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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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 第23章

 ――そういえば、山田が居なくなって……だいぶ、経つんだな。
 川べりにしゃがんで、一基の灯篭を、そっと流してみる。
「……おお、流れた」
 ぷかりと水に浮いた灯篭は、水の流れに沿って彼女から、チェリー・メーヴィス(ちぇりー・めーう゛ぃす)から離れていく。彼の墓があると知って会いに行った時、彼の墓に背を向けた時。
 山田に別れを告げたチェリーは、彼を置き去りにしていくような思いにも捉われた。彼は日々の歩みを止め、私だけが、先に進む。
 その決意を持って、彼女は墓参りを終えた。
 だが――
 今、こうして流れていく灯篭は、その時とはまるで逆のようだ。山田が私に別れを告げている。そんな感覚。
 パートナーだった、山田太郎。
 新しい生活を得て、色々と乗り越えたつもりだった。乗り越えたものも……あると思う。それでもやっぱり、彼の事は忘れられない。忘れられるものでは、ない。
 感傷かもしれないけど、彼がこちらにお盆で帰って来ているのなら送り出しの意味も込めて――私に顔を見せには、来てくれないだろうけど。
「山田太郎。今の私は、それなりに元気でやっている。やっているから……」
 それだけ言って、立ち上がる。それだけ、伝わればいいから。
 決して好きではなかった。好きではなかったのに。
 熱くなった目頭を一度だけ押さえて、彼女は歩き出す。
 少し名残惜しいけど、帰ろう。

「……もう、いいの?」
 川岸のファーシーとフリードリヒ、ピノの所へ戻ると、気遣わしげな表情で彼女は言う。
「……ああ。ファーシーこそ、いいのか?」
「私は……前に、報告したから。伝わっているのかは分からないけど……。でも、灯篭は流したけどね」
 えへへ、と笑う。そして、灯篭流しについて教えてくれてありがとう、と続けた。ピノ以外の3人は、チェリーのついでにとばかりに灯篭を受け取り、流しに行っていた。でも、ついでというふりをしてもそうではないことは――今のチェリーになら理解出来る。
「アクアとラスは……」
「……早いですね。私が一番先かと思いましたが……」
 周囲を見回すチェリーに、アクアが声を掛ける。
「アクア、山田太郎には……」
「山田に用はありませんから」
 訊いてみたら即否定された。……本当だろうか。
「おにいちゃん、遅いよ! 最後だよ!」
 そこで、ピノが怒ったような声を上げた。最後だからそれをからかっている……というよりは、若干、本気で怒っているようだ。
「流しに行った先が遠かったんだよ。お前等が近場で済ませすぎ……ピノ?」
 ピノの表情を見て、ラスは心配そうに身を屈めた。
「……どうした?」
「……なんでもない」
 怒っちゃいけない。怒っちゃいけないことはわかってるけど。だけど、何となく、気に食わない。もしかして――あっちのピノとあたしって、ライバルみたいなものなのかな。
「……あー……」
 その態度にやっと察したのか、ラスは気まずそうに頭を掻いた。仕方ないな、とチェリーは彼に真顔で問いかける。
「ラス、山田太郎には……」
「いや、会った事ねーから」
 やはり即答された。こちらは本当かもしれない。少し楽しくなって、チェリーは笑った。
「……私は帰るぞ。私には待ってくれている家族も――友人達も居るから」
「友人、ですか……」
「……そう、なんだよなあ……」
 アクアとラスはほぼ同時に、土手の上を振り返った。そこでは、今日1日を過ごした皆が彼等の事を待っていた。いつまでも、此処にいるわけにもいかない。

「まさか、呼んでくれるとは思わなかったんだな……」
 山田太郎は、彼女達の去った川辺を眺め、そう言った。元気にしている。その言葉は、確かに直に伝わった。あの面々が仲良さそうにしている姿は、どこか有り得ないものを見るようでもあったが……それでも、その片鱗は“あの時”から見えていた。不思議なことでも、無いのだろう。
 チェリーの言葉は伝わった。だが、山田はまだ彼女に答えていないことがある。
「チェリー……俺の望みは……」
 ――『お前は……私に何を望んでいる?』
 彼は墓で、そう訊かれた。その問いは、届いていた。
「お前が何のしがらみも持たずに羽を伸ばせたら、俺はそれで良いんだな」
 それが叶わぬ望みだと知っていても。彼女に届かないと知っていても。
 彼女が子供の頃から一緒にいて、上司として保護者としてパートナーとして、共に過ごしていた少女。
 のびのびと日々を過ごせるのなら、どんな手段でも厭わず取ればいい。そう思ってしまうのは、道を外れた者の独特の考えなのだろう。だからそれを――伝える事はない。
「……お前達も、呼ばれたんだな」
 それから最後に。山田は、背後に残る3人の死人に話しかけた。
「いやあ、まさか俺が呼ばれるたあな。予想外だったぜ」
「ファーシー……アクアちゃん……良かった……ていうか、誰だあの銀髪!?」
「金髪だ……。何だ、あたしと違うじゃん……」
「送られたんなら、さっさと帰るんだな!」
「……お前もな」
「あたし、道が分かんない……。交通整理、終わっちゃったし……」
「……大丈夫だよピノちゃん、俺が覚えてるから」
「本当?」
「ああ、だから……」
 皆で一緒に、ナラカへ還ろう。