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死いずる国(前編)

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死いずる国(前編)

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PM1:00 宝珠について

「なあ、宝珠って、なんなんだ?」
 死人探しもひと段落つき、いざ横須賀へと話が進もうとしたその時。
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は、誰もが気になっていたことを口にした。
「私も、気になっていたことがありますわ」
 セリオスと同じく質問する機を伺っていたのはイルマ・レスト(いるま・れすと)
「いくつかあるのですが……まず、宝珠はどうしてオヅヌの外にでると死人を弱体化する力を失ってしまうのでしょうか。宝珠の力を引き出す何かがオヅヌにあるのか、あるいは、宝珠がオヅヌにある何かの力を引き出しているのか……」
「それなら、大体の見当はついたよ」
 オヅヌにあった文献を読み漁っていた円が、顔を上げる。
 円と同じく資料を読み込んでいたオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がイルマの疑問に答える。
「宝珠は、役小角が力を込めた地でないとその真価を発揮できないのよ」
「ということは……宝珠は、役小角が建立したとされる青龍寺と何か関係が?」
「そこまでは分からないわ」
 重ねて問うイルマに、オリヴィアは苦笑して首を振った。
「宝珠を横須賀に輸送して、何を行うんだ?」
「っていうか、死人の具体的な消滅方法も分からないのにハイそうですかって宝珠を持ち出せるぅ?」
 ダリルの問いに、辛辣な言葉が被さった。
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)のものだった。
 彼女の言葉は、主にハイナに向けられていた。
「疑問に思うのも尤もでありんす」
 ハイナは、リナリエッタに、そしてオヅヌにいる者全員に説明する。
「横須賀市吉井にある神社の御神体で、その効果は試されたのでありんす――」

 役小角の力の波動を拡散させて、死人を消滅させる。
 実験は成功だった。
 その周辺にいた死人は消え去った。
 しかしその際に、肝心の御神体も砕け散ってしまった。
 研究を重ねた結果、最も強い力を持つオヅヌの宝珠を切っ掛けに、役小角の遺物を一気に発動、力を増幅する方法を見つけ出した……

「宝珠はわっちら、いや、日本に残された最後の希望なのでありんすよ」
 ハイナの熱のこもった声に、真剣な表情で耳を傾ける理子。
 その隣で、クローラは黙々とハイナの語る内容をノートパソコンに記録していた。
「……」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が無言のまま文献や資料をクローラに渡していく。
 暫くの間、キーを叩く無機質な音だけがオヅヌに響いた。
「決まりだ。他の何を犠牲にしてでも、ハイナは守る」
 武尊が宣言した。
「横須賀に宝珠を持って行ったとしても、ハイナがいなきゃ信じて貰えない可能性だってあるからな」
「朱鷺も、ハイナ校長を護りますよ。ね、第六式……って何寝てるんですか!」
「オレ……屍のフリ」
「なんでここでそんな事する必要がありますか!」
「気にしないでくれると助かるネ」
「いざとなったら朱鷺の代わりにがんばってもらわなければいけないんですから、しっかりしてくださいね」
「善処するネ」
「……ぷっ」
 どこかズレた東 朱鷺(あずま・とき)第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)のやりとりに、山野 にゃん子が思わず噴き出した。
「ふふっ」
「くす」
 それを切っ掛けに、緊迫した空気がふと緩む。
 そんな中、樹月 刀真(きづき・とうま)は黙ってハイナに警戒の目を向け続けていた。

「宝珠のことなんだけど、ね」
 ひとしきりハイナの説明が終わってから、ルカルカは切り出した。
「ダミーを作っておいた方がいいと思うんだ」
「それはいい。囮が必要になる時もあるだろうからな」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が大きく頷く。
「ソレを私が持って敵を引きつけて自爆するというのはどうでしょう?」
「駄目だよ! そんな危険な事!」
「そうだ。最終的に死人が増える危険は控えるべきだ」
「そういうことじゃなくって……」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の提案を即座に却下するルカルカとダリル。
 双方の考え方は少し違っているようだが。
「あまり大きな声でそういう話をするべきじゃない」
 旭が厳しい顔を4人に向ける。
「敵が、死人だけとは限らないだろ」
 その言葉にルカルカの表情が暗くなる。
 死人だけが敵とは限らない――
 それは認めたくない、しかし、常に警戒しておかなければならない事実。