 そこでは、長くまっすぐな黒髪をポニーテールにした男がほかの者たちを従え、こちらを憎々しげににらみつけていた。
「よくもさっきは遠慮なくひとの頭を怒突いてくれたものだな! しかも伴侶だというのに、そのまま戦場に放置していくとは!!」
 男はかっかと気炎を上げ、全身で怒りを発散している。
「……きさまなど知らん」
 幸村はぼそっとつぶやいた。それがまた、男の怒りに火をそそぐ。
「なんだとおぉーーっ!!」
 この男、真実幸村の伴侶氷藍なのだが、魔鎧フジをまとっているため、今は外見上男に見えているという、はたから見ればかなりややこしい状況になっている。
「幸村さん、知らないのだ?」
「いいえ。父上も知ってるはずです」
 からの質問に大助がこそこそと答える。
「ということは、柳玄を忘れちまってるということか」
「うわ、メンドクセーなぁ」
 孝高孝明親子が、そろってため息をつく。
「忘れてるんなら説得が通じるわけがないからな。こうなったら力ずくでねじ伏せるぞ。
 大助、あんたも複雑だろうが、気ぃ引き締めて手伝ってくれよ」
 その言葉に、こくりと大助が強張った面でうなずく。
 又兵衛が手にしていた霊妙の槍をぴうんとしならせたとき。
 まさに同様の宣言を、氷藍が言い放った。
「思い出せないっていうなら、俺たちがその頭怒突いて力ずくで思い出させてやる!! 思い出して泣いて謝るまで何度でも怒突いてやるからな!!
 かかってこい、幸村ぁああっ!!」